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中牟礼貞則インタビュー ~『We Love MURE san』

日本のジャズの歴史と共に歩んできたギタリスト、中牟礼貞則さん。
演奏活動60周年を記念して、盟友、村上ポンタ秀一と金澤英明が呼びかけ、
多数の豪華ゲストが参加したアルバム『We Love ムレさん』が3月14日に発売されました。
60年という時間の流れの中でご自身の演奏を振り返っていただきました。

自分の演奏に対する明確なヴィジョンを保ち続け、それに向けての修正をつづけているという、
揺るがない姿勢に敬意を抱かずに入られません。



中牟礼貞則


中牟礼貞則インタビュー ~『We Love MURE san』

■今年で音楽活動60周年を迎えられるということですが、60年の歳月はいかがですか?

高校を卒業して18歳ですぐにキャンプ(米軍キャンプ)に行きましたからね。あの頃はジャズミュージシャンが少なかったから、結構重宝がられたね。
で、音楽を始めた頃から今まで、60年が経ったという意識は全然ないし、全く同じ生活をしてる。全然変わってないの。あっちのシーンでやったり、こっちでやったりと流れながら「色んなことがあって60年経ったな」と普通はなるんでしょうけど、全然そうじゃないんですよ。
僕は九州出身なんですけど、東京へ出てくる時からおおまかに「こういう音楽家になりたいな」という決心は相当についているんですよ。それになるべく近づきたいという気持ちね。なので60年はあっという間。今もあの頃と全然変わらない雰囲気でやっているというかさ。まわりを見てると、相当自分は珍しいタイプだなと。


■「こういう音楽家になりたいな」というのは具体的にはどういうことですか?

ほんとうにそう思ったのかと言われるんですけど、「恥ずかしくないミュージシャンになりたいな」と思ったんですよ。で、なれるはずがないと思ってた。戦争終わって間も無いですからそんなに音楽(ジャズ)を聴いていないわけですよ。だけど、「恥ずかしくないミュージシャンになれるといいな」となんか思ったのを忘れないんですよ。「恥ずかしくない演奏家」ってどういうことかって言うと、早く言えば「すごく自分に忠実な、自分がやりたい事をしっかりやる」ということだったんじゃないかな。だから、日の目を見るサニーサイドであえてやりたいと思わなかったし、そういう意味で最初の頃から全く変わっていない。(笑)スタンスが変わらない。生活のパターンも変わらないですよ。ひっどい生活をしているんですよ。


■どんな生活をしているんですか?(笑)

江戸時代後期じゃないかっていうね。もうひどい生活の仕方をしているんですよ。夏になると開けっぴろげで、蝉がバーっと入ってきてその辺に止まっててさ。冬になったらすごーく寒いのにエアコンひとつなくてさ。暖房器具はさ、50センチ四方のホットカーペットだけ。


■(笑)小さすぎる。

うんうん。それだけだからもう寒い時はひどい寒いわけ。
被害を受けているのはファミリーですよね。だからファミリーは、僕を家長としてはほとんど認めていませんね。(笑)でもすごい親密なんですよ。


■今回のアルバム『We Love MURE san』には日本ジャズ界で人気の面々が参加しています。なかでも、発起人のポンタさん、金澤英明さんとはいかがでしたか?

彼らはね僕のやり方に何にも言わないのね。例えば「こういう風に終わりましょう」とかは当たり前にあるけど、僕の核心に触れるような「ゲイン(音量)」だとか「音質」だとかについては何も言わない。何しろ、僕とポンタさんと金澤さんが中心になって今回のアルバムやったわけじゃやない?そしてあのふたりが僕の語り口でやろうと言った。だからすごく自然に構えずにやれた。構えて弾かずに。こんなに珍しいレコーディングはなかった。みんながね、緊張のこれっぽっちもなかったね。


■みんなのベストプレイが出ている気がします。1曲目の「アマポーラ」から良いですね。

すっごいですよ。「アマポーラ」は昔のキャバレーでよく演奏していた曲ですよ。タバコの煙がすごい中で5回ぐらいステージやるわけ、18時ころから23時くらいまで。全部ダンス音楽ですよ。ダンスっていうかずっとくっついているだけ。チークダンスって言ってたのかな。音楽はさ、「アマポーラ」みたいなのばっかりやってた。

■当時のレパートリーだったんですね。

うん。だからさ、「アマポーラ」はとてもじゃないけど、僕にとってはCDに入れるような曲ではないわけ。だけどやってみればさ、みんな素晴らしいよね。圧倒的な存在感のある人たちばっかりですよ。間違いないですよ。そういう人達はさ、なんというか、僕の「揺れ具合」をよーく分かってるわけ。ひょっとするとさ、アルバムタイトルが『We Love ~』だけど、そういう危なっかしいところが「Love」なのかな。


■(笑)なるほど。

だからこんな嬉しいタイトルはなかったですね。音楽やってて良かったなっていうさ。


[Interview:樋口亨]


We Love MURE san


■タイトル:『We Love MURE san』
■アーティスト:中牟礼貞則&村上"ポンタ"秀一All Stars
■発売日:2012年3月14日
■レーベル:Studio TLive Records
■カタログ番号:XQHG1006
■価格:3,000円(税込)




中牟礼貞則 プロフィール】
1933年鹿児島県出水市に生まれる。'52年、青山学院在学中からジャズ・ギタリストとして活動を開始。日本に黎明期のボサ・ノヴァを紹介、普及させた。2012年で活動60周年、79歳となる現在も現役のプレイヤーであり、各地で演奏を続けている。

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