※平井さんのDisc Reviewは今月が最終回となります。
Title : 『CONTINUUM』
Artist : NIK BARTSCH'S MOBILE
もう10年近く前に、"ここ数年で最もエキサイティングな発見"、というような表現で紹介されていたNIK BARTSCH'S RONINも随分と刺激的であったけれど、このNIK BARTSCH'S MOBILEもまた同様にかなりのもの。違いを言い表すとしたら、RONINが血を騒がす肉体的な刺激だとすると、MOBILEは精神の奥深くを揺るがす刺激と言ったら良いだろうか。とにかく一度耳にしたらリスナーを捉えて離さない麻薬的な作用を持った作品という点は、両者どちらにも共通するものだ。
現代音楽的な聞かれ方をする部分もあるけれども、クラシカルを背景に持つそれらとは、やはりその佇まいは明らかに異なり、現代という言葉がもつ同時代性よりも、もっと強く"今"を感じる。現代社会の息づかいが、複雑に絡み合うリズムと共鳴し、否応なしにリスナーは現実と幻想を往き来することになる。うすのろな現実と、甘美な幻想の間を。
音楽は、計らずも時代を反映する。MOBILEが奏でるものが、今という時代と呼応しているとしたら、僕らは危うさや脆さを孕んだ真っ只中に生まれ生きているという印象だ。それは、身の回りを見渡せば容易に感じ取れることではあるけれども、僕らはいつのまにか都合の良いように物事を湾曲する術を身につけてしまった。アンダーコントロールなことなど本当はどこにもないと知っている一方で、そういうことにしておかないと先へは進めないことも同じくらい知っている。先にあるものが常に進歩であるかは不透明だというのに。
音楽に何か役割のようなものがあるとしたら、愚かな時代を俯瞰する契機を与えてくれることもそのひとつだろう。MOBILEの音楽は、その役割を的確に果たしてくれる。
NIKが、そういうことを意図しているか否かに関わらず、音楽自らがその役をかって出ているように僕には聴こえる。
一年間、担当させていただいたこのコーナーは
今回で最終回となります。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
自由ヶ丘の店では、こちらで紹介させていただいたような音楽を日々選曲しています。
機会がありましたら是非、お立ち寄りください。
カフェでお待ちしております。
cafeイカニカ
平井康二
Nik Bärtsch's Mobile - Continuum
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・2015.4.1 ・2015.5.1 ・2015.6.1 ・2015.7.1 ・2015.8.1 ・2015.9.1 ・2015.10.1 ・2015.11.1 ・2015.12.1 ・2016.1.1 ・2016.2.1 ・2016.3.1
Reviewer information |
![]() 平井康二(cafeイカニカ) 1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、 |
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●住所/東京都世田谷区等々力6-40-7 |