Title : 『Boundary』
Artist : Megumi Yonezawa/Masa Kamaguchi/Ken Kobayashi
ESP DISKから日本人のトリオ作品が出た。メンバーは以前この連載でリーダー作を取り上げたMegumi Yonezawa(pf)、Masa Kamaguchi(b)、Ken Kobayashi(ds)。
ESP DISKは1963年にスタートしたアメリカのインディペンデント・レーベルで、60年代のフリージャズムーブメントを支え、一時は活動を停止したものの2005年からは新作の録音も再開した長寿レーベルだ。レーベル2作目のAlbert Ayler『Spiritual Unity』が代表するようにOrnette ColemanやPharoah Sanders、Sun RaやMilford Gravesなどこのレーベルに録音を残したレジェンドは枚挙にいとまがない。
全10曲のうち、スタンダードの「I'll Be Seeing You」以外はおそらく即興演奏だろう。しかし破壊衝動的なインプロビゼーションではなく、叙情的で詩的。それでいて鬱屈としていないし耽美的でもないこのオープンな即興演奏は、いわゆる「フリージャズ」というイメージとは異なっている。その中にあるなんだか心地よい緊張感に気づけばぐんぐんと惹き込まれていた。「I'll Be Seeing You」や「Nostalgio」では、音数が少ない中でピアノやベースやシンバルの音が減衰していくきわまで緻密に設計されているようにすら感じる。少なくとも最近聴いた作品では近いものが思いつかないなと考えていると、Paul Bley、Lowell DavidsonそしてMatthew ShipというESP DISKのピアニストの系譜が頭に浮かんできた。このトリオはこの冬、ESP DISKの55周年を記念するコンサートで演奏したという。ESP DISKが55年という年月を通して放ってきた、アヴァンギャルドやフリーという形容詞では捉えきれない魅力の進化がこのアルバムを通して感じられた気がした。
文:花木洸 HANAKI hikaru
●Megumi Yonezawa
●Masa Kamaguchi
●Ken Kobayashi
音楽ライター柳樂光隆氏による人気のムック『Jazz The New Chapter 』の第4弾が2017年3月8日に発売。今回も花木洸が選盤などを担当しています。
■タイトル:『Jazz The New Chapter 4』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2017年3月8日
■出版社: シンコーミュージック
毎号重版を続ける話題のムック、第4弾が遂に登場!
今や現代の音楽シーンを左右する一大潮流となった"ジャズ"の最突端で今、何が起きているのかを、詳細なテキストと計150枚のディスク評で徹底検証。ジャズを活性化したネオソウルとの蜜月を改めて紐解く一方、ジャズを触媒として生まれた新たな潮流にも目を向け、脈打ち続けるジャズの「今」を深く掘り下げます。
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |