Title : 『Songbook』
Artist : 石若駿
ジャズ・ドラマー、そしてCRCK/LCKSのドラマーとして活躍する石若駿の最新作。ゲストのボーカルを中心に置き、ドラム、ピアノ、シンセまでを多重録音してのセルプロデュースによって制作されたこの作品は、昨年のリーダーバンドによるジャズ作品『CLEANUP』とはうってかわって、というよりジャズドラマー石若駿のイメージをそのものを覆す作品となった。
ゲストとして参加しているのは、石若と同じく東京藝術大学の打楽器専攻出身の角銅真実、CRCK/LCKSに参加する小西遼と小田朋美、けもののボーカリスト青羊とベーシスト織原良次、ジャズボーカルのサラ・レクター。石若がキャリアの中で共演してきたミュージシャンが並んでいる。
少しぼやけて滲んだピアノとドラムの上にクリアなボーカルが乗る「Asa」からアルバムはスタート。ウィスパー気味のボーカルと背景の楽器のバランスが、良い意味で豪華すぎない優しい空間を演出している。
「Asa」、「10℃」、「the voice」で聴ける小学校に上る前から学んでいたという石若のピアノは、ここではジャズ的というよりもクラシック的。縦にリズムを割っていくのではなく、沢山のラインが並行してそれぞれのラインと歌との間を交差して折り重なっていく。一方でシンセベースや打ち込みの音源で作り込まれた「Christmas Song」は、既にCRCK/LCKSで演奏している曲ということもあり、ひねくれたリズムとカラフルな音色が複雑に絡み合う曲、さらにシンプルなリズムの上を織原のベースが歌の隙間を縫うように自由に走る「ジョゼ」と、それぞれの曲が違った表情を見せている。その中でも、小節の縦線をまたいで滑らかに繋がっていくメロディラインや、そこに寄り添うオブリガードには『CLEANUP』から一貫した石若の作家性が伺えるのが面白い。
スウィングも超絶テクニックも表には出さずに仕上げられたこの一枚が、あるいはドラムを叩いている時以上に作曲家としての石若駿をくっきりと浮き彫りにしている気がしてならない。
文:花木洸 HANAKI hikaru
●石若駿インタビュー(JJazz.Net 2015.12.15)
●石若駿 Official
【Shun Ishiwaka『Songbook』】
この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。
■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック
今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |