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vol.20 - お客様:大場俊輔さん「JUHA(ユハ)で常にベンチ入りしているモダンジャズの一枚」


いらっしゃいませ。bar bossaへようこそ。

月の後半はお客様をお迎えして「俺がコンピCDを作るんだったらこうするね」という趣旨で選曲していただきます。今回は西荻窪でJUHA(ユハ)というジャズ喫茶を経営されている大場俊輔さんに登場してもらいます。

林(以下H)「いらっしゃいませ。さっそくですが、お飲み物は?」

大場(以下O)「林さんのおすすめの赤ワインをください。」

H「まだ暑いですから軽めの赤と思ったのですが、大場さんのイメージでボルドーのメルローなんかどうでしょうか?」

O「それ、僕のイメージなんですか?」

H「ボルドーって最近はあまり飲まれない古くて重いイメージがあるんですけど、メルローの場合口当たりが柔らかくて上品で女性にも受けるんです。」

O「なんだかよくわかんない例えですけど、ではそれを。」

H「大場さんってお生まれは?」

O「はい。1978年、茨城県の日立市生まれです。」

H「70年代終わりに生まれた方って、今、面白い人多いですよね。小さい頃の音楽体験みたいなものは?」

O「小、中とサッカーに夢中で音楽的体験はこれといってありませんでした。しいて言うならば、父親がクラシックが好きでよく聴いていたのでずっと子供ながらにサティは好きだな~と思っていました。そのぐらいです。初めて買ったCDは小4か小5の時、CMで流れていた曲を気に入り、いとこにそのアーティストを教えてもらい買いました。BON JOVIのNEW JOURSEYでした(笑)。高校に入ってからも、友人からすすめられるCDを聴くぐらいで、音楽にのめりこむというのはなかったです。」

H「サッカー、クラシック、なるほど。意外ですね。」

O「それが変わったのが高3の時で、GUITAR WOLFがメジャーで出てきて『日本にもこんなバンドがいるのか!』とびっくりしました。GARAGE PUNKという言葉を知り、東京に進学後、それをキーワードに60~90年代の世界中のGARAGE PUNKを掘り下げていくようになります。大学の近くにモダンミュージックというレコ屋さんがあって、そこでBACK FROM THE GRAVEやPEBBLESといったコンピを軸に、60's GARAGEを叩きこまれました。
また大学のクラスに70's PUNKのDJをやってる奴がいて、彼から、KILLED BY DEATHやBACK TO FRONTといったコンピを軸に、シングル一枚で消えていったバンドを教わりました。「パンク天国」という、今言ったようなシングル一枚で消えていったバンドが沢山載っている恐ろしいガイド本をDOLLがちょうど出版した頃で、それこそ西新宿のVINYLの7インチセールとかに並んでいました。60's GARAGEと70's PUNKの両方の良いところが混ざったのが90's GARAGEです。そこでGUITAR WOLFにつながり、日本にはTEENGENERATEという世界に誇るパンクというかロックバンドがいることを知ったことが本当に決定的でした。また毎月欧米のガレージバンドの7インチが入ってきて、それをチェックするというようにタイムリーに音楽を追いかけたのはこの時だけです。結局は、音的に一番穏やかに聴こえてた60年代の音が一番凶暴だと気ずき、GARAGE PUNKだけでなく、MODSやFREAKBEATも掘り下げていきました。特に好きだったのはPRETTY THINGSやTHE SHADOWS OF KNIGHTといったR&B PUNKスタイルのバンドでした。上京後にバンドもやり始め、PUNKやGARAGE PUNKをカバーしたりインチキなオリジナルを作ったりしました。そういったバンドが集まる新宿JAMや東高円寺UFO CLUBといったライブハウスでライブをするようになり、自主イベントなどではDJもするようになりました。」

H「また意外な事実が発覚ですね。ずっとパンクだったんですね。そう言われてみれば確かに・・・」

O「ジャズとの出会いは、27歳の時に雑誌『pen』で、『植草甚一特集』『ジャズのジャケットデザイン特集』がたてつづけにあり、それで興味を持ちました。その時つきあっていた彼女(奥さん)が下北沢のジャズ喫茶マサコで働いていたので、彼女からもロック好きでも聴けるジャズを教えてもらったりしてどんどんのめり込みました。最初はやはり、BLUE NOTE。ジャケットデザインの良さにノックアウトされっぱなしだったのを覚えています。まわりにジャズを聴いている人がいなかったので、自分一人で開拓していく楽しさは格別でした。職場が新宿ジャズ館の近くだったので、ロックやパンクのレコードを切り崩し、ジャズ批評などの教科書を片手に、週6で一日2、3枚は買う生活を4年間続けてジャズを勉強しました。
また、植草甚一にも同時にはまり、本を片っ端から集めてJ・J(植草甚一の通称)が聴いたジャズを聴いたり、そのスタイルに影響を受けました。」

H「マサコで働いている彼女さんに教えてもらうというのが大場さんの個性ですね。お店をやろうと思ったきっかけは?」

O「きっかけは、奥さんとの出会いです。当時、僕は新宿の名曲喫茶らんぶるで働いていて、彼女は下北沢のマサコで働いていました。二人とも喫茶店が大好きだったので、休日は沼田元氣さんの本を片手に古い喫茶店やジャズ喫茶、名曲喫茶巡りをしていました。ですから、自然と『いつか二人で喫茶店を始めよう』となって、二人で貯金も始めました。26歳の時です。僕は、らんぶるで31歳まで8年間働いていました。とにかく、『珈琲をお客様にお出しする』というシンプルな仕事が本当に好きでした。らんぶるは一階と地下があり、一階はJUHAをちょっと広くしたぐらいの広さで、一人で切り盛りする練習をよくさせてもらいました。地下は200席あるので、6~7人のホールスタッフでまわすのですが、土日などは何百人とお客様が来店するので、それをさばくのはとても楽しかったです。また、らんぶるは名曲喫茶なのでクラシックを流すのですが、CDやレコードを自由にかけて良かったので、時間帯や天気、お客様の入り具合などで、かけるクラシックを選ぶ事が出来たのも、とても勉強になりました。」

H「らんぶるとマサコですか。日本の喫茶店文化の王道を引き継いだわけですね。西荻窪に決めた理由は?」

O「西荻窪でお店をやろうと思ったのは、二人とも西荻窪が大好きだったからです。好きな喫茶店、古本屋、呑み屋、ライブハウス、そして街がどこか懐かしく、ノンビリ、ゆるい空気感があり、中央線らしくもあり中央線らしくない独特の魅力が西荻窪にはあって、5年住んでみて西荻窪以外は考えられなかったです。カフェよりも、喫茶店が好きでしたし、夜遅くまでやっていて、しっかりした珈琲が飲めて、お酒もちょっとあって、音楽を大切にしていて、静かに本を読めるお店があったらいいなと思っていましたので、自然と今のスタイルになりました。内装は、これも自分たちの好きな映画監督、アキ・カウリスマキの世界をイメージして、自分たちでデザインしました。そこにジャズやクラシックを流すことも自然な流れでした。」

H「今後、音楽の状況はどうなると思いますか?」

O「大げさというか、生意気言わせてもらうと、あなたの街の小さなレコード屋さん、CD屋さんを大切にしましょう!と思います。今こそ、自分の地元のCD、レコード屋さんを大切にしていきたいし、全国的にそうあって欲しい。これは、切に願います。オオヤミノルさんが言っていましたが、良い街の条件に、レコード屋、古本屋、喫茶店を挙げていて、そうだなあとも思いますし、個人経営のCD、レコード屋さんにはありつづけて欲しいです。アマゾンとか便利だし、僕も利用してしまうしユニオンも大好きなんですが、、、同じ一枚でも、心のこもった一枚を買いたいと僕は思います。それこそ、「雨と休日」さんみたいに強烈な個性を持ったお店がたくさんあると楽しいな。」

H「確かにそうですね。今後はどういう風に考えてますか?」

O「今後の目標ですが、店を大きくしたいとかはなく、より珈琲と音楽を大切にして、地元・西荻窪の街に浸透して行きたいです。たった珈琲一杯の時間でも、ジャズや良質な音楽を聴いた時のリラックス感というか、喫茶音楽と共に小さな幸せな時間があるのだということを伝えて行けたらと思います。また、JUHAでモダンジャズのライブはやったことがないのでやってみたいのと、今まであまりピンと来なかった現代ジャズの勉強も40歳前には、そろそろ始めたいなと思います。子供も幼稚園に行きだせば、奥さんがお店に戻れる時間も少しずつですが増えると思うので、二人で出来ることなども考えられるかな、と思いますし、営業形態なども柔軟に変化させて行けたらと思います。 色々な『好き』な気持ちだけで始めたお店ですが、その初心を忘れずに二人でやっていきたいです。」

H「素敵ですね。では、曲に移りましょうか。テーマは何でしょうか?」
 
O「テーマは、『JUHAで常にベンチ入りしているモダンジャズの一枚』です。僕はオープン前にその日にかけるレコードを20~30枚選ぶのですが、それとは別にこの曲達は困った時なんかに助けてもらってます。基本的な一枚ばかりですが、JUHAを少しでも感じてもらえたらと思います。」

H「では1曲目は?」

1. LOUIS SMITH / TRIBUTE TO BROWNIE



O「この曲は僕がジャズのラジオ番組をやるならば、オープニングに使いたい一曲です。ハードバップど真ん中で、『さあ、行こうか』とジャズの狼煙をあげてる感じがして、とても好きです。」

H「ジャズのラジオ番組のオープニング!!!カッコいいですねえ。次は?」

2. LEE KONITZ / YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO



O「僕が思うジャズのイメージを具現化してくれているのがコニッツ。ドラムがチーチク・ビシバシしてて、ベースがボンボン・ウォーキング、その上をコニッツのサックスが、メロディ-を分解しながら切り裂いてきて、「ジャズってるな」と本当に思います。『MOTION』というアルバムが特にオススメです。」

H「「ジャズってる」って言葉が、今はもう21世紀なのに・・・大場さんらしいお言葉です。確かにジャズってます。次は?」

3. BILLIE HOLIDAY / I'LL BE SEEING YOU



O「ヴォーカルで一番好きです。なかでも、このコモドア盤は別格だと思います。よく暗いとか言われますが、全然そんなことはなく、むしろ温かい気持ちにさせてくれる歌声です。あとビリーの歌声は古本屋さんを連想させるところも好きです。この曲は歌詞にスモールカフェってあって、そこでいつもグッときてます。」

H「ビリーの声は古本屋さんを連想させる。また大場さんの名言が飛び出しましたね。僕も古本屋が大好きなのですが、言われてみればそんな気がしてきました。なるほどなるほど。次は?」

4. WES MONTGOMERY / I'VE GROWN ACCUSTOMED TO HER FACE



O「昔、奥さんが『ロック好きもイケるんじゃない?』と教えてくれた一枚です。ハードバップギター・エンジン全開、また全員ドライブしまくっていて格好良い一枚。ただこの曲だけ"仏のウェス"で、静かな美しい瞬間が流れててしびれます。ウェスは是非動画でその弾きっぷりを見てほしいですね。」

H「仏のウェス、名言どんどん出てきますね。ウェスのこういうロマンティックな演奏、良いですよね。次は?」

5. JOHN LEWIS / WARMELAND
  


O「ゲッツで有名なDEAR OLD STOCKHOLMと同曲です。バリー・ガルブレイスとのデュオで、静かに心に沁みます。このアルバムは全編を通してこんな感じで、読書をする時のキラーアルバムです。女性のお客様に、これは誰ですか?とよく聞かれる一枚です。」

H「ジャズ喫茶だとこういうの女性に受けるんですか。ボサノヴァ・バーとは違いますね。色んな音楽のお店の人が集まって『女性に受ける1枚』とかやると面白そうですね。次は?」

6. THELONIOUS MONK / ALL ALONE



O「誰もこのモンクの"独りぼっち"には勝てない気がします。『マスター業もたいへんだよな』と言って欲しい時によくかけています。これも読書には最適な一枚ですね。数あるソロ・アルバムのなかで、一番好きです。」

H「誰もこのモンクの"独りぼっち"には勝てない!大場さん、また名言を。音楽を言葉にするのって難しいなあと日々思っているのですが、大場さんそういうの上手いですね。次は?」

7. CHET BAKER / BUT NOT FOR ME



O「みんな大好きだと思います。かけると、お店が暖かくなります。吉祥寺の喫茶店「かうひいや三番地」でよく流れていて、そこで僕はチェットを引き継ぎました。誰かも、JUHAでチェットを聴いて引き継いでくれたらと思っています。」

H「しつこいですけど、大場さん、コピーライターになるとすごい作品たくさん残すんじゃないですか?『そこで僕はチェットを引き継ぎました』に僕はノックダウンされました。何か今、すごい才能を発見しています。次は?」

8. WARNE MARSH / JUST SQUEEZE ME



O「コニッツ同様に、僕の思うジャズを具現化してる一曲(一枚)です。コニッツはトンガっていますが、マーシュは丸い感じでサックスを転がしています。『ジャズってるアルバムを教えて』と聞かれたらこのアトランティック盤、そして『MOTION』と答えています。」

H「21世紀に『ジャズってるアルバムを教えて』とは誰も言わなと思いますが(笑)。ジャズってますね。次は?」

9. DJANGO REINHARDT / MINOR SWING



O「ジャンゴのレコードは、どれを聴いても、美味しそうな空気感がたっぷり含まれていて、友達を集めてワイワイやりたくなります。お店でかけると、やっぱり美味しい空気感に包まれます。ジャンゴのレコードは沢山あるけど、やっぱりこれが基本かなと。」

H「ああ、JUHAさんではジャンゴもかけるんですね。大場さんってお客さま中心というか、バランスがすごく良い方なんですね。次は?」

10. ART BLAKEY & THE JAZZ MESSENGERS / WHAT KNOW



O「ジャズを聴き始めて、最初にハマッたのがアート・ブレイキーでした。ROCKやPUNKの延長線上にあるバンドっぽさを感じて、カッコよいなと。この曲は、ブレイキーがモーガン / ショーター / ティモンズ等チンピラ連中を引き連れ、練り歩いてくる様が浮かぶヤクザな曲で、その気になります。」

H「最初にハマッたのがアート・ブレイキーというのが確かに『パンク出身』って感じがしますね。大場さんの中で『不良感』って大切な感覚なんでしょうね。」


大場さん、今回はお忙しいところどうもありがとうございました。
ユハさん、すごく良いお店ですよ。西荻窪には良いお店がたくさんありますから、古本屋やレコード屋、レストランや居酒屋の途中に気軽に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

JUHAのウェブサイトはこちらです。
http://www.juha-coffee.com/

JUHAのTwitterはこちらです。
https://twitter.com/JUHA_Coffee


夏も終わりで、秋の気配があたりに感じ始めましたね。ジャズを聞きながらコーヒーを、幸せな時間ですね。
それではまたこちらのお店でお待ちしております。
bar bossa 林 伸次




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bar bossa information
林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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●TEL/03-5458-4185
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