皆さんこんにちは、曽根麻央です。
今日はピアノの名手、レイ・ブライアントによるライヴ録音のソロアルバム『Montreux '77』(Pablo Records, 1977年)をご紹介します。
ブライアントのソロピアノは、一人で演奏しているとは思えないほど厚みがあり、グルーヴは常に強力です。まさに「ジャズ・ソロピアノの教科書」とも呼べる存在ですが、同時に彼の恵まれた体格を活かした奏法は、他のピアニストには簡単に真似できないものとされています。
そのレビュー前に一つお知らせです。
今月10日ついに私・曽根麻央の4枚目のアルバム『8つの小品』がリリースされました。ジャズとクラシック、そしてワールド・ミュージック、まるで世界旅行をしているような様々な文化、景色詰め込んだ音楽をジャズトリオとオーケストラがお届けします。ぜひお手にとって聴いてください。
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Title : 『Montreux '77』
Artist : Ray Bryant
レイ・ブライアントは1972年のモントルー・ジャズ・フェスティバルでもソロ演奏を行い、その模様は『Alone at Montreux』(Prestige, 1972)として残されています。これはオスカー・ピーターソンが直前に出演をキャンセルしたため、急遽ブライアントが代役を務めた公演でした。準備不足の中で初のソロ公演を見事に成功させたことで、その後のソロピアニストとしてのキャリアの出発点となった、伝説的なステージです。
今回取り上げる『Montreux '77』は、その5年後に同じフェスティバルで行われたステージで、より洗練されたアレンジと、一般のリスナーにも親しみやすい選曲が並ぶ充実作です。個人的には『Alone at Montreux』以上におすすめしたいアルバムです。
1931年フィラデルフィア生まれ。14歳でプロ活動を開始し、地元クラブ「ブルーノート」のハウスピアニストとして経験を積みました。ニューヨークに拠点を移すまでにすでに多くの一流プレイヤーの信頼を得ており、フィラデルフィア時代の録音にはマイルス・デイヴィス『Quintet/Sextet』(1955)やソニー・ロリンズ『Work Time』(1956)などがあります。
その後はカーメン・マクレエの伴奏者を務め、エラ・フィッツジェラルドやアレサ・フランクリンといった名歌手の録音にも参加しました。
1950年代後半には『Ray Bryant Trio』(1957)などトリオ作品も発表されましたが、やはり彼の真骨頂は、ブギウギやストライドといった伝統的な左手のスタイルを都会的に洗練させ、ブルースやゴスペルと融合させたソロピアノにあります。その到達点のひとつが、この『Montreux '77』と言えるでしょう。
Take the "A" Train(Billy Strayhorn)
有名なイントロに続き、左手の8分音符が強力な推進力を生み出す冒頭曲。ソロはエリントン楽団でのレイ・ナンスの名演を踏まえたフレーズから展開されます。ブライアントは即興よりも、あらかじめ練り上げたアレンジを繰り返し披露するスタイルで知られ、この公演でも完成度の高いソロが聴けます。
Georgia On My Mind(Hoagy Carmichael, Stuart Gorrell)
ストライド奏法を基盤にしたスロー・スウィング。低音で10度をつかむ左手は、彼の大きな手のリーチあってこそ。豊かな響きが魅力です。
Jungle Town Jubilee(Ray Bryant)
短いオリジナル曲ですが、快活なテンポとストライドのリズム感が光ります。ラグタイムの伝統を継承しつつ、現代的なスイングに昇華しています。
If I Could Just Make It To Heaven(Traditional)
ゴスペル/スピリチュアルの伝承曲。ブライアントが好んで取り上げた一曲で、祈りに満ちた美しい演奏です。
Django(John Lewis)
アルバムの白眉。MJQの名曲をピアノソロにアレンジし、ルバートの重厚なイントロからストライドやブギウギを駆使して展開します。彼のレパートリーの中でも特に愛奏された一曲です。
Blues No. 6(Ray Bryant)
オリジナルのブルース。代表作「After Hours」と通じるアレンジが聴け、ブルースピアノの極致といえる演奏です。
Satin Doll(Duke Ellington, Johnny Mercer, Billy Strayhorn)
速めのテンポで演奏される定番曲。左手の4分音符のウォーキングが心地よくスウィングします。
Sometimes I Feel Like a Motherless Child(Traditional)
スピリチュアルの名曲。重厚な導入から、独特の左手パターンで静かにグルーヴが生まれていきます。
St. Louis Blues(W. C. Handy)
「ブルースの父」W.C.ハンディによる歴史的名曲を、ストライドとブギウギを織り交ぜて独自にアレンジ。途中のテンポチェンジで観客を熱狂させます。ブライアントがライヴで必ず演奏した十八番のひとつです。
Things Ain't What They Used To Be(Mercer Ellington, Ted Persons)
デューク・エリントンの息子マーサー作のブルース。晩年までアンコールでよく弾かれたブライアントの定番レパートリーで、本作の締めくくりにもふさわしい一曲です。
『Montreux '77』は、レイ・ブライアントがソロピアニストとして円熟期に到達した記録です。
ブギウギやストライドといった古い様式を土台にしながらも、モダンで洗練された響きを獲得した彼の音楽は、まさにジャズの伝統と革新の交差点に立っています。
ソロピアノでこれほど豊かなグルーヴと厚みを出せるピアニストは数少なく、今聴いても驚きと感動を与えてくれる名盤です。
文:曽根麻央 Mao Soné
曽根麻央『8つの小品』
ジャズピアニスト兼作曲家・曽根麻央が贈る最新スタジオアルバム『8つの小品』。第一子誕生という人生最大の節目に生まれたこの作品は、家族の愛、日常の輝き、そして音楽への深い探求が織り込まれた45分間の組曲。緻密なオーケストレーション、ジャズとクラシックの垣根を超えた響き、そして親子の時間から生まれた優しくもダイナミックな旋律。新たな旅立ちの予感と共に、音楽の喜びを届ける一枚。
【Songs】
1. Ⅰ. Overture (feat. Ryo Miyachi, Hironori Suzuki)
2. Ⅱ. The Light You'll See
3. Ⅲ. Maria's Eye
4. Ⅳ. When the Angel Cries (feat. May Inoue, Ryo Miyachi, Hironori Suzuki)
5. Ⅴ. Lullaby
6. Ⅵ. Rumba (feat. Kojiro Tokunaga, Ryo Miyachi, Kan)
7. Ⅶ. Love Letter (feat. Edmar Colón)
8. Ⅷ. Finale Part 1 (feat. Kan)
9. Ⅷ. Finale Part 2 (feat. Ryo Miyachi, Hironori Suzuki)
【CD Bonus Track】
10. Waltz for Debby
11. A Song for Jobim
12. Lullaby (Piano Solo ver.)
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』 ・2022.12『The Revival / Cory Henry』・2023.1『Complete Communion / Don Cherry』・2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』・2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』・2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』・2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』・2023.6『Covers / James Blake』・2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』・2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』・2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』・2023.10『MAINS / J3PO』・2023.11『Knower Forever / Knower』・2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』・2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』・2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』・2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』・2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』・2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』2024.09『Potro De Rabia Y Miel / Camarón De La Isla』2024.10『Calle 54 / Various』・2024.11『Trumpets Of Michel-ange / Ibrahim Maalouf』・2024.12『Sings for Only the Lonely / Frank Sinatra』・2025.01『Hero Worship / Hal Crook』・2025.02『Undercurrent / Kenny Drew』・2025.03『Live In Toronto 1952 / Lennie Tristano Quintet』・2025.04『Antidote / Chick Corea & The Spanish Heart Band』・2025.05『Hot Five & Hot Seven / Louis Armstrong』・2025.06『Panamonk / Danilo Pérez』・2025.07『Nat King Cole Sings/George Shearing Plays / Nat King Cole、George Shearing』・2025.08『Clifford Brown and Max Roach / Clifford Brown and Max Roach』
Reviewer information |
![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |