
世界中で高く評価されたシャイ・マエストロ初のソロピアノ・アルバム『solo:Miniatures&Tales』に続き、ニュー・アルバム『The Guesthouse』が、2026年3月に発売されました。
シャイの創造世界の中心にある「内省と拡張」という二面性を際立たせ、境界が溶け合う豊かでシネマティックな空間を創り上げています。
ゲストにはグラミー賞2部門にノミネートを果たした最先端ジャズヴォーカリスト、マイケル・マヨ。ジェイコブ・コリアーのツアーバンドに参加する最注目シンガー・ソングライター MAROなど、現代の音楽シーンを牽引する超注目アーティストが参加しています。
jjazz.netではこの作品についてシャイ・マエストロにZOOMインタビューを行いました。
今月の新譜紹介番組「PICK UP」ではそのインタビューの模様をお送りしています。
【JJazz.Net「PICK UP」】(毎月第1水曜日更新)
https://www.jjazz.net/programs/pick-up/
放送期間:2026年5月6日〜2026年6月3日(17:00まで)
インタビュアーは、歌、ラップ、ビートボックスまでを自由に使いこなすマルチ・シンガー Nenashiさん。Nenashiさんの視点から、今作のシャイの想いを深掘ってもらいました。
音声とテキスト、合わせてお楽しみください!
[Interview:Nenashi]
[通訳:Miho Haraguchi]
Shai Maestro インタビュー
[Nenashi] 今回アルバム『The Guesthouse』をリリース。この作品について色々お伺いします。
昨年リリースしたアルバム『solo:Miniatures&Tales』からレーベルが"Naïve"へ移りました。制作環境やアプローチはどんな風に変わりましたか?
[Shai Maestro] まず、それ以前にECMから2作リリースできたことはとても良い経験だったと思います。創設者のマンフレートと仕事をする中で、彼の美学に浸り、ともにECMのサウンドを探究している感覚でした。豊かで広がりがあって素晴らしい経験でした。
Naïveに移った今は、完全に別の側面へと足を踏み入れたような感覚です。前作『solo:Miniatures&Tales』は、以前より親密な作品になったと思いますが、ECMの世界にまだ少し近いサウンドだったとも思います。
今回の『The Guesthouse』に関しては、ゲストを招き様々なカラーを取り入れ、エレクトロニクスの要素が含まれる実験的な点でも、ECM時代とは正反対の作品に仕上がったと思います。
ECMとNaïveは全く異なるカラーやメンタリティを持っています。Naïveに移ってからリリースした2枚はそれらが共存し、より豊かな全体像を生み出しているかもしれません。
[Nenashi] 今回のコンセプトについて。
ルーミー(13世紀に活躍したペルシア文学史上最大の神秘主義詩人)の詩『The Guesthouse』にインスピレーションを受けたとのこと。どういうイメージだったのかを教えて下さい。
[Shai Maestro] 現在私はスペインに住んでいるのですが、その理由はこの場所でパートナーのGloriaとの出会いがあったからです。それが「Gloria」という曲のインスピレーションにも繋がっています。
彼女はバルセロナのすぐ側にあるブディズム・センター(仏教施設)の創設者のひとりで、私はそれをきっかけに仏教に由来する世界観や哲学に親しみを感じるようになりました。
そこに住んでいる先生が『Guesthouse』というタイトルを薦めてくれたのですが、とても良い考えだと思ったんです。長年自分が親しんできたルーミーの詩と強く結びついていると思ったからです。その詩のテーマは「受容」。どんな感情が訪れたとしても、遠ざけたり憎んだりするのではなくゲストとして受け入れる、ゲストが自分に何かを見せてくれたり教えてくれる存在である、という内容です。
今の世の中、暴力や拒絶、分断が蔓延していますよね。歓迎し共存する「受容」の心というものが、今の世の中には必要だと強く感じました。
それは音楽的にも素晴らしいコンセプトだと。様々なミュージシャンを自分の音楽へと招き入れ、彼らを受け入れることで自分自身をも変化し、広がっていく。そんなメッセージを伝えることができたらと、このコンセプトでアルバムを完成させました。
[Nenashi] なるほど。ルーミーはスーフィー(イスラムの神秘派)。宗教は違えどどこか共通するテーマがあるのでしょうね。
それではサウンドについても伺います。
今作はエレクトロや、ポストプロダクションもあり、キーボーディストをフィーチャーしたりと今までとは全く違うアプローチですね。
また歌ものを取り入れ、作詞はシャイ自身だそうですね。どのような過程で進んでいったのでしょう?
[Shai Maestro] プロジェクト全体を通して、その流れの中にずっといました。スタジオでアコースティック楽器を録音している間も、パソコンでは電子音を流してクリエイティブな流れを生み出そうとしました。
単にアコースティックな録音上にエレクトロニクスを重ねたわけではなく、生演奏と合わなければ新しく構築したり、また逆もあります。アコースティックとエレクトロニクスが互いにインスピレーションを受け合って進行していました。
常に色々なことが起こって、動く生きもののように有機的でダイナミックな作業でしたね。
今までのやり方を全て捨ててエレクトロの要素をたくさん取り入れたことで、自然な流れで「song」として形となっていたんです。そうなると必然的に歌詞が必要になっていき、そしてシンガーが必要になっていった。この作品はシンガーが中心のプロジェクトになるかもしれないと感じました。
そして歌う人をイメージし始めた。MARO や Michael Mayo が参加することが決まった瞬間に徐々に歌詞が湧き出てきました。
例えば「Gloria」の歌詞は完全に仏教的なもので、ハート・スートラからインスピレーションを受けています。仏教のお経の中でも最も美しいもののひとつと思っています。これは自分のパートナーGloriaに捧げる内容になっていますが、それはMAROが歌うことを想像することで降りてきた歌詞でもあります。
[Nenashi] ハート・スートラとは般若心経のことですね。興味深いテーマです。
[Shai Maestro] ハート・スートラは仏教における「空」の概念について語った美しい経典です。仏教の理論に深く立ち入るつもりはないけれど、そこには物事の虚構性、物事には始まりも終わりもなく変化し続ける、ということが書かれています。
「Gloria」の歌詞にはその考えが色濃く反映されている。自分にとって大切なテーマなんだ。
[Nenashi] では、作品に参加したシンガーについてお聞きします。
MARO や Michael Mayo を迎えた理由を聞かせてください。
[Shai Maestro] まず私は二人の大ファンです。二人の歌を長年聴いてきています。
MAROは素晴らしい作品がたくさんありますが「HORTELÃ」という作品が特に大好きです。自分の人生のサウンドトラックになっています。オーガニックで誠実で、心をそのまま映し出したような音楽です。
彼女に歌ってもらった曲は飛行機の中で思いついて、そして歌詞が必要だと感じたんですね。
Michael Mayoとは Ben Wendelの「High Heart」で共演して以来の友人です。宇宙一のヴォーカリストだと私は思っています。彼のように歌える人は他にいないでしょう。ボビー・マクファーリンかジェイコブ・コリアーか、、、
楽器のように声を操るし、ハーモニーの知識があります。無理難題を彼にリクエストしてもやってのけてしまうんだ。
MAROもだけど、彼らの声のトーンが素晴らしいですね。Michael Mayoは特にジャズのバックグラウンド、またゴスペルの要素もある。彼がそれらを駆使して提案する音楽が素晴らしいんです。
シンプルで適切な音を使って、テクニカルで複雑なサウンドを奏でる才能があります。
[Nenashi] 私も Michael Mayo が大好きでライブに行きました。オンラインでプライベートレッスンを受けたこともあります。
シャイがおっしゃる通り声が楽器ですよね。まるでMIDI鍵盤を鳴らしているように正確で素晴らしいです。
[Nenashi] Guesthouse Quartet としてのツアーがスタートしています。この作品の世界観をどう表現されるのでしょうか?
[Shai Maestro] ギター、ヴォーカル、キーボード、サブベース、フルート、トランペットやサックスなど様々な楽器の要素が詰まった作品なので、それをステージで再現することはとても難しいところですね。
同時に、どんな状況でも演出が無くても通用・成立する曲を作るのが私のゴールでもあり、それこそが良い曲の基準と考えています。今回、ピアノトリオでツアーをする案も悪くはなかったのですが、制作にかなり力を入れたのでそのままステージに持っていきたいという気持ちは強かったです。
そうなると誰かの音と手を借りないとなりません。サンプラーやデジタル楽器を熟知しているだけでなく、ジャズプレイヤーでもある人間を探す必要があった。例えばクレイジーな変拍子や、即座の転調にも対応できるようなね。
そんな万能すぎる人いないと思っていたけれど、、、、以前 Michael Mayoと「Alone Together」をレコーディングしたときに現場にいた Gadi Lehavi。
彼はジャズミュージシャンでありながらサウンドエンジニア、映像制作までをこなすオールラウンダーだったんだ。彼しかいないと感じたよ。
それからは彼と一緒にたくさんの機材を駆使して、オタクみたいにひたすら作業する日々。作品のサウンドを良いかたちでステージに持って行けるようにね。
今回のツアーバンドのメンバーは柔軟性があるし、一緒に演奏していてハッピーだよ。
[Nenashi] では最後に、日本のファンにメッセージをお願いします!
[Shai Maestro] 親愛なる日本の皆さん!大好きです!
日本でのコンサートはなぜかいつも最高なものになる。
皆さんの音楽をきく姿勢、そして愛情を注いでくれているから、私たちの音が花開き、より深いものになるんです。次回の来日が待ちきれない、早くお会いしたいですね。
ありがとうございました!

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Shai Maestro
1987年、イスラエル生まれのジャズ・ピアニスト。5歳からクラシック・ピアノ、8歳か らジャズの演奏をスタートさせ、テルマ・イェリン国立芸術高等学校でジャズとクラシッ クを学び、その後ボストンのバークリー音楽大学へ入学。2006年からはイスラエル・ ジャズ・シーン確立の立役者の一人であるベーシストのアヴィシャイ・コーエン(b)のグルー プに参加し注目を浴びる。2017年には自身のバンドで東京JAZZのメイン・ステージで 演奏した他、これまでに度々来日公演を行なっている。2026年3月には最新アルバム 『ザ・ゲストハウス』をリリース。
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Nenashi(Singer)
歌、ラップ、ビートボックスまでを自由に使いこなすソウルシンガー、プロデューサー、Hiro-a-keyによるプロジェクト。
アジア人としてR&B 、ソウルミュージックを世界に向けて発信することに対するレッテルや先入観をなくし、純粋に音楽だけを聴いてほしいという思いから、共通言語である英語で歌い、国籍や顔などアイデンティティーを一切公表せずに活動を開始。
これまでアメリカ、カナダ、ブラジル、バハマ、アルゼンチン、韓国、香港、タイ、カザフスタン、フランス、イギリス、ドイツ、スイスなど20ヶ国以上の地域を転々と旅しては異文化に触れてきたHiro-a-keyは、自らを"根無し草"と重ね合わせ、アーティスト名をNenashiと名付ける。
2024年4月にリリースしたデビューアルバム『Found in Tokyo』では、Hocus Pocusの20syl (フランス)、J.LAMOTTA すずめ (イスラエル)、Daichi Yamamoto (日本)、FORD TRIO (タイ)、Mike Larry Draw (アメリカ) など世界各国の豪華アーティストをフィーチャー。
ストリーミングで総再生回数が1,100万回を越える。
そして2025年 1st EP『TIME SLIP』、2026年7月に2ndアルバム『MOMENT』をリリース。
1920年代から現在までのSoul / R&B、Jazz、Blues、HipHopを1つにまとめ上げるという壮大なテーマを掲げたEPが世界中の音楽ファンの間で話題となり、FUJI ROCK FESTIVAL、GREENROOM FESTIVALや、アジアのフェスなど国内外の大型フェスに多数出演、タワーレコードの広告シリーズ「NO MUSIC, NO LIFE.@」への登場、さらに中国、タイを巡るアジアツアーを果たすなど注目を集めた。
また、オーディオブランド「Beats」のスペシャルムービーのテーマ曲を担当。
ホセ・ジェイムズ、Chara、加藤ミリヤ、Aile The Shota、Ovall、Sincere、LHRHND、THE SUPER FLYERS、SMOKIN'theJAZZ、maeshima soshi、Snowk、Halia Beamer、Shigge、Mashoe、AVOCADO BOYSなど国内外のアーティストのプロデュース・客演・ソングライディング・コーラスを手がけるなど積極的に活動の場を広げている。
アイデンティティを明かした後もさまざまなジャンルや世界の文化からインスピレーションを得て、作品ごとに進化するNenashiの旅は続く。


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