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bar bossa vol.18

bar bossa


vol.18 - お客様:山本勇樹さん「夏のQuiet Corner」


いらっしゃいませ。bar bossaへようこそ。

月の後半はお客様をお迎えして「俺がコンピCDを作るんだったらこうするね」という趣旨で選曲していただきます。今回はbar buenos airesで活躍中の山本勇樹さんに登場してもらいました。

林(以下H)「いらっしゃいませ。」

山本(以下Y)「こんばんは。暑いのでグイっと飲める季節のフルーツをつかったカクテルをお願いします。」

H「僕、実家が徳島でスダチを送ってくるんですよ。スダチを使ったモヒートにしますね。さっそくですけど、小さい頃ってどんな音楽聞いてました?」

Y「とにかくアニメとか戦隊ものとかが大好きだったので、そういった主題歌とかですかね。よく歌って踊っていました。特に藤子不二雄のアニメの主題歌は名曲が多いですよ、あっ今日はそんな話はしなくてもいいですね。」

H「いえ、是非!」

Y「僕は昭和53年生まれなんですけど、そういうテレビ番組にしても、マンガとかファミコンとかおもちゃにしても、沢山あって恵まれていた時代だと思います。たぶん身体に超合金の匂いとかが染み込んでいますよ。父親が家にCDプレーヤーを買ってきたのが、たぶん小学生3年生くらいだったと思います。それではじめて買ってもらったCDはガンダムの主題歌集ですね。たしか一枚3500円くらいで、子どもながらに『CDってこんなに高いんだ』と思いました。ちなみに僕、今でもガンダムが好きなんで、あの頃からあんまり変わっていないなとつくづく思ったりします。あっ、こういう情報もいりませんね。中学生になってからは、当時の流行りの邦楽を聴いたりして、でもかっこつけて洋楽とか聴きたくなってくるんですよ。まわりの友達もそんな感じで。クラスの中でもおおまかにメタル派、レゲエ派、その他派に分かれていました(笑)。僕はとりあえずFMでTOKIO100を180分テープに録って、気に入った曲だけを集めてダビングしていました。」

H「山本さんが子供の時代が日本の一番豊かな時期ですよね。でもカセットは最後の世代ですね。」

Y「中学三年の時に衝撃的な出会いが二つあって、一つはピチカート・ファイヴの『スウィート・ソウル・レヴュー』をCMでたまたま聴いてときめいてしまって、あともう一つはジャミロクワイにガツンとやられました。ちょうどデビューの年でした。たしかFMで『When You Gonna Learn』を聴いて『すげー、なんだこれ!』みたいな。ピチカート・ファイヴはすぐに駅前の友&愛に借りに行って、ジャミロクワイは同じクラスの村野って奴がCDを持っていました。それで高校に入ってから、FMステーションとか読んだりして、アシッドジャズのシーンとかもなんとなくわかってきました。ちょうどコーネリアスもソロ活動をはじめて、池袋にP'パルコがオープンして「今夜はブギーバック」が流れまくっていた頃ですよね。そんな時たまたま読んだホッドドック・プレスに、その辺の渋谷系とかクラブシーンの相関図が載っていたんですよ。そこに『東京で一番クールな音楽、フリーソウル。』みたいな感じで紹介されていて、『これは聴かないとヤバイ』と思って、学校の近くのCD屋に行ったらなんと『カラーズ』と『ラヴァーズ』が置いてあって。もうそこからはどっぷりです。収録されているアーティストとかはほとんど知らなかったんですけど、とにかく自分が好きな感覚が直感的にありましたね。あと当時は、USのオルタナとブリット・ポップが全盛期だったので、とにかくいろんな音楽に興味がありました。ブラーが『パークライフ』を出してオアシスがデビューして、あとベックの『メロウ・ゴールド』!カヒミ・カリィのミュージック・パイロットも毎週欠かさず録音していました。こういった音楽の話が出来る友達は2~3人しかいませんでした。ちなみに中学から高校までバレーボール部に入っていて厳しかったので、実はけっこう体育系なんですよ。」

H「え、体育会系なんですか? 全然見えないです。(笑) 大学に入られてからは?」

Y「大学に入ったらすぐにクラス分けがされて、みんなで自己紹介タイムがあって、『イギリスの音楽が好きです』と自己紹介した、やせ形でマッシュルームヘアの男がいたんですよ。その時は僕も友達が一人もいなかったので、とりあえず話かけて。その後一緒に学食に行って、『何の音楽が好きなの?』って聞かれたので『ビーチボーイズが一番好き』って答えたら、『すごい変わっているね』って言われましたよ。ちなみにこの人は染谷大陽君という名前で、今LAMPというグループで活動しています。何枚かCDも出しているのでぜひ聴いてみてください。」

H「それが染谷さんとの出会いですか。でもLAMP良いですよね」

Y「はい、御世辞抜きで才能があるグループだと思います。染谷君は高校生の時にバンドを組んでいたらしく、『また音楽やりたいんだ』って話をしていたのはたしか大学3年生くらいだったと思います。その1年後くらいに、六本木のバーでライブをやることになったからDJをしてほしいと頼まれて何回かやりましたね。でも全然お客さんはいませんでしたね。まぁ、僕のDJもひどいものでしたから。」

H「山本さんは演奏しようと思わなかったんですか?」

Y「僕は自分で音楽をやろうと思ったことはありません。ギターを買って大陽くんに教えてもらったこともありましたが、続きませんでしたね。やっぱり聴いている方が性に合うんでしょうね。大学は神保町にあったので、帰りはほとんどレコード屋か古本屋に寄っていましたね。そこにAMSレコードという良いお店があって、そこに行くと必ず2時間くらいずっと試聴しまくって、遅くなるとパンとコーヒーを食べながら試聴して、お店の人も親切で詳しいから色々教えてもらったりしていました。自主盤のSSWのレコードとかかなり買った記憶があります。あとブラジルの7インチとか。ちなみに今の奥さんとは大学で知り合いました、一応大陽くんの先輩みたいです。」

H「こういう時に奥様のことをちらりと出す山本さん、ステキです。HMVに入ったきっかけは? レコード会社とかで働こうと思いませんでしたか?」

Y「高校生の時の友人がちょうどHMVの渋谷店で働いていて、『今バイトを募集しているよ』と教えてもらって面接を受けにいったらそのまま採用されました。はじめは大学に通いながら働いていたので週3回くらい、それで大学を卒業してフルで出勤するようになりました。レコード会社とかで働きたいというイメージはわきませんでしたね。たぶん古レコード屋とか古本屋とか、お店で働くことを夢見ていたからもしれませんね。猫とか抱いて店番しているような(笑)。現実は全然違いますけど。最初はワールド・ミュージックの売り場に配属されて、その後はジャズも担当するようになって。大型店だったので働いている人たちもみんな音楽に詳しいし、毎日いろんなCDが入荷してくるからとにかく楽しかったですね。自分でもCDを発注できるようになったり、自由に売り場を作ったりして、これもよい経験でしたね。それに僕が入ったころはまだCDが売れていた時でしたからね。ブラジル音楽とか毎月のように再発されて、大型店だったからイニシャルも今では考えられないくらい大きかったですよ。店頭で流せばどしどしお問い合わせがあったりして。マイナーなジャズ・ヴォーカルでも週に数百枚も売れるような状況でした。でも数年経ってネットでも自由に音楽が聴けて買えるようになったら状況も変わってきました。渋谷にあったレコード屋とかも段々閉店してきて。渋谷にあったマニアックな音楽の空気がなくなってきたのを肌で感じました。僕は結局8年くらい渋谷店で働いて、その後は今の本社に異動になってしまうんですけど、あの場所で働くことが出来たのでは大きな経験でしたね。あれだけの音楽に囲まれながら毎日仕事できるってなかなか貴重なことだと思うんです。」

H「確かに良い時代でしたね。ではそういう音楽の状況ってこれからどうなるとお考えですか?」

Y「僕はCDもレコードも沢山買うし、ダウンロードもけっこうするし、ライブも月に何度も行くから、正直どれが一番なのかは難しい判断です。でもそれぞれ音質も含めて長所も短所もあるから、これからは各リスナーが自由に選べばいいと思いますよ。まあ、僕はやっぱり手にしたりジャケットがあったりすると嬉しいですけど。5年後はきっと状況はかなり違うでしょうね。クラウド・サービスもハイレゾ環境も本格化するから、ソフトを販売する側は中途半端なやり方だときびしいですよね。CDも今後はさらに規模は小さくなって落ち着くところまでいっていると思います。PCで聴くのって楽ですからね。それでもソフトを買ってくれる人は日本にはまだ根強くいるかもしれません。今頑張っているのは規模は小さくても良質な音楽を主張しているレーベルとかですよね。これからは個人でもアーティストを動かして、CDとかレコードも制作して、配信も行うようなマルチ活動が増えていくかもしれません。しかもファッションとか飲食とかアートとか、いろんな分野にも入っていけるようなフットワークが軽い人たちですよね。だからこそ本質が問われるかもしれません。やっぱり「餅は餅屋」的な。どんなにお酒が好きでもすぐにバーを成功できませんよね。音楽だってその良さをしっかり伝えることができたり、紹介できたりする人が信頼されますから。」

H「なるほど、現場ならではのご意見ですね。では山本さんの現在の活動を教えてもらえますか?」

Y「2010年に音楽文筆家の吉本宏さんと、元HMVの先輩の河野洋志さんと一緒にbar buenos airesというユニットをはじめました。アルゼンチンのカルロス・アギーレの音楽に感動して、渋谷のサラヴァ東京で選曲会をしたり、来日公演をサポートしたり、コンピを作ったり、あと今年に入ってからレーベルを立ち上げてCDを紹介したり、色々活動しています。あとは、HMVではQuiet Cornerというフリーペーパーを作っています。これはとにかく僕が好きな音楽ばかり紹介して、いろんな方たちにもレビューを書いてもらっています。僕が音楽に夢中になったころ、よくCDショップでフリーペーパーとかカタログをもらって帰りの電車とか、待ち合わせの合間に読んだりするのが大好きだったんですよ。気になる作品にはペンでチェックしたりして。そういうのがコンセプトです(笑)。ぜひ店頭で見かけたら手にとってください。Quiet Cornerはいつもこれが最終号だと思って制作しているんです。ちょっとマイナーな音楽が紹介されていますからね。いつかある人にこう言われたんですよ。『クワイエット・コーナーはロマンティックな男たちのフリーペーパー』って(笑)。あながち間違いではないですけど・・・。でもいつか女性に向けた内容の号も作りたいですね。執筆も全員女性にして、音楽だけではなくて、食事とか雑貨とかも紹介してもっと風通しをよくしたいですね。女性ファンも開拓したいんです(笑)。一緒に企画してくださる企業さん募集しています!」

H「女性と企業の方、よろしくです。(笑) それでは曲に行きましょうか。テーマは何でしょうか?」

Y「Quiet Cornerの話題が出たので、『夏のQuiet Corner』ということでクールダウンできそうな10曲を選びました。」

1. Fred Hersch & Norma Winstone / A Wish



Y「ふたりも好きなピアニストとヴォーカリストなんですけど、このコラボは奇跡的としかいいようがないです!もうただうっとりするしかないというか音が鳴った瞬間に空気が変わりますよね。」

H「一曲目からもうノックアウトされました。すごく期待が増して来ました。」

2. Chet Baker / Shadows



Y「チェットが晩年にエンヤに録音したアルバムからですね、ヴァイブはデヴィッド・フリードマンです。これもひんやりした空気が揺らめいています。」

H「うわ~。チェットはこれですか。エンヤ録音から持ってくるというこのセンスがたまんないです。」

3. Virginia Astley / A Summer Long Since Passed



Y「これは僕の人生の一曲というぐらい好きな曲です。綺麗なピアノも教会のSEも幻想的なコーラスも完ぺきです。CDは廃盤なんですよ、なんとか再発させたいです。」

H「僕もヴァージニア・アストレイは今こそ聞かれるべきだと思います。」

4. Sleepingdog / Prophets



Y「この人たちはそのヴァージニア・チルドレンですね。これも教会の雰囲気です、僕は無宗教なんですけど、教会ぽい雰囲気に弱いんです。」

H「ヴァージニア・チルドレンって山本さんの造語ですよね? 言葉としてもいけてますね。」

5. Jeanette Lindstrom & Steve Dobrogosz



Y「スティーヴ・ドブロゴスは大好きなピアニストです。ラドカ・トネフとのコラボ作も素晴らしいですけど最近はこのジャネットとの作品もよく聴いています。」

H「この曲ってB級に演奏するしかないんだと思ってたら、すごく清らかなステキな演奏ですね。」

6. Anouar Brahem / Le pas du chat noir



Y「アヌアル・ブラヒムというウード奏者です。これはECMから発売された作品の中の一曲です。いかにもECMらしい洗練された民族音楽ですね。ちなみに次号Quiet CornerはECM特集です。」

H「わー、こういうのも持ってくるんですね。でもQuiet CornerがECMをどう切り取るかは興味深いですね。」

7. Marilyn Crispell / Little Song for My Father



Y「もう一曲ECMです。マリリン・クリスぺルはわりとフリー・ジャズのピアニストなので実は苦手なんですけど、この演奏とかはただひたすら美しくて優しいですね。まさにクリスタルの輝きです。」

H「ECMでこの二人でこういう曲をって、やっぱり山本さんホント聞いてるんですね。現場の人って、ちょっとCDの頭だけ聞いて、結構聞いたような気持ちになってる人が多いのですが。」

8. Lucas Nikotian & Sebastian Macchi / Gincana



Y「これはアルゼンチンのピアニスト二人のデュオで、bar buenos airesのコンピにも収録しました。透明感のある音とはまさにこのこと。ちなみにこの曲は今のところ僕たちのコンピでしか聴けません。」

H「bar buenos airesが世界の音楽シーンに貢献した力ってすごいと思います。本当に。」

9. Carlos Aguirre / sueno de arena



Y「カルロス・アギーレの赤盤がどうしても手に入らなくて、たしか初めて聴かせてもらったのがこちらbar bossaだったと思います。静かなる衝撃とはこのことです。」

H「あの日のこと。僕もよく覚えてます。なんかすごく盛り上がって。吉本さんといらっしゃったんですよね。すごく昔の話みたいですね。」

10. Diana Panton / Moon River



Y「締めはやっぱりこの曲です。こんどbar bossaに行ったらリクエストしたいと思います。(笑)」

H「しんみりです。いやあ、ホントにステキでした。」


山本さん、今回はお忙しいところ、本当にどうもありがとうございました。
奥様にも是非よろしくお伝え下さい。

bar buenos airesのウェブサイトはこちらです。
http://barbuenosaires.tumblr.com/

Quiet Cornerのインターネット上のページはこちらです。
http://www.hmv.co.jp/serialnews/quietcorner/

山本勇樹さんのツイッターはこちらです。
https://twitter.com/vila_kitoco


夏がいよいよ本格的にやってきましたね。
今日の山本さんの選曲を参考に涼しい音楽の時間をお過ごし下さい。

それではまたこちらのお店でお待ちしております。

bar bossa 林 伸次




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bar bossa information
林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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