今回はChet Bakerの『Sings』というアルバムを解説・紹介していきます。RCAの44のマイクに向かって歌うChetの姿が特徴的なカッコいいジャケットですね。このアルバムは管楽器奏者ならば一度はトランスクライブ(耳コピ)して練習するべきだと考えています。僕は生徒によくこのアルバムのトランスクライブをするか、『The Last Great Concert』の「Look For The Silver Lining」という曲をトランスクライブするように宿題を出します。その理由として、これらの演奏からは完璧な美しいライン、揺るがない8分音符、安定したトランペットのサウンドを聴くことができ、そこからジャズ演奏に必要な技術をたくさん学べるからです。
2. It's Always You
Chet の歌い方が本当に美しい一曲。Russ Freemanによる美しいイントロと、歌とトランペット・ソロの間の緊張感ある短い間奏が肝のアレンジ。ハーモニーの流れもよく編曲されています。注目しながら聴いてください。
3. Like Someone In Love
テーマへの導入の仕方がお洒落ですね。Russ Freemanのイントロの特徴は、あまりにも自然に流れているので、気づいたらテーマに入っているという事が起こります。シンプルに、トランペット・ソロなしで歌だけのテイク。
4. My Ideal
チェレスタとアルコ(弓)でのベースの伴奏で歌われるバース部分があります。バースとはテーマではないのですがイントロでもないセクションです。バースはきちんと歌詞があり、メイン・テーマの世界観を前もって説明して、聴き手により深い理解をさせてくれる大事なパートです。バースは楽器だけのジャズで演奏されることは稀ですが、こうして歌とともに聴けるのはとても嬉しいですね。
5. I've Never Been In Love Before
Chetが最初1人で歌い出し、ベースとピアノのユニゾンのカウンターポイントが聴こえてきます。ピアノは徐々にハーモニーへと移行して曲にさらにカラーを足していきます。見事なアレンジです。カウンターポイントについては以前の「Birth Of Cool」の紹介記事でも書きましたが、主旋律に対して演奏される副旋律の事です。この曲はChetを描いた映画「Born To Be Blue」でも重要な場面で演奏されていましたね!あの映画はあくまでフィクションですが、個人的にはChetの人となりが見る事ができて良い映画だと思っています。
6. My Buddy
Chetのハーマン・ミュートの演奏が聴けます。ハーマンといえば、マイルス・デイヴィスやクラーク・テリー、ディジー・ガレスピーといった人たちの音色が有名ですが、Chetの音色も独特で良いですね。1コーラス目のミュート演奏と歌の間に8小節の間奏がアレンジされていて、転調しているのも雰囲気がガラッと変わってよいですね。
7. But Not For Me
24小節の見事なイントロがトランペットによって奏でられた後に、有名なメロディーが歌われます。マイルス・デイヴィスの演奏が有名でそちらのコード進行で演奏されることが多いですが、こちらの方がガーシュウィンのオリジナルに近い進行になっています。歌に続くChetのソロもまるで書いたかのような綺麗なソロです。このソロは名演なので覚えておくと良いでしょう!
8. Time After Time
こちらもシンプルに2コーラスだけの構成。1コーラス歌からの半分だけのトランペット・そして、その後の歌で終わります。
9. I Get Along Without You Very Well
名曲ですね!是非覚えておいていただきたい曲です。Russ Freemanのチェレスタが再び登場して、Chetが歌います。こちらの曲も映画「Born To Be Blue」で重要な役を果たしましたね。この曲はChetの「The Last Great Concert」でも「Live In Tokyo」ではChetの晩年の歌も聴く事ができます。Chetにとって重要なレパートリーだった事がわかります。こちらもシンプルに歌1コーラスだけという構成です。
10. My Funny Valentine
歌で1コーラスだけシンプルな構成。是非Chetの歌い回しでこの曲は覚えていただきたい。
11. There Will Never Be Another You
いきなりトランペットだけのイントロから、バンドが入り1コーラスソロをとります。その後8小節の間奏で歌のキーに転調するこちらも見事なアレンジ!歌の後のソロはChetとRuss Freemanが同時にするというサプライズがあります。Chetのキャリアの初期はジェリー・マリガンとの、ピアノなしの2菅編成カルテットでした。トランペットとバリトン・サックスのソロを同時にとり、ピアノがいなくてもハーモニーを感じさせるサウンドを作り上げ、ウエスト・コースト・ジャズのブランディングに成功しました。この曲のソロはChetのバックグラウンドを思い出させてくれますね。
12. The Thrill Is Gone
なんとも寂しい曲。Chetの歌とトランペットの多重録音が聴けます。Chetが自分の歌に伴奏をしている様子は、トランペットの歌の伴奏はこうするべきだ!というお手本のようでとても参考になります。
13. I Fall In Love To Easily
イントロは無いが、エンディングはちゃんとアレンジされていますね。やはりこのアルバムを通してジャズ・ミュージシャンが学ぶべきが、シンプルでいいので、スタンダードを演奏するときはきちんと自分のアレンジを持つべきという事。聴き手へ与えるインパクトが違います。そして良いエンディングがあれば途中何があっても全体がまとまって聴こえます。僕は自分のアレンジを持つ事で、曲に対して、まるで自分の曲のような愛情をもって接する事ができています。
14. Look For A Silver Lining
こちらもChetの十八番ですね。曲の最後に一瞬だけ多重録音しているのがお洒落ですね。この曲に関しては、関にも述べましたが是非「The Last Great Concert」のバージョンも合わせて聴いてみてください!Chetというアーティストがいかに音楽への、美しいものへの情熱にあふれていたか感じる事ができるでしょう。トランペッターは「The Last Great Concert」のLook For A Silver Liningのソロは要トランスクライブです!
いかがでしたでしたか?
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。
文:曽根麻央 Mao Soné
Recommend Disc
Title : 『Chet Baker Sings』
Artist : Chet Baker
LABEL : Pacific Jazz
NO : PJ-1222
発売年 : 1956年
【SONG LIST】
01.That Old Feeling
02.It's Always You
03.Like Someone In Love
04.My Ideal
05.I've Never Been In Love Before
06.My Buddy
07.But Not For Me
08.Time After Time
09.I Get Along Without You Very Well
10.My Funny Valentine
11.There Wil Never Be Another You
12.The Thrill Is Gone
13.I Fall In Love Too Easily
14.Look For The Silver Lining