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濱瀬元彦インタビュー ~『The End of Legal Fiction Live at JZ Brat』

自身の著作「ブルーノートと調性」や菊地成孔の著作「東京大学のアルバート・アイラー」「M/D」などにおける圧倒的な理論構築力によって名を知らしめたベーシスト濱瀬元彦。作曲/演奏家/バンドリーダーとして20年振りに最新作『The End of Legal Fiction" Live at JZ BRAT』(プロデュース、濱瀬元彦&菊地成孔)を発表しました。
100%手弾きによる驚異のテクノ・ジャズは如何に生まれたか!?



濱瀬元彦


濱瀬元彦インタビュー

■新作のタイトルやバンド名にも使われている「The End of Legal Fiction」について教えてください。。

 高校生の頃(40年以上前!)読んで衝撃をうけた『擬制の終焉』(吉本隆明)と言う本のタイトルを英語に直訳したものです。


■最も影響を受けたミュージシャンをあげるとするとどなたですか?その理由も教えてください。

 この質問には答えにくいですね。まず、現在私がやっている音楽が特定の「影響を与えたミュージシャン」によってくくられることを私は拒否します。以前、『ブルー・ノートと調性』という本を書いたときに、読者にどこでこうゆうことを学んだのか、元になる本はあるのか、と尋ねられたことがあります。もちろん、『ブルー・ノートと調性』で展開した理論のネタになるような本や理論などはなくて既存の理論の検討、批判をもとに私が新しく打ちたてのですが、そうしたことを日本人が行うということがあり得る、ということが読者の想定(想像力)のなかになくて、そうした質問になったと思います。「影響を受けたミュージシャン」は誰か、という質問は私の本に対して行われたこの質問と位相が似ている気がします。
 さらに言えば、他者の表現からの直接的な影響が作品に現れることを表現者は絶対に避けなければなりません。なぜならば、直接的あるいは未消化な影響(差異の消去=模倣)は作品に致命的なダメージを与えるからです。私の音楽について言えば、ソロ活動に転じてからすでに30年近く自分の作品だけをやっており、当初からほぼ現在のスタイルでやってきています。
 影響というのではなく敬愛する音楽家、ということならいうことができます。現存する二人の巨匠、ジョアン・ジルベルトとジョン・ハッセルです。


■人力とは思えないような演奏ですが、「生」演奏にこだわる理由を教えてください。「打ち込み」音楽は普段聴かれますか?

 私はジャズ畑の出身ではあるのですが、80年代から90年代にかけて出した5枚のソロ・アルバムはすべていわゆる「打ち込み」を使ってます。詩や小説は大抵は、一人の作家が作りますが、通常、音楽の現場は複数の演奏家によって作られますね。そこで録音作品を作るに際して詩や小説のような一人称性を音楽作品において可能にする手段として私はコンピュータ(「打ち込み」)を使ってきました。しかし、コンピュータを使うことによるひとつの欠点は、ライブがやりにくくなる、ということです。ライブは「人力」の方がいいんですが、私の音楽を演奏できるプレーヤーは非常に限られていて人材の確保が思うようにならなかったというのが私の長いブランクの最大の理由です。E.L.Fのメンバーは私の要求を実現できるだけでなく、はるかにそれ以上の展開可能性を持ったプレーヤーの集まりです。これだけのレベルのメンバーが揃うのに15年が必要だったんだな、と今では思います。
 「生」演奏はやるたびに違いますし、驚くべきことに、E.L.Fの演奏は毎回、必ず前回よりも良くなっていってます。これはコンピュータ(「打ち込み」)では絶対に得られない点ですね。このすばらしいメンバーで、通常、生演奏では不可能なような演奏をするということは、演奏家として何よりも痛快で、これが「生」演奏にこだわる理由です。
 それと、人のやった「打ち込み」音楽を聴くか? ということですが、聴きます。Jair Oliveiraの「打ち込み」音楽はいいですよ。


■今後の活動について教えてください。

2010年12月3日 20:00~ 
CD発売記念 濱瀬元彦 × 菊地成孔 トーク&サインイベント開催 
タワーレコード渋谷店 5F

2010年12月6日 19:00~ 
『The End of Legal Fiction Live at JZ Brat』発売記念ライブ 
濱瀬元彦 ELF with 菊地成孔 
EATS and MEETS Cay  (青山 Spiral B1)

2011年1月13日 19:00~ 
濱瀬元彦 ELF with 菊地成孔 ライブ 
JZ Brat (渋谷セルリアンタワー東急ホテル2F)


今後のレコーディングですが、今、新作を出したばかりで未定です。

[Interview:樋口亨]


The End of Legal Fiction Live at JZ Brat


■タイトル:『The End of Legal Fiction Live at JZ Brat
■アーティスト:濱瀬元彦 E.L.F Ensemble & 菊地成孔
■発売日:2010年11月25日
■レーベル:AIRPLANE LABEL
■カタログ番号:AP-1041
■価格:2,625円(税込)




濱瀬元彦 プロフィール】

1952年4月15日愛知県生まれ.慶応義塾大学中退.1976年よりアコースティックおよびエレクトリック・ベース奏者として土岐英史、鈴木勲、益田幹夫、秋山一将、清水靖晃、ジョージ大塚らのジャズ・グループで活躍.多数の録音参加作品を残す。演奏家としてはフレットレス・ベースの新しいスタイルを確立した。1982年に実験的音楽ユニット「ラーゲル」を結成し1985年まで音楽の新しいフォーマットを摸索し続けた.その後、ソロ活動を開始し、5つのソロアルバムを発表している。音楽理論の面でも『ベースライン・ブック』(1987)でベースラインに関する理論を確立し、『ブルー・ノートと調性』(1992)でブルー・ノート発生に関する理論を確定することにより即興演奏、作曲のための全く新しい調性理論を提出するなどの業績がある。


濱瀬元彦 E.L.F Ensemble 】

菊地成孔をゲストに迎えた「濱瀬元彦 E.L.F Ensemble」は、濱瀬元彦の音楽を精緻に実現するために'08年に結成された。従来、生演奏では演奏不可能であったサウンドを同期、シーケンサー等を一切使わずに演奏するだけでなく、濱瀬のインプロヴィゼイションと組合わさる事により音楽の未踏の領域をライブ空間で実現する。

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