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vol.15 - お客様:寺田俊彦さん コンピレーションCD『窓につたう雨は』のように


いらっしゃいませ。bar bossaへようこそ。

梅雨の季節がやってきましたね。
今回はそんな雨の季節にぴったりのゲストに出演していただきます。

西荻窪にあるセレクトCDショップ「雨と休日」の寺田俊彦さんです。

林(以下H)「いらっしゃいませ。」

寺田(以下T)「こんばんは。」

H「さて、お飲み物はどうしましょうか?」

T「フルーティな白ワインをお願いします。何かいいのありますか?」

H「でしたらこのベルジュラック・ブランなんかどうでしょうか。口当たりは優しくて香りも白桃みたいなのですが、ミネラルがしっかりしています。印象はすごくソフトなのに実は芯が通っていて頑固な寺田さんのイメージそのものです。」

T「それが僕のイメージですか? うーん・・・合ってると思います。ではそれをいただきます。」

H「さっそくですが、インタビュー始めますね。まず小さい頃の音楽体験は?」

T「小学校低学年の頃に、クラシック名曲全集みたいな、LPのボックスセットを親が借りてきたことがありまして、そこに入っていたガーシュウィンの『パリのアメリカ人』に心惹かれました。『パリのアメリカ人』はパリの都会の喧騒に慌てるアメリカ人を描いた作品なんですが、音楽を聴くとまさにその風景が頭に浮かぶことに感動しました。その後もずっと現在までそうなんですが、聴くことでイメージが湧いたり、ある気分になったりするような音楽に強く惹かれます。」

H「最初が『パリのアメリカ人』ですか。らしいですねえ。」

T「吹奏楽部でトランペットを吹いていたのでクラシックにも馴染みがありましたし、あとは、ラジオっ子だったのでエアチェックして好きなポップスをカセットテープにまとめるのが大好きでした。当時はCBS / EPICソニー全盛期と言える頃で、尾崎豊とかTMネットワーク、佐野元春、PSY・Sなどその辺はほとんど聴いてました。それと同時に、60年代のポップスの音質が好きで、いわゆるオールディーズや例えばペトゥラ・クラークなどの今で言うソフトロックが好きでした。」

H「典型的な音楽好き男子のパターンですね。初めてのレコードやCDは?」

T「最初に自分からねだって買ってもらったのはチャイコフスキーの『花のワルツ』が入ったLPでした。車が好きな子だったので、当時車のCMに使われていたその曲が気に入ってたんですね。同じ理由でキース・ジャレットの『ケルン・コンサート』も愛聴盤でした。CDは...たぶんアニメか何かのサントラだった気がします。音楽に関しては周りからの影響はあまりなく、ひとりでこつこつ好きなものに没頭していった感じです。」

H「その後は普通バンドとかDJとかやり始めますが寺田さんはどうでしたか?」

T「もっぱら聴く専門で、バンドをやろうとは思いませんでした。大学生の頃は演劇に興味があって、特に音響の担当で場面場面に合わせる音楽を選曲することに熱中しました。漠然と選曲の仕事に就けたらいいなと思ってたりしました。ちょうどそのころ渋谷系やサバービアの影響を受けて、ジャズやソウルミュージック、サントラなどいろんなジャンルのものを聴くようになったというのが自分の音楽体験で大きなものになってます。」

H「なるほど。ではCD屋さんで働くきっかけは?」

T「CDショップで働き始めたのは最初はアルバイトでしたが、『CDはいっぱい買ってるし、向いてるんじゃないかな』という軽い気持ちで始めました。それが意外にも自分に合っていて。CD売場に付いているコメントカードを凝って書くのも楽しかったですし、お薦めしたものが売れていく快感にはまっていきました。部屋だとか、車、電車の中など、ひとりで聴く、という行為が好きです。だから個対個の付き合いであるお店という形態が好きなんだと思います。」

H「CD屋さんで働いて学べたことってありますか?」

T「僕が最初に働いたWAVEという会社は良くも悪くも自由なところでした。仕入れから販売まで結構好きにやらせてもらっていて、音楽的な知識が増えたのはもちろんなんですが、小売りの現場のノウハウを失敗しながら自分で学べていけたのが良かったです。その後タワーレコードに転職しましたが、そこでは大会社ならではのシビアな在庫管理や接客など販売に関する基礎を学びました。小売業に携わっている方はいっぱいいるかと思いますが、自分で『これだ!』と思った商品をいかにして売るか、こうすれば売れるという経験を積んで自信を持つようになれるか、ということがまず第一歩だと思います。ただ置いているだけでは売れない。手間と時間をかけてあれこれ努力したうえで売れていく。そういったことは、書籍や雑貨よりもCDのほうが顕著に表れます。細かい作業を惜しまず、丁寧な仕事をすることで売り上げが変わるということを学んだのが大きかったと思います。」

H「この時代に『CDだけを売るCDショップ』って色んな意味ですごく冒険だったと思うのですが。」

T「CDショップという仕事を続けたのは、言ってしまえば意地みたいなものです。タワーレコードを辞めるときはすでに10年以上CD販売に関わってましたが、業界を去った多くの同僚と同じようにこの知識を生かさず辞めてしまっていいんだろうかという思いがありました。あと、まだまだ良い作品だと思えるCDがあるうちはそれを紹介したいという気持ちも。CDを売れるようにするにはどうすれば良いのかという点は、これまでの経験から自分なりの方法を考え具体化したのが現在の雨と休日というお店です。雨と休日を開店したときは理想をまず求めてみて、ダメならダメで時代のニーズに合わなかったということだから、その時はさっさと閉めようと思って始めました。だから冒険というよりも挑戦です。少ない品数で商品の質で勝負する。商品の質を上げるためにはとにかく絞ることが重要で、コンセプトそのものは敢えて曖昧なものにしていますが、自分の中でははっきりとした線を引いてセレクトすることが生命線だと考えています。なのでCDのお店ならCDだけを売るという潔さが必要だと考えています。少しだけ関連した書籍を置いていますが、アナログレコードやグッズは売らない。単純に自分が客だとしたら、CD以外のものを売り始めたら『お前のとこは何を売りたい店なんだよ?』って思いませんか?絞るという覚悟がお客さまへの信頼にもつながると思ってやっています。もちろん家族の支えがあってこその挑戦でしたが、お陰様で4年続いているので、自分のやっていることが受け入れられているのだろうと。」

H「冒険ではなくて挑戦ですか。なるほど。では、これからの音楽産業はどうなっていくと思いますか?」

T「CDを買わなくなっても音楽ファンが減っているわけではありませんよね。コンサートのイベントが大小様々なものに多様化していくと思いますし、CDを売るお店もCDショップに限らずカフェやインテリアショップなどにさらに広がっていくでしょう。例えば20代の頃を東京で過ごして音楽もバリバリ聴いていた人が故郷にUターンし、そこでお店を開く。そのような地方の個人でやっているような小さなお店に、センスのいいセレクトでCDが並んでいる、というような風景が珍しくなくなるかもしれません。」

H「なるほど。」

T「CDに関わっている業界そのものは、今よりもっと細分化していくべきだと思います。今、それこそひとりふたりでやっているような小さいレーベルが一番元気ですし、ジャケットやイベントなども含めて質の高い作品をリリースしています。メジャー会社は自社だけでなくそういったレーベルに門戸を開いて、自社音源のライセンスを提供しやすくするなどして、財産である音源を埋もれないようにして欲しいですね。もちろん会社によってはすでにそのような動きがあることは確かですが、もっと広く開けたものにして欲しい。会社の利益を優先して、商品そのもの...たとえば使ってる紙質などが貧相なものになってしまうとか限定プレスばかりになってしまうといったことに陥ってしまっては残念ですし、そうすると結局リスナーが離れていって自分の首を絞めてしまう結果になると思います。結局マンパワーが物を言いますから、良いものを作って売るためにはこれまで以上に手間をかけて、今、CDというパッケージ商品を売ることの意義を考えながらリリースを企画していって欲しいです。」

H「確かにそうですねえ。ミュージシャンについては?」

T「ミュージシャンに関しては、今はひとりでCD製作から販売までできてしまう時代ですが、本当にクオリティの高いものを目指したいのなら他人(プロデューサー)が関与するべきだと思います。アレンジなどのサウンド面も、ジャケットのデザイン面も。それを担うのは先ほど元気だと言った小さなレーベルじゃないかと思います。」

H「CDを買う人はどうなってほしいですか?」

T「買う人・・・は、自由ですよね。いつの時代も自由であって欲しいと思います。『この作品良かったけど次の作品はダメだよね』っていつでも言い合って、どんどん自分にとっての良い音楽を探していって欲しいです。今、皆さん・・・特に若い人たちはどこで音楽に触れているんでしょうね?ラジオもテレビも、好むと好まざるとに関わらずいろんな音楽に接する、という機会が僕が小さかった頃に比べて減っていると思います。自力でいくらネットで探そうとしても、自分の知識の範囲外のものに出会える可能性はどうしても低いです。今の10~20代の人は、お金を使うことに慎重になっていると思います。でも自分が『良い!』と思ったものには迷わずお金を使うのではないでしょうか。その『良い!』を判断するのは他人の評価ではなく自分自身なので、その判断のための知識や技術を貪欲に身につけていって欲しいですね。それは時に無駄遣いを要することがあるかもしれませんが・・・」

H「イベントとかはやられてるんですか?」

T「雨と休日はあくまでCDの販売を主とする店なので、頻繁にはイベントを企画していませんが、例えば2012年の3周年のときに、同じ西荻窪にある『りげんどう』さんでライヴイベントを行ないました(出演は青木隼人/坂ノ下典正/ハルカナカムラ)。CDに付ける特典のデザインを、ご近所にある『nombre』のデザイナー植木さんに依頼したり、4周年の際には当店のフリーペーパーをまとめた冊子を、北口にある『西荻紙店』の三星さんにデザインしてもらいました。西荻窪であることにこだわりを持つのが雨と休日らしさだと思っていまして、こういった企画でこれからも西荻窪のお店さんと関わりを持っていきたいと思っています。」

H「出張店舗とか選盤とかもしてるんですよね?」

T「CD販売としては、期間限定の出張店舗を各地の雑貨屋さんと企画したり、また、常駐として立川駅のグランデュオにある書店『オリオンパピルス』さんのCD売場に雨と休日のコーナーがあります。お店のBGMの選盤もしていますが、現在全面的に協力しているのは渋谷NHK横にある『SHIBUYA CHEESE STAND』さんです。他は、例えば西荻窪の近隣のお店の店長さんがご来店していただいた時にBGMの相談をお受けしていたりします。(現在、出張店舗、BGM選盤どちらも新規ご依頼をお受することができません。)」

H「寺田さん自身の音楽の仕事としては何か予定や希望はありますか?」

T「まずは今回の『窓につたう雨は』のように、コンピレーションCDを各レコード会社から出してみたいですね。あの会社の音源ならこんなコンセプト、という想像をいつもしています。それと同時に雨と休日セレクションのような形で過去のアルバムの再発も企画してみたいですね。今はお店の経営で手一杯ですが、ゆくゆくは小西康陽さん、橋本徹さんなどの先達と同じように、音楽のコーディネートやラジオの選曲などもやれたらいいなと。」

H「良いですねえ。各社の方、是非。他には何かありますか?」

T「お店に関しての理想は現状維持です。職人が作る工芸品や老舗の和菓子屋のように同じことを質を落とさずにずっと続けられることに憧れます。それがCDという商材でできるかどうかはわかりませんが。あとは、例えばCDのスタンドなどをデザインしてみたいですね。雨と休日では売れませんが、どこかの会社さんと共同開発できたらなぁ、とか。あるいはPCやタブレットのための試聴用プレイヤーソフトを開発するとか、もっと言えばオーディオの開発にも興味があります。」

H「なるほど。店舗のプロデュースとかも出来そうですよね。」

T「また、そういった音楽に直接関係したこととは別に、開店当初から思っていることなんですが。雨と休日というお店は普通のレコ屋とは違うスタンスでスタートしていますので、音楽業界という括りの中で閉鎖的になることなく、音楽を架け橋に、音楽業界以外の方たちともっと関わっていけたらいいなと思っています。」

H「良いですねえ。では、最後になりましたが今回発売する『窓につたう雨は』のCDのことを聞かせてください。」

T「メジャー会社からコンピをリリースしたいなと思っていたところに、林さんのご協力でユニバーサルミュージックのディレクターの松岡さんを紹介していただいたのがきっかけです。その節は本当にありがとうございました。ユニバーサルから出すならこんな感じの...というイメージはいくつもあったので、その中からまずは『雨』をテーマにしたものを作ることにしました。ジャズを中心に、雨と休日的なテイストのものを14曲選んでいます。水滴がついた窓越しに雨の景色を眺め、感傷的な気持ちになっている...そんなシチュエーションをイメージしました。裏ジャケットにクサナギシンペイさんに描き下ろしていただいた絵を使わせていただいてますが、それも窓から雨の景色を見たものとなっています。収録曲はすべてタイトルや歌詞に雨(rain)が入っています。コンピレーションCDを作るとき、僕は敢えて選曲の条件を厳しくすることが好きなんですが、それによって全体に統一感が出ますし、今回は完全に雨縛りで選曲をすることによって本当に雨の日に聴きたいと思えるコンピが出来上がったと思います。デザインやマスタリングも監修しています。デザインを担当していただいたin Cの長井雅子さんにはいろいろと細かい注文を受けていただいて本当に感謝しています。ユニバーサルからのリリースはシリーズ化したいと思っていまして、2枚目3枚目の案も考えています。なので皆さん買ってください。(笑)」

H「あ、僕のことも言うんですね。律儀な方ですね。でもホント、このCD、お世辞抜きでコンピCd史上一番だと僕は思います。みなさん是非。今回のCDで何かオススメこれ1曲というのがありましたら。」

T「Claudine Longetの『I Think It's Gonna Rain Today』です。ユニバーサル音源で雨、だったらラストには絶対これを、と思っていた曲です。A&Mレーベルというと70年代にはカーペンターズが大ヒットしたことで有名ですが、60年代の同レーベルの歌姫と言ったらこのクロディーヌ・ロンジェです。ランディ・ニューマンの曲をカヴァーしているのですが、ちょっと舌足らずな歌声と彼女自身が持っているアンニュイな雰囲気が活きた好カヴァーとなっています。『Human kindness is overflowing』という歌詞が沁みます。」

H「良いですよねえ。これはみなさんにはCDを買って聴いていただきましょう。このCDの情報はこちらになります。プレゼントとかにもぴったりですね。みなさま是非! 今日は寺田さんお忙しいところどうもありがとうございました。」

T「ごちそうさまでした。」

寺田さんのこれからの活躍、楽しみですね。
それでは僕がCD『窓につたう雨は』に収録されていない雨の曲を1曲紹介します。
ブラジルの夏の終わりを告げる雨をジョビンが曲にして、ジョアンがそれをまるで雨が降っているかのような演奏をしています。

João Gilberto - Águas de Março



雨の季節、良い音楽と過ごせそうですね。

それではまたこちらのお店でお待ちしております。


bar bossa 林 伸次




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bar bossa information
林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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