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bar bossa vol.26

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vol.26 - お客様:山上周平さん(SPIRAL RECORDS)
「中島ノブユキと伊藤ゴローのアルバムを作る男の選ぶ9曲」



いらっしゃいませ。bar bossaへようこそ。

月の後半はお客様をお迎えして「俺がコンピCDを作るんだったらこうするね」という趣旨で選曲していただいています。
今回のゲストはスパイラル・レコードのディレクター、山上周平さんです。


林(以下H)「いらっしゃいませ。早速ですが、お飲み物はどうしましょうか?」

山上(以下Y)「いつもな感じで、おまかせでグラスの白を。」

H「じゃあ、普通の白ですね(僕と山上さんだけにしかわからないギャグです。すいません・・・)。では小さい頃の音楽体験などを。」

Y「埼玉の、都心まで電車でちょうど一時間くらいのところで生まれたのですが、不思議なことに、家にはまったく音楽がなかったです。それが逆に、音楽に対する憧憬に繋がったのかもしれません。でも母親は、よく美術館に連れていってくれました。美術や文芸に関心があるのは、その体験が影響しているのかなとも思っています。」

H「家には音楽はなかったけど、お母さんはよく美術館に連れて行ってくれたんですか。なるほど。山上さんと言えばサッカーですが。」

Y「小学校低学年では野球をやっていたのですが、まったく肌に合わなかったんですね(笑)。入ったチームの体育会系のノリが。それを母親にいったら『サッカーやれば』って言われて。足が速かっただけの理由で(笑)。それが4年生のころです。市内に県でも有数のクラブ・チームがあって、まったくの未経験だったんですが、テストに受かったんです。体は小さかったんですが、身体能力が高かったんですね。クラブ・チームなので当然、色々なところから、学校で目立っているようなヤツらが集まってくるので、みんなマセてるんです。そこから文化が入ってくる。音楽はこれがいいとか、ファッションはこれがかっこいいとか。情報交換しあうという(笑)。なので、小学生でヒップホップとか聴いていましたね。でも遊んでるばかりじゃなくて(笑)、サッカーに対する意識も高かったんです。そのチームでは関東大会に出場しました。」

H「なるほど。いかにも東京近郊のマセた小学生って感じですね。たった数分の間に『母親』という単語が2回も出てきたのがまた意外です(笑)。」

Y「中学生になっても、同じクラブのジュニア・ユースに進みました。その頃はまだ部活動のサッカーが主流の時代でしたが。やっぱり嫌だったんですね、体育会系のノリが。そのチームではクラブ・チームの全国大会に出場して、高校生に上がるときに、あるJリーグ・チームのユースのセレクションに合格し、入団しました。高校生のころは本当にサッカー漬けでしたが、音楽への興味は尽きなかったので、限られた時間でレコードを買ったりしていましたね。ヒップホップの新譜や、ソウルの中古盤などを。チームの先輩と練習が終わった後に、その当時あった上野のシスコや、練習場からほど近いディスク・ユニオンに、レコードを見にいったりもしました。ちなみにその先輩はのちにプロになり、日本代表になって、2002年のワールドカップに出ました(笑)。自分はというと、トップ・チームには上がれず、それでもサッカー選手になること以外、考えていなかったので、J1やJ2のチームのテストを受けに行きました。いきなり190センチくらいある外人選手のマークにつかないといけないとか(笑)、いま思うと貴重な経験ですね。本当にサッカー選手になることしか考えてなかったので、大学へ行くことは頭になく、アルバイトをしながらテストを受けたりしていました。しかし鳴かず飛ばずで(笑)。そんな中でもレコードは買い続けていましたね。」

H「その後は、ずぶずぶと音楽の世界へ。」

Y「当時は今みたいに、手軽に情報が手に入らなかったですからね。とにかく、暇を見つけてはレコード屋に足を運びました。そのなかでもよく通ったのが、のちにアルバイトさせてもらうことになる〈ソウル・ブラザーズ〉というソウルやジャズ、レアグルーヴやSSWものを扱う中古盤屋です。いまこの界隈では知らない人はいない渋谷のバー、〈ブレン・ブレン・ブレン〉の宿口さんともそこで会いました。豪さんの愛称で知られていますね。そこに出入りしていた人たちは、本当にレコード/音楽狂で、すごい量のレコードを買っていました。あと、みんなジャンルの横断の仕方が凄いんです。ソウルやジャズのレア盤から、ヒップホップやハウスの新譜、当時盛り上がっていたドラムンベースやアブストラクトまで、とにかく節操がなかった(笑)。そういう姿をみて『こういう聴き方もありなんだ』というのを学びました。いまでもその影響は大きいと感じています。ここにはじめてきたのも、豪さんに連れてきてもらってでしたね(笑)。豪さんには、年齢の差関係なく相手してもらえたことに感謝しています。音楽についても色々教わりました。」

H「スパイラルに入るきっかけは何だったんですか?」

Y「サッカーの道を諦めた後、スパイラルの地下のカイにアルバイトで入ったんですね。当時、盛り上がっていたヘッズ系のライブやイベントが多く開催されていたので、ライブハウスだと思って。そうしたら、タイ料理のレストランで(笑)。それでも数年続けてた後、一度スパイラルを辞めたのですが、今度はスパイラル・レコーズに欠員がでて、声を掛けられて。それから数年、バイヤーを担当していたのですが、徐々にCDの売上が下降していって。そんな状況で〈スパイラル・レコーズ〉という名前で、レーベルを設立することを決めました。」

H「なるほど。そういうことだったんですね。中島ノブユキと伊藤ゴローのアルバムを山上さんは制作しているわけですが。」

Y「いまでもそうですが、まずは自分が何が聴きたいか、ということだけを考えています。そしてアーティストと何度も相談してベースとなる部分を決めて詰めていきます。中島さんの《メランコリア》の時には、『それまでのソロ作品のサウンドを踏襲しながらも、より過激なものを』、ゴローさんの《グラスハウス》のときには『ジャズ、ブラジル、クラシックの要素がハイブリットしたギター・インストを』やりませんか?と、はじめにお話した気がします。方向性が決まったら、曲に関してはおまかせしています。このふたりなら、曲に関して余計なことをいう必要はないかなと。アルバム全体のバランスについては、毎度考えをお伝えしていますが。おふたりはもとより、優れたアーティストには共通して、『メディウムとなる』というような思考方法が、本能的に備わっていると考えています。音楽を作ったり演奏するなかで、『自分の内奥から』というのではなく、恣意、あるいは私意から逸れていくことが見える、といいますか。そんなことは、ピアニストの丈青くんとも話したことがあります。」

H「なるほど。すごく面白いですね。では、これからの音楽ソフトはどうなると思いますか?」

Y「これはよく話題になることなんですが、答えがなくてですね・・・(笑)。ただ最近、久しぶりにレコードで音楽を聴こうと思い立って、買いにいったんですね。そうしたら、林さんもよくわかると思うんですけど、家に帰るまでのワクワク感、やっぱりいいなって思ったんですよね(笑)。そういう意味では、CDやレコード、あるいは本なんかをお店で買うというのは、代え難い体験な訳で、可能な限りその面白さを提案していきたいなと。」

H「そうですね。帰りの電車で意味なく開けてみたりしますよね(笑)。」

Y「少し逸れますが、CDを作るにしても、その作業があらたな出会いの場になればいいなとも思っています。たとえば《グラスハウス》では、ジャケットのデザインを詩人・造本家の平出隆さんにお願いしました。いまではおふたりは、《トーン・ポエトリー》という詩の朗読と演奏の試みをはじめられましたが、このようにひとつ作品が、あらたなあらわれへの通路になるようなことが出来たらと。音楽/文芸/美術/ダンスなど、さまざまなかたちの芸術がありますが、きっとその根底に揺籃するものは同じなのではないかと思っているので。そういう意味で、ことなる領域のアーティストたちが交流する機会というのを、CDの制作はもちろんのこと、それ以外でも作っていきたいですね。たとえば、瀧口修造と実験工房の関係、ルネ・シャールとブーレーズの関係、などといった、多種多様なアーティストたちが出会う場といいますか。大分逸れましたね(笑)。」

H「いえいえ。すごく素敵なお話です。それでは曲の方に行きましょうか。テーマは『中島ノブユキと伊藤ゴローのアルバムを作る男の選ぶ9曲』です。」


1.Gavin Bryars - My First Homage

Y「〈LTM〉からのリリース。まるでアンビエントのよう。」
H「え? 一曲目はギャビン・ブライヤーズですか! 周平さん、メールで『踊れるのお願いしますね』って伝えましたよね。では、2曲目は?」


2. Bartók plays Bartók - Ten Easy Piano Pieces - 5th: Evening in Transylvania &10th: Bear Dance

Y「バルトークのなかでも「基礎的実験期」にあたる時期のピアノ小品集から、自演のものを。透明な響きが美しいですね。高橋悠治さんによる『バルトーク:初期ピアノ作品集』も好きです。」
H「バルトーク本人の演奏ってあるんですね。うわー、ちょっと切なくなるような危うい演奏ですね。次は?」


3.Gilbert Johnson & Glenn Gould, Trumpet Sonata (Paul Hindemith)

Y「Gouldの名演のなかでも、特に好きなものです。のびやかで、曇りのない清澄な演奏。」
H「グールドってヒンデミットのこんな曲も演奏してたんですか。知りませんでした。確かに曇りがないですね。」


4.Silvia Perez Cruz «Iglesias»

Y「スペイン・ジャズ界の重鎮、Javier Colinaとの共演で知られるフラメンコ系シンガー、Silvia Perez Cruzの1stソロ・アルバムから。フラメンコ特有の節回しを感じさせつつ、独特の内省を孕んだ世界が美しいです。渡辺亨さんもお気に入りとか。」
H「良いですねえ。周平さん、幅広いんですね。次は?」


5.La Negra "Costurera"

Y「こちらもスペインのフラメンコ系女性シンガー、La Negraの2ndアルバムに収録された曲のライブ・ヴァージン。こちらも鋭敏な感受性で、フラメンコをベースにさまざまなスタイルを取り込んだ美しいサウンドを聴かせてくれます。」
H「面白いですね。あの辺りのイスラムやアフリカの影響も感じられるし。こういうの未チェックでした。勉強になりました。次は?」


6.Hamilton de Holanda Quinteto - Saudade do Rio

Y「Andre Mehmariとの共演や、最近では〈ECM〉からStefano Bollaniとのデュオでアルバムをリリースしたバンドリニスタ、Hamilton de Holandaのクインテットでのアルバム。ユニークな編成ですが、曲の雰囲気とうまくマッチしています。」
H「アミルトン・ジ・オランダ! ブラジルの新しいショーロの中心人物ですね。確かに『え?フュージョン?』みたいな編成が面白いです。次は?」


7.Hamilton de Holanda - Passarim

Y「こちらはHamilton de Holandaの大分前にリリースされていたソロから《Passarim》です。このソロ・アルバムすごく良いのですが、いまはなかなか手に入らないんですよね。」
H「アミルトンってジョビンのこんな難しい曲を演奏してたんですね。うわー、すごい演奏ですね。この辺り、本気で御社からコンピCDでどうですか?」


8.Trio 202-Helicóptero

Y「これは数年前に林さんに教わって知った、僕のなかではボッサ・クラシック(笑)な1曲。Ulisses Rochaのギターが素晴らしい。」
H「僕も中島ノブユキさんに『こういう編成で1枚どうですか?』って言ったら、中島さんに『この人たち簡単そうに演奏してるけど、こういうの難しいんだから』って言われました(笑)。次は?」


9. Goro Ito《POSTLUDIUM》

Y「最後は宣伝ですみません(笑)。12月4日にリリースの伊藤ゴローの新作《POSTLUDIUM》より、先行EPのレコーディング風景を収めた映像です。アルバムには丈青、秋田ゴールドマン、鳥越啓介、千住宗臣といったミュージシャンが参加しています。是非聴いてみてください。」
H「おおおお! ゴローさんの新譜。ちょっとだけですが聞けますね。良いですねえ。」


Goro Ito《POSTLUDIUM》 スペシャルサイト
Postludium_EP

http://goroito-postludium.com




山上周平さん、今回はお忙しいところ、どうもありがとうございました。
伊藤ゴローさんの新譜はもちろん、まだまだこれからも面白そうな企画が待っているようですね。
山上周平さんの動きに大注目ですね。


もうそろそろ12月ですね。今年もホント、あっという間でしたね。
年末、年始はどんなご予定ですか?
友人や恋人とbar bossaでのひと時なんていかがでしょうか?
暖かい空気とともに、お待ちしております。

bar bossa 林 伸次




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bar bossa information
林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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