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bar bossa vol.6

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vol.6 - お客様:松原繁久さん「冬の朝に聴きたい音楽」


いらっしゃいませ。

月の後半はゲストを迎えて、「俺がコンピCDを作るんだったらこうするね」という趣旨の選曲をしてもらいます。

今回は現在京都にお住まいの松原繁久さんにいらっしゃっていただきました。

林(以下H)「いらっしゃいませ。あれ、今日は奥様と。新婚ほやほやなんですよね。」

松原(以下M)「ええ。僕は東京には92年から丸9年間過ごしたんですけど、妻は関西の人間なので今回は東京の僕の好きなお店を紹介して回ろうかなと思って。」

H「素敵ですね。あ、奥様。初めまして。なんだか『松原さんって中学高校とずっと友達だったかもしれない人』って勝手に僕が思ってまして。今日はこんなお願いをしてしまいました。さて、お飲物はどうしましょうか?」

M「ヴァージンモヒートをお願い致します。飲めない自分が初めて林さんに作って頂いた想い出の一杯です。」

H「ちなみにこの『ヴァージンなんとか』ってノン・アルコール・カクテルのことなんです。色んな事情でアルコールが飲めないことってあると思うのですが、オレンジジュースとかコーラって頼むよりもこう注文した方がスマートですよね。さて、松原さんといえばもうすごいレコード・コレクターとして有名なのですが、どんな音楽体験をしてきたか教えてもらえますか?」

M「あの、中、高、大学生と周りに音楽好きがいなかったので、ひたすら一人で集めました。だいたい学生の頃なんて知識もないので、好きなミュージシャンが音楽雑誌で薦めるレコードをただひたすら。キース・リチャーズ、清志郎と仲井戸麗市、ポール・ウェラー、小西康陽・・」

H「え、結構ロックなんですね。僕はてっきり高校生の頃からジャズ喫茶に行って西海岸とかを聞いてたんだと思ってました。」

M「そんなことないです。音楽に関心を持ったのは寺尾聰や稲垣潤一等の日本のAORからですね。彼らのバックの井上鑑や林立夫、山木秀夫等からユーミン、はっぴいえんど周辺、山下達郎とかを聞いて。京都で大学生になってからストーンズを皮切りに英米のロックとブルースを集め出しました。今でも一番好きなのはジミ・ヘンドリックスです。」

H「え、ジミヘンが一番なんですか...」

M「大学生の時に『POP INZ』で、小西康陽さんが200枚のレコードを紹介してて。ロック、ジャズ、サントラ、歌謡曲、ブラジルとか。これが自分の音楽人生の決定的指針となりました。それからは、ありとあらゆる音楽ジャンルに手を出しています。その次のビックバンは『ムジカ・ロコムンド』との出会いです。この本をきっかけにディモンシュの堀内さんや小山さん、ケペル木村さん達に色々なレコードを教えて頂いて、さらに今まで聴いていた以外のジャンルの音楽にも興味が湧きました。」

H「あの、そこまでお好きなのに音楽の仕事をしようとは思わなかったんですか?」

M「レコード会社に入社したかったんですけど、募集が限られていて。レコード会社を関係会社に持つ会社に入ろうと考えて某電機メーカーに入社したのですが、レコード会社の方に行くには辞めてから行くとの話を聞いて、止めました。」

H「なるほど。じゃあ今の音楽状況で何か思うことってありますか?」

M「レコード会社やメディアが持っているべき、アーチストを売り出す情熱が失われていると感じる事が多いです。ただ昔も今も、自分が本当に好きなミュージシャンには時間がかかっても、かならずたどり着くものだという盲信のもとにレコード探しをしていますので、音楽を聴く事が、生きていると同じ意味を持つ人間がいるという情熱を音楽業界全体に感じて欲しいです。」

H「ホントそうですね。さて選曲に移りましょうか。」

M「はい。『冬の朝に聴きたい音楽』がテーマです。布団から起き上がるのが厳しい冬。まだ冷え切った部屋の空気の中で、ボリュームを絞って夜が明け始めた東の空を眺めながら、ぼんやりと聴きたい音楽を選びました。」

リチャード・ナット「Bish's Hideaway」



M「自分にとってハワイとは長い事片岡義男が描いたハワイであり、久保田真琴が奏でたハワイであり、要するに架空の都市としてのハワイでした。昨年初めてハワイを訪れて、初めてギャビーやテンダー・リーフが頭でなく身体で理解出来たような気がしました。リチャード・ナットのこのアルバムはハワイという範疇ではくくれない、人生に1度会えるかどうかの1枚です。」

H「なるほど。自分の中で架空の都市として描いていた世界が現実として繋がる瞬間ですよね。わかります。次は?」

ニック・ドレイク「river man」



M「冬と聞いて思い浮かぶミュージシャンと言えば、チェット・ベイカーとニック・ドレイク。ニック・ドレイクを聴くと思い出すのが村上春樹の『1973年のピンボール』に出てくるピンボールマシンを揃えた冷凍倉庫の描写。形あるものはいつか消えてしまうけれど、いつまでも消えないものがあると信じさせてくれるアーティストです。」

H「冬。ニックドレイク。ピンボールマシンの冷凍倉庫。もう説明いらないですね。わかる人だけついてきてもらいましょう。次は?」

三輪二郎「家出っ娘」



M「2年前、梅田タワーに置いてあったインディー系の音楽雑誌に載っていた彼の風貌に惹かれました。豊田道倫がプロデュースした2nd『レモンサワー』は日本のSSW(シンガー・ソング・ライター)名盤。ギターの鳴りが半端ないです。どの歌から見えてくる景色も心揺さぶらせてくれます。」

H「すいません。勉強不足で全然知らないアーティストです。なんかすごく衝撃的な歌ですね。」

オクノ修「自転車にのって」



M「京都でコーヒーと云えば、イノダか六曜社というのは、昔も今も変わってない気がします。地下店のマスターの修さんが歌う人だと教えてもらったのはディモンシュの堀内さんでした。京都に住むと自転車が便利だと感じる毎日。修さんのこの曲は勝手に京都のイメージソングと解釈しています。」

H「そんな方がいるんですね。京都らしい喫茶店文化を感じる素敵な曲ですね。」

the young group「14」



M「昔、ロカリテというカフェが北堀江にあった頃、店でよく流れていて知ったアルバム。もっと彼らを知ろうとネットで検索した時に、吉祥寺のカフェmoiの岩間さんが彼らの事を書かれたブログを見つけました。音楽について書かれた文章で一番感動した内容の一つでした。音楽の出会い以上に感動する出会いでした。」

H「あの、このバンドの2人と僕すごく仲良くて、ヴォーカルの木之下くんはうちの店の前でtrefleっていうお花屋さんやってるってご存知ですか?」

M「いえ。今初めて知りました。」

H「2人は下北沢のデルモニコスっていうバーのカウンターで出会って『ムースヒル(伊藤ゴローのソロプロジェクト)最高だよね』って意気投合してバンド始めたんです。ちなみに松原さんの永遠のアイドルが彼らの曲を歌うっていう話もあったみたいですよ。次は?」

塚本功と石井マサユキ「what's going on」



M「渋谷系と呼ばれる音楽が街を席巻していた時代の終わり頃にthe changというバンドが素晴らしいアルバムを残していました。何故売れなかったのか理解出来ない程素敵なバンドでした。今でもTICAやgabby&lopezで心奮わせるギターを弾く石井マサユキさんと、日本で一番カッコいいギターを弾く塚本功さん。素晴らしい。」

H「石井マサユキさんカッコイイですよね。でもこんなの知りませんでした。確かに素晴らしいですね。次は?」

スライ&ザ・フアミリー・ストーン「IN TIME」



M「スライの「Flesh」は今迄に一番聴きまくったブラックミュージック。『Stand』や『暴動』も素晴らしいけれど、このアルバムでスライが辿りついた音に一番心揺さぶられます。40年も前の音の筈なのに全く古びない音楽。ディアンジェロ辺りがスライの後を継ぐ音楽を作って欲しいと願っています。」

H「スライ、絶対にお好きなんだろうなって思ってました。やあでもこの曲ですか。これ見て心の中で松原さんに握手した男子、多そうですね。次は?」

マイケル・フランクス「When The Cookie Jar Is Empty」



M「マイケル・フランクスで一番『冬』を感じるアルバムが『Burchfield Nines』。個人的には彼のアルバムの中で一番好きです。数年前から、大晦日に実家で聴く最後の音楽はこのアルバムかポール・サイモンの『恋人と別れる50の方法』となっています。どちらもいいアルバムです。」

H「AORは何か一曲来るだろうとは思ってたのですが、なるほどこれですか。松原さんって独特の黒っぽい感覚がお好きなんですね。やっぱりこの企画面白いですね。次は?」

ともさかりえ「木蓮のクリーム」



M「90年代のアイドルポップスの名盤『むらさき』。古内東子や鈴木祥子、具島直子等に交じって椎名林檎の2曲が出色。椎名林檎の歌謡曲作家としての素晴らしさを感じます。ともさかりえの歌がまた最高。ブックオフで500円で見つけたら買う価値あります。」

H「今ちょっとくらくらしてます。高校で同じクラスだったら『松原、オマエ10曲のうちの1曲がこれかよ』って僕が言って『林、オマエこれがわかんないとダメだよ。センスないよ』って言い合ってそうですね。えと、次は?」

ホドリゴ・ホドリゲス「Cry me a river」



M「ヴォーカル物の中で自分が一番好きなアルバムがホドリゴの『fake standards』。古今東西のスタンダードナンバーを歌ったアルバムの中でも、最高のカバー集だと思います。特に好きなのが『cry me a river』。ジュリー・ロンドンが有名ですが、個人的にこの曲の最高のカバーだと。」

H「あれ、これ奥様も好きなアルバムですよね。2人で冬の日曜日の朝に布団を出ないでこれを聴くって素敵そうですね。『どっちが先に布団から出てコーヒーを淹れるかジャンケンしよう』とか言って。新婚良いなあ。」

M「林さん、飛ばしすぎです。」




松原さん、お忙しい時期にどうもありがとうございました。松原さんは「ヘッドホン美女部」とか関西方面のカフェ情報とか、独特の視点のツイッターをされています。チェックしてみてはいかがでしょうか。
@matu_freedom

あっという間にお正月気分もなくなり、2月のヴァレンタインデーの話題なんかが始まりだしましたね。月日が流れるのってどんどん早くなっているような気がします。

それではまたこちらのお店でお待ちしております。


bar bossa 林 伸次


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林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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