Title : 『THE WAY』
Artist : 宮川純
リーダーの宮川純は1987年生まれ。アルバムはこれで三枚目となるが、ピアニストで言うとシャイ・マエストロやギターのジュリアン・レイジと同じ生年でジャズの世界で言うところの新世代に位置づけられるだろう。
ここに「高校生の頃、僕のアイドルだったのが、東京事変とベン・フォールズだった」と語っていることと、彼が10代の時に<ヤマハ・ティーンズ・ミュージック・フェスティバル>で今人気のロックバンドcinema staffと東海地区代表を掛けて争っていたことを加えると「ただのピアニストじゃないぞ」という気配がしてくる。
アルバム全編に共通する板崎拓也、石若駿とのピアノトリオのコンビネーションは完璧で、石若は細かいサインやフックを仕掛けているし宮川はそれを絶対に見逃さない。そこに時には釣れない素振りを見せたり一緒になってフックをメイクしていく板崎との三者の関わりは、正にピアノトリオを聴くときの醍醐味といった塩梅で聴けば聴くほどとんでもなくスリリングだ。ギターの荻原亮もソロは少ないながらも「JB's Poem」と「Pulse」ではそれぞれちがった毛色ながらどちらも白熱のギターソロを聴かせる。宮川もいわゆる熱量のあるソロだけでなく、時にはコンパクトなソロを聴かせたり、「The Water is Wide」でウーリッツァーでメロディを粛々と紡いだり、「JB's Poem」でローズと生ピアノをバッキングとフィルで華麗に使い分けたりする宮川の達者ぶりは同世代でも随一だろう。石若も「The Golden Bug」でのいわゆるスネアをズラした今風のリズムと「Just A Moment」での高速4ビートを叩いているのは本当に同じ人物なのかと疑うくらい多彩なリズムを使い分け、曲中でも細かなフィールで次々に彩りを加えている。
コンテンポラリーな楽曲といわゆる"New Chapter"的な作品が実に自然に同居しているところはこの世代の、そしてアルバムほぼ全曲の作曲者でもある宮川のバランス感覚の賜物だろう。
これら演奏面と同じくらい特筆すべき面白さはこのアルバムの録音だ。
一曲目の「Introduction」のドラムの音を聴いた瞬間に「待ちに待っていたアルバムがついに出た!」と、僕はそう思った。
ロバート・グラスパーやクリス・バワーズ、ホセ・ジェームズといったミュージシャンはレコーディング・エンジニアにあえてジャズのエンジニアでは無い人材を起用してライブ音楽であるジャズに録音作品としての面白さを付与してきた。このアルバムに参加している黒田卓也もそんなジャズメンの一人だ。そこに呼応するような作品が日本でも「ついに出た」のだ。
6月にも日本のこの世代のミュージシャンを取り上げたが、この世代が今、日本のジャズに開き始めた風穴を押し広げていることは間違いない。
文:花木洸 HANAKI hikaru
【参考】
インタビュー:日本のジャズ新時代を告げる重要作をリリースした宮川 純に柳樂光隆(JTNC)が迫る【前編】 - CDJournal CDJ PUSH
http://www.cdjournal.com/main/cdjpush/miyakawa-jun/1000001107
・全曲試聴
Jun Miyakawa - The Way (Sound Sample)' by T5Jazz Records on SoundCloud
https://soundcloud.com/t5jazz/sets/jun-miyakawa-the-way-sound-sample
【Jun Miyakawa / The Water Is Wide (Official Music Video)】
この連載の筆者、花木洸が編集協力として参加した、金子厚武 監修『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)が発売になりました。シカゴ音響派などジャズとも互いに影響しあって拡がった音楽ジャンルについて、広い視点から俯瞰するような内容になっています。
■タイトル:『ポストロック・ディスク・ガイド』
■監修:金子 厚武
■発売日:2015年5月30日
■出版社: シンコーミュージック
■金額:¥2,160 単行本(ソフトカバー)
20年に及ぶポストロック史を、600枚を超えるディスクレビューで総括!貴重な最新インタヴューや、概観を捉えるためのテキストも充実した画期的な一冊。90年代に産声をあげた真にクリエイティヴな音楽が、今ここに第二章を迎える。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |