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bar bossa vol.45

bar bossa


vol.45 - お客様:川嶋繁良さん


【定年退職の日に聴いたら泣いちゃうカモ♪、な10曲】



いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

今回はジャズ・レコードのコレクターとして有名な川嶋繁良さんをゲストに迎えました。

林(以下H);こんばんは。早速ですが、お飲物はどうしましょうか。

川嶋(以下K);え~と、素っ気ない感じの白ワインをグラスでお願いします。それと青魚のコンフィを。

H;素っ気ないですか(笑)。ではミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌにしますね。魚は今日はイワシですよ。さてさて、小さい頃の音楽の話をお聞かせいただけますでしょうか。

K;"ス~ダラ節"を歌う供だったみたいです。母は「わが子ながらあなたがス~ダラ節を歌う姿が嫌いだった」と言っていました。そこは"シャボン玉ホリデーが好き"と理解して欲しかったところなのですケドね(笑)。

H;あの、読んでいる人、僕も含めてほとんど意味が分からないかもしれません...(笑)

K;幼稚園時代には、音楽教室に通っていました。オルガン主体のグループレッスンで、この教室は本当に楽しくて一生懸命練習していたように思います。当時の譜面を見返すと「お~、こんな難しいの弾いてたんだ!」と思ったりします(笑)。

H;さすが東京っ子ですね。そういう雰囲気あったんですね。

K;そして、小学校に上がるときになって両親が「まあ、飽きずに弾いているから....」とアップライトのピアノを購入してくれて、個人レッスンに通うようになりました。ところがこれが結構つらくて....。そのうち練習をさぼるようになりました(笑)。

H;男の子はそんな感じですよね。

K;そして高学年になって衝撃的な、吉田拓郎の出現です。もちろんフォークギターをねだりました。平凡/明星の歌本の時代です(笑)。小学校卒業時の謝恩会でのクラス合唱(余興)ではギター4本くらいで伴奏しました。中学校にあがるころにはお約束の「ビートル・シャワー」です。

H;初めて買ったレコードは?

K;シングルは『結婚しようよ/吉田拓郎』、アルバムは『ミート・ザ・ビートルズ(日本編集盤)/ビートルズ』
です。

H;吉田拓朗とビートルズが並列してるんですね。こういう感覚って聞いてみないとわからないものです。さて、中学になりますが。

K;バイブルはミュージック・ライフですよね。周囲の仲間も電装化が加速していきます。"スモーク・オン・ザ・ウォーター"が踏み絵の時代です。私は当時から"ロック魂"が薄く、ビートルズ、サイモン&ガーファンクル、CSN&Y等々、歌のバックのギターをまねするようなタイプでした。

H;なるほど。ディープ・パープルの方か、サイモン&ガーファンクルの方かという住み分けがあったんですね。日本人はチェックしてましたか?

K;このころ荒井由美、ミカバンド、キャラメルママなんかの実演を観ています。ユーミンはバックバンド"パパレモン"を従えて、靴から帽子からスーツから真っ白な衣装で足で鍵盤叩いたりしていました(ピアノも白かったカナ?)。あと細野晴臣の"火星歩き"とか(笑)。

H;うわ、そういうの体験されてるんですね。演奏は?

K;ギター2本で、オリジナル曲を作って歌ってました。"歌声喫茶"のフォークソング・ナイトや公会堂クラスのイベントに出たりしました。

H;高校はどうでしょうか?

K;高校生になって変化があったのは、聴くのがジャズ一辺倒になっていった事ですね。高校を中退して音楽(jazz)の専門学校に通いだした友人からジム・ホールの「コンチェルト」とウエス・モンゴメリの「ロード・ソング」を借りて、もう本当に引き込まれてしまいました。幸せなことに、最初からジム・ホール、チェット・ベイカー、ロン・カーター、スティーブ・ガッドらの演奏に触れていたのです。その後、徐々に収集癖が表出して、お定まりの中古レコード屋さんめぐりの開始です(笑)。(それと、ジャズ喫茶でスイング・ジャーナルのバックナンバーを読むふける、とか:笑)

H;転んでしまいましたね(笑)

K;ECMとかジャズのソロピアノを聴いて、逆にクラシックのピアノ曲(特に印象派)への興味が湧いたりしているうちに、自分から望んでピアノのレッスンを再開することになりました。

H;高校生の頃にECMと向かい合ってるんですね。

K;映画を撮るっていう同級生から「音楽もすべてオリジナルにしたい、やってくれる?」と打診を受け、2人でいろんな楽器を持ち替えながら演奏してBGM素材集を作ったこともありました。

H;なんか東京の高校生って感じ羨ましいです。

K;その後、大学に入るまではしばらくはプータロー生活で喫茶店のホール係とかレコード店とかでのアルバイトに勤しんだり。お酒を覚えたりして楽しい時期ですよね。このころもジャズのレコードを集め続けています。クロスオーバー全盛時代ですね。

H;大学時代はどうでしょうか?

K;アルバイトとジャズ喫茶(と学校:笑)だけに時間を費やしていた様な気がします。ジャズ喫茶はあちこち訪ねるのではなく、ほぼ決まったところに入り浸っていました。楽器は部屋でたまに触るくらいです。もちろんレコードは一生懸命集めていました(笑)。

H;音楽を仕事にしようとは思わなかったんですか?

K;思いませんでした。そんな器量はないし(泣)。マスコミ関連などは高嶺の花ですし(笑)。まあ、誰でもそうかもしれませんが、楽器を持てばミュージシャンを夢み、小説を読めば小説家を夢見る時期を過ごしてはきたのですが、なんとか自分の生業とできそうな仕事をと思い、IT(ソフトウェア)業界にもぐりこみました。そして、水があったのかこれまで楽しく過ごしてこれました。

H;なるほど。

K;私が就職した頃は、"玉椿"、"レッドシューズ"、"ミント"、"霞町"、"島崎夏美"といったところがキーワードでしょうか?チェット・ベイカーを観れたことは幸運だったと思います。とはいえ私は"ライブよりレコード"というタイプでしたのですケド(笑)。

H;演奏はやめてしまったんですか?

K;30歳手前くらいのころBAR:Newburyで親しくなった人たちと「楽器できるの?。俺もやってたよ」という様な会話になり、「それじゃ一度集まって何かやってみようか」と...。で、そのまま今日(27年目)に至るまで一緒にバンド活動を続けています。月に一度は練習に集まって飲んで(笑)、年2~3回ほどライブに参加しているような感じです。バンドを続けていたらいつのまにか「おじさん(&おばさん)バンド」なっていました(笑)。途中で派生したユニットもいくつかあって、私はボサノバ・チームでギターを弾いたりもしています。いろいろ続けてこれたのは、ライブを行う機会に恵まれている、ということも大きいのかもしれません。

H;みんなに聞いているのですが、音楽ソフトはこれからどうなると思いますか?

K;「音楽ソフトがなくなる」と云う話は、長いスパンで考えれば間違いないのかな、と思います。ネットワークがさらに成長していけば、かなり高音質の音楽ファイルを転送することも容易でしょうし、オーディオ機器もネットワークに接続されて、現在の映画コンテンツの配信がそうなりつつあるように、自宅で数多のタイトルのなかから悠々と聴きたいソースを選ぶようになる、と。まあ、無くなると云うよりも変質するのでしょう。ネット配信になると「1曲主義」が進行するのかもしれません。気に入らないアルバム曲に付き合う必要はない、と。もともとヒットチャート的潔さはあるはずなのですけど。「アルバムという言葉を覚えている?」というプリンスの発言はポップスの世界でアルバムと云う概念が崩壊しつつあって、そのことにプリンス自身は好意的ではないことから発せられたのだと思います。グラミーの"アルバム賞"が無くなる日がいつか来るのでしょうか?

H;なるほど。本当にそうだと思います。

H;東京都内のオススメ音楽が聴ける飲食店を、いくつか教えてください。


K;まず「ナルシス」です。
新宿歌舞伎町にあるJazz喫茶/BARです。大学生時代からずっとお世話になっています。 20代のころは夜のBARタイムには恐れ多くて伺えませんでした(笑)。

次は「JUHA」「rompercicci」
林さんファンの方々はお馴染みだと思われる Jazz Cafe 2店。 両ご夫妻ともとても深くジャズを聴いていらして頭が下がります。それぞれのお店の個性が感じられるサウンドが素晴らしいです。

そして「North Marine Drive」
説明不要ですね、渋谷宇田川町辺りの素敵なバー。音楽好きにはたまらないお店です。

「SHIGET'S」
新宿三丁目にある Rock/Jazz/Soul BAR 。ご主人のお人柄も大きな魅力の音楽酒場。70年代のロックを中心にいろんなジャンルの音楽が流れます。こちらに集うお客さまにはなぜが楽器を嗜まれる方が多いのです♪。

「Newbury」
西新宿にあるPUB/BARです。音楽はBGM的ですが、とても居心地の良い空間です。時折ライブ・イベントも開催されます。

H;それではみんなが待っている選曲にうつりましょうか。まずテーマですが。

K;「定年退職の日に聴いたら泣いちゃうカモ♪、な10曲」でいきます。

H;そんなテーマですか... では1曲目は?


Hey Bulldog / The BEATLES

Beatles - Hey Bulldog [99 Remix] 投稿者 hushhush112

K;真似したくなるギター・リフとサビでのジョン節全開が魅力のこの曲。ビデオクリップも最高です。スタジオセッションながら素晴らしいバンドの一体感と推進力。1本のマイクで楽しそうに肩を寄せて歌入れするジョンとポール。ちょとおどけるジョージとリンゴ。あちこち溢れる笑顔。観ていると本当に幸せな気持ちになるのです。

H;ビートルズはこれですか。「バンド感」がやっぱりお好きなんですね。


瞑想 / 尾崎亜美

瞑想 ‐ 尾崎亜美 《歌詞付き》 ☆彡 投稿者 green7coralreef1dm

K;天才的メロディーメーカー尾崎亜美。その若くて儚げで生意気でキラキラと輝く才能を大事に大事に世に出そうとする周囲の大人達の 気持が伝わってくる様なデビュー作。少し後年のアケッピロゲな感じも魅力的ですが、この瑞々しさには得がたいものが有るように思います。バックはキャラメルママxα。エレピも美しいのです♪。

H;尾崎亜美、兄が好きだったのですが、この曲は知りませんでした。すごく良い曲ですね。ほんと、エレピがたまりません。


At Seventeen / Janis Ian

K;耳にする度に「やっぱり好きだな~」と思ってしまいます。心地良いリズムに乗るつぶやく様でいて起伏のあるメロディー、見事なギターワーク、渋く雄弁なベース、控えめで軽やかなブラス、つい間奏をハミングしてしまう程に頭に残るアレンジ。「at seventeen」とだけ歌詞を声に出してしまうことは..、許しくださいませ(笑)♪。

H;良い曲ですよねえ... そう言えば、最近SSW再評価ムーブメントでジャニス・イアンは取り上げられていないような...


Maurice Ravel - Jeux d'eau ~ Martha Argerich

K;ソロピアノを含むECM諸作を聴くようになり、そこからクラシックへ逆流し、ピアノ・レッスンを再開する大きな動機になった曲です。印象派の数々の現代的で美しい曲と、強烈な個性を持つピアニスト達を知ることの端緒ともなりました。どちらかといえば作曲者への興味が強い私ですが、ここはこの美しいピアニストの演奏を♪。

H;おお、今度はラベルですか。アルゲリッチの繊細かつ躍動感のある演奏が本当に水が戯れているようです。


あこの夢 / 鈴木勲

K;時代は"クロスオーバー"。奏者達のジャズからはみ出ていこうとするエネルギーと感傷的な曲想が10代の終わりの青臭い記憶と結びついて忘れられない一曲です(笑)。シンセ(白玉)とベースにのってチェロ(ピチカート)によるテーマがで奏でられれば、心地よい陶酔に誘われます。2本のギターは渡辺香津美と秋山一将。素敵です♪。

H;へええ。こういう演奏があるんですね。当時、日本でもいろんな試みがあったんですね。


Ordinary Fool / Soundtrack

K;映画「ダウンタウン物語」で使われたポール・ウイリアムスの曲。ナット・キング・コールも歌っていそうな雰囲気。でもちょっとモダン。エラ・フィッツジェラルドが取り上げていると知ってとても 嬉しかった。シャーリー・ホーンならどんな風に..。誰よりチェット・ベイカーが歌ってくれていたら..、と空想してしまうのです。

H;心の中で「この曲はあの人の歌で、演奏は...」って考えるの、高度な音楽の楽しみ方ですね。


ハロウィン / The Tights (ザ・タイツ)

K;1988年時点でこのタイトル(笑)。楽しく、美しく、捻じれ、僅かに裏切りを孕みながら素晴らしくポップ。やられました。一色進が率いるタイツに出会ったのはチラシを渡され向かった渋谷LAMAMAでした。当時ジャズ一辺倒だった私に「POPS・ROCKも良いな」と思わせてくれたこの曲。次のハロウィンの時には是非歌ってみてください♪。

H;すいません。僕、このタイツってバンド、知りませんでした。こういう青臭い感じ、川嶋さん、突然好きですよね。


YELLOW YELLOW HAPPY / ポケットビスケッツ

K;コンビニで買い物中に突然流れたのがこの曲でした。「もしも~」という繰り返し部分にショックを受け冷蔵ケースの前でしゃがみこみました。帰り道にふらふらとCDを購入し家で1晩中ループさせる事態に。照れ隠しのような平メロ部はちょっとアレですが..。どなたかこの曲をコラージュして映像を合せてみてはくれませんか?。

H;「ポケットビスケッツって何だっけ?」と思ったら、ありましたね。あの、本気で川嶋さんが好きってこと、僕はすごく理解してますよ。僕も「美しいメロディ」には負けるタイプですので。


齢には勝てないぜ / 吾妻光良 & The Swinging Boppers

K;大好き吾妻光良。私のアイドル・ギタリスト。ジャズ・マナーのビッグバンドを率いて楽しい歌と強烈なギダーを聴かせてくれます。ジャンプ・ブルースと分類されがちですが、もう素晴らしく個性的♪。選曲は「俺の家は会社」他、色々と迷うところですが、ここは素直にこちらを(笑)。あ~、バッパーズのライブを観たいですナ!!。

H;こんな曲あるんですね。今回はもういろんなところから川嶋さん、投げてきますね。さて、最後の曲ですが。


Time on My Hands / Chet Baker (with Bill Evans)

K;1959年。Kind of Blue前夜のマイルスのリズム隊と一人向き合うチェット・ベイカー。夢の様です。アイデアをうまく音にできないのか、もどかしげに俯きがちな旋律を綴るチェット。どこか遠慮がちなビル・エバンス。それでも聴き手に浸透するジャズの"蜜と毒"。スタジオでの彼等の会話を夢想しながら、何度でも聴き返すのす。

H;ジャズは1曲だけ... で、これですか。うーん、川嶋さんのロマンティスト具合がよく伝わりますね。


川嶋さん、今回はお忙しいところ、どうもありがとうございました。やっぱり音楽って良いですね。

みなさんGWはどういうご予定でしょうか。素敵な音楽に出会えると良いですね。
それではまた来月、こちらのお店でお待ちしております。

bar bossa 林伸次


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林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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