
Title : 『Round Midnight: Original Motion Picture Soundtrack』
Artist : Herbie Hancock
みなさんこんにちは、曽根麻央です。
今日は1986年のジャズをテーマにした映画『Round Midnight』から、そのサウンドトラックとしてのアルバムを紹介したいと思います。
パリを舞台に架空のジャズレジェンド「デイル・ターナー」の晩年を描く映画で、ターナー役には60年代以降、実際にヨーロッパに拠点を移し活動していたジャズ・レジェンド、デクスター・ゴードンが担当しているということも面白いですね。
ターナーのキャラクターや物語は、実在のジャズ・ピアニスト、バド・パウエルがパリで活動していた時の記録や、レスター・ヤングのエピソードが元になっているそうです。パウエル自身、薬物やアルコール中毒で寿命を縮めた人物であり、この映画の主人公であるターナーもまた、モダンジャズを作り上げた世代のミュージシャンを悩ませ苦しめた依存症に苦しむ一人として描かれています。ターナーを演じるデクスター・ゴードンも薬物使用の過去からアメリカで仕事が取れず、実際にヨーロッパに移住した経歴の持ち主です。当時の音楽界の問題をクローズアップした映画となっています。
全体の音楽はハービー・ハンコックが監督しており、配信上ではハンコック名義のアルバムとなっています。演奏シーンの音楽は、ハンコックやゴードン、ビリー・ヒギンズ、フレディ・ハバードといった名手が、スクリーンの中でもサウンドトラックの中でも実際に演奏して出演しているような形になります。
今回はあまりストーリーには深く触れず、サウンドトラックをあくまで一つのアルバムとして聴いていこうと思います。
私が幼い頃に観た記憶だと、どうしてもこの80年代の音楽映画特有の、一般の家庭用テレビのスピーカーでは詳細が聴こえてこないミックスが受け入れられず、正直あまり音楽に集中できなかった思い出があったのですが、このサウンドトラックはそんなことはなく、かなり生々しく素晴らしいメンバーの演奏を記録しています。
参加ミュージシャンも素晴らしいですが、やはりサウンドトラックなので各曲ごとにメンバーが入れ替わり立ち替わりしています。
1. "Round Midnight"
ハービー・ハンコック (Piano) / ロン・カーター (Bass) / トニー・ウィリアムス (Drums) / ボビー・マクファーリン (Vocal)
マイルス・デイヴィスのリズムセクションに、シンガーのボビー・マクファーリンが参加しています。
マクファーリンがスキャットでメロディーを歌います。デイヴィスのバンドのアプローチを基調としつつも、ハンコックがオリジナルにはない漂うようなコード進行を新たにつけており、それとベースのロン・カーターが音楽の主導権を交互に保ち合うかのような、絶妙なバランスでのせめぎ合いが際立ちます。
さらに、トニー・ウィリアムスのサウンドもとても鮮明に良い状態で記録されていて、ピアノソロ以降のスウィングの場面でのシンバルの鮮やかなタッチを聴くことができます。
2. "Body and Soul"
ハービー・ハンコック (Piano) / デクスター・ゴードン (Tenor Saxophone) / ピエール・ミシュロ (Bass) / ビリー・ヒギンズ (Drums) / ジョン・マクラフリン (Guitar)
主演のデクスター・ゴードンが吹いているトラック。
基本的に、ゴードンの参加トラックは劇中でのライブハウスの演奏シーンと思っていただいて良いと思います。あくまで予想ですが、ジャズミュージシャンがカメラの前で完璧に当て振りができるとは思えないので、映画の撮影ではおそらく映像と音を同時に収録しつつ、インサートを重ねているように見えます。なので、演奏シーンはほぼライヴ録音と言えるかなと思います。
3. "Bérangère's Nightmare"
ハービー・ハンコック (Piano) / ピエール・ミシュロ (Bass) / ビリー・ヒギンズ (Drums) / ジョン・マクラフリン (Guitar)
ハービーの手で弦をミュートしたサウンドと、ギターのエフェクトが絡む少し奇妙な一曲。おそらくサウンドトラックとしてBGM的な役割の曲だと思います。
4. "Fair Weather"
ハービー・ハンコック (Piano) / ピエール・ミシュロ (Bass) / ビリー・ヒギンズ (Drums) / チェット・ベイカー (Vocal & Trumpet)
なんと、シンガー・トランペッターのチェット・ベイカーが参加しているテイクです。
今日執筆するまでこのトラックの存在を知らなかったのですが、ベイカーとハンコックの共演ってあったんですね!ジャズファンとしてはちょっと熱くなりました。
ハンコックの独特な和声と、意外にもチェットの歌声やトランペットで作る即興のメロディーラインがはまっている気がしました。特にチェットの歌は柔らかいからふわっとしてると思われがちですが、実はとてもチューニングが正しいんです。だからかもしれませんが、複雑な和音にも正しくサウンドしています。
バラード曲で全員の力が抜けていて、まさにマエストロ同士の共演といったものになっています。
5. "Una Noche con Francis"
ハービー・ハンコック (Piano) / デクスター・ゴードン (Tenor Saxophone) / ウェイン・ショーター (Tenor Saxophone) / ボビー・ハッチャーソン (Vibraphone) / ピエール・ミシュロ (Bass) / ビリー・ヒギンズ (Drums)
こちらも意外な組み合わせで、ゴードンとウェイン・ショーターの掛け合いソロが聴けてしまいます。映像なしで耳だけ傾けていると、実は二人のタイム感や音色、アプローチが少し近く、油断しているとどちらの演奏だっけとなってしまいます。
おそらくですが、年齢的にもウェインが影響を受けてきたのではないかと思います。
6. "The Peacocks"
ハービー・ハンコック (Piano) / ウェイン・ショーター (Soprano Saxophone) / ピエール・ミシュロ (Bass) / ビリー・ヒギンズ (Drums)
ピアニスト、ジミー・ロウルズが書いた美しいバラード曲を、ショーターとハンコックの名コンビで演奏しています。
7. "How Long Has This Been Going On?"
ハービー・ハンコック (Piano) / デクスター・ゴードン (Tenor Saxophone) / ロネット・マッキー (Vocal) / ピエール・ミシュロ (Bass) / ビリー・ヒギンズ (Drums) ロネット・マッキー(Lonette McKee)
という、私もこの映画でしかお名前を存じ上げなかった女優さんが素晴らしい歌唱を披露しています。調べると、元々はデトロイト出身のシンガーだったのですが、ミュージカルへの出演を機に俳優として、またフィルムメーカーとして映像の世界にも携わっている多彩な人物のようです。
ニュースクールでフィルム・ディレクティングを勉強したり、バレエを本格的に習ったりと、かなり熱心に多方面の教養を得ようとする人物であるとプロフィールを読んで感じました。実際、こちらの歌唱も素晴らしいです。
8. "Rhythm-a-Ning"
シダー・ウォルトン (Piano) / フレディ・ハバード (Trumpet) / デクスター・ゴードン (Tenor Saxophone) / ロン・カーター (Bass) / トニー・ウィリアムス (Drums)
ピアノがハンコックから交代し、シダー・ウォルトンが参加。そしてトランペットの名手フレディ・ハバードがセッションをしているトラックです。
9. "Still Time"
ハービー・ハンコック (Piano) / デクスター・ゴードン (Soprano Saxophone) / ピエール・ミシュロ (Bass) / ビリー・ヒギンズ (Drums)
ハンコックのオリジナルソング。ゴードンのソプラノサックスはあまりイメージがわかない方も多いのではないでしょうか? 実際私もあまり聴いたことがなかったのですが、とてもストレートにはっきりとしたタンギングで区切るようなアーティキュレーションはテナーの時とあまり変わらず、彼の歌い方を感じることができます。
(※公式のクレジット等ではテナーと表記されていることもありますが、実際の音を聴く限りこれはソプラノです。)
10. "Minuit aux Champs-Elysées"
ハービー・ハンコック (Piano) / ボビー・ハッチャーソン (Vibraphone)
ピアノとヴィブラフォンはとても特別なデュオの形式ですね。以前チック・コリアとゲイリー・バートンの『Crystal Silence』というアルバムをこちらのレビューでも紹介しましたが、その二人とはまた違ったアイデンティティを持つ二人の名手によるデュオです。
ピアノもヴィブラフォンも同じく鍵盤の形をした打楽器の一種ですが、音のアタックと、その後の音の減衰速度が違うので、他の組み合わせとは違ったサウンドのデュオになります。
またヴィブラフォンはファンを回すことでヴィブラートもかけられるので、それもユニークなカラーとなります。
11. "Chan's Song (Never Said)"
ハービー・ハンコック (Piano) / ロン・カーター (Bass) / トニー・ウィリアムス (Drums) / ボビー・マクファーリン (Vocal)
ハンコックとスティーヴィー・ワンダーによる共作。美しく流れるハーモニーと、とても印象に残るメロディーで成り立っています。
マイケル・ブレッカーのアルバム『Nearness of You』での演奏が有名かもしれませんが、こちらのサントラ版がオリジナルのようです。
このように多様なメンバーによる、あらゆるスタイルのジャズが収められたアルバムとなっています。ぜひ聴いてみてください。
文:曽根麻央 Mao Soné
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![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |


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