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vol.16 - お客様:白尾嘉規さん「知らないからかえって楽しい、ポーランドジャズ」


いらっしゃいませ。bar bossaへようこそ。

月の後半はお客様をお迎えして「俺がコンピCDを作るんだったらこうするね」という趣旨で選曲していただきます。今回はポーランド・ジャズ評論家の白尾嘉規(オラシオ)さんにお越しいただきました。

林(以下H)「いらっしゃいませ。」

白尾(以下S)「こんばんは。モヒートをお願いします。あ、あとお腹空いたのでムケッカもいただけますか?」

H「あれ?発音のアクセントが少しだけ関西が入ってますね。青森にお住まいなんですよね。ご出身はどちらなんですか?」

S「神戸生まれ大阪育ちです。」

H「そうなんですか。これは色々と物語がありそうですね。では小さい頃の音楽体験なんかを教えてください。」

S「実は中学に入るまで音楽はそんなに好きではなかったんです。ただし両親が音楽好きだったので家にはそれなりにレコードもありました。中1の時に父に部屋に閉じ込められて爆音でエリック・ドルフィーの『ファイヴ・スポットVol.1』を聴かされて、最初は『うるさい、ここから出せ!』とか言ってたのに30分後にはもうはまってて(笑)。それで最初はジャズにのめり込んで、大和明さんの本を読んだりして自分が聴きたいアルバムをチェックして、ひたすら『どんな音なんだろう?』って妄想してました。この頃から『紹介文やデータから音楽を妄想する』楽しみにとりつかれてましたね。高校卒業するまでの思春期は、小遣いのほぼ全てを、ジャズとかプログレとか民俗音楽のCDレンタルと紹介本の購入にあてて聴きまくってました。ちょうどビクターから民俗音楽のCDシリーズがいっぱい出たり、プログレの雑誌とか『ユーロロック集成』とかいったバイブル的な本も出たりして、見つからなくて音自体は聴けなくてもその周辺の情報がかなり豊かだった時代ですね。そうして知った音楽を勝手にコンピ作ってワープロで好き勝手書きまくった自作の解説書作って友達にあげたりもしてました。」

H「なるほど。中学の頃から今と同じ感じなんですね。楽器とかはやらなかったんですか?」

S「高校入学からベースを始めて楽譜もほとんど読めないで勘で弾いてたんですが、その頃から『ポリスの曲をキーボードトリオでやろう!』とか違う編成でやろうとするのが好きで。大学でジャズ研入って一応楽譜も書けるようになったんですが、わざと変な編成とかひねったアレンジで自分の好きな曲をやるのに挑戦し続けては才能がないので失敗し、という大学時代でした。あと大学時代の思い出は、行きつけのジャズ喫茶で後で自分が連載することになる「ジャズ批評」のバックナンバーを読みまくって徹底的にデータを勉強したのと、卒業する間際に書いた初めてのオリジナル曲が結構評判良かったことでしょうか。」

H「ジャズ研とジャズ喫茶。王道ですね。大学卒業後は?」

S「就職活動も適当にあきらめて、親にお金を出してもらって東京に出てきました。そして出来たばかりのディスクユニオン新宿ジャズ館に入ったんです。大きかったのは、同じ時に入った女性が早稲田のダンモ(モダンジャズ研究会)出身だったので、彼女のダンモ仲間とバンド組むことになったこと。劇団の劇中音楽を作って提供してたりしました。東京に出て、リスナーとしては物凄く幅が広がったと思います。ブラジル音楽をはじめ、フランスを中心としたヨーロッパのジャズとかタンゴとかフリージャズとかブルーグラスとかファンクとか、それなりに色々聴きました。大学時代からはまったフランク・ザッパとビリー・コブハムの探求もムチャクチャやりましたね。上京するまでは大阪出身といっても田舎の方でしたので所詮触れられる情報は少なかったんです。大学も地方でしたし。結局音楽活動の方は色々あって挫折した、というか自分の中で諦めてしまって。20代いっぱい東京にいたのですが、希望で始まって挫折で終わった、失意の20代でしたね。(苦笑)」

H「20代の東京の希望と挫折時代ですか。良いですねえ。で、青森はどうして?」

S「彼女が青森市に仕事で行くことになったので、青森に引っ越して会社員にでもなってまじめに働こうと覚悟を決めました。でも肝腎の仕事が地方都市には全然なくて。(苦笑)仕事が見つからないで絶望していた時に始めたのが今のブログです。何の希望も自信もない失業者だけど、せめてネットの上では、誰でもない自分しかやっていないようなことを出来たらと思って(苦笑)。なので、はまっていたポーランドジャズを中心に紹介して行くというコンセプトを決めました。今のペンネームはその時のハンドルネームですね。自分の苗字をもじって、ラテン音楽も好きなのでそれっぽいのにしました。そのうち花村さんという方に「ジャズ批評」に『書いてみない?』と誘っていただいて、そのまま6年近く連載してます。そして行方均さんにポーランド人女性歌手アガ・ザリヤンの新譜についてダメ元で売り込んだら国内盤化が実現してしまい、それでライナーデビューしました。昨年はミラ・オパリンスカとダグラス・ウェイツというデュオのファーストアルバムをディスクユニオンに『輸入してみません?』と提案してみたらレーベル発動の依頼が来て、オラシオが選盤してライナーを書く「チェシチ!レコーズ」が出来上がりました。この数年、自分でも予想していなかったスピードでここまで来たな~というのが実感ですが、どうせ来たならガンガン突き進んじゃおう!と思っています。」

H「面白いですねえ。東京を離れて青森に住むことで本来の自分が発見出来たんですね。東京で悩んでる若者は是非参考にしてほしいですね。ではポーランドジャズとの出会いは?」

S「中古で偶然見かけたのがズビグニェフ・ナミスウォフスキという人の『3ナイツ』という3枚組ライヴ盤。でもこれを買ったのはポーランドだからというわけではなくて、『ライヴ』『○枚組』『読めない言語』という好物が3拍子揃っていたからです。読めない言語で書かれているってほんと最高ですよ。私が情報の多い『メインストリーム』を避けるようにしてマージナルな音楽ばかり聴いてきたのは、そういうワクワクドキドキをより多く感じたいからです。
今考えると、このナミさんはポーランドジャズの王道ではないんですが、バンドメンバーの演奏のレベルの高さと面白い曲作りに衝撃を受けてしまって。それで、まずはそのアルバムの参加メンバーのリーダー作とかPOLONIAというレーベルのものを探してみようと中古屋さん通いしたらあるわあるわ。当時笠井さんという方がやってらしたガッツプロダクションという輸入会社がたくさんポーランドジャズを取り扱ってて、一度ブームが来たことがあったようなんです。その後中古屋さんに流れたものを、私が安く拾わせていただいた、と。(笑)」

H「やっぱり中古屋は大きいですよね。ポーランドジャズの魅力は?」

S「まずとにかく『音色が美しい』ということです。フリージャズとか前衛インプロみたいなことをやるミュージシャンも絶対に汚い音を出さないんです。あとは、僕は『残り香メロディ』とか『引きの美学』とか勝手なキャッチコピーをつけてるんですが、空中に溶けて行くような余韻のあるメロディですね。そして最後が自分にとって凄く大事なのですが、 とにかく凝り性ですね、ポーランド人は。基本オリジナル路線ですし、スタンダードをやるにしても必ずと言っていいほどひねったアレンジを入れます。民俗音楽やコレンダ(=クリスマス・キャロル)、クラシックなどの伝統音楽を凄く大事にしていて、それを物凄く大胆に今風に変えてやるところも魅力です。ポーランド語の響きも凄く好きですね。二重子音(szとかczとか)が物凄く多い言語なんですけど、それから生まれるノイズが、三味線とか親指ピアノ、尺八の『サワリ』と同じ効果があると妄想してるんです。巧くて、メロディアスで、凝ってて、伝統も大事にしてて、かつ美しい響き。しかも飽きが来ず毎日聴けるようなバランスの良いポップさもある。僕は、ポーランドジャズを『ジャズの一種』としては捉えてなくて、ポーランドジャズという名の全く違ったジャンルだと思っていますね。どっちかと言うと『ミクスチャーミュージック』(僕は自分の造語で「ユニジャンル」って呼ぶんですが)に近い感じでしょうか。」

H「青森と東京について教えてください。」

S「世の中のもの、特に文化に関するものは何でも東京に集まっているというのは本当かな?っていつも思っています。なので、プロフィールには必ず『青森市在住』と書いて、北東北の地方都市から他の誰もやってないことを発信してるんだというアピールをしています。あと、ポーランドのジャズは青森の四季の情景に凄く合うので、そういうところも運命を感じますね。通勤途中に青森市の豊かな四季を眺めながら携帯プレイヤーでポーランドジャズを聴くってもう最高のぜいたく!って毎日感動してます(笑)。地方都市とヨーロッパって、自然と街のバランス、都市と都市の離れ具合とかとても似ている気がするので、自分が住んでいる土地に似合う音楽をプッシュして行くって精神的な面でも凄く大事なことだと思います。」

H「白尾さんはこれからどうされたいですか?」

S「まずは、ポーランドにまだ行ったことがないので行きたいです。(笑) 野望はたくさんありますよ! 本を何冊か出したいですね。ポーランドの伝説的な作曲家クシシュトフ・コメダの評伝本とか旅行ガイドも兼ねたポップなポーランド音楽紹介本とかポーランドジャズカタログとか。あとポーランドとは全然関係ないのですが、各ジャンルの音楽ライターの皆様に声をかけてヴィブラフォンやマリンバなど、マレットを使った楽器が入った音楽を網羅した『ヴィブラ本』というオムニバスカタログ本も出したいと前々から考えています。僕はマレット音楽のファンでもあるんですよ。青森市や県内でポーランドジャズフェスティヴァルを開催して、県の観光資源にするというのも目標の一つです。『ポーランドジャズ聴きたかったら青森県に来い!ついでに観光もしてけ』ということですね。(笑)県民栄誉賞もらっちゃうかもですね。(笑)あとは、自分の企画でアルバムを何枚かプロデュースしたいですね。コンピも作りたいし、有線のポーランドジャズ専門チャンネルも作ってこじゃれた焼肉屋とかで流して欲しいし。(笑)他にもやりたいことはたくさんあるのですが、止まらなくなるのでこの辺で・・・。でも今日はもうちょっと語って行きたいのでモヒートおかわり下さい。(笑)」

H「なるほど。青森でポーランドジャズフェスティヴァルってすごく面白いですね。ではそろそろ曲に移りましょうか。」

S「はい。テーマは『知らないからかえって楽しい、ポーランドジャズ』です。来日したことがあるミュージシャンもまじえ、知られざるミクスチャーミュージック『ポーランドジャズ』のエッセンスをたっぷりと味わえる10曲を選んでみました! 1曲目はこれです。」

コウィサンカ / ロベルト・マイェフスキ(作曲:クシシュトフ・コメダ)
Kolysanka / Robert Majewski : Krzysztof Komeda




H「叙情的な曲ですねえ。今回は全部わからないので解説をお願いします。」

S「ポーランドの伝説的な作曲家コメダの曲を、トランペッターのロベルト・マイェフスキが弟のピアニスト、ヴォイチェフとデュオで録音したヴァージョン。コメダの曲はポーランドのミュージシャン(ジャズだけでなく、ポップスやクラシックの人たちにも)にとてもたくさんカヴァーされているのですが、その中でも一番好きなのがこれです。実はこの曲は彼が映画のサントラとして作った最初の曲なんですよ。『知らないから』と聴く前に壁を作ってしまいそうな方には慌ててこれを聴いていただいて、イチコロです(笑)。個人的には、青森市の落葉の季節にぴったりなので、その頃よく聴いて落涙しそうになってます。」

ロマン2 / クシシュトフ・コメダ
Roman II / Krzysztof Komeda




H「なんだか面白い曲ですね。」

S「コメダのジャズサイドの演奏は、こういう『ひたすら繰り返しでいつ終わるかわからない』ものがとても多いんです。ポーランドの歴史にあまりにも分断が多かったために、音楽の中では永久に続くような普遍性を追求しようとしたんじゃないかと勘ぐっているんですよ、僕は。あと、彼も凄くそれとなく民俗音楽の要素をとり入れているんですよね。フロントやっているのは後の大スター、トマシュ・スタンコとミハウ・ウルバニァク。ミハウはこんなに素晴らしいサックス吹いてたのに健康上の理由でヴァイオリンに転向しました。この曲のリズムは半分に切って前後逆にして聴くと青森市の『ねぶた』のリズムにそっくりです。コメダやポーランドの音楽って勝手に『暗い』イメージが広まっているんですけど、この曲なんか凄く楽しいですよね。」

H「ねぶたに似てますか。面白くなって来ました。次は?」

ナイト・トレイン・トゥ・ユー/マルチン・ヴァシレフスキ・トリオ
Night Train To You / Marcin Wasilewski Trio




S「今のポーランドの若手で、日本のファンの間で一番有名なのがたぶんこのヴァシレフスキのトリオだと思います。僕はこの曲に勝手に『君のもとへ、夜汽車が』って邦題つけました。演奏や曲の構成とかが素晴らしいのはもちろんなんですけど、ポップですし、聴いた人みんながそれぞれの思い出の中で情景を共有できそうな独特のムードがありますよね。なのでJRとか旅行会社のCMに使ってほしいと思って色々働きかけているんですけど。(笑)これを読んだ方、どなたかいいツテを教えて下さい。(笑)ちなみに、ポーランドの映画にもけっこう鉄道がよく出てくるんですよ。『夜行列車』という映画もあります。その映画 のサントラもジャズですし。誰かポーランドの若手監督にこの曲をモチーフにした新版『夜行列車』を撮って欲しいです。」

H「邦題、良いですねえ。白尾さんの文学趣味が時々見えるの好きですよ。次は?」

ニェナスィツェニェ / アンナ・マリア・ヨペク
Nienasycenie / Anna Maria Jopek




S「日本のファンの間で有名と言うとこの人もそうですね。パット・メセニーと共演した『ウポイェニェ』って作品でブレイクしたんですけど、そのアルバムもメセニーの力を借りているというより完全に自分の音楽にとり込んでました。ジャズミュージシャンが参加することでしか作れないポップミュージックってあるじゃないですか。この曲なんかその最たるもので、メンバー全員超トップクラスのジャズアーティストばかりです。中でもピアノのレシェク・モジュジェルは天才中の天才として、今完全にポーランドシーンを席巻してます。ポップスにジャズの人を参加させるのは昔からで、60年代後半くらいからのポップスアルバムも物凄く質が高いのがこの国の音楽の特徴の一つです。要するに演奏家の絶対数が少なかったからそうなったんだと思います。ヨペクもモジュジェルも、ポーランドの民主化以後に活躍し始めた『Polished Generation(磨かれた世代)』の代表格です。」

H「なるほど。そういうお国事情、面白いですねえ。ポーランドジャズって突っ込みどころがいっぱいあるんですね。次は?」

スムトゥナ・ジェカ / クバ・スタンキェヴィチ&インガ・レヴァンドフスカ(作曲:ショパン)
Smutna Rzeka / Kuba Stankiewicz & Inga Lewandowska




S「もう一丁ヴォーカルもの行きましょうか。ポーランド語の美しさがよくわかるテイクです。多分ポーランド人で一番有名なのはショパンだと思うのですが、彼の音楽は民衆レベルに物凄く浸透していて、音楽教育の基礎にもなっていますが、それ以上に『日常の音楽』なんですよ。なので、ショパンジャズアルバムも日本人が想像できないくらいにたくさんありますし、またそのカヴァーの発想も完全に規格外です。この曲はショパンの数少ない歌曲作品をジャズとして甦らせたものです。クラシックのジャズ化という印象が全くないのが凄いですよね。」

H「ショパンジャズアルバムがたくさんあるんですか。うーん、面白いですねえ。次は?」

プションシニチュカ / レシェク・クワコフスキ(作曲:モニゥシュコ)
Przasniczka / Leszek Kulakowski : Stanislaw Moniuszko




S「今まで色んなところでポーランドジャズを聴いていただいてたのですが、この演奏はほんと鉄板です。ポーランドはジャズとクラシックの垣根が物凄く低い国で、クラシックのフォーマットとの共演盤も非常にたくさんあるんです。例えばオーケストラとの録音とか、この曲のように弦楽四重奏団とのものとか。曲もスタニスワフ・モニゥシュコというポーランドの国民的な作曲家の『紡ぎ唄』というとても愛されている曲です。これもクラシックのジャズ化には聴こえないですよね。こういう編成でやっている裾野が広いので、単なるムード作りとして参加しているわけじゃじゃなくて、アンサンブルとして四重奏団がねっとりと絡んでカッコいいですよね。」

H「おおお、確かにかっこいいです。こういう弦モノとジャズって大体音大出のクラシックのカッコ悪さが気になるのですが、これは見事に成功してますね。次は?」

クルフィ・モスト / ピォトル・バロン
Kruchy Most / Piotr Baron




S「ポーランドで『ピアノトリオ』と同じくらいよくある編成がこの『サックストリオ』なんです。シーンの規模を考えるとほんと、ありえないくらい多いです。半ば伝統化してるからか、普通ならちょっとアヴァンギャルドに行ってみましたとかコードレスに挑戦!という流れになるところを、ポーランドの場合は非常に地に足がついた演奏でハズレがないですね。また、この編成でそういう演奏が出来るのは、全体的に超絶技巧の持ち主が多いこの国の奏者の音色が抜きん出て豊かで美しいから、というのもあると思います。余計な冒険をしなくても音がいいのでそれだけで充分聴かせちゃうんです。サックストリオはディープなファンでない方にはなかなかオススメしにくいと思うのですが、僕はこのアルバムなら躊躇しません。マイクから直接DATに録音、完全ワンテイクのみという究極の緊張感も渋いです。」

H「サックストリオがよくあるんですか。うーん、ポーランド人恐るべしですね。あの、この演奏がキャッチーな方なんですよね。うーん。さて次は?」

ワルソウ / ピンク・フロイト
Warsaw / Pink Freud




S「ポーランドのジャズってシーンの規模自体は全然大きくないんですが、それでも『ジャズ大国だなあ』と思わせてくれるのはこういうバンドが物凄く若者に人気があるところですかね。それも、ただノリが良いだけの音楽じゃなくって、民俗音楽のような伝統的な要素もしっかりおさえつつ、非常に複雑な音楽性なこういうバンドが。ライヴなんか完全にロックノリで、リーダーのヴォイテク・マゾレフスキのたたずまいもロックスターみたいなのですが、まじめに(笑)聴いたら度肝抜かれるほど高度なことをやってますよ。ちなみにトランペットのアダム=ミルヴィフ・バロンは前の曲のピォトルの息子さんで、昨年の来日時にそのことを訊いたら『父は真のマスターだ。自分なんかまだまだだよ』とはにかんで謙遜してたのがかわいかったですよ。(笑)」

H「おお。確かに仰るとおり民族色もあってロックノリですね。こういうのが若者に人気があるんですか。ポーランド、音楽偏差値高過ぎですね。次は?」

リヴァージョン / マテウシュ・スモチンスキ・クィンテット
Reversion / Mateusz Smoczynski Quintet




S「ポーランドは隠れたジャズヴァイオリン王国なんですが、このマテウシュは若手世代の代表的なミュージシャン。最近あのタートル・アイランド・ストリング・クァルテットのメンバーとなって話題になってます。この曲と演奏は僕にとって物凄くポーランドを感じるものですね。『ポーラン度』が高いんです(笑)。凄く情感にあふれた旋律なんですが、最後まで引っ張りきらないで『あれ、気がついたらメロディ終わってた』という感じなのがいいんですよ。この曲も結構色んなところでかけてますが評判いいです。」

H「なるほど。ポーラン度が高いですか。なんとなくわかってきました。でも良い曲ですね。」

プション シュチュ・ブジュミ・フクラコヴィェ / ズビグニェフ・ナミスウォフスキ
Przaszcz Brzmi w Krakowie / Zbigniew Namyslowski




S「では最後に僕をポラジャズの深い沼に引きずり込んでくれた恩人ナミさんの代表作から。面白いサウンドでしょう?このアルバムは世界中のダンス音楽のリズムを自分流に料理したというもので、この曲にはクラコヴィァクというポーランドの民俗音楽のリズムが使われています。楽しくて変な感じと、伝統音楽へのまなざしが、ブラジルのエルメートに物凄く近いものを感じるんですよね。ちなみに彼はチェロとピアノで音楽教育を受けて、トロンボーンでプロデビューし、それから始めたアルトサックスで世界屈指のプレイヤーになった凄い人です。ポーランドは彼に限らず超人的なマルチプレイヤーがムチャクチャ多いのも特徴です。」

H「確かにエルメートですね。これははまりますね。面白いです。」

S「いかがでしたか?『知らないから全然イメージ湧かない』という人から『ポーランドのジャズはキレイな感じがする』という人まで色々いらっしゃると思いますが、結構リズムがしっかりしていて面白いでしょう。たぶんショパンの音楽の影響が大きいのだと思われるのですが、この豊かな『グルーヴ』を最大限に活かすために美音を極めたのがポーランドのジャズなんじゃないかなと個人的には考えています。だから、本当は『音色が売り』なんじゃなくて『(そこから導き出される)グルーヴが売り』なんですよね。」

H「いやあ。すごく面白かったです。ポーランドという国の色んな事情からこういうサウンドが生まれるんですね。日本でポーランドジャズがどう流行るかは白尾さんにかかってますね。」

S「ボッサノーヴァも4半世紀前まではほとんど知られていなかったのに、今では街のどこかでかかっています。ポラジャズがそうならないとは誰にも言えないと思います。だから、僕はあきらめません。」


白尾さん、今回はお忙しいところ、どうもありがとうございました。神戸生まれ大阪育ちで、20代は東京、そして今は青森からポーランドジャズを紹介するという面白い方ですね。これから色んなことをされて世の中を騒がせそうで、みなさん要チェックの方です。
そろそろ夏が近づいて来ましたね。さっぱりしたモヒートを飲みながらこんな音楽を聴く夜も良いですね。ではまたこちらのお店でお待ちしております。

bar bossa 林 伸次




お二人のお話は尽きず、ここに載せられなかった面白い続きは、白尾嘉規(オラシオ)さんのブログでご覧ください。
http://ameblo.jp/joszynoriszyrao/entry-11555513607.html




白尾嘉規(オラシオ)
日本でただ一人のポーランドジャズ専門ライター。青森市在住。ディスクユニオン発のポーランドジャズ専門レーベル「チェシチ!レコーズ」監修者。
雑誌連載:「ジャズ批評」、季刊俳句誌「白茅」。ブログ「オラシオ主催万国音楽博覧会」主催者。その他ライナー執筆、DJイベント、トークイベントなどで活動中。
日本全国にイベント出張可。ご依頼は下記メールまで。フェイスブックアカウントもあり。現在毎月青森市でDJイベントを開催中。「気になる方はぜひ旅行先に青森県を選んで遊びに来て下さい♪」
ブログ:http://ameblo.jp/joszynoriszyrao/
メール:aladyhasnoname@yahoo.co.jp
ツイッター:https://twitter.com/poljazzwriter




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林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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