

Title : 『The Melody At Night, With You』
Artist : Keith Jarrett
みなさんこんにちは、曽根麻央です。 今日は究極にプライベートなアルバム、そしてリラックスしたい時にピッタリな名盤を聴いていきたいなと思います。
皆さんは朝目覚めて、最後にきちんと自分の時間に余裕を持って過ごせたのはいつでしたか? 現代は携帯の通知もひっきりなしですし、仕事のタスクも可視化されて、なんだか便利になればなるほど忙しくなるなという感じがしています。そんな現代人の心にピッタリと寄り添ってくれるのが、このアルバムかもしれません。なぜなら、このソリスト、キース・ジャレットも当時、自身の過酷な体調と闘い、ピアノに向かうことで自分自身を癒やし、再び音楽と繋がろうとしていたからです。
1996年末から、キースは慢性疲労症候群(CFS)により、演奏活動はおろか、ピアノの前に座ることすら困難な状態に陥りました。そんな中、1997年の後半から少しずつ体調が回復し始めた頃、自宅の「ケイヴライト・スタジオ(Cavelight Studio)」で、自分自身を癒やすように録音を進めていったようです。
1999年のインタビューで、彼はこう振り返っています。
「1997年の12月、妻へのクリスマス・プレゼントとして録音を始めました。ちょうどハンブルク・スタインウェイをオーバーホールしたばかりだったので、その状態を試してみたかったのです。
スタジオは自宅のすぐ隣にあるので、目が覚めて、体調がいくらかマシな日があれば、テープ・レコーダーを回して数分間だけピアノを弾きました。それ以上続けるには、あまりにも疲れすぎていたのです。
やがて、マイクの配置や楽器の新しいアクションといったものが、不意にカチッと噛み合い始めました。これほどまでに静かに弾けるものか、と。そして、メロディが、楽曲そのものが持つ、内面的なダイナミクス。それは、心の準備ができている者にしか訪れない、小さな奇跡の一つでした」
こんな言葉からもわかるように、この演奏自体がキース・ジャレットにとってのセルフ・メディテーションだったのかもしれない。そんな気がする音楽なのです。
私自身、年子の幼い子どもたちの子育てが重なり、3〜4時間ごとに夜も起こされる日々が2年続いています。それでもなお続く制作と本番を必死にこなしていく毎日。正直、今の私はかなり「疲れている人間」の部類に入るでしょう。そんな私の心にスッと入ってきた、だからこそ今、この作品を皆さんにご紹介したいと心から思ったのです。
このアルバムには、決して派手なリハーモナイズや、キース特有の技巧的なメロディラインがあるわけではありません。しかし、その1秒1秒に輝きがあります。 音楽家はやはりどこかで自分を誇示したい生き物ですから、私たちはつい「新しい解釈を」「面白いリハモを」と足し算をしてしまいがちです。しかしこのアルバムは極限の「引き算」です。シンプルなコード、抑えられたダイナミクス、そこに究極の美しさを感じます。
選曲もジャズ・スタンダードやミュージカル・ナンバーなど、元々「歌詞」を持つ楽曲が多く、それら本来のメロディが持つ意味を最大限に引き出すような演奏スタイルになっています。 また、プライベートな空間で至近距離に配置されたマイクで捉えられた音は、キースとの距離を驚くほど近くに感じさせます。ソフトに弾いているにもかかわらず、鍵盤が底に当たる音や弦の響きまでもが、すぐ耳元で鳴っているかのような臨場感があるのです。
そして、ピアノの音が減衰して次の音に移るまでの「間」も、非常に印象的です。当時の彼に体力がなかったからこの「間」が生まれたのかはわかりませんが、その空間には、聴き手である私たちの溜息や感情が入り込む余白があります。音楽が積極的に何かを主張するのではなく、ただそこに寄り添ってくれる「受容的」な響き。それが私たちの癒やしとなってくれることは確かです。
2017年にコンサート活動を休止して以降、彼の演奏をリアルタイムで体験することは難しくなりましたが、彼が遺したこうした作品は、今後も何度も再注目され、後世に多大な影響を与え続けることでしょう。
文:曽根麻央 Mao Soné
<<曽根麻央 公演情報>>
2026年4月17日(金)
KOBUSHI TRIO
会場:東京・浜離宮朝日ホール
出演:三浦一馬(bn)、浅野祥(三味線,歌)、曽根麻央(p,tp)、KAN(per)
https://eplus.jp/sf/detail/4474970001?P6=001&P1=0402&P59=1
2026年4月25日 (土)
浅野祥 津軽三味線コンサート「響」
会場:宮城・仙台市シルバーセンター
ゲスト:曽根麻央 (Piano & Trumpet)、ビルマン聡平 (Violin)、佐山裕樹 (Cello)
https://www.edward.co.jp/live/search/detail/1323/
2026年5月8日(金)
Marty Friedman Plays Piazzolla And More Concert Hall 2026
会場:東京・浜離宮朝日ホール
出演:マーティ・フリードマン(g)、三浦一馬(bn)、曽根麻央(p)
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2533736
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| Reviewer information |
![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |


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