feed markRSS
JJazz.Net Blog Title

bar bossa vol.23

bar bossa


vol.23 - 「Lucid Fall / "Lucid Fall (The Best of)"」


いらっしゃいませ。

bar bossaへようこそ。

以前にご紹介した韓国SSWルシッド・フォールのベスト盤CDが、10月17日にインパートメントから発売されます。
今回もまた、ボサノヴァやジャズに詳しい韓国人ジノンさんをゲストに迎えて、ルシッド・フォールについて教えてもらいます。

林(以下H)「ジノンさん。こんばんは。やっと待望のルシッド・フォールの日本盤CDの発売が決まりましたね。今回も色々と教えてくださいね。」

ジノン(以下J)「こんばんは。こちらこそよろしくお願いします。日本でルシッド・フォールがどう受け入れられるか楽しみですね。」

H「さて、bar bossaでルシッド・フォールをかけていると、『これはフランス語ですか?』とよく質問されます。例えば佐野元春とか桑田佳祐とかは、日本語なんだけど、わざと英語っぽく聞こえるような日本語を歌っています。ルシッド・フォールにそういう意識ってあると思いますか?」

J「そうですか。韓国語がフランス語に聞こえるなんて僕にはすごく新鮮な感じがしますね。うーん、どうしてでしょうか。ルシッド・フォールにそういう意識はないと思いますが、一般的に外国人が感じている韓国語の特色を考えてみると、確かにすこし柔らかいというか丸い感じがしますね。わざとフランス語っぽくといっても韓国人には普通に韓国語に聞こえると思いますし、僕にも韓国語に聞こえます。もしかして『わざとフランス語っぽく』という意識で歌ったら、きっとどこかで違和感が存在するはずだと思いますが、あまり違和感を感じたことはありません。逆にそういう感覚で歌ったら、普通の韓国人の情緒から考えてみると結構嫌がれるかもしれません(笑)。」

H「なるほど(笑)。」

J「ということで、やっぱりルシッド・フォールにそういう意識があったのではなく、曲の雰囲気、彼の声が持っている特徴、まるで静かに詩を吟ずるような歌い方などの影響ではないでしょうか。もう一つ、僕の個人的な意見ですが、彼の曲を聞いていて無意識に感じられるのが、比較的に母音の数が多いように聞こえたり、パッチム*が少ない感じで聞こえたりすることです。なお、パッチムがあったとしても丸い、柔らかい感じに発音される子音が多いように聞こえますね。それがいわゆる彼の詩的感覚の特徴なのかはわからないのですが、僕はそれが一番のポイントなのではないかと思いました。まあ本当に個人的な意見ですが(笑)。」
*パッチム : ハングルの『子音+母音+子音』という構成のなかで最後の音をあらわす子音のこと

H「先日、ドリンジ・オーさんに『ホンデのインディーズ・シーンはルシッド・フォールのフォロワーのアーティストが中心になって活躍している』という話を聞いたのですが、そんな感じはしますか?ホンデのインディーズ・シーンや雰囲気を教えてください。」

J「そうですね。ドリンジ・オーさんのご意見には同感です。うーん、何曲か一緒に聞いてみましょうか。」





J「たとえば、この2曲はある意味、ホンデのインディーズ・シーンの象徴的な曲だと思います。Deli Spiceは1997年のファーストアルバム、Crying Nutは1998年のファーストアルバムです。ちょうど現在のホンデの空気感が形成された時期ですね。モダンロックとかパンクの感覚、それが僕のなかにある90年代後半のホンデ、そしてインディーズ・シーンの印象でした。」

H「日本で韓国のインディーズ・シーンというと、こういうイメージを持っている人も多いですよね。」

J「はい。そしてそんな雰囲気のなか、ルシッド・フォール名義で活動し始める前に彼が活動していた『ミソニ』がこんな音楽を発表しました。1998年のことです。」





J「急にbar buenos airesとかQuiet Cornerの感覚に行ってしまいました(笑)。90年代後半にこのようなモダンフォークの感覚を持って登場したのが、ドリンジ・オーさんがおっしゃてたことに繋がるきっかけだったのではないでしょうか。もちろん、遡ってみると80年代後半から90年代初頭に韓国の良質のポップを発表した『ドンア企画(동아기획)』、『ハナ音楽(하나음악)』という優れたレーベルの影響もかかせない要素だと思いますが、いまのホンデのインディーズ・シーンを考えてみるとドリンジ・オーさんのご意見のとおりだと思います。」

H「なるほどです。」

J「では、次は『才州少年』の2003年のファーストアルバムから『明倫洞』という曲です。因みに、『明倫洞(ミョンリュンドン)』はソウルにある地名です。歩いて仁寺洞(インサドン)とか北村(プックチョン)に行けるくらいの距離のところにあります。」





J「もっといまの感覚に近づきました。この曲に『耳もとにフォールの音楽がぐるぐる回っていたね』という歌詞がありますが、『もしかしてフォールってルシッド・フォールのことじゃないの?!』という噂話をよく聞きました。もちろん、事実関係は詳しくわからないですが(笑)。 この音楽を聞いてルシッド・フォールを連想したということは、それだけ、ルシッド・フォールが影響力を持っていたということではないでしょうか。」

H「ジノンさん、ありがとうございます。では、ルシッド・フォール周辺のミュージシャンについても教えてください。」

J「では、こんど発売される日本盤ベストCDに参加しているアーティストを解説しますね。Trナンバーは今回のCDの曲順にあわせました。曲目もあわせてご覧下さい。」

曲目
1. あなたは静かに (그대는 나즈막히)
2. 寂しいあなた (외로운 당신)
3. Kid
4. 歩いて行こう (걸어가자)
5. Sur Le Quai(Instrumental)
6. レ・ミゼラブル (레미제라블) (Part 1)
7. ラオスから来た手紙 (라오스에서 온 편지)
8. 綱渡り (외줄 타기)
9. 悪戯っぽく、或いは優しく (장난스럽게, 혹은 포근하게)
10. あなたの悲しみが見えるときは (그대 슬픔이 보일 때면)
11. 水になる夢 (물이 되는 꿈)
12. 鳥 (새)
13. 見えますか? (보이나요?)
14. ムンスーの秘密 (문수의 비밀)
15. 心は夕焼けになって (마음은 노을이 되어)


アーティスト解説
유희열 You, Hee-yeol [key] Tr.13
1971年生まれ。1992年に『第4回ユ・ジェハ音楽競演大会』で大賞を受賞。1994年、プロジェクト『TOY』でデビュー。90年代から韓国のSSW系を代表している。FMラジオのDJ、テレビ番組のMCとしても有名だ。特に彼がパーソナリティーだったFMラジオの番組はどれも音楽的に、バラエティ的に話題になり、韓国ではかなりの人気であった。現在、ルシッドフォールを同じくアンテナミュージックに所属。

함춘호 Ham, Chun-ho [g] Tr.11
1961年生まれ。1980年代の叙情的なフォーク音楽の代表する『詩人と村長』にメンバーでデビュー。その卓越なギター実力は韓国ではすごく有名で、現在に至るまでさまざまなセッションに参加している、韓国を代表するギタリスト。

크리스 바가 Chris Varga [d] Tr.11
1968年生まれ。ジャズドラム、ヴィブラフォン奏者。アメリカ、ヨーロッパ、アジア各国での活動を経て、韓国に定着。ジャズを中心にさまざまなセッションに参加している。

전성식 Jeon, Sung-sik [b] Tr. 1, 4, 10, 11, 14
韓国を代表するジャズベーシスト。韓国のジャズマガジンからベストベーシストやベストインストルメンタルに選定されたことがある。セッション参加やUlf Wakeniusとのアルバムを発売するなどの活動をしている。

강민국 Kang, Min-guk [key] Tr. 4
1995年『第7回ユ・ジェハ音楽競演大会』で銀賞を受賞。ルシッドフォールや屋上月光が参加している「あなたを愛しています」を含め、さまざまな映画サントラの音楽監督を担当している。

정수욱 Jung, Soo-wook [g] Tr. 1, 10, 14
1971年生まれ。Berklee College of Music卒業。韓国のポップ、ジャズ系のセッション、アレンジ、ライブ活動を行っている。放送、映画音楽やChick Corea, Gary Burton, Mike Sternのような海外ジャズミュージシャンとのワークショップ、マスタークラス活動も行っている。

김진아 Kim, Jin-a [key] Tr. 10, 14
ジャズ、ポップなど、各界からセッションで活発に活動している4人の女性ポップバンド『DOT』のメンバー。

송영주 Song, Young-ju [pf] Tr. 1
韓国を代表する女性ジャズピアニスト 。Berklee College of Music卒業。NYのBlue Noteや日本でのライブツアーなどの活動や、韓国の代表的なポップミュージシャン(『展覧会』のメンバーだったKim Dong-Ryulなど)のセッション活動を行っている。

이도헌 Lee, Do-heon [d] Tr. 1, 2, 8
韓国のジャズギタリスト『パク・ユヌー』トリオのメンバー 。最近はインガー・マリエの韓国ライブのために来たときに『パク・ユヌー』トリオとともに共演したこともある

전제덕 Jeon, Je-duk [harmonica] Tr. 15
盲目のジャズ・ハーモニカ奏者。高校卒業後、同級生3人と「タスルム」というサムルノリ・チームを結成。89年の「第一回世界サムルノリ大会」では審査委員特別賞を受賞し、93年の「第五回世界サムルノリ大会」では大賞を受賞、チョン・ジェドクはMVPに選ばれる。96年にラジオでトゥーツ・シールマンスのハーモニカに出会い独学でマスター。その後、数多くのセッションに参加し、2004年にファーストアルバムを発表。

박새별 Park, Sae-byul [rhodes, key] Tr. 3, 15
안규환 An, Kyu-hwan [b] Tr. 3, 15
임채광 Im, Chae-kwang [d] Tr. 3, 15
김용린 Kim, Yong-rin [g] Tr. 3, 15

2006年、ルシッドフォールと『歌の灯り』というライブで出会って、知り合うことになったメンバーたち。『Kim, Yong-rin』は韓国のモダンロックバンド『Dear Cloud』のメンバー。『Park, Sae-byul』は現在アンテナミュージック所属。

한진영 Han, Jin-young [b] Tr. 7
박정준 Park, Jung-jun [d] Tr. 7
정순용 Jung, Soon-yong [g] Tr. 7

韓国インディーズが登場しはじめた90年代中盤に結成し、1999年、デビューした韓国インディーズを代表するモダンロックバンド、My Aunt Maryの3人のメンバーたち。『Jung, Soon-yong』はソロ・プロジェクト『Thomas Cook』を、『Han, Jin-young』はパンクロックバンド『Yellow Monsters』の活動をやっている。

박명희 Park, Myung-hee [b] Tr. 12
男女2人組のロックバンド、Mr.Funkyのベーシスト、ボーカル、SSW。Mr.Funkyのアルバム発売の頃、ミソニやルシッドフォールのセッションで活動した。女性ベーシストとしては珍しくライブやレコーディングセッションをすべて完璧に演奏ができるミュージシャンとして認められた。

찰리정 Charlie Jung [g] Tr. 2, 8
韓国のブルース・ギタリスト。アメリカ留学のあと、帰国し、韓国の有名バンドのセッションで活動。2012年、初のソロアルバム『Goodbye McCadden』を発売。

김정범 Kim, Jung-bum (pf,key) Tr. 2, 8
韓国の作編曲家/ピアニスト。バークリー音大、ニューヨーク大学で本格的にジャズを学んだ後にプディトリウムをスタート。確かなアレンジや演奏技術に加え、楽曲に応じてFt.されるヴォーカルもマッチした独自のスタイルで聴かせる、ジャズ、ブラジル音楽、フレンチポップス、映画音楽。クラシックなどのテイストが印象的。

최선배 Choi, Sun-bae (flug) Tr. 2
韓国ジャズの第一世代を代表するトランペット奏者。1960年代初から活動して、スタンダードからフリージャズまで幅広く活動している。


H「韓国には日本に紹介されていない面白いミュージシャンがたくさんいるんですね。」

J「そうですね。これからこのCDをきっかけにお互いの国のミュージシャンが行き来して一緒に演奏できたりすると面白いですよね。」




ジノンさん、今回もお忙しいところ、どうもありがとうございました。
では、最後にルシッド・フォールの可愛い曲を1曲聞いてください。
「ムンスーの秘密」です。





CDにはジノンさんが翻訳した日本語歌詞やルシッド・フォール本人の全曲解説、そしてルシッド・フォールからの日本のリスナーへのメッセージもあります。
みなさん、是非、楽しみにお待ち下さい。

Lucid Fall
"Lucid Fall (The Best of)"

Lucid Fall (The Best of)

商品ページ: http://www.inpartmaint.com/#/post-6951

つい最近まで「猛暑」の話題ばかりだったのに、いつの間にかすっかり秋ですね。この秋に発売される「ルシッド・フォール=輝いた秋」、是非、店頭で手に取ってみてください。

それでは、またこちらのお店でお待ちしております。


bar bossa 林 伸次




「bar bossa」アーカイブ

vol.1 ・vol.2 ・vol.3 ・vol.4 ・vol.5 ・vol.6 ・vol.7 ・vol.8 ・vol.9 ・vol.10 ・vol.11 ・vol.12

vol.13 ・vol.14 ・vol.15 ・vol.16 ・vol.17 ・vol.18 ・vol.19 ・vol.20 ・vol.21 ・vol.22


bar bossa information
林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

bar bossa
bar bossa
●東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル1F
●TEL/03-5458-4185
●営業時間/月~土
12:00~15:00 lunch time
18:00~24:00 bar time
●定休日/日、祝
お店の情報はこちら

アーカイブ