

Title : 『Ifrikya』
Artist : Karim Ziad
アルジェリアが誇る名ドラマー、カリム・ジアド(Karim Ziad)のアルバムをご紹介します。
彼は、アルジェリアやモロッコといった北アフリカの伝統的なリズムを、現代の楽器やジャズ・ポップスのメロディーと見事に融合させるアーティストです。その卓越したビートは、民族音楽を深く探求するミュージシャンからも絶大な支持を得ています。
特に「Chaabi(シャアビ)」と呼ばれるアルジェリアのリズムが炸裂する「The Joker」「Gwarir」「Amaliya」の3曲は圧巻です。今回は、その不思議なリズムの仕組みについても少し触れてみましょう。
北アフリカの音楽はアラブ文化と密接に関わっています。聴き込むうちに、フラメンコや中東音楽との繋がりがうっすらと見えてくるはずです。アフリカ、中東、南ヨーロッパ----当時から人々が活発に行き交い、文化を交差させてきた歴史が音の粒から立ち上がってくるかのようです。
シャアビというスタイル自体は1930年代に成立した大衆音楽で、意外にも歴史は新しいのですが、その源流はさらに古く、アンダルシア音楽(Andalusi)やアラブ音楽の詩の形式「ムワシャー(Muwashshah)」にあると言われています。長い年月をかけてフラメンコなどと起源を同じくしながら進化してきた、まさに「歴史の結晶」のような音楽なのです。
シャアビが「難しく」聞こえる理由
我々のように西洋的な音楽教育を受けた耳にとって、シャアビのリズムが複雑に聞こえる最大の理由は、「一番低い音がくる場所が1拍目ではない」ことにあります。
シャアビの最小単位は6拍子(あるいは12拍子)で構成されています。
基本の6拍子:
1 2 3 4 5 6
アクセントの位置(h=高音 / L=低音):
1 2 h 4 L 6 (1小節目)
1 h 3 4 L 6 (2小節目)
手拍子の柱(●):
● 2 h ● L 6 | ● h 3 ● L 6
このように「●」の位置で聴くと均等な4拍子のようにも錯覚しますが、低音(L)が「5」にくるため、重心が後ろに引っ張られるような独特の浮遊感が生まれます。さらに高音(h)や低音が奇数拍を強調するため、高度なポリリズムが自然に形成されるのです。
この「頭拍に重心が来ない」感覚は、ベネズエラのホローポ(Joropo)など、ラテン諸国の3拍子系グルーヴにも共通する魅力です。しかし、それぞれの地域で辿ってきた歴史は異なります。リハーサル現場で我々が「ラテンで!」という指定に「どのラテン?」と困惑してしまうのは、それだけ細分化された豊かな名前と歴史がリズムに宿っているからなのです。
ピックアップ・トラック
M9「The Joker」
まずはこの曲から。ピアノのミュート奏法による小気味よいベースラインに導かれ、アルジェリアの弦楽器マンドールやバンジョーが入ってきた瞬間、シャアビの世界が始まります。ベースラインの最も低い音とバスドラムが鳴る場所が、先ほどの解説でいう「5拍目」です。最初はここを「1」だと勘違いしてしまいそうになりますが、聴き込むうちにリズムの構造が立体的に立ち上がってきます。
M8「Gwarir」
シャアビ入門として最適です。「The Joker」よりテンポが上がり、さらに「1」が見えにくくなります。メロディーがトリッキーな位置にアクセントを置いているため、最初は耳が追いつかないかもしれませんが、一度ハマるとこの上なく心地よいグルーヴに支配されます。
M7「Amaliya」
アルバム最速のシャアビです。高速になると不思議とフラメンコに近い質感が増してきます。大きな拍の波を捉えるのがコツです。終盤のリードボーカルとコーラスによるコール・アンド・レスポンスが圧巻のエンディングまで一気に駆け抜けます。
普段の生活圏ではまず体験できない「3拍子の浮遊感」。アラブ音楽由来の独特な民族情緒を、ぜひこのアルバムで体感してみてください。
文:曽根麻央 Mao Soné
| Recommend Disc |
![]() Title :『Ifrikya』 Artist : Karim Ziad LABEL : Act 発売年 : 2008年 【SONG LIST】 1. Ait Oumrar |
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』 ・2022.12『The Revival / Cory Henry』・2023.1『Complete Communion / Don Cherry』・2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』・2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』・2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』・2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』・2023.6『Covers / James Blake』・2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』・2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』・2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』・2023.10『MAINS / J3PO』・2023.11『Knower Forever / Knower』・2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』・2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』・2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』・2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』・2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』・2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』2024.09『Potro De Rabia Y Miel / Camarón De La Isla』2024.10『Calle 54 / Various』・2024.11『Trumpets Of Michel-ange / Ibrahim Maalouf』・2024.12『Sings for Only the Lonely / Frank Sinatra』・2025.01『Hero Worship / Hal Crook』・2025.02『Undercurrent / Kenny Drew』・2025.03『Live In Toronto 1952 / Lennie Tristano Quintet』・2025.04『Antidote / Chick Corea & The Spanish Heart Band』・2025.05『Hot Five & Hot Seven / Louis Armstrong』・2025.06『Panamonk / Danilo Pérez』・2025.07『Nat King Cole Sings/George Shearing Plays / Nat King Cole、George Shearing』・2025.08『Clifford Brown and Max Roach / Clifford Brown and Max Roach』・2025.09『Montreux '77 / Ray Bryant』・2025.10『Crystal Silence / Gary Burton & Chick Corea』・2025.11『North Sea Jazz Legendary Concerts / Wayne Shorter』・2025.12『Merry Christmas / Bing Crosby』・2026.01『銀界/山本邦山』・2026.02『Flugel / Andris Mattson』・2026.03『Live at the Piano / Cory Henry』・2026.04『The Melody At Night, With You / Keith Jarrett』
| Reviewer information |
![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |


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