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bar bossa vol.42

bar bossa


vol.42 - お客様:田仲昌之さん(fete musique.)


【注目の音楽】



いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

今回は話題の新レーベル「fete musique.(フエト・ミュージック)」のオーナー田仲昌之さんをお迎えしました。

林(以下H):いらっしゃいませ。早速ですがお飲物をうかがいましょうか。

田仲(以下N):モヒートをお願いします。

H:かしこまりました。田仲さんといえば、RONDADEで数々の話題作を制作していますが、まずはRONDADEの話を教えていただけますか。

T:RONDADEは2006年からスタートしていままで音楽作品としては12アーティスト22タイトルをリリースしています。自分がRONDADEと関わり始めたのはARAKI Shinの1枚目のアルバム「A Song Book」の制作を始めたころ(2007年)だったと思います。 10年ほどやっていた渋谷FMの番組の制作を辞めたところでもう少し違った角度で音楽の現場と関わってみたいと言う思いもあって 友人の佐久間さんが始めたRONDADEにスタッフとして参加し始めました。 RONDADEは当初、音楽、アート、出版、広告、イベント等それぞれをフィールドにしている人間達が集まってモノ創りをする(今で言う) クリエイティブ集団を目指していました。その最初のアウトプットが音楽レーベルとしての活動でした。 パンクの持つ初期的衝動と現代アートが持つ時代に斬り込むエッジ感。それらを併せ持った音楽レーベルと言ったことがコンセプトでした。(言葉にするととってもチープに聞こえてしまいますが....笑)

H:いえいえ(笑)

T:ECMやNonesuchと言ったレーベルそのものに強烈な個性を持ったレーベルが国内には皆無だったのでそんな個性的な音楽レーベルを 運営出来ればと考えていました。普段、J-POPやROCKなどを聴いている人達に対してRONDADEの音源はどう響いていくのかと言った問い掛けの意味も強くありました。ただRONDADEからリリースされる作品はどれもジャンル分けが難しいらしく、特に大手CDショップなどではJ-POPやROCKのコーナーには置いて貰えることはあまり有りませんでした。しかしその後ポストクラシカルなどが流行ったこともあって RONDADEの作品に目を向けてくれる人達が増えました。現在では作品22タイトル全てにコンスタントにセールスが有りますし、海外からの反応もかなりあります。爆発的なヒットは無いですが(笑)スローペースながらもRONDADEと言うレーベルが世の中に浸透してきているのかな?と言った印象はあります。

H:海外からの反応、多そうですよね。さて、今回、立ち上げられたレーベルですが。

T:今回、RONDADEでは無く新たにfete musique.を立ち上げようと思った理由はやはりAOKI,hayatoとharuka nakamuraと言う2人のアーティストとの出会いが大きいです。ハルカくんと初めて出会ったのは実は音楽の現場ではなく共通の友人が開いた食事会でした。 共通の友人が偶然その場に居合わせたハルカくんを紹介してくれました。自分も彼の音楽を以前から聴いていましたし、ハルカくんもRONDADEのことは知っていてくれたのですがお互いに何かそういったタイミングで知り合ったこともあってすぐに打ち解けた関係になりました。お互いにいろいろと話しをしていくうちにハルカくんがRONDADEの作品をとてもリスペクトしてくれていることを知りました。 上手くタイミングが合えばRONDADEからも作品をリリース出来たらと2人では話したりもしてました。 青木さんの音楽を初めて聴いたのは吉祥寺にあるOUTBOUNDと言うお店の店内でBGMとしてかかっているのを耳にした時でした。すぐにお店のスタッフの方に問い合わせてその場で販売されていたCDを購入しました。それから自宅でもヘッドフォンステレオでも 青木さんの作品をヘビーローテーションで聴くようになりました。ライヴにも何度か足を運ぶようになりいちファンとして作品やライヴを楽しんでいました。

H:どちらも、いかにも街中現場主義的な田仲さんらしい出会いかたですね(笑)

T:そんな中、ハルカくんから西荻窪にある「雨と休日」さんの3周年記念のライヴで青木さんと共演することを聞きました。共通点が余りに見当たらないこの2人の組合せに驚きと同時にどんな音楽が生み出されるのか楽しみになりました。 残念ながら最初のライヴを観ることは出来なかったのですが何度目かのリハーサルに立ち会わせてもらいました。まだまだお互いに探り合ってのセッションでしたが2人が出し合う音の1音1音に2人の相性の良さを感じました。そして何より2人が奏でるサウンドに情緒を感じました。セッションを聴いてすぐにこれは音源として残すべきだと思い、2人にはすぐにCDを制作しようと提案しました。 当初は2人の作品をRONDADEからリリースすることも考えたりもしましたがRONDADEのイメージと2人が奏でるサウンドとはかなり方向性が違うなと感じていました。 青木さんもハルカくんもソロとしての作品とは差別化を計りたいと言う考えもあったし自分としても2人と同じ様にRONDADEとは違うコンセプトとやり方で活動したいとの思いが強くあってfete musique.を立ち上げることにしました。

H:先に音源ありきだったんですね。でも、よくこんな時代にレーベルを立ち上げようと思いましたね。

T:確かに音楽が売れない時代ですが決して音楽が聴かれなくなってしまった訳では無いですよね。 ただ音楽が売れなくなってしまったのはここ20年くらい僕等も含めた音楽を送り出す側が『音楽』そのものを大切に扱ってこなかったことに原因があると思っています。音楽雑誌至上主義だったり、音楽データの形式が統一出来なかったり、AKB商法だったり。 音楽の質よりも手っ取り早くどれだけ多くの消費を生みだせるか?と言ったことが最優先されてしまっている音楽業界の状況に音楽リスナーの人達はみんな疲弊しているように感じています。だから単純に自分達はもっと『音楽』そのものを大切に扱い丁寧にリスナーの人達に送り届けられるようなレーベルを目指すことが必要なんだと感じています。

H:なるほど。レーベルの名前の意味を教えていただけますか?

T:レーベル名の"fete musique(フエト・ミュージック)"の由来は村上春樹の小説「ノルウェイの森」の扉に書かれていた「多くの祭り(フエト)のために」という一文から引用しました。フランス語のfête(フェト)にはお祭りとか祝祭とか言った意味があってレーベルを立上げることを決めた直後に何気なく広げた「ノルウェイの森」のこの一文と偶然出会いその瞬間に決めました。 言葉の響きも意味もとても気に入っています。

H:多くの祭りのために、ですか。良い言葉ですね。それでは、最近はものすごく話題になって品切れにもなってましたが、第一弾のアルバムのことについて教えていただけますでしょうか。

T:fete musique.の最初の作品でもあるAOKI,hayatoとharuka nakamuraの1stアルバム『FOLKLORE』は去年の秋にリリースしました。 まるでロードムービーのように旅することで出会った人々、見えた風景、経過していった時間、溢れ出す感情を2人は旅を重ねながら奏でてきました。『FOLKLORE』はこれからも続いていく2人の旅の途中経過を記録した作品です。今回、録音は2人だけで行っています。セッションを重ねながら1曲づつ楽曲を構築していくと言った作業をライヴと並行して2年近く掛けて行ってきました。 マスタリングは2人のリクエストでWater Water Camelの田辺玄さんにお願いしました。 アルバムのデザインやアートワークは全て青木さんが手掛けました。ジャケットになっているボックスの仕様も青木さんのアイデアでYAECAやCLASKA等の商品の紙箱を制作している竹内紙器さんにお願いしました。ジャケットそのものも今回の作品の1部として感じて欲しいという思いもあってジャケット自体のサイズ感、風合い、手触り等にも拘って作りました。 ボックスを開けてCDを取り出し音楽を聴くと言った一連の所作も作品の中での重要な要素だと考えています。

H:もう本当に「採算度外視」という言葉通りの凝りに凝ったボックスジャケットですよね。これからのCDの未来を色々と考えさせられました。さて、これからはどうされるご予定でしょうか。

T:今後はまずは『FOLKLORE』をもっとたくさんの人達に聴いてもらえるようにすることが第一だと考えています。 去年までのCDの販売はライヴ会場と雨と休日さんのみで販売していましたが今年からはCDショップに限定せず自分達が『FOLKLORE』を販売してもらいたいと思うお店にアプローチをして作品を評価して貰えればその店舗さんに販売をお願いしようと考えています。 そして先ほども言ったように2人の旅はまだ今後も続く予定なのでまた旅を記録していく作業をしていきたいと思っています。次回はゲストにも加わってもらって外に向かって拡がるような内容の作品を創れればと話したりもしています。 レーベルとしてはリリース時期はまだ未定ですがThe Yong Groupの木之下渉クンのソロ作品をリリースしたいと思っています。

H:おお、木之下くんも予定してるんですね。楽しみです。それでは、選曲に移りましょうか。
テーマは「今、田仲さんが注目の音楽」ですね。


ARAKI Shin - Reflection Of Your Flowers

T:1曲目はARAKI Shinの『A Song Book』からの楽曲。やはりこのアルバムには最初に関わった作品と言うことで自分なりにとても思い入れがあります。荒木くんともとても長い付き合いになりました。いまではharuka nakamura PIANO ENSEMBLEのメンバーとしても活躍しています。また彼の新しい作品を聴いてみたいです。

H:せつない曲ですねえ。こういう曲の制作に関われるって羨ましいです。


Iwamura Ryuta - February 20/C-dur(ハ長調)

T:次もRONDADEからの作品でIwamura Ryuta「Sunday Impression」からの楽曲。このアルバムはバッハの平均律クラヴィーア曲集のように、12の鍵盤(1オクターヴ)を、半音ずつ上がっていき、毎週1つの調で1曲、12週かけて作り上げた内容になっています。 岩村クン自身が日曜日に純粋に自分とピアノと向き合う為に作った楽曲たちです。

H:テーマが先にあるのに、とても自然な美しい曲ですね。


Dakota Suite & Quentin Sirjacq - as long as forever is (part II)

T:スロウコア/サッドコアといったジャンルを確立した"静寂"を音楽で表現するバンドdakota suiteと数々の映画やドキュメンタリー番組の音楽を手掛けてきたフランス人ピアニストQuentin Sirjacqがコラボレーションした楽曲です。 実は以前dakota suiteのアルバムをRONDADEでディストリビューションする計画があって彼等とは何度か話し合いを持ったことがありました。 結局残念ながら契約することは叶いませんでしたが今でも彼等の作品を聴くとあの時彼等と一緒に作品が創れたらなと思います。

H:そんなお話があったんですね。田仲さんが扱っているジャンルは現在の日本の音楽とは違って、簡単に国境を越えてしまいますね。


The Album Leaf - Always For You

T:ポストロック/エレクトロニカ・シーンで人気を博するマルチ・インストゥルメンタリスト、Jimmy Lavalleのソロ・プロジェクト。 ヘッドフォンステレオで聴くものが無くなると必ず聴いているのが彼等のアルバムです。 なぜか不思議と彼等のアルバムは聴き飽きることがないのです。そしていつも何だかのインスピレーションを与えてくれる。自分にとってはとっても重要なバンドです。

H:サブ・ポップなんですね。僕はこの辺り、全くノーチェックで。いやあ、でもすごくカッコいいですね。


Kings of Convenience - La Blogothèque | ARTE Concert

T:フランスのWebサイトLa BlogothequeでのKings of Convenience のLiveが収録された映像です。全編で約26分あります(笑)。 本当に完成度が高いライヴなので可能であれば最初から最後までこの2人のパフォーマンスを楽しんで頂けばと思い無茶を承知で紹介させてもらいました。

H:おおお! 彼らのライブってこんな親密な感じなんですね。これは紹介したくなる気持ちわかります。


Zach Condon & Kocani Orkestar - Sunday Smile~siki siki baba

T:Beirutと言うバンドのフロントマンであるZach CondonとマケドニアのジプシーブラスバンドKocani Orkestarがパリのキャバレーでセッションを行った際の熱狂のライヴ映像です。 この映像を初めて観たとき、余りの音楽の力強さに感動し涙が出ました。

H:うわ、僕もちょっと涙腺、危ないです。これ、ほんと「音楽の力」のようなものを感じますね。素晴らしいです。


David Moore / Bing & Ruth - Take Away Show #102

T:Bing & RuthはNYのピアニストDavid Mooreが率いる11人編成のミニマル音楽集団です。 一聴すると現代音楽~アンビエント~ポストクラシカル的な世界感ですが自分にはパンク的な要素を彼等のサウンドから感じてしまいます。

H:確かに何かパンクを感じますね。田仲さん、さすがにいろんなの聴いてますね。

T:AOKI,hayatoとharuka nakamuraそれぞれの音源も1曲づつ紹介したと思います。


morning inkyo with AOKI,hayato

T:蔵前にある中川ちえさんのお店「in-kyo」さんでの映像に青木さんの音楽がBGMとして挿入されています。 青木さんのサウンドはこの映像の様に日々の暮らしの何気ない一瞬一瞬がスケッチされてるように感じます。

H:この映像も良いですねえ。確かに「日々の瞬間」を切り取っている感じがします。


haruka nakamura PIANO ENSEMBLE feat.CANTUS - 光

T:昨年末にリリースされたアルバム、haruka nakamura PIANO ENSEMBLE「音楽ある風景」から聖歌隊CANTUSをフィーチャーした楽曲。 きっと自分は10年先も20年先もこのアルバムを聴いているんだだろうなと思います。 そんな作品と出会えたことがとても嬉しいです。

H:これ、ジャーナリストの佐々木俊尚さんが突然、好きだってツイートして話題になってましたね。いやあ、本当に美しいです。

T:そして最後はAOKI, hayato と haruka nakamura の1stアルバム「FOLKLORE」からの1曲。


days / AOKI, hayato と haruka nakamura

T:例えばこの音楽を偶然耳にしてくれた人たちが『FOLKLORE』を手にしてくれて普段の生活の中で2人の音楽を聴いてる。 いろいろな人たちの生活の中にこの音楽が溶けていく瞬間を想像するとやはりグッときてしまいます。 レーベルをやることの醍醐味はやはりそういうところなのかも知れないと思いました。

H:僕は今、田仲さんのその音楽への思いにグッと来てます。たくさんの人に届くと良いですね。 田仲さん、今回はお忙しいところ、どうもありがとうございました。 みなさん、是非、フエト・ミュージック、チェックしてみてください。


●fete musique. HP→ http://fete-musique.tokyo.jp/
●fete musique. twitter→ https://twitter.com/fete_musique

●購入はこちら→ 『FOLKLORE / AOKI, hayato と haruka nakamura』(雨と休日)


2月、もうしっかりと寒いですね。みなさん風邪などひいてないでしょうか。 良い音楽に出会えると、心も温まりますよね。 それではまた来月、こちらのお店でお待ちしております。

bar bossa 林伸次


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林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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