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bar bossa vol.59

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vol.59 - お客様:土田義周さん(ダウンタウンレコード)


【テーマ:当店のレコード在庫から選んだ10曲】



いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

今回はダウンタウンレコードの土田義周さんをゲストにお迎えしました。


林;いらっしゃいませ。早速ですが、お飲物はどうされますか?


土田;辛口の白ワインをお願いします。


林;確か土田くんはシャルドネが美味しいって言ってたような気がするからブルゴーニュ・ブランにしますね。


土田;じゃあそれでお願いします。


林;お生まれは?


土田;1969年東京の下町、江東区東陽町生まれです。私が育った深川地区は江戸時代から材木の町として栄えた場所で、父方の祖父が製材業、母方の祖父の家も材木問屋を営んでいました。父はサラリーマンですが、自分を含め三代続いた深川っ子です。


林;やっぱり材木関係なんですね。小さい頃の音楽環境と最初に買ったレコードを教えてください。


土田;実家には家具調の大きなステレオセットがありましたが、幼少の僕はもっぱらてんとう虫のポータブル・プレイヤーでアニメソングのレコードを聴くのが好きでした。そのとき初めて買ったレコードは...忘れてしまいました。
当時の興味の中心は漫画やアニメで、将来は漫画家を目指し友達と二人で藤子不二雄気取りでノートにマンガを連載していました。


林;同い年としては、漫画家志望って多かったように思います。中学はどうでしたか?


土田;中学は越境して千代田区神保町の中学に通いました。本屋や編集者の子弟が多くて、地元の友達と比べると皆大人びた印象で刺激をうけました。町中がレコードと本だらけで、一気に興味が音楽や文学へ移ったのがこの時期です。


林;神保町の中学! 良いですねえ。


土田;中一で大滝詠一さんのLPレコード「ロング・バケイション」を手に入れて、それから一年くらいは毎日欠かさず聴き続けました。ロンバケがまちがいなく僕の人生で一番聴いたレコードであり、その音像はいまだ体の隅々までしみこんでいます。


林;僕も全く同じ時期に聞き込みました。


土田;飯田橋に佳作座という二本立ての名画座があって、千円で入場料とホットドッグ、コーラを買っておつりがくるお気に入りの場所でした。その佳作座である日、中二の僕は「アメリカン・グラフィティ」と出会います。劇中ノンストップでかかるロックンロール・ナンバーに強い衝撃を受けました。1983年は'70年代末に興ったロックンロール・リヴァイヴァルも終焉し、たぶん「ロックンロール」は当時一番イケてないジャンルだった。でも「これがオレの音楽だ!」という直感がした。すぐに秋葉原の石丸電機レコード館でサントラLPを購入しました。


林;なるほど。前から気になっていたのは都会っ子って、早い段階で「自分だけの聞き方」みたいなのを見つけますね。じゃあ高校はどうなんでしょうか。


土田;高校も御茶ノ水や秋葉原に近かったので、放課後はたいていレコード屋廻りをしていました。


林;あんまり今と変わらない(笑)高校卒業後は?


土田;大学在学中の'89年にはじめてニューヨークを訪れました。東京のレコード店で壁に飾ってあるレア盤が、蚤の市や中古レコード店の格安コーナーで数ドル出せば手に入るのにビックリしました。

当時はバブル最盛期で、日給一万五千円になる海賊盤CD販売のアルバイトで稼いでは外国へレコードを買いに出かけるという学生生活を過ごしました。


林;それもあんまり今と変わらない(笑)大学卒業後は?


土田;学校を卒業する際、将来は中古レコード店を開業したいと考えました。まずはノウハウを知るために、同業大手のレコードチェーン店レコファンに勤めました。
ここで林君と出会うことになります。


林;ですね。


土田;レコファンでは本部で仕入れをしながら、海外買付にも連れて行って頂きました。すごく良い経験を積ませてもらったし、楽しかった思い出しかありません。


林;うわ、レコファンの人たち、この箇所を読んだら泣きますね。


土田;当時 実家住まいだったので財形貯蓄を頑張り、10余年勤務ののち2005年、35歳でダウンタウンレコードをオープンしました。当初から店の在庫はレコードが100%、CDは取り扱わないと決めていました。


林;なるほど。


土田;2005年の時点でCDには衰退の兆しが見えていて未来がないと思ったのと、やっぱり自分はアナログレコードが好きだったので、これで勝負しようと考えた結果です。

開業から今迄、スタイルは変えていません。大量に仕入れて大量にさばくという、大手のやり方と張り合っても勝負にはならないので、ウチはどんなレコードにもコメントを書き、試聴も自由にできるスタイルで一枚一枚を丁寧に売っていこうという考えです。

あと、インターネット販売はやらないぞ、とも決めていました。もし自分がお客さんなら、HPで在庫がわかってしまう店舗に行ってみようとは思わない。ツイッターで日々オススメレコードはつぶやきますが、全体としてはブラックボックス化して、来てくださるお客さんだけにわかるようにしたいんです。


林;それは他の店とのすごい差別化ですね。


土田;お客さんと会話しながら商売ができる対面販売が好きだし、これからもこのスタイルに拘っていこうと思います。


林;これ、みんなに聞いているのですが、これからの音楽はどうなると思いますか?


土田;「これからの音楽」と聞くと、すごく壮大な感じがしてイメージがわきません。
ただ、アナログレコードのこと、中古レコード店の未来については日々考えています。

アナログレコードがブームと言われてますが、まだまだ実感として物足りません。これからも中古レコード店を続けていくには流通量が重要だと思います。過去生産されたレコードだけでなく、これから市場に出回るレコードの数が多くないとダメなんです。最近、国内に2社目のレコードプレスメーカーができて話題になりましたが、それでもほぼ寡占状態。国内新品レコード価格は高止まり、若い人たちには手が届かない状況です。参入する企業が増え競争力が働き、新しい技術が導入され低コストで作られた新品レコードの値段が三千円を切る状況になれば、恒常的にレコード業界は繁栄すると思うのですが。
僕にもし余裕があれば、絶対レコードプレス工場を作って参入したいですね。


林;え、土田くん、プレス工場、参入したいんだ。でも、それも一つの方法かもしれませんね。さて、これからはどうするご予定でしょうか?


土田;死ぬまでずっと、このままレコード店を続けていきたいと思っています。
この業界は知識と体験の蓄積がモノを言うので、歳をとればとるほど成熟して良い仕事ができるんです。
レコードを持ち運びできる体力を維持しながら頑張ります!


林;カッコいいですねえ。それではみんなが待っている選曲に移りましょうか。どんなテーマで選曲をしましたか?


土田;当店のレコード在庫から10曲選びました。


林;お、この10曲はダウンタウンレコードで買えるわけですね。レコード屋っぽくて良いですねえ。それでは1曲目は?


01. robert mitchum - jean and dinah

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US盤LP ¥5,800


土田;当店カリプソコーナーからご紹介します。米国のタフガイ俳優ロバート・ミッチャムがマイティ・スパロウ作品を歌った「ジーン・アンド・ダイナ」。トリニダード・トバゴでの撮影でカリプソに魅了された彼が直々に制作した本格カリプソ・ヴォーカル・アルバム「カリプソ・イズ・ライク・ソー...」からのゴキゲンなナンバーです。


林;おお、さすがレコード屋店主って感じのところから面白い曲でせめてきますねえ。


02. steve alaimo - i don't know

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US盤LP レアステレオ盤 ¥5,800


土田;続いてスカコーナーから、'60年代にマルチタレントとして活躍した米国のアイドル・シンガー、スティーヴ・アライモ'65年のスカ・アルバム「スターリング・スティーヴ・アライモ」から。ジャマイカンR&Bデュオ、ブルース・バスターズ「アイ・ドント・ノウ」トースティングが楽しいポップコーン・スカ・カヴァー。


林;これ、カッコいいですね。アメリカ人アイドルがスカって、僕としては全くわからないジャンルなのですが、レコード屋店主をやってるとこういうのがいくらくらいなのか把握しておくっていうのが鍵ですよね。


03. henry mancini - free! caterina valente singers

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US盤LP ¥1,600


土田;サントラコーナーから、ヘンリー・マンシーニが音楽を担当したパティ・デューク主演'69年公開の青春映画「ナタリーの朝」OSTより挿入曲「フリー!」。清涼感溢れる男女スキャット・コーラスをフィーチャーしたマンシーニ・タッチのソフトロック・インスト。


林;実はマンシーニのアルバムを集めてたのですが、これ、意外と見つからないんですよね。¥1600! でもマンシーニってそのくらいなんですよね...。


04. caterina valente singers - moon river

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UK盤LP  ¥4,500


土田;ヴォーカルグループコーナーから、カテリーナ・ヴァレンテ率いる男女混成ヴォーカル・カルテットによるヘンリー・マンシーニ作品「ムーン・リヴァー」カヴァー。華麗なスキャット・ワーク、弦のピチカートの響きがキュートなゆるめのラウンジ・ヴォーカル曲。


林;カテリーナ・ヴァレンテのこういう可愛いムーン・リヴァーがあるんですね。うーん、これは高そうな音がします。


05. marisol - bossa nova junto a ti

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スペイン盤4曲入りEP ¥2,000 UK盤LP


土田;サントラコーナーから、'60年代に一世を風靡したスペインのアイドル、マリソルが主演したミュージカル映画「ルンボ・ア・リオ」からアウグスト・アルグエロが手掛けた軽妙洒脱なスパニッシュボサ曲。


林;へええ。マリソルのボサノヴァ。「ルンボ・ア・リオ」っていうミュージカル映画があるんですね。


06. genevieve grab - le gendarme de saint-tropez

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国内盤EP ¥1,600


土田;サントラコーナーから、'64年のフレンチ喜劇映画「大混戦」主題歌をヒロインのジュヌヴィエーヴ・グラが歌った「サントロペのお嬢さん」。弾けるリズム、溌剌とした歌声に胸躍るビッグバンドツイスト。


林;うわ、こういうの見つけるのって「レコード屋冥利」につきるというか、たまんないですね。¥1600!


07: jeanne moreau - embrasse moi

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フランス盤5曲入りEP ¥3,000


土田;サントラコーナーから、ジャン=ポール・ベルモンドとジャンヌ・モローが主演した'63年公開の犯罪コメディ映画「バナナの皮」OST。スウィングル・シンガーズのワード・スウィングルが作編曲を担当、ジャンヌ・モローが歌うキュートな4ビート・ジャズ。


林;土田くんのコメントが「思わず買いたくなるような」もう、それが最高です!


08: everly brothers - walk right back

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US盤LP ¥1,400


土田;ロックコーナーから、米国ナッシュビルの兄弟デュオ、エヴァリー・ブラザーズの黄金期ワーナー・レーベル音源ベスト収録曲「ウォーク・ライト・バック」。大滝詠一が松田聖子へ提供した楽曲「冬の妖精」でイントロを引用した、クロース・ハーモニーが美しい名曲。


林;うわ、本当に松田聖子の「冬の妖精」のイントロですね。エヴァリー・ブラザーズなんだ。大瀧詠一ならではですね。でも土田くん、ほんと詳しい...


09: arther alexander - where have you been

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US盤EP ¥1,000


土田;ソウルコーナーから、ビートルズがカヴァーした「アンナ」作者として知られる米国カントリーソウルSSWアーサー・アレキサンダー'62年作「ホエア・ハヴ・ユー・ビーン」。大滝詠一が「恋するカレン」でまんまサビメロを使用した、バリー・マン&シンシア・ワイル作の甘く切ないバラード。


林;あ、ほんとだ。「恋するカレン」ですね。あ、ほんとだ...


10: petula clark - downtown

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こちらは非売品です。


土田;最後はペトゥラ・クラーク'64年の代表曲「恋のダウンタウン」。"寂しかったり悩み事を抱えていたらダウンタウンに出かけなさい、街の賑わいがあなたを幸せにしてくれるはず"と歌った当店の聖歌です。開店当初売上が伸びず苦戦している時、このレコードを聴いて元気をもらいました。


林;名曲ですよね。でも、どのお店にも「売り上げが悪い時の曲」ってありますよね。ほんと、あるんですよねえ。


土田くん、今回はお忙しいところどうもありがとうございました。

みなさん、ダウンタウンレコード、是非、行ってみてください。現代美術館も近くにあるし、いろんな下町の美味しいお店もあるから、デートコースにぴったりですよ。


●公式HP
http://www.downtownrecords.jp/
●twitter
https://twitter.com/dtr_tokyo


やっと夏が始まりましたね。今年の夏はどんな音楽を片手に過ごす予定ですか? 
良い音楽に出会えると良いですね。
それではまたこちらのお店でお待ちしております。


bar bossa 林伸次


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東京・渋谷で20年、カウンターの向こうからバーに集う人たちの姿を見つめてきた、ワインバー「bar bossa(バールボッサ)」の店主・林伸次さん。バーを舞台に交差する人間模様。バーだから漏らしてしまう本音。ずっとカウンターに立ち続けている林さんだから知っているここだけの話。


「bar bossa」アーカイブ

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bar bossa information
林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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