feed markRSS
JJazz.Net Blog Title

インタビュー / INTERVIEWの最近のブログ記事

芳垣安洋 インタビュー:インタビュー / INTERVIEW

ROVOや第一期DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENなどフェスを賑わすバンドや、UAや原田郁子といった個性的なシンガーのバックバンドでも引っ張りだこのドラマー、芳垣安洋。

彼は、それら以外にも、自身で幾つかのバンドを率いて活発に活動している。

例えば、ヴィンセント・アトミクス、エマージェンシー、パーカッションアンサンブルのオルケスタ・ナッジナッジ、そして、今一番熱い活動を見せている「オルケスタ・リブレ」。

「オルケスタ・リブレ」始動のきっかけが、ピットインでのライブということもあって、番組「PIT INN」にゲストとして芳垣さんをお迎えしました。

芳垣さんの音楽ルーツやスタンダードについて、音質へのこだわりなどなど、番組でご紹介しきれないほどの内容でしたので、ここでご紹介します。

お楽しみあれ!

 

芳垣安洋 インタビュー(with 鈴木寛路 [PIT INN]、樋口亨 [JJazz.Net])

 

オルケスタ・リブレ

Orquesta Libre(オルケスタ・リブレ)


ジャズも含め、自分が洋楽の虜になった、そのルーツにある曲がスタンダード

鈴木:芳垣さんに初めてピットインにご出演いただいたのは、ピットインが前の場所にあった頃の、梅津和時さんの3デイズにアルタード・ステイツとして呼ばれたというのでしたよね。

芳垣:そうですね。まだその頃はみんな関西在住でした。

鈴木:芳垣さんはご自身のバンドも含め、非常に沢山のバンドで演奏されていますが、今日ご紹介するオルケスタ・リブレの他に、パーカッションアンサンブルのオルケスタ・ナッジナッジ、ヴィンセント・アトミクス、エマージェンシー。そして、芳垣さんのバンドというわけではないですけども、ROVOでの活動も盛んですね。あとは、ピットインでも毎年6月に4デイズをやっていただいて。オルケスタ・リブレの始まりもその4デイズからですよね。

芳垣:そうですね。去年の4デイズがきっかけでできたバンドですね。

鈴木:それ以前もリブレっぽいことってあったじゃないですか。たとえばホーン・セクション・バンドのようなものだったり。

芳垣:そうですね。僕がトロンボーンの青木タイセイに声をかけて始めた彼のブラスバンドもちょっと似たとこがありますね。そのバンドは彼のリーダーシップに委ねています。他には、ピアニストの田中信正と一緒に、管楽器を何人か入れてっていうセッションを、ここしばらくは年に1、2回やったりしていますね。

樋口:4デイズがオルケスタ・リブレのきっかけというのは、4デイズのうちの1日がリブレと同じ編成だったということですか?

芳垣:そうですね。今のメンバー全員が揃っていたんですよ。

鈴木:ただ、「オルケスタ・リブレ」という名前にはしていませんでしたよね?

芳垣:その時はねぇ、、、、いや、最終的にしたんだよ。

樋口:じゃあもう、その時のバンドのアルバムが今回発売されたという感じなんですね。

芳垣:ただその時は、今ほど密にライブを続けるっていうつもりではなくて。やってみて非常に楽しかったので、というところから続いていますね。あと、その時の映像とか音源を見たコペンハーゲン・ジャズフェスティバルのオーガナイザーが、今年の夏に出演しないかと誘ってくれたんですよ。それで、行きたいな、というところから、バンドを継続する、アルバムを作る、っていう流れになりましたね。

鈴木:今回の作品は、3枚同時発売ですね。

樋口:7月4日にレーベルのイーストワークスから発売された、柳原陽一郎さんと、おおはた雄一さんの歌が入ったボーカルアルバム2枚組の『うたのかたち~UTA NO KA・TA・TI』。そして、インストの『Can't Help Falling In Love~好きにならずにいられない』ですね。

鈴木:選曲とかが、いわゆるもう昔からの芳垣さんぽくて。芳垣さんは「plays standard」っていうの結構やるんですけど、そのスタンダードが芳垣さん流で。ジャズ・スタンダードだけっていうわけでは全くなくて、ジャンルを超えて芳垣さんが好きなスタンダード。今回の作品も選曲が実に芳垣さんっぽいなーという。

芳垣:(笑)

鈴木:いい意味でね。いつもいい曲を選曲して。独特のアレンジで。青木タイセイさんと鈴木正人さんのアレンジがこれまた良くて。どの曲も本当に素晴らしいんですよね。

樋口:ジミヘンとか入ってますよね

鈴木:やってますよねえ。まったくジミヘンじゃないような(笑)

芳垣:(笑)しばらくなんだっけこの曲って感じですよね。

樋口:ジャズスタンダードだけじゃなくて、ポップスやもロックといった馴染みのある曲が結構並んでますね。

芳垣:そうですね。僕が洋楽を聴き始めた当初に、好きだった曲なんですよ。

樋口:そうなんですね!

芳垣:だから本当に、さっき鈴木さんがおっしゃってくれたように、僕流のスタンダードというか。ジャズも含め、自分が洋楽の虜になった、そのルーツにある曲っていうのをやりたいなという気持ちで集めた曲ですね。

 


日本語でちゃんと詞を作れる男の歌い手、というのがひとつのキーワード

鈴木:あと、『うたのかたち~UTA NO KA・TA・TI』で柳原陽一郎さんが歌っている方の盤でちょっと感じたことは、芳垣さんってよく高良久美子さんとかと一緒にミュージカルの音楽もやられているじゃないですか。その影響をすごい感じました。

芳垣:それはありますね。

鈴木:ミュージカルのような、いろいろな風景が浮かんでくるような感じがしますね。

芳垣:3年前になるのかな。宮本亜門さんが演出された「三文オペラ」というベルトルト・ブレヒトの作品で音楽を演奏することになって。その音楽をクルト・ワイルという方が作っているんですが、彼の作品はジャズのスタンダードになっている曲も何曲かあるんですけど、「三文オペラ」での音楽はそういうものだけじゃなくて、本当にいろんなかたちの面白い曲があるんですよ。実際に演奏することによってその魅力に取り憑かれましたね。で、アルバムに入っている「ジゴロのバラード」という曲は、普段あんまりいろんな人が演る曲じゃないんですけど、ちょっと本当に独特な、不思議な魅力をもった曲で、柳原陽一郎にはピッタリじゃないかなぁと。

鈴木:ピッタリですよね。

芳垣:ちょっと訳詞しない?みたいなところから持ちかけて。

鈴木:訳詞もいいですよね。本当にどの曲も、訳詞も素晴らしくて。楽しいです。

樋口:聴いて内容が入ってきますね。

芳垣:どうせなら日本語でやりたいな、っていうのがあって。なので、日本語で詞をつくる力がちゃんとある歌い手に歌って欲しいって思いました。で、僕の場合はしかも、男の歌い手が非常に好きなので。

鈴木:確かに多いですね。

樋口:それは何故なんですか?

芳垣:何故ですかね。ひとつは多分、すごくやっぱりロックという存在はあるような気がしますね。60年代後半、70年代前半のバンド全盛時代の音楽に僕自身が惹きこまれた。みんな男じゃないですか、あの当時の歌い手は。

鈴木:確かに。

芳垣:ビートルズだって、ストーンズだってそうでしょ。ツェッペリンにしたって、、、みんな男じゃないですか。

樋口:そうですね。

芳垣:なんですかね。やっぱり歌と一緒にやるなら男がいい。で、日本語で詞をつくることがちゃんと出来る人。こんなこと言っちゃったらあれなんですけど、今のポップスによくあるような、私小説的な、なんか、自分はこうだ、自分はこうだ、っていうのが多いじゃないですか。そうじゃない意味での、本当に詞をちゃんと作れる人。で、男の歌っていうのが、まあひとつのキーワードだったんですね。ふたり(柳原陽一郎とおおはた雄一)を選んだ。

鈴木:ほんと絶妙なチョイスですよね。また2枚組のそれぞれの色が違うわけですよ。

樋口:カラーが出ていますね。バックのメンバーはみんな同じですもんね。

芳垣:もしかしたら1枚のアルバムに入れられるかな、とも思ったんですけど、やっぱりそれしないほうが。昔みたいにレコードだったら、裏表でかけ換えられるから、いいんですけど、CDはそういうわけにはいかないじゃないですか。

樋口:そうですね。

芳垣:やっぱりこれは分けないとダメだなあって。

 


音が馴染んでいる感じとか空気感とか、ちょっとした距離感を感じ取れるレコーディング方法

鈴木:インスト・アルバムの『Can't Help Falling In Love~好きにならずにいられない』ですが、タイトル曲の「Can't Help Falling In Love」はプレスリーのヒット曲ですね。後半に向けてどんどん盛り上がっていくアレンジですが、芳垣さんは結構こういうアレンジが好きですね。

芳垣:そうですね。静かに始まって、、

鈴木:ヴィンセント・アトミクスの頃からもう。(笑) これはサンタナに繋がるんじゃないか、みたいなね。(笑) 静かに始まって、、、最後ぐぉあーーーーって(笑)盛り上がるところがね。

芳垣:ルーツがそういうところですからね。

鈴木:これがまた、かっこいいんすよ。はまるんです。

芳垣:これはねえ、レディオヘッドのスタジオライブ・レコーディングの番組を見てるときに、6/8拍子でだんだん盛り上がっていくような曲があって、それを聴いているうちにプレスリーの曲をこんな風にアレンジできるんじゃないか、って思ったんですよ。具体的には、ハチロクというよりも、もうちょっと大きな3拍子から段々段々盛り上がっていって、(リズムが)細かくなっていってさらに盛り上がってくみたいにしたいなと。で、(青木)タイセイに相談してアレンジしてもらったんですけど、最初の僕のイメージと違ったので、何回かやりとりをしながら作っていきました。ちょっとずつライブでやってみてテコ入れをしながら作った曲ですね。

鈴木:今回の作品の録音方法が、マルチトラックでそれぞれの楽器を録って、それぞれを調整するというやり方ではないんですよね。

芳垣:マルチはマルチなんですよ。でも、例えば、ドラムはドラムの部屋に入って、ベースはベースの部屋に入ってというふうに、お互いの音が被らないようにして録って、ちょっと間違えたところは後で直せるよ、みたいな今の録り方ではないんです。今回は、マイクはもちろんそれぞれ皆のところに立ててあるんですけど、全員が同じ部屋に入ってステージのように並んで録っています。

樋口:ということは、お互いの音がひとつのマイクに被って入ってしまうんですね。

芳垣:被りまくっていますから、失敗するとそのテイクはおじゃん、という感じです。

鈴木:ああ、、、、

芳垣:しかも全員ヘッドフォンをせずに、、、

樋口:ええーーー!!

芳垣:モニターも出さずに、生音で(それぞれの楽器の)バランスを取りながら録音したんですよ。歌い手が入った時も同じで。

鈴木:ええーーー!!

芳垣:さすがにその歌い手がむこう向いて歌うと声が聞こえないので、バンドと真向かいに向かい合ってこっち向いて歌ってもらって。結果として、ボーカルマイクは楽器とは反対側向いてるんで、歌の人の被りは少ないんですけど。そういう状態で録りました。

樋口:おもしろいですね!

鈴木:あのまとまり感、一体感、っていうのはそこですかね?

芳垣:音が馴染んでいる感じとか空気感とか、ちょっとした距離感っていうのは、たぶんそういうレコーディングだったからだと思います。実はね、僕の学生時代からの知り合いが兵庫県の西宮北口でやってるジャズ喫茶があって、そこにパラゴン(JBLのスピーカー)が置いてあるんですよ。このアルバムを持っていって、そこで結構大きい音量でかけて聴いたんですけど、すっごい立体的に聞こえて。皆の座っている位置、ドラムがどこにいるとか、歌がどこにいるとかっていう立ち位置がすごい分かるんですよ。

樋口:聴いてみたい!


芳垣:昔のジャズのアルバムもそうじゃないですか。位置関係がよくわかる。なんかこう、前後ろの感じがすごくよくわかるじゃないですか。そういうのって、それぞれを別々に録って、例えばドラムは左から右へハイハットから始まってバーっと並べちゃって、ピアノも同じように低い音から高い音へ左から右にステレオで全部広げちゃうというような今の普通のレコーディング方法じゃなくて、同じ部屋で録ったりだとか、音が馴染むようなレコーディング方法の方が、逆によくわかるのかな、って感じがしますよね。例えばドラムは塊でこっち側にいて、ピアノここにいて・・・サックスが真ん中にいて、歌はここから拾うとか、その定位がちゃんと分かるような。あと、不思議な事に、モノラルのレコーディングも、距離感がわかったりするじゃないですか。左右とか無いはずなのになんでこんなわかるんだろうって。

鈴木:モノラルの話が出たんで、ビートルズのボックスの話をしたいんですけど。僕は、ステレオのボックスセットを買ったわけですよ。普通のファンだから。(笑)芳垣さんはモノのボックスを買ったわけですよ。で、その話をしてたら、芳垣さんが「モノ・ボックス聴いたことある?いいってもんじゃないよ、半端ないよ。」って言うんですよ。で、僕のステレオ・ボックスをお貸しして、モノ・ボックスをお借りして聴いたんですよ。そしたらもー、びっくりしましたね!音が全然いいし、バランスも違うし、ちょっとね、衝撃でしたね。

芳垣:あれはびっくりしましたね。ステレオじゃないのに余計に定位がわかるっていうか。スピード感とかね、すごくあるし。

鈴木:芳垣さんとのこのビートルズ・ボックスの件があったから、今回のアルバムの録り方だとかが面白いなと思ったんですよ。何でもかんでも最新のやり方でやればいいというわけではないなと。音の良さ、いい意味の良さ、っていうのは音楽の良さにプラスになることだから、やっぱり皆んな、もう一回真剣に色々考えなきゃいけないんじゃないのかなーって思いますよね。

芳垣:そうですね。あとね、時々行く札幌のジャズ喫茶で(オルケスタ・リブレの)アルバムをかけてもらったんですよ。そうするとね、音がちょっとぼやける。そのジャズ喫茶はいつもレコードをかけるんです。だから、アンプとかいろんなもののチューニングがレコード用になってるんですよ。そうするとCDの音がやっぱりちょっとぼやける。

樋口:面白いですね~。

芳垣:だから、レコードはレコードでやっぱり違う音なんだなって。あのパンチ力はレコードだからであって。その時に、アメリカのウエストコーストでやってたチャーリー・ヘイデンのカルテットのアルバムがレコードでかかってたんですよ。そしたら、ビリー・ヒギンズのシンバル・レガートとかが、すっごいもうゴーーって押してくるんですよ。チャーリーヘイデンの音も。

樋口:飛び出てきこえるみたいな。


芳垣:うわー、このシステムで聴いたらきっといいだろうなって、(オルケスタ・リブレ)のアルバムをかけてもらったら、皆の音がすっごくよく聞こえてくるんですよ。ただ、あのパンチがちょっと無い感じで。レコードはレコードでやっぱりひとつの音があるんだなっていうのをすごく思いましたね。だから、そういう所で聴いてくれる人に、アナログ盤を出したいんですよね。

鈴木:ヨーロッパの人ってたまにアナログ盤作って持ってきますよね。

芳垣:そうですね。ヨーロッパってもう、配信のシステムがすごく盛んになってきてるんで、配信で出しておいて、特別なものはレコードを作る。っていう感覚になってる。

樋口:個人的にはそれは嬉しいなあ。

芳垣:でね、面白いのは、結構ちゃんとしたプレス工場っていうのが各国にあるんですよ。デンマークにプレス工場がひとつあるんだけど、そこはちょっと高いので、安く作るにはハンブルグの工場にするとか。

樋口:なるほど。

芳垣:そのハンブルグだったり、どこそこのプレスは、こういう特色があるとか値段はいくらだとか、そういう事を作ってる人はみんな知っているんですよ。今回の音はこんな感じだからここでプレスしようっていうふうに作っているみたいですよ。

樋口:クラブ系もそんな感じで、ジャズもあるんですね。

芳垣:重量盤はここだったらいくらでプレスしてくれるとか。なんかそんな話ばっかりミュージシャンがしてるんですよ。

 

ヨーロッパでの評判は、本当に良かった

樋口:オルケスタ・リブレはヨーロッパにも行ったんですもんね。

芳垣:そうなんですよ。そういうふうにレコードとかも作っているデンマークのレーベルの連中が、コペンハーゲン・ジャズフェスティバルのオーガナイザーと知り合いで、出演することになりました。コペンハーゲン・ジャズフェスティバルっていうのは、日本の色んなジャズフェスを、たぶん10倍くらい大きくしたようなものです。

鈴木:結構でかいっですね。

芳垣:もう街中どこでもやってるんですよ。

樋口:何日くらいやってるんですか?

芳垣:えっとねえ、だいたい2週間。

鈴木:すごい規模だなあ。

芳垣:で、せっかく行くんだから、頑張って他の土地でもやってこようと思って、ロンドンのジャズクラブと、パッサウっていう南バイエルンでオーストリアとの国境の近くにある世界遺産みたいな街、あとスイス各所などで演奏しました。

樋口:メンバー全員で行かれたんですよね?

芳垣:全員でいきました。

鈴木:すごいですね(笑)

樋口:リアクションはどうでしたか?

芳垣:評判は本当に良かったですね。お客さんがほんとすごく盛り上がってくれて。

鈴木:それはやっぱり、向こうでお客さんがアンテナを伸ばして、来てくれたっていうことですよね。そういうのって一番難しいじゃないですか。例えばヨーロッパからいいバンドが来ても、日本の人にそれを知らせるのは難しいし。知らないバンドを聴いてもらうっていうのは本当に難しいですよね。そんな中で来てくれたっていうのは、やっぱり素晴らしいことですね。

樋口:ピットインでは、10月29日にライブがありますね。

鈴木:これは、いわゆる、インストのオルケスタ・リブレでの出演です。


芳垣:6月から7月まで、ボーカリスト(柳原陽一郎、おおはた雄一)やピアニストのスガダイロー、タップダンサーといったゲストをいれたバンドという形で駆け抜けてきたので、10月29日は、ヨーロッパでやってきたのと同じような感じで、バンドだけでみっちりとやります。ヨーロッパで新たにやった曲なんかもあるし、歌の人と一緒にやってた曲とか、ダイローを入れてやったエリントンなんかも、バンドだけでやれるようにアレンジしてみたりとか考えています。

鈴木:なるほど、それは面白いですね!

芳垣:ゲストを向け入れての活動も、交互にというか並行してやっていきたいなと思っています。あとは、音楽が中心なんだけど、ちょっと違う分野の人とコラボレーションするっていうっていうような事も、今年は試してみたいなあと思っています。

鈴木:本当にいい意味で、すごいスピードでいろんなことが今動いてる感じがしますね。

芳垣:大変ではあるんですけど、やりがいがすごいあるというか。

鈴木:何か色々できそうなバンドメンバーなんでしょうね。

芳垣:メンバーは本当に面白い人達が集まっています。自分で言うのもなんなんですけど、メンバーを選ぶ目は持ってるなと。(笑)

 


芳垣安洋
芳垣安洋
1959年生まれ。関西のジャズエリアでキャリアをスタートさせ、モダン・チョキチョキズ、ベツニ・ナンモ・クレズマー・オーケストラ、渋さ知らズなどに参加後上京。山下洋輔、坂田明、梅津和時、巻上公一、菊地成孔、オオヤユウスケ、高田漣、小島真由実、浜田真理子、カヒミ・カリィ、UA、原田郁子、Jhon Zorn、Bill Laswellなど様々なミュージシャンと共演。現在、ROVO、大友良英ニュー・ジャズ・オーケストラ、南博GO THERE、アルタード・ステイツや自己のバンドVincent Atmicus、Emergency!、Orquesta Nudge!Nudge!等のライブ活動の他、蜷川幸雄や文学座などの演劇や、映画の音楽制作も手掛ける。メールスジャズフェスを始めとする欧米のジャズや現代音楽のフェスティバルへの出演や、来日するミュージシャンとの共演も多く、海外ではインプロヴァイザーとしての評価も高い。レーベル「Glamorous」を主宰する。

芳垣安洋 オフィシャル・サイト

うたのかたち ~UTA NO KA・TA・TI

■タイトル:『うたのかたち ~UTA NO KA・TA・TI』
■アーティスト:Orquesta Libre
■レーベル:GLAMOROUS RECORDS / ewe
■型番:EWGL13
■発売日:2012年7月4日
■価格:3,000円(税込)

amazon link


Can't Help Falling In Love~好きにならずにいられない

■タイトル:『Can't Help Falling In Love~好きにならずにいられない』
■アーティスト:Orquesta Libre
■レーベル:GLAMOROUS RECORDS / ewe
■型番:EWGL15
■発売日:2012年7月4日
■価格:2,500円(税込)

amazon link

 

オルケスタ・リブレ ライブ情報
■10/29(月)@PIT INN
昨年末のレコーディングから始まった柳原陽一郎、おおはた雄一らのシンガーとの共同作業、スガダイローやタップダンサーとのコラボレーションでのエリントンサウンドの再構築、などなど様々な試みを一挙に演じた初夏のPit Innでの3daysに始まり、ヨーロッパツアー、フジロックフェス、と結構な勢いで突っ走ってきたオルケスタ・リブレの上半期も一段落という感じです。ヨーロッパツアーの報告も兼ねて、バンドが深化してきたさまを皆さんに見てもらいたい、と気合いを入れてお届けするリブレの素顔です。晩秋のミニツアーへの助走でもあります。乞うご期待ですぞ!!!
芳垣 安洋

■11/26(月)@桜座 (山梨・甲府)

■11/27(火)@TOKUZO (愛知・名古屋)

■11/28(水)@深川江戸資料館 小劇場 (東京・深川)


芳垣安洋 注目ライブ情報
■10/6 (土)@横濱 JAZZ PROMENADE 2012
芳垣安洋 「Duke Elington, Sound of Love」

 

<Orquesta Libre LIVE @ PIT INN>

Jesse Harris(ジェシー・ハリス) インタビュー:インタビュー / INTERVIEW

自身のアルバムタイトルがその名前となっている音楽フェスティバル「ウォッチング・ザ・スカイ」への出演や、全国ツアーのために来日していた、グラミー受賞シンガー・ソングライターのジェシー・ハリスさんにインタビューをすることができました。

ジャズファンには、ノラ・ジョーンズの「Don't Know Why」の作曲者とご紹介すればピンとくる方々も多いのではないでしょうか?

初のブラジル録音となった新作『サブ・ローサ』とそのレコーディングメンバーを従えてのツアーは、全国どこも大盛況!
インタビュー当日は、ツアーファイナルの渋谷 duo MUSIC EXCHANGEでの公演で、以前に彼がプロデュースをした畠山美由紀やおおはた雄一もゲストとして参加していました。
まさに彼の音楽そのもののような、気取らず、穏やかなムードに包まれた一夜でした。

インタビュアーは、JJazz.Net番組ナビゲーターでシンガーソングライターでもあるジョー長岡。

お楽しみください!



JessHarris


Jesse Harris(ジェシー・ハリス) インタビュー

■[ジョー長岡] ジェシーさんのソロ名義のアルバムは全部聴かせていただいています。新作の『サブ・ローサ』も大好きです。

[ジェシー・ハリス] おー、アリガトウゴザイマス!


■[ジョー] 新作は、リオ・デ・ジャネイロでの録音だったそうですが、どうしてリオなのですか?

[ジェシー] もともとブラジル音楽が大好きで、いつかブラジルで録音したいなと思っていました。それで、ブラジル滞在中のある時、ダヂとかマイコンといった現地のミュージシャンと仲良くなって、ライブをやってみないかと誘われました。その時に、彼らと僕のニューヨークでのバンドのドラマーと一緒にグループを組んだら面白いんじゃないかと思って、ショウをやっていくうちに、今回のレコーディングに繋がったという感じです。


■[ジョー] その時が初めてのブラジルだったのですか?

[ジェシー] いえいえ、ブラジルには何度も行っていたんですが、毎回1週間くらいの短期間だったので、今回は1ヶ月ほど滞在すると決めていました。


■[ジョー] レコーディングは実際はどれくらいの期間だったのですか?

[ジェシー] ショウのリハーサルを2日間、ショウ自体が3日間、で、録音は7日間ぐらいです。それからニューヨークで、ストリングスやホーン、ゲストボーカルといったものを録音しました。それでまたリオに戻って1ヶ月間ほど滞在して、ミックスダウンをしました。


■[ジョー] ニューヨークで録音する時と違いはありましたか?

[ジェシー] ブラジルで制作すると、とにかくペースがゆっくりです。トロピカルなところなので、もともとのんびりですからね。


■[ジョー] それはジェシーさんにあってましたか?

[ジェシー] いつもの僕のペースではないですけど、慣れました。(笑)


■[ジョー] (笑)ちょっとイライラしました?

[ジェシー] はい。(笑)


■[ジョー] ブラジルや南米音楽の魅力を教えて下さい。

[ジェシー] リズムとハーモニーが複雑なんですけど、シンプルに聞こえるというところが気に入っています。


■[ジョー] わかるなぁ。
ジェシーさんのアルバムには、歌の他にインストゥルメンタルも入っていますね。僕はその2つの、共存しているバランスが好きで、いつもいいなと思うんですけど、あのインストゥルメンタルの時間の秘密を教えて下さい。

[ジェシー] インスト曲を入れたのは、『ミネラル』と『ウォッチング・ザ・スカイ』に続いて今回が3度目なのですが、とても気に入っています。インスト曲は、アルバムに変化をもたらしますね。『コスモ』というアルバムは、全曲インストゥルメンタルで、その頃は他に、歌のアルバムを1枚作ったのですが、今回はそうやって分けずに、1枚で一緒にするのがいいかなと思いました。


■[ジョー] あのインスト曲が、アルバムを最初から最後まで通して聴かせる役割をしているように感じます。

[ジェシー] 映画のように、そういう風にできたらいいなと思っていました。


■[ジョー] 歌についてお聞きしたいのですが、ジェシーさんの歌は、とてもナチュラルでリスナーと対話しているような、手紙をもらっているような感覚になるのですが、そこに秘密はありますか?

[ジェシー] 実は今回は、ボーカルのほとんどをバンドと一緒にライブ感覚で録りました。レコーディング前に、ショウのためのリハーサルをして、本番をやったのでそういう気分だったんだと思います。あと、ブラジルにいたのですごくリラックスしていたんだと思います。


■[ジョー] ソングライティングについてお聞きしたいのですが、ずばり、どんな風に作曲していますか?

[ジェシー] どこでも曲をつくりますね。大阪、広島、熊本、パリ、リオ、ニューヨーク、ロスアンゼルス。。。


■[ジョー] ホテルとか公園でも?

[ジェシー] ホテルか自宅ですね。


■[ジョー] 作曲はどこかで勉強したんですか?

[ジェシー] いいえ、独学です。


■[ジョー] 『サブ・ローサ』には、リオで作った曲はありますか?

[ジェシー] 「WALTZ OF THE RAIN」、「AS LONG AS YOU'RE HERE」それに「ROCKING CHAIRS」の一部はそうですね。


■[ジョー] ジェシーさんのルーツを少し知りたいのですが、一番最初に手にした楽器は?

[ジェシー] ピアノです。


■[ジョー] いつですか?

[ジェシー] 10歳の時です。


■[ジョー] どうしてピアノだったんですか?

[ジェシー] 「ピアノを習ってみたらどうだ?」ってお父さんがずっと言うものですから、なんとなく自分もそう思うようになって(笑)


■[ジョー] (笑)どうしてお父さんはそんなに勧めたんでしょうかね?
[ジェシー] 彼が弾きたかったんだけど、習ったことがなかったので、息子の自分にピアノを習わせたかったんだと思います。彼は、ジャズが好きなんですよ。


■[ジョー] (驚)そうですか!それでは、ギターはいつから弾き始めたのですか?

[ジェシー] 17歳からです。今思えば、ピアノを習っている時からギターを弾きたかったんですね。お母さんがカリフォルニアに移る際にアパートを貸し出したんですが、2年後に戻ってくると、そこのクローゼットにギターが置いてあったんです。それを僕にくれたのが、ギターを弾き始めたきっかけです。


■[ジョー] ソングライターとして、今大切にしていることがあれば教えて下さい。

[ジェシー] そうですね、「書き続けること」ですね。


■[ジョー] ライブでの共演やプロデュースなど、日本人ミュージシャンと交流が盛んですが、どういう印象をお持ちですか?

[ジェシー] プロジェクトに対しての関わり方がすごいですね。100%の力で関わってきます。目標の期限(締め切り)をきちんと決めて、それを全力で達成しようとします。で、最後には、打ち上げなどで楽しんでいます。それがとても印象的です。


■[ジョー] 最後になりますが、ジェシーさんが、去年ニューヨークで行われた東日本大震災のためのチャリティーイベントに出演して下さったのが、とても嬉しかったです。もしよろしければ、まだ苦しんでいる方々へのメッセージをいただけますか?

[ジェシー] 一年が経ちましたが、私たちはそれを忘れていませんし、ずっと思っています。日本を愛していますし、日本の皆さんが、健康で安心して過ごせることが私達にとっても大切なことです。


[通訳:石坂元(Hillstone) Text:樋口亨]





JessHarris
Jesse Harris(ジェシー・ハリス)
NYを代表するシンガー/ソングライター。アメリカン・フォークやカントリーといったルーツ・ミュージックの匂い、NYならではのコスモポリタンなセンス、ブラジル音楽にも通じる繊細なメロディが溶け合ったオーガニックなサウンドが魅力。ノラ・ジョーンズの影の立役者としても知られる。NYのアコースティック・ミュージック・シーンを牽引するシンガー/ソングライターとして、絶大な評価を得ている。2012年、最新作「SUB ROSA」が完成。

http://www.jesseharrismusic.com/
http://www.jesseharris.jp/


jesse_sr_jk.jpg


■タイトル:『サブ・ローサ』
■アーティスト:ジェシー・ハリス
■レーベル:HILLSTONE Records
■型番:HSR-1001
■発売日:2012年7月4日
■価格:2,625円(税込)

amazon link



ジョー長岡
ジョー長岡
演劇や舞踏の活動を経て、2000年より独自の歌世界を構築。シンガーソングライター。世界中の音楽と日本語の心地よい融合、力強く可愛らしい音楽をめざす。JJazz.Netでは「温故知新」「Jazz Today」でナビゲーターを務める。

ジョー長岡ブログ「音瓶波ラヂオ」

日野皓正 presents "Jazz For Kids" @ 世田谷パブリックシアター:インタビュー / INTERVIEW

日本を代表するトランペッター、日野皓正が届ける、夏恒例のジャズコンサート"Jazz For Kids"。
なんと、今年で8年目を迎えます。

日野さんをはじめとしたジャズ・ミュージシャンを講師に迎え、世田谷区立の中学生で構成されているビッグバンド「Dream Jazz Band ドリームジャズバンド」が約4ヶ月のワークショップを経て、ジャズに触れる楽しさを表現します。

合言葉は、昨年に引き続き「JAZZ POWER ジャズの力」。

昨年は、校長の日野皓正さんのインタビューを番組でお送りしました。
生徒が変化していく様子などを伺って、次回は是非、主役の彼ら彼女らとお話をしてみたいという思いが強まりました。
そこで、今年は、ベーシストでこのプロジェクトの副校長である金澤英明さんと、昨年から講師として参加しているボーカリストのグレース・マーヤさんと共に、ドリームジャズバンドのメンバー、3年生の3人(清川楓さん、瀬戸葵さん、松田創太郎さん)へのインタビューが実現!

生徒たちは少し緊張していたようですが、こちらも、普段は中学生とお話をする機会などないので戸惑いました。
面白く、頼もしい内容になりました。
ぜひ、コンサート当日に応援しに行ってください!

大人もちゃんとしないとな。



Jazz for Kids


金澤英明&Dream Jazz Bandメンバー インタビュー

■今年で8年目を迎えるということですが、どのような心境ですか?

[金澤英明] 「今年はどんなだろう?」と毎年新たな気持ちでやっていますので、気がついてみると8年目という感じですけどね。


■なるほど。変化は感じますか?

[金澤英明] 子供たちよりも講師陣に変化があると思いますね。メンバーも少しづつ変わってきているのですが、校長の日野(皓正)さんの音楽に対する考え方とか生き方を理解する人達に少しづつ変わってきているかな。僕の好みもあるのですが、プレイヤーとして一流の人達に絞られましたかね。僕個人としてはそう思いますね。


■「日野さんの考え」というのは具体的にどういうことですか?

[金澤英明] 子供たちは僕たちのことを先生と呼んでくれるんですけど、僕たちは先生ではないわけで。要するに教師ではなくて、第一線で活動しているジャズプレイヤーですから、教えるということのプロではないと思うんですよ。これは僕の考えですけど、夏のコンサートに向けてジャズの形ができるように、子供たちを導くというのが仕事だとは思っていないんですね。ジャズを演る人は面白い人が多いんですけど、こういう大人がいるということをわかってほしいんですよ。その最たる人が日野さんで、僕の意見を言わせてもらえば、日野さんみたいな人に接すれば、すごいことになるよ、というのが一番かな。これは実は講師陣にとってもそうなんですよ。日野さんという人は厳しいし、温かいし、大きな人なんですよね。我々もドリームジャズバンドをやっていることで教わることはいっぱいあるし、もちろん子供たちもそのエネルギーを受けて欲しいですね。今、あんな大人はまわりにあまりいないと思うんですよ。


■(笑)どうですか?あんな大人はいないですか?

[清川楓さん&瀬戸葵さん] (照れ&恐縮しながら)いないと思います。

[金澤英明] でしょー!よく日野さんとも話をするんですけど、昔は近所にいたおやじが本当に怖かったし。

[清川楓さん&瀬戸葵さん] (笑)

[金澤英明] 僕なんかは教師にもいっぱいひぱったかれちゃったし。でもそういうことで覚えたことはいっぱいあってね。それがいいのかどうかはわかんないけど、今の子たちはそういうのがあまりないんで、みんななんかクールですよね。


■はい。

[金澤英明] だからなぜ日野さんはそういうことをするかというと、教育ではないんですね、日野さんの場合。自分がプレイするスタンスで音楽にいつも接するんです。だから、「この子たちに怒ったってしょうがないんじゃないか」と思うことがいっぱいあるんだけど、怒るんですよ。


■(笑)

[清川楓さん&瀬戸葵さん] (笑)

[金澤英明] 全く分け隔てがないんですよ。「こんなこともできないのか?」っていう顔をするんですよ。


■(爆笑)

[金澤英明] できるわけないじゃないですか、初めての子もいるのに。でも、そういうことを僕たち講師陣も勉強していますね。「あ、そうか、こういうのでいいんだ」っていうね。こっちにいらっしゃいって手を差し伸べるんじゃなくて、こっちに来た人間と話してやる。そういう強引な、あけすけな、大人と子供の関係ができる場というのは素晴らしいと思いますね。それがジャズであろうが、クラシックであろうが構わないんで。柔道でもなんでもいいです。


■きっかけがこの場合は、「ジャズ」ということですね。

[金澤英明] そうです。この子たちが半年でそれに応えるのかどうか、というのが楽しみですね。いつもそこで(子供たちと)揉めますね。


■(笑)

[金澤英明] 揉めるというか、今日も随分ありましたけどね。トロンボーンの片岡(雄三)くんが言っていたけど、「みんなは選ばれてきているんだ。抽選で落ちた人の分も背負ってやらなきゃいけないのに、眠そうな顔をしてやってくるなんてありえない。」って。もし教師であるならば、いろんな子がいる中でみんなを導いてあげなきゃいけないから、そういうことを言っちゃいけないのかもしれない。でも僕たちは教師じゃないというのはそこなんですね。僕たちと同じであるべきなんです。無理難題をふきかけるわけです。それに、柔軟なこの子たちがどう応えてくるか、です。もし応えてこなかったらそれでいいと思うし、コンサートが失敗に終わってもいいという覚悟でやっていますから。少なくとも日野さんはそうだと思う。この夏のコンサートをまとめようなんて思っていないです。みんな毎年結果オーライで来てますよ。


■(爆笑)

[金澤英明] いや、本当ですよ。「お前たち、なんで本番になるとうまくいくんだ!?」っていうぐらいですよ。そのぐらい、子供たちに無理難題をふきかけていると思います。


■練習は難しくて大変ですか?

[清川楓さん&瀬戸葵さん] はい、大変です。

[清川楓さん] 一応受験生なので(笑)、塾とか習い事とかが忙しくなってきて。去年はすごく暇だったので(笑)、勉強しろっていう感じなんですけど。(笑)


■そうだよ。(笑)

[清川楓さん] 学校から帰って、ゆっくりして、じゃあベース練習しようっていう感じで、暇があればずーっと好きなだけできたんですけど、今年は受験生なので、帰ってくるのが遅いし、学校は長いし、練習いつやろうという時が結構毎週あります。


■それにはどうやって対応しているの?

[清川楓さん] 土日にまとめてガーッとやっています。

[金澤英明] そんなこと知ったこっちゃないですよこっちは。


■(爆笑)

[清川楓さん] (笑)そうなんですよ。

[金澤英明] そこを汲んであげちゃダメなんですよ。このあいだも日野さんが言っていましたよ、「寝なきゃいい」って。歴史上ね、ちゃんとできてる人は両方できているんですよ。

[清川楓さん] (声小さく)そうなんですよね。。。


■去年も参加していたんだね。ふたりともそうなの?

[瀬戸葵さん] わたしは今年からなので、練習のペースとか夏休みとかどうしようかなとまだ思っています。


■おー、大変だ~。清川さん、教えてあげなきゃね。

[清川楓さん] はい、そうですね。


■瀬戸さんはなんで今年から参加しようと思ったんですか?

[瀬戸葵さん] 去年も入ろうかと思ったんですけど、なんかやめちゃったんです。で、今年は、友達が先に参加していたので、世田谷区民会館での公演を観にいったら、すごくてびっくりして。まぁ、先生たちはあれはあんまりすごくないって言ってたんですけど、、

[一同] (爆笑)

[瀬戸葵さん] だけど私はびっくりしたので、3年生で辛くなるかもしれないけど、入ろうと思いました。

[金澤英明] うれしいね~。(しみじみ)


■演奏のパワーを感じたんだ。「JAZZ POWER」を感じたんだ。

[金澤英明] そうそうそう。うれしいね~。


■実際に参加してみてどうですか?

[瀬戸葵さん] 難しいですけど、合わせる時とかすごい楽しいです。


■ソロもいいけど、合奏がいいよね!ふたりともベース担当だよね?ベースは前からやっているんですか?

[清川楓さん&瀬戸葵さん] いいえ、初めてです。

[金澤英明] すごいでしょ~。


■すごいですね!大変ですね!

[金澤英明] 大変ですよ~。


■(笑)

[金澤英明] でもそう思わないことにしてるけど。(笑)


■なんでベースなんですか?

[瀬戸葵さん] (バンドや曲を)支えてるのがちょっとかっこいいなと思って。

[一同] お~~っ。

[清川楓さん] 私はお兄ちゃんがドラムをやってて、バンドを卒業したんですけど、、


■えっ、お兄ちゃんもドリームジャズバンド??

[清川楓さん] はい。(笑)


■なんだそれ!すごいね!

[金澤英明] そうなの!?

[清川楓さん] で、ドラム希望で最初このバンドに来たんですけど、ピアノをやってたという話をしたら、じゃあベースの人いないしベース行くかって言われて、あ、家にもあるし、いっかみたいな。

[一同] (笑)


■ベースやりたいってなかなか渋いね。

[金澤英明] ねー!

[清川楓さん] 最初はギターより長いってことしか知らなかった。(笑)

[金澤英明] 弦が太くて指が痛いしな。


■お兄ちゃんみたいな卒業生が色々と手伝っていますね。

[金澤英明] そうなんですよ。何かを掴んでいますね。ここにしかないものを感じたんでしょうね。僕が来ない時でも卒業生が教えてくれていたり。もうね、それに関しては本当に頭が下がりますね。


■すごいですね。なかなかないことだよ。

[清川楓さん&瀬戸葵さん] はい。

[金澤英明] 今のクールな子供たちでね。いやー、すごいと思います。


■夏のコンサートもそうなんですが、チャリティー活動もされていますね。そのことについて教えて下さい。

[金澤英明] 仙台のちょっと南に白石市というところがあって、そこの音楽の先生と僕が仲良しなんですよ。でね、震災の後に話をしたら、やっぱり楽器が随分壊れたということなんですよ。それで、何かしたいと思って、近所の学校でコンサートをやったんですよ。日野さんもドリームジャズバンドも来てくれて、義援金が随分と集まったので送ったんですね。そしたらすごい喜んでもらえて、トランペットを流された子のトランペットを買ったりだとか。あと細かい話ですけど、リード(サックスなどの吹口に用いる薄い部品)のような消耗品は公的な支援の対象にならなかったんですって。だからそういうものを買ったりだとか。とにかく僕たちがやったことがそのまま音楽に伝わったことが嬉しかったですね。そしたら去年ですけど、白石城下町コンサートをやるのでゲストで出演してくれないかといってもらえたんですよ。それで僕が、中学生は出演できないので、バンドの卒業生とプロを混ぜたバンドを作って出演したんですよ。世田谷パブリックシアターも経費を応援してくれて。そしたら本当に喜んでもらえて、すごかったですよ。こっちがパワーを貰いましたね。


■素晴らしいですね。

[金澤英明] それで、今年もまた出演の依頼が来ましてね。そう毎年いけるものかなと思っていたんですが、世田谷パブリックシアターも含めてまた応援して下さったんで、10月8日(月・祝)に出演します。そのための経費もばかにならないので、子供たちもチャリティーのコンサートをやって集めてくれています。


■そのチャリティーコンサートは、7月7日に三軒茶屋のキャロットタワーで行ったものですね。観にいった?

[瀬戸葵さん] 行きました。私は「Take the 'A' Train」という曲をコンサートでやるんですけど、その曲を先輩がやっていて、すごい見本になりました。

[金澤英明] こういう一体感を持つんですよね、バンドって。


■すごいですね!これは聴くのもいいですけど参加するのが一番楽しそうですね。

[金澤英明] 音楽はそうなんです。楽器はやったほうがいいです。


■あとは、8月の本番に向けて毎日毎日練習するのみですね。担当する曲と意気込みを教えて下さい。

[清川楓さん] 「The More I See You」と「A Night in Tunisia」で、曲の雰囲気が、ガンガン行くのとゆっくり行くという風に全く違うので、それを踏まえた上で、、、とにかく頑張ります!(笑)

[瀬戸葵さん] 「Shiny Stockings」と「Take the 'A' Train」で、まだ本当に完成していなくて危機感がすごいんですけど、気合入れて頑張って、本番は心を動かせるように頑張ります!

[金澤英明] その気持ちがあれば大丈夫よ。


■では最後に、夢と目標を聞かせてください。

[清川楓さん] なりたい職業とかは全然決まっていないんですけど、まずは高校にちゃんと合格したいです。本当にもっと先のことだったら、ドリームジャズバンドに参加していろんな講師の先生に接して、そういう大人になりたいなと思いました。みんな若々しくて他の人にない魅力を持っていて素敵だなと思いました。そしたら人生も充実して楽しくなりそうだなって。

[瀬戸葵さん] なんかめっちゃいい事言ってる。

[一同] (爆笑)

[瀬戸葵さん] ドリームジャズバンドに参加して、講師の先生もサポートさんもみんないい人で、さっき金澤先生も言ってたけど、教師という立場じゃなくて一緒に目標に向かってやっていく仲間という感じがしています。なので、一番近い目標は8月のコンサートを一緒に成功させることです。これからも、何事もみんなで一つになって取り組むということが大事なんだなって、ずっと思っていたいなって。


■素晴らしい!

[金澤英明] 本当に、3ヶ月くらいでこの子たちはとっても変わりましたよ。すごいですよ。


■日本の将来は明るいね!

[一同] (笑)

[金澤英明] ドリームジャズバンドに参加したい子たちがいる限り明るいですよ!本当にそう思うよ。あのね、毎年思うことなんだけど、バンドに入ってきた子たちを見ると、この子たちは「こういうふうにガードしろ、こういう顔をしろ」って教えられてきたなって。学校とかで、静かにしていれば丸をつけられるというね、僕はそう思うんですよ。だからみんなとりあえず黙っておくみたいなところがあって、なかなか本当のことを言わない。でも、こうやってマイクを向けられてこれだけのことが言えるようになるんです。やっぱりこれは音楽の力であるし、ドリームジャズバンドの力ですよ。こうでなくちゃダメですよ。もっともっと普段から言いたいことを言わないとダメなんです。ちょっと教育のことは考えますね。(笑)


■同感です。去年は日野さんにインタビューさせていただいたんですけど、その際に練習の風景を拝見して、今年は生徒さんにインタビューさせてもらいたいなと思いました。

[金澤英明] みんな同じように大人しいんですよ。大人しいというか静かにしていないといけないと思っている。それがね、このバンドの卒業生が「先生、元気ですか~!?」なんて言ったりする。そんなことが言えるような子じゃなかっただろって。(笑)


■なので、元気ハツラツで、言われてもいないのにアドリブとかやっちゃってください。怒られるよ~。(笑)

[一同](笑)

[金澤英明] 間違ってたら怒る。(笑)


グレース・マーヤ&Dream Jazz Bandメンバー インタビュー

■今年は、現役の生徒(松田創太郎さん)が初めてボーカルを担当するそうですね。

[グレース・マーヤ] そうです。昨年初めてバンドにボーカルが入ったんですが、卒業生でした。私にとって「ボーカルを教える」というのはそれが初めてで、一人ひとりに合ったスタイルをすすめることを心がけています。例えば、創太郎くんの場合は、男の子の低い声を活かしてボーカルだけのパートを作ったりしてアレンジしています。基本的に音楽はエンターテイメント、楽しくないといけないと思っています。私はクラシックをずっとやっていて、ジャズをやり始めた時はリズムなどにすごい苦労して悩みました。その時に、完璧ではなくて間違いとか変なところが個性になる、と気づいたので、クラシックをコンプレックスにしないでそれを活かし始めたら、自分のスタイルができてきました。そういうことがあったから、みんなにも個性を活かして欲しいなと思っています。


■なるほど。松田くんはもともとジャズが好きだったんですか?

[松田創太郎さん] そうですね、結構小さな時から聴いていました。テレビで「スウィングガールズ(ビッグバンド・ジャズが取り上げられた青春映画)」を見て、そこで流れていた曲「シング・シング・シング」が印象に残って、それから聴き始めました。

[グレース・マーヤ] あっ、自分で聴き始めたの?すごいね!


■じゃあ、今だったら「坂道のアポロン」?

[松田創太郎さん] マンガをいっぱい持っています。 おもしろいです。


■ドリームジャズバンドでは、音楽以外にもいろいろなことを講師の先生から教わっていると思いますが、印象に残っていることはありますか?

[松田創太郎さん] 音が大きいとか小さいとかにかかわらず、心の持ちようというか、自分の感情をダーンと表に出すということを気にしています。


■では、夢とか目標を教えて下さい。

[松田創太郎さん] 家族がわりと音楽が好きで、自分も音楽が好きなので、音楽の道に進めたらいいなと思います。お父さんがギターを弾いてセッションをしたりもするんで、親子の絆という面でも、音楽をやれたらいいなと思います。


■素晴らしいですね!


[Interview:樋口亨]


日野皓正 presents "Jazz for Kids" - JAZZ POWER ジャズの力 -

今年で8回目を迎える、世田谷パブリックシアター恒例の日野皓正 presents"Jazz for Kids"。
今回も2日間にわたって行われ、1日目は日野、石井彰、日野"JINO"賢二、須川崇志、田中徳崇からなる日野皓正クインテットがお送りする本格ジャズライブ、2日目は世田谷区立の中学生によって結成された「Dream Jazz Band」(略称ドリバン)のコンサート『Dream Jazz Band 8th Annual Concert』をお楽しみいただきます。
楽器初心者を含む中学生が、5カ月間に及ぶワークショップ、自主練習の成果を発表するコンサートは、毎年彼らの懸命な姿に多くの方が胸を打たれています。

また、昨年に引き続き、「JAZZ POWER ジャズの力」を合言葉に掲げ、震災以降の日本を元気づけようという、日野皓正クインテットとドリバンの若い力がみなぎった公演になるに違いありません。
どうぞお見逃しなく!

<会場>
世田谷パブリックシアター

<料金(全席指定・税込)>
一般 4,000円
高校生以下 2,000円(世田谷パブリックシアターチケットセンター店頭&電話予約のみ取扱い、年齢確認できるものを要提示)

U24 2,000円(世田谷パブリックシアターチケットセンターにて要事前登録、登録時年齢確認できるもの要提示、オンラインのみ取扱い、枚数限定)

友の会会員割引 3,500円

せたがやアーツカード会員割引 3,800円

<お問い合わせ>
世田谷パブリックシアター チケットセンター 03-5432-1515
http://setagaya-pt.jp/


日野皓正クインテット

『日野皓正 Live』 
8月11日(土)15:00開演
 
[出演] 日野皓正クインテット[日野皓正(Tp)/石井彰(Pf)/日野"JINO"賢二(EB)/須川崇志(B)/田中徳崇(Ds)]

第一部:オープニングアクト DJBplus+/NJQ(Dream Jazz Band卒業生バンド)
第二部:日野皓正 Live


「Dream Jazz Band」photo by 青柳聡
撮影:青柳聡

『Dream Jazz Band 8th Annual Concert』
8月12日(日)14:00開演

[出演] Dream Jazz Band
日野皓正(Tp)/西尾健一(Tp)/多田誠司(Sax)/守谷美由貴(Sax)/片岡雄三(Tb)/後藤 篤(Tb)/荻原 亮(G)/小山道之(G)/石井 彰(Pf)/出口 誠 (Pf)/金澤英明(B)/田中徳崇(Ds)/力武 誠(Ds)/グレース・マーヤ(Vo) ほか講師ミュージシャン

第一部:講師ジャズミュージシャンによるセッションライブ
第二部:Dream Jazz Band Concert

※客席開場は開演の30分前、ロビー開場・当日券販売開始は60分前です。


ドリームジャズバンド
Dream Jazz Band(ドリームジャズバンド 略称:ドリバン)
世田谷区公立中学生を対象とした「Dream Jazz Band Workshop」(世田谷区教育委員会主催・世田谷パブリックシアター企画制作)から生まれた中学生ビックバンド。世界的なジャズ・トランペッター日野皓正を校長にむかえ、ジャズを体験することで自己表現を経験し子どもたちの「夢」を育むことを目的とし世田谷パブリックシアターで毎夏のコンサートを行っている。これまで「メナード 青山リゾート ミュージックフェスティバル」「ハマッコジャズクラブ」「ビックバンドフェスティバル2009」「すみだストリートジャズフェスティバル」などにも出演。


日野皓正
日野皓正
日本を代表する世界的ジャズトランペッター。
1942年10月25日東京生まれ。9歳よりトランペットをはじめ、13歳の頃には米軍キャンプのダンスバンドで活動を始める。1967年の初リーダーアルバムをリリース以降、マスコミに"ヒノテル・ブーム"と騒がれるほどの注目を集め、国内外のツアーやフェスティバルへ多数出演。1975年には渡米し、数多くのミュージシャンと活動。また大ヒットアルバムを連発しCM出演など多数。1989年、ジャズの名門レーベル"blue note"と日本人初の契約アーティストとなる。

近年は「アジアを一つに」という自身の夢のもと、日本をはじめとするアジア各国での公演の他、チャリティー活動や後進の指導にも情熱を注いでいる。また個展や画集の出版など絵画の分野でも活躍が著しい。2001年芸術選奨 「文部科学大臣賞受賞」。2004年紫綬褒章受章、文化庁芸術祭「レコード部門 優秀賞」、毎日映画コンクール「音楽賞」受賞。


金澤英明
金澤英明
ジャズベーシスト。1954年札幌生まれ。辛島文雄トリオ、向井滋春J5、中本マリグループ、渡辺貞夫カルテット、ハーマン・フォスタートリオ、デューク・ジョーダントリオ等を経て、'94年から'09年まで日野皓正クインテットに参加。('00年、ソウル公演。'01年インド、パキスタン、カンボジア、ニューヨーク公演)また、'03年、コジカナツルでCDを3枚リリース。中学生によるビッグバンド「世田谷ドリームジャズバンド」の副校長。'12年中牟礼貞則(g)をフィーチャーしたアルバム「We Love MUREsan」では、村上ポンタ秀一とともにサウンドディレクターも務める。常に幅広いジャンルの音楽家と活動を勢力的に展開している。
リーダー・アルバムとして'96年「BASS PERSPECTIVE」、'99年「HAPPY TALK」with HANK JONES、'09年「春」(Studio TLive Records)、'10年「月夜の旅」(Studio TLive Records)、'11年「Boys in Rolls」(Studio TliveRecords)をリリース。


グレース・マーヤ
グレース・マーヤ
ジャズシンガー・ピアニスト。3歳からクラシック・ピアノ、ヴァイオリン、バレエを習いはじめ、4歳で初めてのピアノ・コンクール入賞。9歳で夏期留学したパリではピアニスト、ルセット・デカーブ氏に師事。その後、ドイツに留学し、トップの成績で入学したフライブルグ国立音楽大学ピアノ部門卒業。大学院に進学して音楽研究の研鑽を積む傍ら、コンサート活動を続ける。帰国後は、ジャズ&ブルースをルーツにする実力派ピアニスト兼シンガーとしてライヴ活動を国内でスタート。'06年10月、ファースト・アルバム『The Look of Love』では、現在の時代に捉われない新しい感覚がグレース・マーヤを印象付ける衝撃的なデビュー作となった。
'07年2月『Last Live at DUG』、同年10月『Just the Two of Us』、'08年7月『The Girl from Ipanema』、
'11年12月にはデビュー5周年と共に5枚目のアルバム『ポインシアナ』を発売。
現在は全国各地でのライヴ・スポットを中心に益々意欲的な音楽活動を続けている。

Will Newsome インタビュー:インタビュー / INTERVIEW

「庭とご飯と音楽と」の第十二回目番組でお送りしている、コラ奏者のWill Newsomeさんのインタビューです。
良原リエさんがイギリスでライブをした際に、対バンとして出演したのがウィルさん。
今回の来日のタイミングで、良原さんのお家にも寄ってくれたそうです。
クラムボンの原田郁子さんと共演したり、日本の音楽シーンをかなり堪能されたご様子。
番組では、ウィルさんのコラの生演奏が聴けます!
倍音がすごく、美しいですよ~



Will Newsome


Will Newsome インタビュー

■[良原リエ] こんにちは、ウィル!自己紹介をお願いします。

[Will Newsome]こんにちは!ウィル・ニューサムです。イギリスのブリストル出身です。音楽を演奏しながら日本に約2か月間滞在しています。あと一日二日で帰国します。


■[良原リエ] 日本では、あなたが演奏している「コラ」という楽器は珍しい楽器なんですが、どんなものか説明してもらえますか?

[Will Newsome]オーケー。コラは、西アフリカの伝統的な琴(ハープ)です。西洋のハープみたいなものではなくて、カラバッシュという大きい瓢箪のようなものと、鹿の皮でできています。


■[良原リエ] 鹿の皮?それって珍しいんじゃないですか?

[Will Newsome]そうですね。西アフリカでは普通は牛の皮を使いますね。僕のコラはイギリスのウェールズで作られたものなので、その地元で手に入りやすい鹿の皮を使っています。あっ、ほぼ地元ですね。鹿の皮はスコットランドですね。
それで、弦が張ってある部分が1つではなくて、コラは2つあります。ちょっと専門的に言うと、ブリッジ・ハープと呼ばれているものです。
伝統的には、グリオと呼ばれる西アフリカの歴史を伝える人たちがコラを演奏します。歴史が文字として記述されていないので、歴史や先祖のお話などを演奏しながら伝えるグリオの存在はとても重要なのです。


■[良原リエ] とても面白いですね。なぜコラを演奏するようになったのですか?

[Will Newsome]今まで聴いたことのない音楽をインターネットでよく探していたのですが、5~6年ぐらい前にコラを聴いてすぐに魅了されました。それで、「コラが欲しい!」と思ってイーベイでコラを買って、2年前に奨学金をもらって西アフリカに行きました。


■[良原リエ] コラ以外は何か演奏しますか?

[Will Newsome]はい。ピアノやギター、ウクレレ、そして歌います。


■[良原リエ] 2か月間日本で演奏して、原田郁子さん(クラムボン)に出会って共演しましたね。いかがでしたか?

[Will Newsome]本当にとても素晴らしかったです。とてもリラックスできました。僕達が一緒に彼女の曲を自由に、新しく編曲するのを、彼女は楽しんでいました。ステージでは、3曲だけで40分演奏したのですが、曲が展開するときにはアイコンタクトだけで合図しあっていました。ほんとうに楽しかったです。彼女はとても才能豊かです。


■[良原リエ] なるほど。彼女はピアノと歌でした?

[Will Newsome]そうです。トンチはスティールパンを演奏していました。


■[良原リエ] ピアノとスティールパンとコラですね!

[Will Newsome]そう、すごい組み合わせですね!(笑)


■[良原リエ] ほんとに(笑)大きなフェスティバルにも出演したんですよね?

[Will Newsome]福岡のCIRCLE'12です。(日本語で)すごい楽しかった。すごくたくさんの観衆でした。そういうのには慣れていませんけど(笑)とても良かったです。


■[良原リエ] いいですね~。コラで1曲演奏していただけますか?曲の紹介もお願いします。

[Will Newsome]「Not a dead bird」という曲で、いくつか意味があるんですけど、「上を向いて行こう」という内容です。
歌詞の日本語訳もあるので読んでみてください。(以下参照)


「ノット・ア・デッド・バード」

見あげてごらん
沈んでいるときは
森の中の空き地で
ぼくらは眺めている
月が木の葉を織りあげる
いろんな顔、いろんな石
星座、万華鏡みたいに

ちいさなものが
落ちてきたよ
木の葉の天蓋の
屋根裏部屋から
死んだ小鳥じゃない
でもちょっと驚いた
緑の目みたいに眩しくて
ぼくらのお喋りは
その歌の中で
ときにふと途切れ
ぼくらの言葉と鳥の歌が
降り積もる

迷子になって
高さの違うどこかで
飛び立つ予感と
目眩のあいだで

ぼくらの言葉と鳥の歌が
降り積もる
ぼくらの言葉ともっとやさしい歌が
降り積もる


★対訳に際して、Willさんと相談の上、部分的に意訳してます。原詞をあわせてご参照ください。


■[良原リエ] すごい良かった!いい音ですね~

[Will Newsome]ありがとう!「(日本語で)えっこらよっとね」(笑)


■[良原リエ] (笑)コラって演奏するのは難しいですか?

[Will Newsome]うーん、誰でもやれると思います。弦で爪をブラッシングすれば素晴らしい音が出ますよ。僕は楽しんでいるので、「難しい」とか「骨が折れる」とは言いたくないです。うん、そうですね、たくさん練習は必要ですけどね。


■[良原リエ] ありがとうございました。

[Will Newsome](日本語で)どういたしまして。ありがとうございます。


[Text:樋口亨]


Winter Shed


■タイトル:『Winter Shed』
■アーティスト:Will Newsome
■発売日:2012年3月18日
■価格:500円(税込)

amazon link


Will Newsomeオフィシャルサイト http://somenewwill.blogspot.jp/

中牟礼貞則インタビュー ~『We Love MURE san』:インタビュー / INTERVIEW

日本のジャズの歴史と共に歩んできたギタリスト、中牟礼貞則さん。
演奏活動60周年を記念して、盟友、村上ポンタ秀一と金澤英明が呼びかけ、
多数の豪華ゲストが参加したアルバム『We Love ムレさん』が3月14日に発売されました。
60年という時間の流れの中でご自身の演奏を振り返っていただきました。

自分の演奏に対する明確なヴィジョンを保ち続け、それに向けての修正をつづけているという、
揺るがない姿勢に敬意を抱かずに入られません。



中牟礼貞則


中牟礼貞則インタビュー ~『We Love MURE san』

■今年で音楽活動60周年を迎えられるということですが、60年の歳月はいかがですか?

高校を卒業して18歳ですぐにキャンプ(米軍キャンプ)に行きましたからね。あの頃はジャズミュージシャンが少なかったから、結構重宝がられたね。
で、音楽を始めた頃から今まで、60年が経ったという意識は全然ないし、全く同じ生活をしてる。全然変わってないの。あっちのシーンでやったり、こっちでやったりと流れながら「色んなことがあって60年経ったな」と普通はなるんでしょうけど、全然そうじゃないんですよ。
僕は九州出身なんですけど、東京へ出てくる時からおおまかに「こういう音楽家になりたいな」という決心は相当についているんですよ。それになるべく近づきたいという気持ちね。なので60年はあっという間。今もあの頃と全然変わらない雰囲気でやっているというかさ。まわりを見てると、相当自分は珍しいタイプだなと。


■「こういう音楽家になりたいな」というのは具体的にはどういうことですか?

ほんとうにそう思ったのかと言われるんですけど、「恥ずかしくないミュージシャンになりたいな」と思ったんですよ。で、なれるはずがないと思ってた。戦争終わって間も無いですからそんなに音楽(ジャズ)を聴いていないわけですよ。だけど、「恥ずかしくないミュージシャンになれるといいな」となんか思ったのを忘れないんですよ。「恥ずかしくない演奏家」ってどういうことかって言うと、早く言えば「すごく自分に忠実な、自分がやりたい事をしっかりやる」ということだったんじゃないかな。だから、日の目を見るサニーサイドであえてやりたいと思わなかったし、そういう意味で最初の頃から全く変わっていない。(笑)スタンスが変わらない。生活のパターンも変わらないですよ。ひっどい生活をしているんですよ。


■どんな生活をしているんですか?(笑)

江戸時代後期じゃないかっていうね。もうひどい生活の仕方をしているんですよ。夏になると開けっぴろげで、蝉がバーっと入ってきてその辺に止まっててさ。冬になったらすごーく寒いのにエアコンひとつなくてさ。暖房器具はさ、50センチ四方のホットカーペットだけ。


■(笑)小さすぎる。

うんうん。それだけだからもう寒い時はひどい寒いわけ。
被害を受けているのはファミリーですよね。だからファミリーは、僕を家長としてはほとんど認めていませんね。(笑)でもすごい親密なんですよ。


■今回のアルバム『We Love MURE san』には日本ジャズ界で人気の面々が参加しています。なかでも、発起人のポンタさん、金澤英明さんとはいかがでしたか?

彼らはね僕のやり方に何にも言わないのね。例えば「こういう風に終わりましょう」とかは当たり前にあるけど、僕の核心に触れるような「ゲイン(音量)」だとか「音質」だとかについては何も言わない。何しろ、僕とポンタさんと金澤さんが中心になって今回のアルバムやったわけじゃやない?そしてあのふたりが僕の語り口でやろうと言った。だからすごく自然に構えずにやれた。構えて弾かずに。こんなに珍しいレコーディングはなかった。みんながね、緊張のこれっぽっちもなかったね。


■みんなのベストプレイが出ている気がします。1曲目の「アマポーラ」から良いですね。

すっごいですよ。「アマポーラ」は昔のキャバレーでよく演奏していた曲ですよ。タバコの煙がすごい中で5回ぐらいステージやるわけ、18時ころから23時くらいまで。全部ダンス音楽ですよ。ダンスっていうかずっとくっついているだけ。チークダンスって言ってたのかな。音楽はさ、「アマポーラ」みたいなのばっかりやってた。

■当時のレパートリーだったんですね。

うん。だからさ、「アマポーラ」はとてもじゃないけど、僕にとってはCDに入れるような曲ではないわけ。だけどやってみればさ、みんな素晴らしいよね。圧倒的な存在感のある人たちばっかりですよ。間違いないですよ。そういう人達はさ、なんというか、僕の「揺れ具合」をよーく分かってるわけ。ひょっとするとさ、アルバムタイトルが『We Love ~』だけど、そういう危なっかしいところが「Love」なのかな。


■(笑)なるほど。

だからこんな嬉しいタイトルはなかったですね。音楽やってて良かったなっていうさ。


[Interview:樋口亨]


We Love MURE san


■タイトル:『We Love MURE san』
■アーティスト:中牟礼貞則&村上"ポンタ"秀一All Stars
■発売日:2012年3月14日
■レーベル:Studio TLive Records
■カタログ番号:XQHG1006
■価格:3,000円(税込)




中牟礼貞則 プロフィール】
1933年鹿児島県出水市に生まれる。'52年、青山学院在学中からジャズ・ギタリストとして活動を開始。日本に黎明期のボサ・ノヴァを紹介、普及させた。2012年で活動60周年、79歳となる現在も現役のプレイヤーであり、各地で演奏を続けている。

類家心平インタビュー ~『類家心平 4 Piece Band / Sector b』:インタビュー / INTERVIEW

菊地成孔ダブセクステットやデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン、
そしてルナ・シーのギタリスト、スギゾーが率いるプロジェクトに参加するなど、
若手ナンバーワンの呼び声高いトランペッター、類家心平。

彼が率いるバンド「類家心平 4 Piece Band」の2枚目で、
菊地成孔のフル・プロデュースによる注目作『Sector b』が発表されました!

そのルックスゆえ、「美男子ジャズ」なんても言われておりますが、(笑)
ジャズのメインストリームにとどまりながらも、プロデュサーの菊地成孔による楽曲や
レディー・ガガのカヴァーも収録した多彩な作品。

類家心平が目指すサウンドとは?



081205_0242.jpg


類家心平 インタビュー

■類家心平 4 Piece Bandを結成するに至った経緯を教えて下さい。

2004年くらいから参加していたurb(アーブ)というクラブジャズっぽいバンドが2006年に解散したのをきっかけに、自分で曲を書いて自分のやりたいことができるメンバーを探して、やりたいことをやろうかなと思ったのが始まりです。


■メンバーとの出会いは?
ドラムの吉岡大輔さんは前からちょっと知ってはいたんですが、ジャズのフィールドでも長いことやってたし、ファンクとかグルーブ系のドラムもかっこよかったんで、自分の頭の中にあった、両方のバランスがいい人というのにピッタリでした。
ハクエイさんと鉄井さんは、噂で名前は聞いていたんですが、池袋のジャズクラブのジャムセッションのホストを務めていたんで、そこにあそびに行って素晴らしいなと思ったのがきっかけです。
だいたいみんな世代的に一緒なんですが、同世代でやりたかったので、そこも大切でしたね。


■イメージしていたサウンドはどのようなものだったのですか?

徐々には変わっては来ているんですけども、90年代ぐらいにジャズと、DJといったクラブカルチャーが接近していた時があって、でも実は接近したようであまり接近していなかったという流れの中で、ジャムバンドとか、クラブで演奏する生バンドがたくさん出てきたんですけども、ジャズをリスペクトする部分がだんだん薄くなってきているような気がしていました。
その薄くなってしまった部分を表現する感じで、下手したら踊れる、クラブのフロアでもぎりぎり大丈夫というようなサウンドがあったらいいなって思っていました。


■「踊る」というキーワードは意識しますか?

盛り上がってきたから立たせなきゃとか、そういうことは全く思わないですけど、ライブだったり演奏というのは生でやっているものなので、その「熱」というか「勢い」が伝われば、身体が動くということにつながると思うので、そこのところは大事にしたいですね。


■約2年前に発表したファーストアルバム『DISTORTED GRACE』は、全曲が類家さんの作曲とプロデュースですが、今回の『Sector b』はカバー曲が入っていたりすることに加えて、菊地成孔さんがプロデューサーです。制作はどうでしたか?

結果として良かったなとすごく思っています。
一作目は、自分がライブでやってきたレパートリーが溜まってきたので形にしたいなというのがあって、やりたいことをとことんやろうかなという感じで、曲順を決めたりだとか細かいことも全部自分でやりました。その結果、良くも悪くも自分ぽい作品にはなったと思いますが、結構大変だったんですね。俯瞰して見た時に、「どうかな?」っていうのが正直なところわからなかったし、もっともっと俯瞰的な立場で見て貰える人がいればいいかなって思いました。
ですので、今回はまずは、気持ち的にちょっと楽でしたね。(笑)何が大変かって、OKっていう線引きをするのが難しいんですね。レコーディングなので、大体は一回や二回のテイクで録るんですけど、やろうとすれば何度かテイクを重ねることができるし、録り直すこともできるんですけど、色々できちゃうが故に、そこでのジャッジメントが自分だと難しいところもあるので、判断してくれる人がいるというのは、自分の中でとても大きかったですね。


■アルバムを作り終えて、バンドリーダーとして、トランペッターとして今後の夢や目標があれば教えて下さい。

少しでも沢山の人に聴いてもらえたらというのがあるので、地域や肌の色問わず、いろんな人の前で演奏していきたいですね。

[Interview:樋口亨]


Sector b


■タイトル:『Sector b』
■アーティスト:類家心平 - SHINPEI RUIKE 4 PIECE BAND
■発売日:2011年9月7日
■レーベル:AIRPLANE LABEL
■カタログ番号:AP-1044
■価格:2,625円(税込)




類家心平 プロフィール】
青森県八戸市出身。
ブラスバンドでトランペットに出会いマイルスデイヴィスに触れジャズに開眼する。
高校卒業後海上自衛隊の音楽隊でトランペットを担当。
自衛隊隊退後2004年にSONYJAZZから
ジャムバンドグループ「urb」のメンバーとしてメジャーデビュー。
「urb」の活動休止後に自身のユニット「類家心平 4 Piece Band」を主催。
2009年6月にファーストアルバム「DISTORTED GRACE」をリリース。
前作より2年たった2011年9月、菊地成孔プロデュースで
2ndアルバム『Sector B』をリリース。
その他「菊地成孔ダブセクテット」、「DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN 」、
元「ビート・クルセイダース」のケイタイモ率いる「WUJA BIN BIN」や
「LUNA SEA」のギタリストSUGIZOが率いるユニットにも参加し活躍の幅を広げている。


【ライブスケジュール】
類家心平4Piece Band『Sector b』レコ発記念ライブ (仮)

<日時>
10月17日(月)
18:30開場 19:30開演

<会場>
スターパインズカフェ(吉祥寺)

<料金>
3000円(税込)ドリンク別

<出演>
類家心平4 Piece Band

類家心平
ハクエイ・キム
鉄井孝司
吉岡大輔

菊地成孔 (ゲストDJ)

naomi & goro & 菊地成孔インタビュー ~『calendula(カレンデュラ)』:インタビュー / INTERVIEW

ジョアン・ジルベルト直系サウンドと言われるボサノヴァ・デュオ、naomi & goro。
自身のプロジェクトの他に、文筆家、講師など多方面でも活躍するジャズメン、菊地成孔。
当然、接点はあるだろうと思っていたこの2組ですが、
意外にもファースト・コンタクトは、昨年の菊地成孔オーガナイズのイベントでの共演とのこと。
その時の演奏の化学反応が、本人たちはもちろんのこと周辺全てを魅了し、
2011年7月13日発売の今作『calendula』へと昇華しました。

ジャズとボサノヴァの共演というと『GETZ / GILBERTO』を思い浮かべますが、
それから半世紀以上経って咲いた『calendula』は如何に?



ngn_main-600.jpg


naomi & goro & 菊地成孔 インタビュー

■収録曲の選曲はどのように進んでいったのですか?

[菊地] アルバムのボリュームを考えると12~13曲ぐらいになるだろうから、コラボレーション・アルバムということで、どっちが主導になるということではなく、ゴローさんが何曲か選んで、オレも何曲か選んで、それでジョビンから何曲かをふたりで選んで、シメにオリジナル曲を入れるっていうのでイイんじゃないのと。で、その話し合いもあっという間に済んで。それで、3.11が来るとはちーとも思っていない社会で曲を持ち寄りまして、選曲会議で決まりました。


■スムースに決まったんですね。

[菊地]揉めてないですね。出したものをやったという感じです。


■選曲のポイントなどありますか?

[菊地]僕は、80年代のチャラいポップスをやればいいなという大枠は決まってましたね。僕が選んだのは、プリファブ・スプラウト「The king of Rock' n Roll」、マイケル・フランクス「Cinema」、ホール&オーツ「One on One」です。ジョビンものは、あんまりカバーを聴いたことがない「Two Kites」ですね。カバー・バージョンに関しては、「ボサノヴァがグラムロックをカバーしてビックリ!」みたいなのは今はもう食傷気味なので、逆に言うとなんでも良いというか。尚美さんが歌ってゴローさんがギター弾けばクオリティーは保証されているんで。


■ゴローさんはいかがですか?「Brigitte」は菊地さんが選んだっぽいんですけど、ゴローさんなんですね。

[ゴロー]そうですね。ま、そう思って選びました。(笑) もともとやりたいなと思っていた曲で。面白いじゃないですか、モード・フォークみたいで。(笑)

[菊地]サラヴァ・レーベル調のサイケデリックスね。

[ゴロー]そうそう、そんな感じで好きで、いつかやりたいなと思っていて。で、このタイミングは一番いいタイミングだなと思って。(笑)

[菊地](笑) この時やんなきゃいつやるんだという感じですね。

[ゴロー](笑) そうそう、一番いいタイミングかなと思って。あとは、ブラジルでシコ・バルキの「A Banda」とか。マルシャというマーチの曲なんですけど。やりたいなと思った曲を選んだだけですね。


■尚美さんはいかがでしたか?80年代ポップスは歌いやすかったですか?

[尚美]大丈夫でしたよ。知らない曲だったので、私にとっては新曲みたいなものだったんですけど、全部譜面に起こして、ボサノヴァ調にあてはめたり、ちょっとずらしたりして楽しかったです。


■今回の作品は『GETZ / GILBERTO』を思い起こさずにはいられない面があると思いますが、あの作品のように制作が難航したりはしなかったですか?

[菊地]そりゃあ大丈夫ですよ。(笑) あれは難航というより、お互いがセッション以来会っていないという絶縁ですからね。(笑)

[一同](爆笑)

[菊地]これは、震災を挟んで制作していたので、余震でレコーディングが中断された記録というか、刻印が入っているアルバムですね。なので、ミュージシャン同士はスムースでも、人間と地球がスムースではなかったというね。(苦笑)

■それによって何か変わりましたか?
[菊地]いやー、客観的には計測できない。実はこのアルバムの出来にはすごく満足しているんだけど、毎日毎日セッションの終わりには放射能の話になっていたというようなとてつもない危機感、緊張感の中で、ボサノヴァを(笑)レコーディングしていたので、ある種の世紀末のような感じがあって(一同笑)。それがアルバムにどう出ているのかすごく興味があって。どういう影響が出ているのかな?あるいは、全く感じられないとかね。それはそれで面白いし。アレだけの状況が全く伝わらないのかというのは、それはそれで面白いなと思います。


■ゴローさんはどうでしたか?

[ゴロー]成孔さんが言ったとおり余震の中でレコーディングしていたので、実際に弾いているときに中断したりしてましたね。船酔い状態ですね。

[菊地]まだ「地震酔い」っていう言葉がよく言われてたもんね。


■あと、当たり前ですが、このアルバムでは naomi & goroさんと菊地さんのコラボにすごく目が行くんですけど、実は他の参加ミュージシャンも充実していますよね。

[菊地]うん、ミュージシャンすごいよ。

[ゴロー]こっそりね。(笑)


■話題のアンドレ・メーマリも弾いてますしね。

[一同]そうなんですよ。

[菊地]日本【大儀見元(パーカッション)、秋田ゴールドマン(ベース)、徳澤青弦(チェロ)】、ブラジル【ラファエル・バルタ(ドラム)、ジョルジ・エルダー(ベース)、アンドレ・メーマリ(ピアノ)】の両勢が贅沢だよね。

[ゴロー]かなり贅沢なんですよ。ぜひアピールしてください。(笑)

[菊地]ここのアピールとチェンバロのアピールをしてください。(笑)


■そうなんですよ!チェンバロがすごく印象的なんですが。

[ゴロー]どっちかっていうと成孔さんはチェンバロですよね?

[一同](笑)


■チェンバロはもともと入れる予定だったんですか?

[菊地]ううん。(笑)おかしかったんですね、やっぱり地震でね。なんかが狂ってたと思う。(笑)あのね、リハ(リハーサル)の時にアコピ(アコースティックピアノ)を弾こうと思ってたんですけど、アコピがなくてシンセになって。シンセって、オルガンとかクラヴィ(クラヴィネット)とか色んな音色が入っているじゃないですか、それでゴローさんがギター弾いてて、チェンバロにしてやったら、ちょっと良かったんですよね。


■いいですよね。

[菊地]ボサノヴァにチェンバロって新鮮だなってちょっと思って。90年代の渋谷系のチェンバロものっていう雰囲気もあるし、同時に未来的というか、聴いたことないこんなのっていうね。


■ちょっとサイケデリックでエキゾチックなところもあって、60年代バート・バカラックのカバーみたいな味もありますね。

[菊地]そうですね。


■結構どの曲にも入っていますよね。

[一同](笑)

[菊地]実際は全曲には入ってなくて数曲にしか入ってないんだけど、出てくるとビックリするから全曲に入っている気がするんだよね。(笑)


■すごく特徴的なサウンドです。

[ゴロー]ここ(プロモーション資料)に書いてないのが不思議なくらいで。あんなに鳴ってるのに。

[一同](爆笑)


■参加ミュージシャンの話に戻りますが、人選はどうのようにして決まったんですか?

[ゴロー]ブラジルのリズム隊は、前のnaomi & goroのブラジルで2009年に録ったアルバム『Bossa Nova Songbook 2』と『passagem』のメンバーです。ピアノのアンドレ・メーマリは、実は2009年の2つのアルバムで弾いてほしいとファーストコールでお願いしたのですが、実現出来なくて、そしたらちょうど日本に来日していて、良いタイミングなのでやってもらったんですよね。


■日本人勢は、菊地さんのぺぺ(トルメント・アスカラール)周辺ですか?

[菊地]そうですね。

[ゴロー]よかったですよ、すごく。特に「Brigitte」のパーカッションはすごく素晴らしい。


■菊地さんのサックスですが、ボサノヴァの土台で演奏することは今までとは違ったものがありましたか?

[菊地]きっかけとなったイベント以降もライブをやったんですが、それらはゴローさんのギターと尚美さんのヴォーカルというミニマル編成だったんで、小さく吹くセッティングをしてミニマルに吹くように心がけていたんですけど、これも今から思うと震災で興奮していたということもあると思いますが、レコーディングでは、そんなに変えずに結構吹いてんの。まあ結果として良かったからいいんだけど、もうちょっとミニマルにしても良かったかなって今思ってるんですよね。


■それは、フレーズの長さとかそういうことですか?

[菊地]そうそうそう。音量と音数。とはいえ、それは何というか、スタン・ゲッツからウェイン・ショーターへというような意識の動きですよね。イメージとしては、ボサノヴァっていうよりショーターの『Native Dancer』とか、ああいうモードジャズ+ブラジリアンっていう感じにちょっと寄せてるつもりです。


■naomi & goroのアルバムはヴォーカルアルバムだと思いますが、ヴォーカルアルバムとして仕上げていく上で気にかけていることはありますか?

[菊地]尚美さんはもう完璧というか、悪い意味ではなくある意味、機械的というか楽譜に書いてそれを読んでいくだけというメカニカルなところもあって、「こんな歌いまわしは出来ません」とか気難しいところがなく、包容力があって何でもバーっと歌ってくださるので、プリファブ・スプラウトとかも絶対いい調子で歌うに決まってるっていう信頼があったので何も一切考えていないです。実際そうでした。

[ゴロー]今言われて気がついたんですけど、そうなんですよ、尚美ちゃんはなんでも歌ってくれるというか(笑)、非常にありがたい事で。

[尚美](笑)私、子供の頃からコーリューブンゲンをやらされていて。あれって譜面をパッと出されてパッと歌わなきゃいけないじゃないですか。それが子供の頃からあったんで染みついているんですよね。

[ゴロー]譜面というよりも曲の楽想を選ばないっていうか。(笑)自分が気まぐれで選んだ曲をポップスでも歌謡曲でも何でも歌ってもらえるんで。本当に、今、成孔さんに言われてみてありがたいなとヒシヒシと感じているんですけど。(笑)ヴォーカリストはもっとわがままで、「こんな歌詞の歌は歌えない」とか、そういう話はよく聞くので。そういう悩みは今までないので、曲を選ぶときも、尚美ちゃんが歌えばこんな感じになるなと想像すれば、大体思ったとおりになるので。そういう意味では苦労はなんにもないです。


■では最後に、このアルバムを気に入った人たちにオススメできる作品を教えてください。

[菊地]2008年のグラミー最優秀アルバム賞を受賞したハービー・ハンコックの、ウェイン・ショーターも参加している『River』。すっごい、いいアルバム。ありゃ受賞するなっていう。あれはね、『GETZ / GILBERTO』以来43年ぶりにジャズメンがとった年間最優秀アルバムなんですよ。端っこの賞じゃなくて、センターの賞ね。すごい静かでヴォーカルものでいいんですよ。なので、あれをオススメします。

[ゴロー]いいアルバムをオススメでいいんですか?(笑)

[一同](笑)

[菊地]タッチが似てんの。歌とサックスと最低限の楽器で出来てるの。

[ゴロー]今パッと浮かんだのが、ボズ・スキャッグスがギル・ゴールドスタインといっしょにやった『Speak Low』。ブラジルでレコーディングしている時もずっと聴いてて。そのまま忘れてきちゃったんですけど。(笑)今回のアルバムをレコーディングする最初の時もなんかそういうイメージがあって。あれは、バスクラとか図太い管が鳴ってるんですよ。成孔さんとやる時になんとなく、そういう管の響きをイメージしてたなと、今思い起こせば。

[尚美]セルソ・フォンセカ&ロナルド・バストスの『Slow Motion Bossa Nova』

[菊地]あれ、いいアルバム。

[ゴロー]いいっすね、この3枚いいっすね。

[一同](笑)

[ゴロー]完璧じゃないですか。(笑)

[菊地]完璧な3枚だよね。(笑)そっち先聴けよ、みたいな。(笑)

[一同](爆笑)

[ゴロー]間違いない。

[菊地]間違いない。

[一同](笑)

[尚美]『Slow Motion Bossa Nova』、トランペットとサックスとトロンボーンのホーンセクションが入っていて。ボサノヴァのアルバムで管がたくさんあるのはそんなにないんですけど、ものすごくうまく出来ているんですよ。

[Interview:樋口亨]


ngn_h1.jpg


■タイトル:『calendula(カレンデュラ)』
■アーティスト:naomi & goro & 菊地成孔
■発売日:2011年7月13日
■レーベル:commmons
■カタログ番号:RZCM-46790
■価格:2,800円(税込)




naomi & goro (なおみあんどごろー) プロフィール】
布施尚美 |vocal,guitar
伊藤ゴロー|guitar,vocal
透き通るように美しい、天使の歌声をもつ布施尚美と、暖かく繊細な音色とハーモニーで語りかけるギターの名手伊藤ゴローによるボサノヴァ・デュオ。世界的に見ても、今最もジョアン・ジルベルト直系のサウンドと言われ、ジョアン・ジルベルト・マナーをふまえた、ギターの弾き語りというシンプルなスタイルで、コードの響き、言葉の響きを大切に、カバー曲からオリジナル曲まで演奏。2009 年にブラジルはリオデジャネイロで録音したアルバム「Bossa Nova Songbook 2(ボサノヴァカバー集)」「passagem(オリジナルアルバム)」をcommmons よりリリース。ピアノに坂本龍一、チェロにジャキス・モレレンバウムも参加。また、韓国、台湾でもアルバムをリリースし、2010 年4月に韓国ソウルで行なわれたワンマンホールライブはソールドアウトの大成功をおさめる。また、伊藤ゴローはソロユニットMOOSE HILLとして、作編曲家、プロデューサーとしても活動。映画音楽やドラマ、CMの音楽も手がけ、原田郁子他に楽曲提供も行なう。原田知世の直近2作「music&me」「eyja」もプロデュース作品。昨年は4年ぶりのソロアルバム「Cloud Happiness」をリリース、クリスマス企画盤「Christmas Songs(細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一他参加)」もプロデュースする。2011年2月には青森県立美術館で自身で製作した映像と音によるサウンドインスタレーションも行なう。

菊地成孔 (きくち なるよし) プロフィール】
音楽家/文筆家/音楽講師
ジャズメンとして活動/思想の軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽/著述活動を旺盛に展開し、ラジオ/テレビ番組でのナヴィゲーター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画/テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価が高い。
「一個人にその全仕事をフォローするのは不可能」と言われる程の驚異的な多作家でありながら、総ての仕事に一貫する高い実験性と大衆性、独特のエロティシズムと異形のインテリジェンスによって性別、年齢、国籍を越えた高い支持を集めつづけている、現代の東京を代表するディレッタント。昨年、世界で初めて10年間分の全仕事をUSB メモリに収録した、音楽家としての全集「闘争のエチカ」を発表。主著はエッセイ集「スペインの宇宙食」(小学館)マイルス・デイヴィスの研究書「M/D ~マイルス・デューイ・デイヴィス3世研究(河出新書/大谷能生と共著)」等。


naomi & goro & 菊地成孔『calendula』リリース記念インストアライブ決定!

『calendula』リリース記念イベント@タワーレコード渋谷店
日時:2011年7月23日(土) 15:30~
会場:タワーレコード渋谷店 5F

■イベント内容
トーク&ミニライヴ&サイン会

■CD購入特典
タワーレコード渋谷店にて対象商品となる2011年7月13日リリースの
「calendula(RZCM-46790)」を1枚ご購入につき先着で「サイン会参加券」を1枚お渡し致します。
「サイン会参加券」をお持ちのお客様は参加券1枚につき1度、イベント当日ミニライヴ終了後に行われるサイン会にご参加頂けます。

■注意事項
※「サイン会参加券」はいかなる場合(紛失・盗難等含む)においても再発行は致しませんのでご了承ください。
※「サイン会参加券」はイベント当日のみの有効となります。
※当日は必ずお買い上げのCDをお持ちください。サインはCDジャケットに行います。
※アーティスト出演中の撮影・録音・録画等の行為は一切禁止とさせて頂きます。
※当日の販売商品、「サイン会参加券」の数には限りがございます。なくなり次第終了となりますので、予めご了承ください。
※対象商品をご購入頂いた際、払い戻しは一切行いませんので予めご了承下さい。不良品は良品交換とさせて頂きます。
※当日の交通費・宿泊費等はお客様負担となります。
※諸事情により、イベント不可能と判断された場合は、イベントを中止致します。
※イベント内容は当日の天候、その他諸事情により変更になる可能性がございます。予めご了承ください。

■お問い合わせ先
タワーレコード渋谷店(03-3496-3661)


『calendula』リリース記念イベント@タワーレコード新宿店
日時:2011年8月5日(金) 21:00~
会場:タワーレコード新宿店 7F

■イベント内容
トーク&ミニライヴ&サイン会

■CD購入特典
タワーレコード渋谷店にて対象商品となる2011年7月13日リリースの
「calendula(RZCM-46790)」を1枚ご購入につき先着で「サイン会参加券」を1枚お渡し致します。
「サイン会参加券」をお持ちのお客様は参加券1枚につき1度、イベント当日ミニライヴ終了後に行われるサイン会にご参加頂けます。

■注意事項
※「サイン会参加券」はいかなる場合(紛失・盗難等含む)においても再発行は致しませんのでご了承ください。
※「サイン会参加券」はイベント当日のみの有効となります。
※当日は必ずお買い上げのCDをお持ちください。サインはCDジャケットに行います。
※アーティスト出演中の撮影・録音・録画等の行為は一切禁止とさせて頂きます。
※当日の販売商品、「サイン会参加券」の数には限りがございます。なくなり次第終了となりますので、予めご了承ください。
※対象商品をご購入頂いた際、払い戻しは一切行いませんので予めご了承下さい。不良品は良品交換とさせて頂きます。
※当日の交通費・宿泊費等はお客様負担となります。
※諸事情により、イベント不可能と判断された場合は、イベントを中止致します。
※イベント内容は当日の天候、その他諸事情により変更になる可能性がございます。予めご了承ください。

■お問い合わせ先
(問) タワーレコード新宿店:03-5360-7811


naomi & goro & 菊地成孔 ビルボードライブ東京でのライブが決定!

予約開始はClubBBL/ 法人会員の方が7/13から、ゲストメンバーは7/20からとなります。
詳細はこちら


<おまけ>
Herbie Hancock and Corinne Bailey Rae - River Live on Abbey Road



Boz Scaggs - Speak Low



Celso Fonseca - Slow motion bossa nova

沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE)インタビュー ~『DESTINY』:インタビュー / INTERVIEW

今年4月に3冊目の書籍『フィルター思考で解を導く』(なんとビジネス書!)を発売するなど、
独自の視点で表現、創造し続ける、沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE)。

ソロとしては約4年ぶりとなる待望の新作『DESTINY』を7/13にリリース!
今回は"JAZZ MEETS BOOGIE"をコンセプトに、カバーとオリジナルを半数ずつ収録。
DJとしての選曲眼と作曲家としてのスキルを詰め込んだ、沖野さんらしいチャレンジングな作品です。

その新作『DESTINY』について、沖野さんとのインタビューをお届けします。
新作にも関わりのある楽曲をBGMにお楽しみ下さい。


沖野修也 インタビュー

■今回の作品は"JAZZ"と"BOOGIE"の融合。
沖野さんがよくプレイされるBOOGIEナンバーを教えて下さい。
また、なぜ今"JAZZ"と"BOOGIE"の融合に挑まれたのでしょうか?

前作、『UNITED LEGENDS』で、参加してくれたPHIL ASHERやSEIJIは、80年代前半のエレクトロ・ブギーに影響を受けたトラックを制作してくれました。その後出した『UNITED LEGENDS replayed by SLEEP WALKER』で、オリジナルを全編生演奏のジャズに変換した訳ですが、その時点で、次作では、ブギー感覚と生演奏を一枚のアルバムで融合すべきだなと考えていたんです。
又、クラブ・ジャズ・シーンでは、生バンドの隆盛が著しく、DJサイドからの新しい音楽提案が停滞しているので、JAZZとBOOGIEの融合を目指しながら、ハウスやデトロイト・テクノ、ブレイク・ビーツやヒップ・ホップ、更にはディスコ・ダブといった現代的な音楽の要素も取り入れ、最新のクロスオーバー・ミュージックの創作にも挑んでいます。


「DEODATO / KEEP IT IN THE FAMILY」


■今回アルバム制作にあたり、『UNITED FUTURE ORGANIZATION』(1993)と『NUYORICAN SOUL』(1996)という過去の名作を聴き直されたそうですが、新ためてこれらを聴いて感じたこと、そして今回の作品にも影響を及ぼした事を教えて下さい。

これら名盤にはカバー曲が多数収録されている事を改めて発見しました。安易なカバー曲のチョイスではなく、選曲の妙がDJプロデューサーの作るアルバムには必要であると思ったんです。


「NUYORICAN SOUL feat.INDIA / RUNAWAY」


■「Still In Love feat Navasha Daya」では、途中ジャズのインタープレイ的なブレイクが入るなど、純粋なカバーではない、様々な試みも感じました。
収録曲中、半分がカバーナンバーですが、選曲理由そしてカバーする上で一番大事にされた事を教えて下さい。

選曲理由は、選抜したヴォーカリストの声に僕の選んだ曲が合うかどうかという見極め。
一番大事にした事は、意外性を盛り込む事です。


「Rose Royce / Still in love」


■そのカバーつながりではないですが、JJazz.Netでもお馴染み、DJ KAWASAKIさんが今年(?)DANCE CLASSICSのカバーアルバムをリリースされるとお伺いしました。
沖野さんが現在もよくクラブプレイするクラシックスとは?また沖野さんにとってどういう所がクラシックスであり続けるのでしょうか?

僕にとってのクラシックスとは、その時代におけるアレンジの先鋭性とメロディーの普遍性ですね。


「Light of the world / Time 」


■ビジネス本!「フィルター思考で解を導く」も発売されたばかりですが、数多ある情報の中から答えを見つけ出すのは今特に難しくなっていると感じています。
沖野さんはTwitter等で問題提起もよくされていますが、自身のフィルターを磨く為にするべき事はどういう事だとお考えですか?

自分のものさしを持つ事です。実は、自分にとってなにが必要なのかをわかっている人が少ないように思います。
人がいいというものに同調するのではなく、自分の生活に必要不可欠なものが何であるかを検証すべきでしょう。その上で自分にはどういう情報が必要で、誰の見解を参考にすれば良いのかを考える事が大切だと思います。


ありがとうございました。

[Text:岡村誠樹]

shuyaokino_destiny.jpg
■タイトル:『DESTINY』
■アーティスト:OKINO SHUYA
■発売日:2011年7月13日
■レーベル:Village Again Record
■カタログ番号:VIA-88
■価格:2,300円(税込)




SHUYAOKINO.jpg

沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE) プロフィール】
DJ/クリエイティヴ・ディレクター/執筆家/世界唯一の選曲評論家。
Tokyo Crossover/Jazz Festivalの発起人。そして開店以来19年で70万人の動員を誇る渋谷の老舗クラブ、The Roomのプロデューサーでもある。KYOTO JAZZ MASSIVE名義でリリースした「ECLIPSE」は、英国国営放送BBCラジオZUBBチャートで3週連続No.1の座を獲得。アルバム『Spirit Of The Sun』(COMPOST RECORDS)で全世界デビュー。音楽プロデューサーとして、MONDO GROSSO、MONDAY満ちる、DJ KAWASAKI、SLEEP WALKER、吉澤はじめ、JOYRIDE、ROOT SOULの海外デビューを次々と手掛けて来たが、関わったアルバムの総セールスは400万枚を超えている。この10年間で世界30ヶ国120都市に招聘されただけでなく、CNNやBILLBOARD等でも取り上げられる、本当の意味で世界標準をクリアできる数少ない日本人DJの一人。2005年には世界初の選曲ガイドブック『DJ 選曲術』を発表し執筆家としても注目を集める。
最近では、音楽で空間の価値を変える"サウンド・ブランディング"の第一人者として、映画館、ホテル、銀行、空港の音楽設計を手掛ける。2011年4月、3冊目となる書籍『フィルター思考で解を導く』(フォレスト出版)を発売。同年7月、4年振り、2枚目のソロ・アルバム『DESTINY』をリリースする。現在、KYOTO JAZZ MASSIVEニュー・アルバム、レコーディング中。


【スケジュール】

7/1(金)
沖野修也×『Numero TOKYO』編集長・田中杏子トークイベント
「これからの"音楽"と"ファッション"の選び方」
@ROPPONGI/ 青山ブックセンター六本木店

7/9(土)
菊地成孔presents "HOT HOUSE
@日本橋三井ホール

7/23(土)
JAZZTRONICA!
@渋谷The Room

7/24(日)
2ndソロ・アルバム『Destiny』リリース・パーティ
@宮崎 corner

8/6(土)
2011全国真宗青年の集い 750回大遠忌法要記念大会
@京都本願寺御影堂

8/20(土)
2ndソロ・アルバム『Destiny』リリース・パーティ
@京都 メトロ


【沖野修也 ソロ・アルバム『DESTINY』リリース・パーティ】

7/30(土) 東京 The Room  
*Guest DJ:Patrick Forge
8/20(金) 京都 Metro
8/21(土) 宮崎 corner
10/14(金)石垣 GRAND SLAM
10/15(土)沖縄本島 club CLUTCH
10/21(金) 札幌 acidroom
10/22(土) 高知 Cafe de Blue

*他地方も随時ブッキング中

寺久保エレナインタビュー ~『NEW YORK ATTITUDE』:インタビュー / INTERVIEW

昨年、デビュー作『NORTH BIRD』でデビューを果たし、衝撃を与えたサックス奏者、寺久保エレナ。
渡辺貞夫、日野皓正、山下洋輔、ロン・カーター、オマー・ハキムなどなど、
数々のビッグミュージシャンとの共演を経て、待望のセカンドアルバム『NEW YORK ATTITUDE』を発表しました!

19歳の女性へのインタビューは初めてでしたが、自分に厳しく、しっかりとした考えの持ち主でした。

ニューヨークで行われたレコーディングについてなどのインタビューをお届けします。



寺久保エレナ


寺久保エレナ インタビュー

■前作に続き、ニューヨークでのレコーディングですね。ニューヨークは好きですか?

大好きですね。あらゆるものの中心だという気がするので、いるだけでテンションが上がります。


■ライブも見に行ったりしたんですか?

時間がなくていけなかったんですが、、、震災を受けてのジャパン・ベネフィット・コンサートは見に行きました。


■どうでした?

いやー、すごかったです。ほんとに。いろんなスターが集まっていて、今回のレコーディングメンバーのロン・カーターやケニー・バロンはもちろんのこと、ミッシェル・カミロとか、みんなが知っている人が50人くらい同じステージに立っていて。おかしくなるくらい興奮しました。


■そのロン・カーターやケニー・バロンとレコーディングするきっかけとなったのは、やはり東京ジャズ2010での共演ですか?

そうですね。その時にロンさんから「またいつでもやってあげるよ」みたいなことを言ってもらえて。「じゃあ、レコーディングお願いします」って言ったら「はい」って(笑)決まったんです。


■東京ジャズでの演奏はいかがでした?

すごい感動しましたね。あれがジャズなんだなという感じでした。


■具体的には?

口では説明できなくて、聴いたらわかると思うんですけど、あの人が弾けば全部がジャズなんだと思わせる演奏とエネルギー。あと、私なんかのバックでやっているのに全力でやってくれたというのがスゴイことですよね。


■日本でも渡辺貞夫さんや日野皓正さん、山下洋輔さんなど、大御所と呼ばれている方々と共演されていますが、緊張はしないのですか?

お会いするまでは緊張します。でも演奏を一曲やったら全然緊張しないで、友達みたいに接することができますね。


■音でつながるという感じですか?

そうですね。お会いするまでは本当に緊張しますけど。(笑)


■レコーディング中のコミュニケーションはどうでしたか?

ジョークばっかり言われてずっと笑っていました。(笑)去年よりも私が英語を少し良く聞き取れるようになったこともあるかもしれないですけど。本当にアットホームで楽しいレコーディングでしたね。ずーーっと楽しい話をしていました。演奏中もロンがヘンな顔とかして。(笑)


■作業はスムースに進んだんですか?

いえ。私のオリジナル(アルバム8曲目「Fascination」)だけは手こずりましたね。
ベースとピアノのパートが難しいのを書いちゃったので。。。「え~、こんなんできないよ」(笑)って感じだったんですけど、「でも、私はこれをやって欲しいんだ」って伝えたら、練習を何回もしてきてくれて、、、


■笑

きっちりとやってくれましたね、最終的には。


■音楽的なところでもコミュニケーションがあって、さらにリーダーシップもとっているんですね。

そうですね。リーダーシップを取らなきゃ自分のアルバムにもならないんで、いくらケニー・バロンやロン・カーターがいても、もう一回やりたいとか、ダメなものはダメと言いますし、それでやっとむこうも本気になってくれますね。


■そういったところは前作のレコーディングの経験からですか?

前作でも、思ったことは全部伝えていたので全然悔いはないんです。
デビューする前に録音したアルバムがあるんですけど、その時に私は、すごい後悔をしたんですね。一番最初のアルバムで、レコーディングというものがどういうものか全く知らなくて、適当に行って適当に吹いたのがアルバムになって一生残っちゃったというのを一回経験しているんで、それをもう二度とやりたくないと思っているんです。
だから、もう一回やりなおして欲しいと思ったら、いくら嫌な顔をされても、絶対やり直してくださいとお願いするようになりました。(笑)


■収録曲の選曲はどのように進めたのですか?

これは全部自分で選んだんですけど、メンバーもメンバーなので、全部オリジナル曲ということではなくてスタンダードを中心にやりたいなと思いました。


■アルバムタイトルにもなっている「ニューヨーク・アティチュード」は?

ピアノのケニー・バロンの曲なんですけど、その演奏を聴いてかっこいいなと思っていて、一緒にやれるチャンスがあればこの曲をやろうと思っていました。だって、本人とやれることなんて滅多にないですもんね。


■アルバムにはのびのびと演奏している感じが出ていますね。

そうですね。やっぱりリラックスしないといいレコーディングができないと思っていたんですけど、みんながうまくそういう雰囲気を作ってくれました。ピリピリした空気はなかったです。


■アルバムレコーディング前にフランスとアフリカに行かれたそうですが、いかがでした?

いやもう、フランスは普通に良かったんですけど、アフリカはすっごいインパクトがありますね。


■アフリカ、行ったことがないんですよ。

絶対行ったほうがいいですよ。いろんな苦労はしますけど。(笑)考え方が全く変わっちゃいますね。食料とか電気とか生活の違いから自分の暮らしを考え直したり。現地の音楽、民族音楽を聴いたんですけど、生きている喜びだとか音楽をやる楽しさが伝わってきました。そういうのを、今回のアルバムに込めることができたらなと思っていました。


■このアルバムに影響を与える体験でしたね。

本当にそうですね。レコーディングの直前でしたし。


■演奏はしたんですよね?

はい。すごい喜んでもらえました。


■楽器は持っていったんですか?

持って行ってひどい感じになりましたけど。(笑)毎日気温が40度なんでね、そりゃあ当然ひどい状態になるんですけど、でも、持って行って演奏した甲斐はありました。


■アルバムが発売されてツアーをした後に、バークリーに留学されるんですよね?

はい。たぶん2、3年は行っていると思います。


■何を期待していますか?

アメリカで生活をしてみたいんですよね。むこうの同世代と音楽をやって、というような生活がしたいです。英語もうまくなりたいですし。


■同世代という言葉が出ましたが、エレナさんの世代がトライできる新しいジャズというものがあるとしたら、どういったものだと思いますか?

無理して新しいものをやろうやろうとしても、適当でしかなくなっちゃうと思うので、歴史をさかのぼって原点を確認して、その原点もちゃんとできるしバップもできるし、マイルスの後期とかも聴いているしとかいう人が新しいことをやって行くのであって、私が新しい音楽をこれからやるというのは、まだ早いと思います。だから、もっと全部できるようになってからそういう事は考えたいです。


■よくわかりました。留学までびっしりとツアースケジュールが入っていますが大丈夫ですか?(笑)

ぜんぜん大丈夫じゃないです。(笑)ほんとに大変です。(笑)でも、ツアーは楽しみです。アフリカとフランスで一緒に演奏したすごいメンバーなんですよ。いっぱいあるけど、全部最高の演奏ができるように頑張ります。


■最後になりますが、目標や夢は?

目標というのは特にないんですけど、やっぱりうまくなりたいですよね。無限に。なんか目標を立ててしまうとそこで終わっちゃうような気がして。だから目標はつくらずに、無限にうまくなっていきたいです。あとは、オーケストラのアレンジとかもしてみたいです。何でもできるようになりたいです。

[Interview:樋口亨]


NY Attitude


■タイトル:『NEW YORK ATTITUDE』
■アーティスト:寺久保エレナ
■発売日:2011年6月22日
■レーベル:キングレコード(Blue in Green)
■カタログ番号:KICJ−615
■価格:3,000円(税込)




寺久保エレナ プロフィール】
1992年札幌生まれ。2002年〜2007年(10才〜15才)札幌ジュニア・ジャズ・オーケストラに参加。
2005年(13才)最年少でボストン・バークリー・アワードを受賞。2007年、2008年ボストン・バークリー音楽院に奨学生としてサマープログラムに短期留学。2009年バークリー・サマー・ジャズ・ワークショップに日本人として初めて選抜される。
2010年3月高校在学中にニューヨークにてKenny Barron(p)、Christian Mcbride(b)といったジャズの巨匠たちを従えて1stアルバム『NORTH BIRD』をレコーディングし、6月キングレコードからメジャーデビュー。ジャズ専門誌Swing Journalのゴールドディスクにも選定される。
同年8月【札幌シティジャズ2010】ではオープニングライブを務め、9月には【東京ジャズ2010】に出演。Ron Carter(b)、Omar Hakim(ds)らと共演したステージは多くのジャズファンに衝撃を与えた。
10月【LAWSON JAZZ WEEK 大阪】(共演:Michel Camilo(p))出演。
11月【NAGOYA AKARI JAZZ】(共演:山下洋輔(p))出演。
12月【HTB朝日ジルベスターコンサート】(共演:札幌交響楽団)出演。
2011年3月札幌市内の高校を卒業。国際交流基金の主催によるフランス、ブルキナファソ(西アフリカ)での海外公演を行う。
4月NYにてジャズベースの巨匠Ron Carter(b)と2ndアルバムをレコーディング。秋からのボストン・バークリー音楽院留学を控え、2011年夏には全国ツアーが予定されている。


【ライブスケジュール】
【寺久保エレナ・カルテット・ライブツアー2011】
musicians
sax:寺久保エレナ
piano:大林武司
bass:井上陽介/中村健吾/坂崎拓也 *日程により異なります。
drums:マーク・ホイットフィールド・Jr

7/7(木)東京/調布グリーンホール
7/11(月)新宿 Pit Inn
7/12(火)山梨/甲府:Cotton Club
7/17(日)新潟/上越:多田金G&MCP
7/18(月)長野:Back Drop
7/20(水)広島:Speak Low
7/21(木)岡山:Cafe SOHO
7/22(金)名古屋:Blue Note
7/23(土)福岡/中間:なかまハーモニーホール
7/24(日)山口/岩国:周東パストラルホール
7/27(水)山形/新庄:Lexington Shinjo
7/28(木)福島:Mingus
8/1(月)、2(火)大阪:Mister Kelly's (2days)
8/4(木)北海道:大空町教育文化会館
8/5(金)北海道:函館市民会館
8/6(土)北海道:豊浦町地域交流センター とわにー
8/7(日)北海道:幕別町百年記念ホール


【Special Concert】
6/26(日)西東京市保谷こもれびホール
『Jazz Live 2011 produced by 笹路正徳』共演:笹路正徳、三好"3吉"巧郎、納浩一、本田珠也
6/29(水)苫小牧市民会館
『Fride Prideと仲間たち「THE PARTY」』共演:Fride Pride、日野晧正、coba


【Jazz Festival出演】
7/15(金)札幌シティジャズ2011
7/16(土)13thビッグバンドジャズフェスティバル with エリック・ミヤシロ EM BAND
7/30(土)22th南郷サマージャズフェスティバル
7/31(日)23thモントレージャズフェスティバルin能登


【東日本大震災復興支援コンサート"子どもたちが元気な未来へ"Bravo! Piano】
出演:寺久保エレナ、佐山雅弘、川嶋あい、木下航志、中園理沙

6/24(金)札幌コンサートホールKitara大ホール
6/28(火)中京大学文化市民会館 プルニエホール
6/30(木)大阪 新歌舞伎座
7/1(金)福岡国際会議場メインホール
7/8(金)東京国際フォーラム ホールC

*詳細は寺久保エレナOfficial Web Site をご覧下さい。

問合せ先:株式会社オフィスエム・ツー TEL03-5468-0662

万波麻希インタビュー ~『Jacob Koller and Maki Mannami / Pilot』:インタビュー / INTERVIEW

お馴染み須永辰緒氏プロデュースのものを含む2枚のソロアルバムをこれまでにリリースしている女性アーティスト、万波麻希。
現在「ジャズ」という音楽の定義やイメージが拡張しているとはいえ、そこに収まらずに、その活動や音楽を通じて、貪欲に自由に自分というものを追い求めています。
4月に発表された約3年ぶりとなる作品は、意外にも、アメリカ人ピアニストとのコラボレーションです。
2人の出会いやアルバムが出来上がるまでのストーリーが非常に面白いのでこちらもチェックしてみてください。
これまでの作品と比べて、スムースで優しく、ジャズ的に聞こえると同時に、随所に持ち前のエッジも散りばめられています。
シンガーソングライターの作品のような静けさ、クラブミュージックなどがもつエッジ、どちらかを求めている人や両方を求めている人、どちらにもおすすめです!



DSC_8948fix2.jpg


万波麻希インタビュー

■ ジャズスタンダードの他に、ジョニ・ミッチェルやビョーク、レオナード・コーエンなどシンガーソングライターの楽曲もたくさん取り上げています。選曲はどのようにして進めましたか?

もともと、カバーに興味ないんです。オリジナルがあるのに、なんで人の曲をやるのかな、と。カバーを入れないと売れない、っていう風潮が蔓延してますが、入れても売れない、ってなんでみんな気づかないのかな、とか(笑)。でもカバーやらないとレコード会社が出してもくれない。ということでぶっちゃけイヤイヤやったんですが(笑)、どうせやるなら自分の本当に思い入れのある曲をやろうと思いまして。ジェイコブと、カバー入れないといけないけど何やる? って話してて、彼も、今さらありきたりなジャズスタンダードとかやりたくないよね、って言ってたんです。それで、ポップスとかロックにも目を向けてみて。ジョニ・ミッチェル、ビョーク、レオナード・コーエンの曲は、私が歌詞を心から愛しているから。「Send in the Clown」も歌詞が好きなんですが、これは私が尊敬するスティーヴン・ソンドハイムというミュージカルのソングライターの曲で、高校生の頃から歌っていたのでことさら思い入れが深い。「Naima」はジェイコブと私の個性を活かせる曲だと思っていて、二人でライブで何度も演奏してきたから。付け焼刃にならないよう、念入りに曲を選んだので、結果的にはやってよかったと思います。前作でカバーやった時はアレンジで勝負したい気持ちが強かったけど、今回は曲によってはジェイコブにアレンジを任せたので、歌に集中できたし、人の曲を歌うということでまた得たことも大きかったです。


■ これまでの作品と比べて、よりジャズとポップの要素が強くなった内容だと思います。その理由は?

昔から曲を作る際に「美しいメロディー」という要素は不可欠でしたが、それを敢えてコラージュの一環として扱うようにしていました。あくまでオリジナルの世界観を作ることに要点を置いていたから。最近はストレートな曲がより胸に響くようになったんですが、歳とったんですかね(笑)。20代の頃の自分は精神的にも混沌としていて、それがよく音に表れていたと思う。ポップな要素が強くなったのは、そういう部分をある意味乗り越えたというか、より表現が素直になってきたんだと思います。コアな音作りをしていた頃から、いつかアルバムの最後に一曲、とかでもいいからオーソドックスなフォークソングをピアノと歌だけでやりたいと思って、実は前回のアルバムでも用意してたけど、ボツになった(笑)。だから今回のアルバムは私の中のポップ願望がより前面に出た、という感じでしょうか。ただこれからもポップ路線でいくとかでは決してないです。今回それをある程度出し切ったから、次はまたディープな音作りにも戻りたい。
ジャズに関しては、これも私にとってはコラージュの一環でしかなくて、ジャズアーティストと呼ばれることに最初から違和感を感じてたし、1枚目も2枚目も、私はジャズのアルバムを作ったつもりは全くなかった。将来的にジャズに向き合ったアルバムを一枚作りたいとは思ってて、ジェイコブが日本に活動の拠点を移したことを機に、今作で挑戦することにしました。彼となら私の中にあるヴィジョンを実現できると思ったから。これは決してストレート・ジャズではないけど、私の中ではこれ以上ジャズ寄りになることはないです。これが私にとって、私なりの、最初で最後のジャズアルバムかもしれない。


■ アルバムタイトルについて教えてください。

海外のテレビドラマで、試験的な意味で放映する一話目のことを『パイロット』っていうんですが、私とジェイコブのコラボはまだ始まったばかりで、これから続編をどんどん作りますっていう意味でつけました。


■ 前作から今作発表までの間に、拠点をベルリンやニューヨークへと移していたそうですが、その理由や現地での様子を教えてください。また、その経験が今作に影響を与えていますか?もしそうであれば、どういった形で影響を与えているか教えてください。

話すと長くてここには書ききれませんが、私は大阪で生まれ育ったんですが、大阪は非営利な活動に没頭するコアなアーティストが集う街なんです。東京での音楽活動は勉強になったし感謝もしてるけど、ビジネスライクな音楽シーンに戸惑ったり否定的になることも多かった。いったんゼロに戻さないと私の中でこれ以上何も生まれないと思ったのと、新しい刺激が欲しかったので、3年ほど前に放浪を始めました。ベルリンでは最新のエレクトロ系の音に刺激を受けたり、Jazzanovaに参加してるSebastian Studnitzkyっていうトランペッターとコラボしたり、イベントオーガナイズしたり、DJやったりもした。その間にロンドンに行って、ロイヤルオペラハウスでのライブに出演しました。それからスペインのアンダルシアに飛んでフラメンコに没頭して、ニューヨークではサマーフェスティバルを観まくって、David Lastっていうブルックリンのアーティストとスタジオをシェアして、彼のアルバムに参加したり、日本人の山本祐介さんというビブラフォン奏者に自分の作品の録音を手伝ってもらったり。その後はオーストラリアに飛んで、脱力して帰ってきました。各国それぞれ出会いがあり素晴らしい体験をしたけど、10数年ぶりに訪れたニューヨークは本当にすごかった。東京では洒落たヨーロピアンジャズが流行っているけど、ニューヨークにはジャンルも壁もなくあらゆるジャズが混在していて、ミュージシャンのレベルも当然ながら凄い。ニューヨークの旅が、リベラルなジャズに向き合うという意味で、今回のアルバムの音作りに一番強烈なインスピレーションを与えていると思う。本当に有意義な数年間でした。


■ 今回の相棒、ジェイコブ・コーラーとの制作過程で、印象的なエピソードがあったら教えてください。

彼のあまりの天才っぷりに、オリジナルソングではミュージシャンたちがかなり苦戦してました。曲自体は聴くとスムーズなんですが、楽譜の複雑さとか半端なくて、熟練したミュージシャンたちが初めて楽譜を見る子供みたいにヨチヨチになってた(笑)。ジェイコブの作ったメロディーラインもすごい飛びっぷりで、私はパスコワールの奥さんになった気分でした。しかし彼はとにかく、制作から演奏にいたるまで本当にスキがない。彼と共同作業をしているとき、私は自分が本物の天才と一緒に曲制作をしているんだなあと実感できて、いつも刺激に満ち溢れていたし、本当に気持ちがよかった。それなのに本人は飄々としていて、いい意味で威厳がない(笑)。だからこそ心地よく共同作業ができたんだと思います。お互いが何かアイディアを出すと、そこから次々と別のアイディアが浮かび、驚くほど順調に作業が進みました。これもひとえに素晴らしい相棒のおかげです。


■ 今後の活動や取り組んでみたいことについて教えてください。

今までみたいに何でもかんでもがむしゃらにやるんじゃなくて、これからは本当にやりたい音楽だけをマイペースにやっていきたい。ミュージシャンにとって本当に大変な時代だけど、CDが売れない時だからなおさら、売れ線を狙ってジタバタするのは本当に危険な行為だと思う。前はダウンロードとか完全否定してたけど、これからは古いやり方に固執してたら何も前に進まない時代なんだなと感じています。一時は自主レーベルがどんどん増えていったけど、それが更に細分化されてきて、ミュージシャンの自立が促される時代なんだろうなと思います。
あと音楽とは直接関係ないけど、前々から環境のことには興味があって、自然保護とかエコっていうのを自分なりに個人単位で実践してきたつもりなんですが、そういったことを何か形にできないかなと思っています。今はまだ漠然としていて、個人としてなのか、ミュージシャンとしてなのか、それとも何か団体でやっていくことになるのか分からないけど、自分が勉強してきたことを将来何らかの活動にしていきたい。そういう気持ちが、やっぱり今回の震災や原発の事故ですごく強くなりました。日本は今本当に大変な時ですが、一人一人の意識を変える大きなチャンスだとも思うから。それは音楽界にも言えると思います。氷河期だからこそ、新しい時代に向けて準備していく時なんだと思います。

[Interview:樋口亨]


jacket_big.jpg


■タイトル:『Pilot』
■アーティスト:万波麻希 / Jacob Koller
■発売日:2011年4月6日
■レーベル:P-Vine
■カタログ番号:PCD-4493
■価格:2,000円(税込)




万波麻希 プロフィール】

幼少よりピアノ・声楽・ドラム・舞踊・作詩・作曲に親しむ。大阪芸術大学舞台芸術学科を中退後、ミュージカルの舞台を志し19歳の時に単身でNYへ渡る。現地ではオフ・ブロードウェイの舞台でコーラスダンサーとして出演し、黒人教会ではゴスペルを歌い、キャバレーでジャズシンガーとして出演するなどの経験を経て帰国。
2003年にロンドンのレーベルよりリリースした12インチシングル『Justice and Judgement 正義と審判』が、「次世代のアリス・コルトレーン」「デヴィッド・リンチに捧げるダンスミュージック」と評され、ヨーロッパでのライブツアーを行う。
2006年にP-Vine Recordsより全曲セルフ・プロデュースしたファーストアルバム『Journey of Higher Self Liberation/自己解放の旅』をリリース。「初作にして大物の貫禄を漂わせる稀代の名作」と各メディアより絶賛される。須永辰緒の『夜ジャズ』、Afternoon Teaのレーベルのコンピレーション、ドイツのレーベルのコンピレーションなどに楽曲が収録される。
2008年には須永辰緒プロデュースによるセカンドアルバム『The World of Sense』をリリース。須永辰緒主宰のアナログ・レーベル『Disc Minor』よりEPリリース、Nicola Conteのプロデュース・ワーク集やドイツからのコンピレーションに楽曲が収録され、Giles Petersonの番組でもヘビープレイされる。
2008年末よりベルリンに移住。イベントオーガナイズや、JazzanovaのサポートメンバーであるSebastian Studnitzkyとのコラボレーションなど、精力的に活動。2009年には英国ロイヤルオペラハウスでのライブを成功させる。2010年にはNYへ渡り、ブルックリン在住のアーティストDavid Lastのアルバムにゲスト参加している。
シンガーとしては、菊地成孔クインテット・ライブ・ダブのゲストボーカルや、南博とのデュオ、映画『パビリオン山椒魚』(主演:オダギリジョー/音楽:菊地成孔)の主題歌、映画『アンテナ』(原作:田口ランディ/音楽:赤犬/ベネチア映画祭正式出品作品)のサウンドトラック、Calmのライブでのコーラスシンガー、ファッションブランドTheater Productsの東京コレクションのショーに出演。他にも、eater、DJ MoochyのプロジェクトNXS、Codhead、コンピレーションアルバム『Banana Connection』(Shibaの楽曲)への参加など。
作曲家、プログラマー、アレンジャーとしても、須永辰緒のアルバムやミックスCDに楽曲を提供、BAYAKAのリミックスに参加し、 AmcrewのCM、ファッション・ブランドFRED PERRYのモバイル用CM、ヤマダタツヤとの共作でPlay Station3の「グランツーリスモ5」、BMWのショウルーム、Google、Itokiなど様々な企業にも楽曲を提供するなど。


Jacob Koller プロフィール】

1980年米国アリゾナ州・フェニックス生まれ。
4歳よりピアノを始め、5歳ですでにリサイタルをこなす。
高校に入るまでにはアリゾナ・ヤマハ・ピアノコンクールを含む10以上のクラシックピアノコンクールで優勝。
14歳の時に"作曲"と"即興"への情熱を見いだし、高校のジャズバンドに入部。そこでまたたく間にジャズの才能を開花させ、まもなくフェニックスの至る所でDennis RolandやJesse McGuireなどアリゾナ屈指のジャズミュージシャン達と共演。
全額給与のジャズ奨学金を受け、アリゾナ州立大学へ入学。そこではクラシックピアノをReyna Aschaffenberg、ジャズピアノをChuck Mahronicより習う。
また、Kenny Werner、Fred Hersch、Phil Strange、Uri Caine、Angie Sanchezからはプライベートレッスンを受ける。
マンハッタン即興音楽学校、Henry Mancini研究所、カナダ・バンフ夏季ジャズワークショップへの参加もすべて奨学金を受け参加。
2000年、"Julius Hemphill ジャズ作曲コンクール"で絶賛され、2007年には、アメリカ全土からたった5人のみ選ばれる"Cole Porter Jazz Piano Fellowship"ファイナリストのうちの1人に選ばれる。
Tony Malaby、Terence Blanchard、Mard Dresser、Brian Allen、Kohji Fujika、Coppe、DJ Kensei、Martin Denny、Ricky Woodard、Abe Lagrimas等のアーティストと世界各地でツアー、レコーディング経験がある。
2009年5月に日本へ移住後、ピアノ演奏中にレコード会社の社長にスカウトされ、ソロピアノCDをリリースする。

アーカイブ