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bar bossa vol.34

bar bossa


vol.34 - お客様:小嶋佐和子さん
「リピートして聴かずにはいられない10曲」



いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

今回は先日4月16日にソロアルバムを発表したばかりの小嶋佐和子さんをゲストに迎えました。

林(以下H)「こんばんは。お飲み物はどういたしましょうか?」

小嶋(以下K)「赤ワインをお願いします。何がありますか?軽めのがいいです。」

H「軽めですか。でしたらムーラン・ナヴァンというガメイのチャーミングな赤がありますから、それにしますね。」

K「はい。いただきます。」

H「さて、早速ですが小さい頃の音楽のお話などを聞かせてください。」

K「父がギターの弾き語りをする人で、ピーター・ポール&マリーとか、かぐや姫とか、フォークソングをクラシックギターでジャカジャカやってました。私もいっしょに歌っていたみたいです。3歳の頃には小椋佳の『シクラメンのかほり』が歌えたので、幼稚園の先生に面白がられ、『おかえりのかい』でみんなの前で歌わされていたと、私は覚えてないんですが両親から聞きました。」

H「3歳でデビューですか。早いですね(笑)」

K「毎週日曜日の朝は教会に通う家庭で、最初のピアノの先生はシスターです。6歳でした。中学生になると教会のオルガニストもやりました。結婚式で弾くと、千円札が何枚か入った封筒をもらえたりして、喜んだり。」

H「最初のギャラが中学生(笑)。最初のレコードは?」

K「記憶の中の最初のレコードは、フィンガー5の『恋のダイヤル6700』です。2歳か3歳ですね。自分で何回も何回もかけていた記憶があります。自分で買った最初のは、田原俊彦『ハッとして!Good』だったと思います。たのきんトリオはトシちゃん派でした。どっぷりベストテン世代です。『月刊歌謡曲』の愛読者で、松田聖子とか薬師丸ひろ子とか、ピアノで歌っていました。」

H「突然、普通の女の子で、ホッとしてます。」

K「クラシックのピアノは高校2年まで続けました。バッハとドビュッシーが好きでした。中学生になるともっぱら、ラジオっ子です。年の離れたお姉さんがいる友達の影響で、小学校6年生のときに佐野元春ファンになり、『ブルーマンデーをぶっとばせ』のNHKFMの番組を毎週楽しみにしていました。坂本龍一さんのサウンドストリートのデモテープ特集は、録音したのを繰り返し聴きましたし、サエキけんぞうさん、PSY・Sの松浦雅也さんの番組も熱心に聴いていました。PSY・Sはファンクラブに入っていて、広島までライブを観に行きました。(私の生まれ育ったのは山口県の萩市というところで、広島へは新幹線です。)あとそれから、なんといってもピーター・バラカンさんには本当にたくさんの音楽を教わりました。」

H「完全に同世代です...ということはバンドブームですが。」

K「バンドは、憧れはあったけど、やろうという発想に至りませんでした。趣味が合う音楽仲間がいなかったんですね。幼稚園から高校までカトリックの小さな学校に通ったのですが、中学から女子高で、高校の文化祭ではプリンセスプリンセスのコピーが人気でした。音楽の話ができる友達はいたのですが、学校の帰りにひとりのうちに集まってFairground AttractionのMPVを見ながら踊ったりとか。なんとまあ、慎ましい思春期時代ですね。あと、その友人二人を相手に、音楽室で矢野顕子のものまねを披露したりとか。もうほんとうに、地味ですね。矢野顕子さんはしばらくの間、特にJapanese Girlを、寝食を共にするほどたくさん聴きました。」

H「矢野顕子! 正しいですね。そして大学で東京に来たんですよね。」

K「大学時代は、吉祥寺のジャズクラブSOMETIMEでのアルバイト中心の生活でした。現高橋ピエールさん、そして現夫のトガゼンと出会ったのもここです。堀江真美さんのピアノ弾き語りのステージを見て感動して弟子入りし、発声と理論の基礎をしばらく習いました。結局私は、ジャズのスタイルのピアノを弾けるようになりませんでしたが、今でもジャズには強い憧れがあります。そして、この頃から作詞作曲のオリジナル曲を作るようになり、やがて、ボッサ51へと続きます。」

H「なるほど、ジャズクラブで最初にジャズの洗礼を受けているんです。小嶋さんの中でジャズは大きそうですね」

K「大学4年になって、企業に電話をかけるのがどうしてもできなくて、就職活動はほとんどせず、もちろん就職できませんでした。私の半生のもっともアンニュイな時代です(笑)。国立駅北口のピアノパブ『アポスポット51』の入口にピアニスト募集の張り紙を見つけて応募し、大学卒業と同時に働き始めました。自分の演奏以外にお客さんの伴奏と、カウンターの仕事もありました。お客さんにいびられて泣きながら大学通りを自転車で帰ったこともありましたが、良い出会いもありました。営業時間外、お店のピアノをいつでも使っていいことになっていて、勝手に鍵を開けて入り、バンドの練習をさせてもらっていました。マスターには本当にお世話になりました。
就職はできなかったのですが、後に自力で勉強して翻訳者の道が開け、命拾いしました。もう10年以上、バランスを取りながら、幸か不幸か、音楽はずっと続いています。」

H「簡単にさらっとお話いただきましたが、大変なこともあったんでしょうね。これからの音楽業界はどうなるとお考えですか?」

K「電車にはあまり乗らないのですが、たまに乗ると、ほぼ全員がスマートフォンをいじっていたりします。少し前は、音楽を聴いている人がもっと多かったような気がするのですが。SNSもいいけど音楽もね、って思います。音楽の需要がなくなるとはとても思えず、今は過渡期なのだろうと思っています。CDって、メディアとしてちょっと切ないですよね。データをやり取りした後は使い捨てられやすい運命を負っているというか。魂を削って作った作品なので、やはり捨てないで手元に置いておいてほしいなあと思います。ジャケットなどのパッケージで思いを伝えるのが、今のところできるベストだと思っています。セレクトショップや雑貨屋さんは、作り手の思いと連動してくれる場所として、可能性を感じています。Youtubeの恩恵は私も大いに受けて楽しく使っていますし、昔はレコード屋さんの視聴機でしか視聴できなかったけど、今は誰でもどこでもYoutubeで視聴ができます。私のように小さめの規模で音楽を販売する者にとっては、心強い宣伝ツールでもあります。」

H「なるほど。すごく積極的で小嶋さんらしいご意見ですね。さて、小嶋さんの音楽活動のお話をお願いします。」

K「4/16(水)に新作を発売しました。ボッサ51の3枚目以来12年ぶりの、そして初めてのソロアルバムです。元Motel Bleu、現Rondadeの佐久間さんがディレクションを全面的に手伝ってくださいました。気がつけばいつの間にかけっこうたまっていた頂き物の曲たちが背中を押してくれたような感じで(3/8が他の方の曲です)、優れた才能たちに助けてもらって、作ることができました。このCDが売れない時代に、自費で、しかもソロのアルバム制作。林さんにも『すごいですね』と呆れられましたけど(笑)、『私だけの美しいもの』にあきらめないで向き合えばちゃんと形になることがわかって、うれしく、すっきりした気持ちです。『美を追い求める者は、必ず美を見出す』。去年映画館で見てすごくおもしろかった映画『ビル・カニンガム&ニューヨーク』の中で、ビルさんが受賞のときのスピーチの締めくくりに言うセリフですけれど(言った後感極まって泣く)、アルバム制作中、よくこの言葉が頭に浮かんで、そして勝手に励まされました(笑)。歌を作って歌うこと、よりも自分がおもしろがれることは、やっぱりなかなかないみたい、だからもうしょうがないなー、みたいなことも思いました。」

H「アルバム、小嶋さんの日本語へのこだわりと、覚えやすくて一緒に歌いたくなるメロディ。そしてシンプルなアレンジの中に小嶋さんの豊かな音楽知識が凝縮されていてとても素敵ですね。『シャボン』は本当にCM曲にそのまま使われても良いんじゃないかってくらいの耳心地のよさです。さて、10曲の選曲に移りたいと思うのですが、テーマは何でしょうか?」

K「はい。テーマは、『リピートして聴かずにはいられない曲』です。気に入った音楽に出会うとリピートが止まらなくなるタイプの音楽愛好家です。アルバム1枚のリピートもですけど、1曲だけ何時間も繰り返して聴くこともあります。子供のころから今に至るまで、もうこの曲はほんとうによく繰り返したよなー、という曲を集めてみました。」

H「それでは、聞いてみましょうか。一曲目は?」


1.フィンガー5 / 恋のダイヤル6700

K「さっき話に出たので懐かしくなって。子供の頃のリピートは、数にするときっとすごいことになりますよね。小さいお子さんのいる友達の家に遊びにいったりすると、リピートっぷりに圧倒され、感心します。」

H「僕も今久しぶりに聞いてみたら、イントロのベースとかすごくカッコいいですね。うーん...」


2.ラムのラブソング(from うる☆やつら)

K「私のラテン風味嗜好の原点であることは間違いないと思います(笑)。もう、とにかく、ひとりで一日中歌ってました。学校の行きも帰りも、好きよ好きよ好きよ、って(笑)。」

H「え、この曲ってこんなアレンジだったんですね。これまたカッコ良過ぎですね。歌詞もすごく良いし。うーん...」


3.Debussy / arabesque no.1 (Walter Wilhelm Gieseking)

K「ラジオから流れてきて、わー、きれいだなあって、夢中でピアノでなぞろうとしました。ぜんぜん無理なんですけど。小学校4年か5年。クラシックって、モーツァルトとかベートーベンとかのことだと思っていたから、これもクラシックなんだって後でわかってへーと思いました。ピアノの先生がサンソン・フランソワのレコードを貸してくれて、ヘヴィリピ。サンソン・フランソワの演奏をYoutubeで探したんですがなかったので、他の方のを。」

H「ドビュッシーお好きなんですね。小嶋さんのロマンティックな部分が伝わります。」


4. Bonnie Raitt / Since I Fell You

K「高校の頃、ラジカセで流しながら歌詞カード見ながら歌うのが、ほんとうに止まらなかった。風呂入ってるときもやってました。リッキー・リー・ジョーンズ、フェアグランド・アトラクションのいくつかの曲も、そんな感じでした。」

H「小嶋さんは海外の女性SSWをかなり聞いてるんだろうなとは思ってたのですが、ボニー・レイットですか。リッキー・リー・ジョーンズといい、意外と力強い感じなんですね。」


5.Robert Wyatt / Sea Song

K「ボニー・レイトと同じく、高校の頃ピーター・バラカンさんに教えてもらった音楽家。はい、ラジオで。『Rock Bottom』は一曲目のこの『Sea Song』が好き過ぎて、なかなか2曲目にたどりつけません(笑)。」

H「ロバート・ワイアット! 小嶋さんの音がシンプルなんだけどハーモニーを大切にしている感じとかはこの辺りがルーツですか。」


6.Lambert, Hendricks & Ross / Twisted

K「Lambert, Hendricks & Rossの曲は、さっきお話しした、私がしばらく教わっていた堀江真美さんのバンドのレパートリーで、当時、ミュージシャンの衣装としてはケミカルウォッシュジーンズが主流のSOMETIMEにあって、50年代60年代風の仕立ての良いスーツをきりっと着こなしておられ、すごくかっこよかったんです。憧れました。」

H「おおお、カッコイイですね。小嶋さんのジャズ経歴がわかった今ではなるほどな1曲です。」


7.Elis Regina / Águas de Março

K「これ、林さんに教えてもらったヴィデオです!集中したエリス・レジーナがとてもかっこいいですが、何といってもピアノの方が素晴らしすぎます。エンディングに向かう掛け合いの緊張感、何回見てもドキドキします。そして最後にエリスが笑うところでは、ついつられていっしょに笑い、またポチッとしてしまいます。」

H「あ、ちなみに僕はこれは雨と休日の寺田さんに教えてもらいました。ピアノはセザル・カマルゴ・マリアーノだと思います。」


8.Figure Eight / Schoolhouse Rock

K「私の永遠のアイドル、ブロッサム・ディアリー。レーベルDaffodil Recordsのメーリングリストにも入っていたのですが、ブロッサムが亡くなりましたの知らせといっしょに届いたのがこの動画へのリンク。なんと豊かな世界。70年代のアメリカの子供になれなかったことを残念に思いました。」

H「これは、教育ビデオのアニメをブロッサム・ディアリーが歌ってるのでしょうか。すごく贅沢で、切ない良い曲ですねえ。」

K「Bob Doroughが音楽をやっていたテレビ番組のようです。この曲は1973年。私たちにとっての、でっきるっかな、はてはてふふん~みたいな感じなんでしょうかねえ。」


9.Juana Molina / Quien

K「新作『貝のふた』をケペル木村さんにも聴いていただきたくて送ったところ、素敵なコメントとともに『途中でフアナ・モリーナみたいなメロディ展開もあって興味深かったです。佐和子さんの音楽にはアルゼンチンの最近のアーチストたちの音楽に共通する音楽性がありますね。』とのお言葉。フアナ・モリーナってよく知らないんですとお返事したところ、送ってくださったのがこの動画。ぎゃふん、て感じでした。繰り返しの音楽。ひとりであんなに自由になれて、かっこいい。私もやってみたい。機材運ぶのに車がいりますね。免許、取ろうかなあ。」

H「今回、一番意外だったのはこういう感覚の音楽がお好きなんだなあってことです。僕はもっともっとオリーブ女子的な人だと思ってました。」


10.みしなる / Sawako Kojima

K「ひろたえみさん作詞、久米 貴さん作曲のカヴァー曲です。去年、この曲を歌うのがどうにも止まらなかったので、録音させてもらいました。アルバム『貝のふた』にはフルート(&おもちゃ)吉田一夫氏が参加した別ヴァージョンが収録されています。」

H「ひろたえみさんの詩の世界、すごいですね。音楽って色んなことが可能なんですね。小嶋さんのアレンジも斬新です。」

小嶋佐和子さん、お忙しいところ、どうもありがとうございました。是非、これからも素敵な音楽をみんなに届けてください。

あらためて、小嶋佐和子さんのアルバムを紹介します。
小嶋佐和子ファーストソロアルバム「貝のふた」4月16日(水)発売

【「シャボン」 - 新作『貝のふた』より】

●小嶋佐和子 Official Site→ http://www.sawakokojima.com



さて、もう6月ですね。日本は雨の季節になりますが、憂鬱な時も素敵な音楽を聞いて、元気に乗り越えましょう。

それでは、また来月、こちらのお店でお待ちしております。

bar bossa 林伸次



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林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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