Title : 『Eight Winds』
Artist : Sokratis Sinopoulos Quartet
今から20年くらい前、池澤夏樹の「ギリシアの誘惑」というエッセイを読み、
青いエーゲ海が見たくなり、ギリシャに行ってみようかと真剣に考えていた。
けれども、なぜかその前にハワイや竹富島の海を訪ねてしまい、
青い海はしばらくいいかな、という心境になり、
以来、ギリシャのことは頭の隅に追いやってしまった。
月日が経って、現在のギリシャはどうやら観光に訪れるには
ふさわしくない状態に陥っているようで、
青いエーゲ海よりもデフォルト(債務不履行)の国というイメージに。
そんなギリシャに、lyraという楽器がある。
古代ギリシャの竪琴で、古くはハープのように
指で弾くものであったらしいが、現代のlyraは弓で弾く楽器だ。
今回、ECMからSokratis Sinopoulos Quartet 『Eight Winds』という一枚がリリースされた。
そうSokratisだ、ソクラティス。(歴史の教科書に出てくるソクラテスはsokratesと綴る)
ギリシャでは珍しくない名前なのかもしれないが、
その名前だけでなんだか興味がそそられる。
ECMの作品を通じて、ヨーロッパ諸国の民族楽器や
その音楽に初めて触れるという機会を得ることは多いのだが、
今回もlyraの音色に初めて出会う。
Sokratis Sinopoulosの奏でるlyraは、
オリエンタルに響くこともあれば、
アイリッシュフィドルのようにも聞こえたりと、
各楽曲によって様々な表情を見せる。
しかし、なによりも驚くのは、この古代からの楽器lyraが、
ジャズアプローチのPiano Trioに取り込まれ、
Quartet編成となって演奏されると
極めて現代的な音楽として2015年の今に響き渡るということだ。
単なる、いにしえの民族楽器の響きを楽しむというレベルではなく、
現在進行形のアートフォームとしての存在感がそこにはある。
それは、ジャズが最もコンテンポラリーな音楽フォームであることの証明でもあろう。
こういう未知の音楽体験を得られるが故、ECMのカタログを追いかけることになるのだ。
古代からの楽器が現代的なアートフォームに向かい入れられることによって得られる
極めてコンテンポラリーな空気感は、
同じくECM作品ではoudを奏でるAnouar Brahemも同様で、
機会があれば、是非、こちらも一聴を。
「ギリシアの誘惑」から20年以上が経った今、lyraの音色によって
再びギリシャへ想いを馳せることになったのだけれど、
やはりデフォルトの危機に揺れる国へ出向くのは現実的ではない。
しばらくは、このSokratisの作品を聞きながら
lyraの音色がアテネの街角に響く様を
想像して過ごすこととしようか。
文:平井康二
【Sokratis Sinopoulos Quartet - Thrace】
●Sokratis Sinopoulos facebook
https://www.facebook.com/sokratissinopoulos
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平井康二(cafeイカニカ オーナー) 1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、 |
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