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Monthly Disc Review2015.0815:Monthly Disc Review

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Title : 『THE WAY』
Artist : 宮川純



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リーダーの宮川純は1987年生まれ。アルバムはこれで三枚目となるが、ピアニストで言うとシャイ・マエストロやギターのジュリアン・レイジと同じ生年でジャズの世界で言うところの新世代に位置づけられるだろう。

ここに「高校生の頃、僕のアイドルだったのが、東京事変とベン・フォールズだった」と語っていることと、彼が10代の時に<ヤマハ・ティーンズ・ミュージック・フェスティバル>で今人気のロックバンドcinema staffと東海地区代表を掛けて争っていたことを加えると「ただのピアニストじゃないぞ」という気配がしてくる。


アルバム全編に共通する板崎拓也、石若駿とのピアノトリオのコンビネーションは完璧で、石若は細かいサインやフックを仕掛けているし宮川はそれを絶対に見逃さない。そこに時には釣れない素振りを見せたり一緒になってフックをメイクしていく板崎との三者の関わりは、正にピアノトリオを聴くときの醍醐味といった塩梅で聴けば聴くほどとんでもなくスリリングだ。ギターの荻原亮もソロは少ないながらも「JB's Poem」と「Pulse」ではそれぞれちがった毛色ながらどちらも白熱のギターソロを聴かせる。宮川もいわゆる熱量のあるソロだけでなく、時にはコンパクトなソロを聴かせたり、「The Water is Wide」でウーリッツァーでメロディを粛々と紡いだり、「JB's Poem」でローズと生ピアノをバッキングとフィルで華麗に使い分けたりする宮川の達者ぶりは同世代でも随一だろう。石若も「The Golden Bug」でのいわゆるスネアをズラした今風のリズムと「Just A Moment」での高速4ビートを叩いているのは本当に同じ人物なのかと疑うくらい多彩なリズムを使い分け、曲中でも細かなフィールで次々に彩りを加えている。
コンテンポラリーな楽曲といわゆる"New Chapter"的な作品が実に自然に同居しているところはこの世代の、そしてアルバムほぼ全曲の作曲者でもある宮川のバランス感覚の賜物だろう。


これら演奏面と同じくらい特筆すべき面白さはこのアルバムの録音だ。
一曲目の「Introduction」のドラムの音を聴いた瞬間に「待ちに待っていたアルバムがついに出た!」と、僕はそう思った。
ロバート・グラスパーやクリス・バワーズ、ホセ・ジェームズといったミュージシャンはレコーディング・エンジニアにあえてジャズのエンジニアでは無い人材を起用してライブ音楽であるジャズに録音作品としての面白さを付与してきた。このアルバムに参加している黒田卓也もそんなジャズメンの一人だ。そこに呼応するような作品が日本でも「ついに出た」のだ。

6月にも日本のこの世代のミュージシャンを取り上げたが、この世代が今、日本のジャズに開き始めた風穴を押し広げていることは間違いない。


文:花木洸 HANAKI hikaru


【参考】
インタビュー:日本のジャズ新時代を告げる重要作をリリースした宮川 純に柳樂光隆(JTNC)が迫る【前編】 - CDJournal CDJ PUSH

http://www.cdjournal.com/main/cdjpush/miyakawa-jun/1000001107

・全曲試聴
Jun Miyakawa - The Way (Sound Sample)' by T5Jazz Records on SoundCloud

https://soundcloud.com/t5jazz/sets/jun-miyakawa-the-way-sound-sample




【Jun Miyakawa / The Water Is Wide (Official Music Video)】







Recommend Disc

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Title : 『THE WAY』
Artist : 宮川純
LABEL : T5jazz Records
NO : T5J-1010
RELEASE : 2015.7.22

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
宮川純 - piano, Rhodes, Wurlitzer
荻原亮 - guitar
坂崎拓也 - bass
石若駿 - drums
*黒田卓也 - trumpet (#1, #2 & more)

【SONG LIST】
01. 1. Introduction
02. The Way
03. JB's Poem
04. Pulse
05. The Water Is Wide
06. Automata
07. Glossy
08. The Gold Bug
09. Just A Moment


この連載の筆者、花木洸が編集協力として参加した、金子厚武 監修『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)が発売になりました。シカゴ音響派などジャズとも互いに影響しあって拡がった音楽ジャンルについて、広い視点から俯瞰するような内容になっています。


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■タイトル:『ポストロック・ディスク・ガイド』
■監修:金子 厚武
■発売日:2015年5月30日
■出版社: シンコーミュージック
■金額:¥2,160 単行本(ソフトカバー)

アマゾン詳細ページへ


20年に及ぶポストロック史を、600枚を超えるディスクレビューで総括!貴重な最新インタヴューや、概観を捉えるためのテキストも充実した画期的な一冊。90年代に産声をあげた真にクリエイティヴな音楽が、今ここに第二章を迎える。


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

2015.04 ・2015.05 ・2015.06 ・2015.07 




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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

花木 洸 Twitter
maigo-music

Monthly Disc Review2015.0801:Monthly Disc Review

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Title : 『Treehouse』
Artist : Tom Hewson Trio



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以前、こんな文章を残したことがある。
「大好きなミュージシャンがこの世を去ってしまい、新作が聴けなくなってしまうことと、
自分の方が先にこの世を去り、聴くことのできない作品がこの世に存在すること、
どちらの場合がより悲しいか。」


この時、僕はとても才能のある自分よりもかなり若いミュージシャンに出会っていて、
彼女の生み出す作品をすべて聴き続けたいと思っていた。
しかし、ふと思ったのだ、彼女と自分の年齢差を考えると
ほぼ確実に自分の方が先にこの世を去るのだと。
それは、自分がこの世を去った後に生み出される作品がおそらく存在すること、
そして自分はそれを聴くことが出来ないということを意味していた。
それくらい、その若いミュージシャンに心酔していたのだ。


Tom Hewsonの存在を知り、その作品を耳にした時、
自分が以前に書いた"自分が逝った後に生み出される作品"という文章を思い出させた。
それは、Tomがまだ若いピアニストだということ(恐らく現在30歳くらい)のみならず、
多くのジャズミュージシャンの場合、老いて枯れてもなお、
素晴らしい作品が発表されることが頭をよぎったからだ。
(先月のレビューのCHARLIE HADENのように)

晩年のTom Hewsonの作品を聴いている自分は全く想像がつかない。
と言っても仕方のない現実なので、とりあえずはTomの作品をしばらく追ってみようかと思う。


今作は、レギュラートリオとして活動している"treehouse"の作品。
このトリオ、piano,vibraphon,bassという編成。
ピアニストTomのリーダーアルバムではあるけれども、この編成の場合、
やはりvibeの存在感はかなり大きい。
vibeが響き出すと、景色が一変する。
ひんやりとした舌触りのスイーツを口にしたような、
海辺を渡る夕暮れの潮風に身をゆだねているような、
夏に聴くVibeの音色は快楽である。


調べてみるとTomは、John Taylorをメンターとする、とあり、
確かにソングライティングにその影を感じることが出来る。
師の域に達するまでには、まだまだ時間が必要なのは当然のこととして、
まずは、今のこの若い才能と演奏を楽しむことを優先したい。
"自分が逝った後に生み出される作品"には触れることが出来ないのだから。


この原稿を書き終えた数日後に、John Taylorの訃報を聞く。
やはりこの喪失感は、なんとも云えず、ただ残念でならない。
こうなってしまうと、師を失ったTom Hewsonの今後の作品に、
今作以上にJohn Taylorの姿を追い求めてしまいそうだ。
一人のリスナーとしては、Tomの作品に潜むJohn Taylorの影を
勝手に想像して楽しむことにしたい。

Johnの冥福をお祈りします。


文:平井康二


http://tomhewson.com/
http://tomhewson.com/treehouse/





Recommend Disc

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Title : 『Treehouse』
Artist : Tom Hewson Trio
LABEL : CAM JAZZ(CAMJ-3316-2)
RELEASE : 2015.7.3

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Tom Hewson (p)
Lels Wright (vib)
Calum Goiurlay (b)


【SONG LIST】
01. Sparticle
02. Treehouse
03. Lifting
04. Not Relevant
05. Gelsomina
06. Splitting
07. Glitch
08. Silver Strands
09. Lingering
10. Beanie's Bounce


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「Monthly Disc Review 平井康二」アーカイブ平井康二

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平井康二(cafeイカニカ オーナー)

1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、
音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、
音楽業界にて仕事をする。
2009年、cafeイカニカをオープン
おいしいごはんと良い音楽を提供するべく日々精進。


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cafeイカニカ

●住所/東京都世田谷区等々力6-40-7
●TEL/03-6411-6998
●営業時間/12:00~18:00(毎週水、木曜日定休)
お店の情報はこちら

Monthly Disc Review2015.0715:Monthly Disc Review

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Title : 『Covered』
Artist : Robert Glasper



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ロバート・グラスパーの新譜。ピアノ・トリオ作品としては『Double Booked』(2009)以来の実に6年ぶりの作品で、この6年の間に何があったかというとそれはもちろんエクスペリメント名義での『Black Radio(以下BR)』諸作だ。この新作ではエクスペリメントでのメンバーではなく初期のトリオ作品のヴィセンテ・アーチャー(b)、ダミオン・リード(ds)というメンバーに戻している。


スタジオライブ録音という事でMCや観客の拍手や歓声が入る場面もあるが作品の音作りとしては一般的なピアノトリオ作品とは異なっていて、バスドラムを中心とした低音のドスが効いたサウンド。『BR』シリーズと同じエンジニアを起用したようだ。


『Covered』というタイトルの通りアルバムの大半を占めるのは過去から現在までのジャズ以外の楽曲。RadioheadからJoni Mitchel、自らもレコーディングに参加したKendrick LamarやBilalの楽曲までロバート・グラスパーのiPodの中からセレクトされた楽曲+自身の楽曲と1曲のジャズ・スタンダードという構成になっている。


「『BR』を聴いてジャズに興味をもった人にも聴いてもらえるように」と各所でアナウンスした通り、このアルバムにはグラスパーの『BR』から一貫したポップ感覚が各所に詰め込まれている。曲の進行とともに3者が煽り合いアドリブが加熱していくような、いわゆるビルドアップしていくような音楽、バトル音楽としてのジャズではなく、ポップな枠組みを崩さないように即興の中でもメロディを非常に大事に慈しむように奏でる場面が多い。そしてそのポップさを可能にしているのが彼らのジャズマンとしての技術であることは記さねばならない。


"I Don't Even Care"では噛み付くような前のめりの右手のアドリブに対して、左手のバッキングは驚くほど冷静に、明らかに右手とは違ったタイム感と落ち着きを持って同じフレーズをループする背景と同化している。"So Beautiful"等の比較的はっきりとしたソロをとる楽曲に置いても決して聴き苦しくならないのはこの左手との温度差とバックの演奏のループ感に要因があるように思う。アドリブが始まると同時にフェードアウトする"Reckoner"も、再びテーマにフェードインした時にはドラムのビートはそのままにピアノとベースは3/4拍子という面白いアンサンブルが試みられている。正確無比にビートを刻み加減速のほとんど無いドラムと少ない音数かつ決して軸をぶらさないベースは、明らかにエクスペリメントの持つグルーヴ感とは異なっていて、このトリオ作では違うメンバーを起用した事も頷ける。この2人が作るビートの上にグラスパー独特のタイム感をもって散りばめるピアノは決して無理をすること無く余裕すら感じられるが、今や一聴してそれと分かるほどの個性を放っている。


そうやって聴いていくと、アルバムの中で唯一ピアノ以外のソロがフィーチャーされ、ポップとは異なった指標の曲のタイトルが"In Case You Forgot"(あなたが忘れるといけないから)というのもグラスパーなりのジョークのように思えてくる。


エクスペリメントでのアンサンブルのタクトを振るようなピアノとも「黒いメルドー」と呼ばれた初期の作品とも異なった、成熟したピアニストとしてそしてバンドリーダーとしての魅力が感じられる作品。ピアノ・トリオという伝統的かつある種ジャズの代名詞的なフォーマットで挑んだこの作品は、誤解を恐れずに言うならばこの作品は数あるピアノトリオ作品の中でもちょっとした奇作だ。


文:花木洸 HANAKI hikaru




【Robert Glasper - I Don't Even Care (Live At Capitol Studios)】







Recommend Disc

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Title : 『Covered』
Artist : Robert Glasper
LABEL : ユニバーサル ミュージック
NO : UCCQ-1042
RELEASE : 2015.6.10

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
ロバート・グラスパー(p)  
ヴィセンテ・アーチャー(b)  
ダミアン・リード(ds)

【SONG LIST】
01. Introduction
02. I Don't Even Care
03. Reckoner
04. Barangrill
05. In Case You Forgot
06. So Beautiful  
07. The Worst
08. Good Morning
09. Stella By Starlight
10. Levels
11. Got Over feat. Harry Belafonte
12. I'm Dying of Thirst


この連載の筆者、花木洸が編集協力として参加した、金子厚武 監修『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)が発売になりました。シカゴ音響派などジャズとも互いに影響しあって拡がった音楽ジャンルについて、広い視点から俯瞰するような内容になっています。


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■タイトル:『ポストロック・ディスク・ガイド』
■監修:金子 厚武
■発売日:2015年5月30日
■出版社: シンコーミュージック
■金額:¥2,160 単行本(ソフトカバー)

アマゾン詳細ページへ


20年に及ぶポストロック史を、600枚を超えるディスクレビューで総括!貴重な最新インタヴューや、概観を捉えるためのテキストも充実した画期的な一冊。90年代に産声をあげた真にクリエイティヴな音楽が、今ここに第二章を迎える。


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
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Monthly Disc Review2015.0701:Monthly Disc Review

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Title : 『Tokyo Adagio』
Artist : CHARLIE HADEN,GONZALO RUBALCABA



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東京の夜は、いつも刺激的で魅惑に溢れていて、
夕闇と共に立ち現れる高層ビル群の夜景に心を躍らせていたのは
いつの頃だったろうか。喧騒の中を漂い、美食と快楽らしきものを
求めては、それが多くの場合幻想でしかないということを知らずに、
まだ見ぬ光り輝いているはずの未来へと駆り立てられ、
無為に時間を浪費していた時代。


そういう時代がいつの間にか終わってしまったのか、
あるいは、僕自身がそういう場所から降りることを選択しただけなのか、
正直、本当のところはなんとも言えないのだけれど、
少しだけ、あのギラギラと輝いていた東京の夜が、
懐かしくも愛おしくもある。


今から10年前、2005年の東京の夜を想像してみる。
浮足立ったバブルはとうの昔に終焉を迎えているはずなのだけれど、
まだ、成長する未来を妄想することが許された時代。
そして、あの大きな災害が数年後に訪れるなんていうことは
誰一人、想像もしていなかった時代。
何も確信のようなものや、安心材料があった訳ではなく、
かといって大きな不安を抱くマイナス要因もない、
ただなんとなく、平穏な日々が続いていくんだろうな、
というくらいにしか考えていなかった時代。


2005年3月、表参道のBLUE NOTE TOKYOに、
CHARLIE HADENとGONZALO RUBALCABAが残したこの音源を聴きながら、
バブルと震災の狭間の幸福な時代を思い出す。

TOKYO ADAGIOに収められた、ゆるやかで平穏な時間は、
今の東京には、おそらく感じることのできない
貴重な瞬間であったのだと強く感じる。
当然、もうCHARLIE HADENのBassが東京の夜に響くことはないのだけれど。


文:平井康二




【Charlie Haden - Gonzalo Rubalcaba / Tokyo Adagio】







Recommend Disc

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Title : 『Tokyo Adagio』
Artist : CHARLIE HADEN,GONZALO RUBALCABA
LABEL : ユニバーサルミュージック(UCCI-1021)
RELEASE : 2015.7.1

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【MEMBER】
Gonzalo Rubalcaba (p)
Charlie Haden (b)
Recorded Live at Blue Note Tokyo, Japan on March 16th to March 19th, 2005.

【SONG LIST】
01. En La Orilla Del Mundo
02. My Love And I
03. When Will The Blues Leave
04. Sandino
05. Solamente Una Vez
06. Transparence


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「Monthly Disc Review 平井康二」アーカイブ平井康二

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平井康二(cafeイカニカ オーナー)

1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、
音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、
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Monthly Disc Review2015.0615:Monthly Disc Review

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Title : 『Moving Color』
Artist : 吉本章紘カルテット



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今月のレコメンドは、日本人サックス奏者吉本章紘の最新作『Moving Color』。
前作『Blending Tone』から3年ぶりとなるリーダー作。ベースを須川崇志に替えた以外は前作と同じメンバーで、このバンド以外でもメンバーはそれぞれのグループに参加しあうなどかなり気心のしれたメンバーと言えるだろう。

全8曲が吉本のオリジナル曲で、アルバムタイトル通りの色とりどり鮮やかな曲が続く。作曲者の吉本が思い描いたサウンドの彩りを担っているのは、ビート・メイカーでもあるパプアニューギニア出身のピアニストアーロン・チューライ(pf)、辛島文雄トリオや日野皓正カルテットで活躍した須川崇志(b)、今や名実ともに若手ナンバーワンドラマーとも言える90年代生まれのドラマー石若駿(ds)というバンドメンバーだ。


1曲目の「Deep-Sea Fish Waltz」から全体を通してアーロン・チューライと石若はかなり自由度が高く、アンサンブルの中に色を散りばめ、須川のベースがそこに1本軸を通すように鳴ることもあれば、よりアグレッシブにフロントと反応しあう場面もありという全員が提案しつつ、反応しつつ繰り広げられるメンバー間のインタープレイはかなり聴きもので、聴きながら思わず感嘆をもらすような場面がどの曲にもある。コンテンポラリーな楽曲が続く中で、「The Mystery Of Onion Rings」では4ビートのブルースという伝統的な枠を使いながらも、それぞれの解釈で現代的にアップグレードされた新しい音を使って良い意味で遠慮のない会話がなされる。


このバンドの一番の魅力は何と言ってもこの遠慮の無い「会話」であるように感じた。「Nostalgic Farm」での美しいサックスにからむ端正なサウンドから次曲、「Sabaku No Akari」でバンドサウンド全体が大きな生き物のように唸って魅せる爆発力。このコントラストに代表されるように、バンドメンバー全員の楽曲への理解、イメージの共有のレベルが尋常ではない。この一時間近いアルバムのレコーディングを1日で終えたことがそれを物語っている。一分の隙も油断もなく次々に展開されるこのバンドサウンドは、今も日々ライブで磨きがかかっていっていることは間違いない。是非ライブに行ってその目で確かめて欲しい。


正直、まだ6月だが今年のベスト候補のジャズアルバムが出てきてしまったと思っている。これはジャズに限った話ではないが、「日本人のジャズ」を海外のジャズと区別して考えている人が多いのではないか?と思うことが多々ある。

そんな現状を軽々と飛び越えるようなこのアルバムは、ジャズを志す日本の若者にとって、何より日本でジャズを聴く僕にとっての希望である。


文:花木洸 HANAKI hikaru




【Akihiro Yoshimoto Quartet 『Moving Color』視聴】






この連載の筆者、花木洸が編集協力として参加した、金子厚武 監修『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)が発売になりました。シカゴ音響派などジャズとも互いに影響しあって拡がった音楽ジャンルについて、広い視点から俯瞰するような内容になっています。

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■タイトル:『ポストロック・ディスク・ガイド』
■監修:金子 厚武
■発売日:2015年5月30日
■出版社: シンコーミュージック
■金額:¥2,160 単行本(ソフトカバー)

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20年に及ぶポストロック史を、600枚を超えるディスクレビューで総括!貴重な最新インタヴューや、概観を捉えるためのテキストも充実した画期的な一冊。90年代に産声をあげた真にクリエイティヴな音楽が、今ここに第二章を迎える。





Recommend Disc

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Title : 『Moving Color』
Artist : 吉本章紘カルテット
LABEL : MOR Records
NO : MOR 1001
RELEASE : 2015.5.15

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【MEMBER】
Akihiro Yoshimoto Quartet
吉本章紘 Akihiro Yoshimoto - Tenor Saxophone
アーロン・チューライ Aaron Choulai - Piano
須川崇志 Takashi Sugawa - Bass
石若 駿 Shun Ishiwaka - Drums

【SONG LIST】
1. Deep-Sea Fish Waltz
2. The Mystery Of Onion Rings
3. Possum
4. Nostalgic Farm
5. Sabaku No Akari
6. Reminiscing About Banana Beer
7. Ice Castle
8. Water Drops

All Songs written by Akihiro Yoshimoto

Recorded at Studio Dede - Feb 28 2014 by Tsukasa Okamoto
Mixed & Mastered by Akihito Yoshikawa(Studio Dede)
Design:Yosuke Wada


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

2015.04 ・2015.05 




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花木 洸 HANAKI hikaru

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Monthly Disc Review2015.0601:Monthly Disc Review

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Title : 「Double Circle」
Artist : Enrico Pieranunzi, Federico Casagrande



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ちょうど三年前の2012年の今頃、Marc Johnsonの演奏を追いかけていて、Enrico Pieranunziに行き当たる。正直、イタリアのジャズに関しては、未聴の分野で"ピエラヌンツィ"って響きがいいね、なんていうくらい。EGEAでのリリース作品を何枚か買い漁っているうちに、2000年に発表された『Raconti mediterranei』の冒頭の一曲目"The Kingdom(where nobody dies)"に出会うことになる。

"地中海物語"というアルバムの邦題のとおり、青い地中海の景色を想像させる作品で、なかでも"The Kingdom(where nobody dies)"は、梅雨から夏に向かっていく憂鬱なこの時季に、カフェでは欠かせない一曲となり、毎日毎日、この曲を流すことに。お客様にも、"この曲は何?"と何度となく尋ねられ、その度に、"ピエラヌンツィ"と呪文のように繰り返しては、アルバム『Raconti mediterranei』をお勧めして、何人もの方が購入した模様。

そして、今回の『Double Circle』。PieranunziのピアノとFederico Casagrandeのアコースティックギターのデュオ作品という前情報を得て、"The Kingdom(where nobody dies)"に匹敵するカフェでのへヴィーローテーション曲があるのではないかと秘かに期待をしていたのでした。そして先日、届いたばかりのアルバムをお客様のいない夕暮れのカフェで試し聴き。

答えは、大正解。
冒頭の一曲目、"Ann Blomster Sang"の、その美しいメロディとそれを奏でるピアノとアコースティックギターの響きは、カフェにこの上ない心地よい風を運んで来てくれて、まさにこれからの時季にうってつけの一曲。『Raconti mediterranei』同様、この先夏の終わりくらいまでcafeイカニカにいらっしゃったお客様は、この"Ann Blomster Sang"を聴かされ、アルバム『Double Circle』を薦められることになると思われます、ご容赦を。

加えて最後に収録されているのは、タイトルが"Charlie Haden"そう、彼への追悼の一曲。確かに、晩年のCharlie HadenとPieranunziのデュオ作品も聴いてみたかったなぁ、と思いを巡らせたりも。トータルタイム48分46秒という理想的なアルバムサイズの中に、今のPieranunziの美学が凝縮された、これからの季節に必携の奇跡的な一枚だと言っても大げさではないかもしれないですよ。


文:平井康二




【I Piccoli Live di Auditorium TV - Enrico Pieranunzi & Federico Casagrande "Let's make it strange"】







Recommend Disc

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Title : 「Double Circle」
Artist : Enrico Pieranunzi, Federico Casagrande
LABEL : Cam Jazz(CAMJ 7885)
RELEASE : 2015.5.20

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【MEMBER】
Enrico Pieranunzi (p)
Federico Casagrande (g)

【SONG LIST】
01. Anne Blomster Sang
02. Periph
03. Sector 1
04. Clear
05. Dangerous Paths
06. Within The House Of Night
07. No-nonsense
08. Beija Flo
09. Disclosure
10. Sector 2
11. Charlie Haden


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「Monthly Disc Review 平井康二」アーカイブ平井康二

2015.4.1 ・2015.5.1




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平井康二(cafeイカニカ オーナー)

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Monthly Disc Review2015.0515:Monthly Disc Review

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Title : 『Fast Future』
Artist : Donny McCaslin



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今月の一枚は、マリア・シュナイダー・オーケストラやアントニオ・サンチェスのグループで活躍中のサックス奏者、ダニー・マッキャスリンのリーダー作『Fast Future』。


一曲目からセンターに定位したバスドラムとそれよりも音域的に下に位置するベースラインが現代の録音作品としてのジャズを思わせる。左右に乱反射しながらアンサンブルに溶け込んでいくJason Lindnerのシンセサウンドがとても心地よく、空間を満たす。それらを塗りつぶすようなバリバリのアドリブによってアンサンブルを引っ張っているのがMcMaslinのサックスだ。硬質なMark Guilianaのドラムは、リーダー作『Beat Music: The Los Angeles Improvisations』でみせたような過激なエフェクトは無いにせよフレーズと同時にそのサウンドでバンドに新鮮味をもたらしている事は疑いようがない。

前作ではBoards Of Canadaの「Alpha and Omega」を見事にジャズに昇華させたMcCaslinだが、今作ではAphex Twin「54 Cymru Beats」、Baths「No Eyes」の上で見事なインプロビゼーションを聴かせる。ジャンルの融合とも言うべくこれらのチャレンジはSkrillexやAphexからの影響を語るMcCaslinと共に、これらの音楽に造詣の深いバンドメンバーの力もあって成し得た技だ。そしてこのバンドはそれらの感覚・言語でもって従来のアドリブソロというジャズルールも見事に乗りこなしている。どこまでがその場のケミストリーによって生まれたアドリブでどこまでが作曲によるものなのかがわからなくなるほど見事な緊張感に包まれたアンサンブルだ。


この作品だけに言えることではないが、近年のジャズの大きな潮流として「作曲」と「即興」の意義が最も変化しているように思う。作曲はスコア上のものだけでなく録音物のテクスチャーに及び、時に即興も作曲の一部分へと姿を変える。アドリブ・ソロをもはやスキルやセンスの戦いの場としてだけでは無く、トータルサウンドの背景の一部として配置される事も多々ある。テクスチャーだけでなくチル・アウトしていくリフレイン・フレーズの心地よさ、ビートがブレイクした瞬間の爽快感はエレクトリック・マイルス以前から長年ジャズが内包しつつもその外側からの「再発見」によって再び評価と注目を集めている魅力であるように思う。


「唸るようにサックスが吹きまくり、4ビートに思わず体が動き出すようなおおよそ僕達が期待するジャズ」

前回の記事はこのような文から書き出した。今やこのような語法では現代のジャズの全てを語ることは出来ない。だがしかしそれらは今も同一の地平にある音楽だ。


ー追記ー
Donny McCaslinの過去の活動については北澤氏がまとめた以下が国内外含め最も詳しいと思うので参照されたし。

第4回:ダニー・マッキャスリン ニュー・アルバム『Fast Future』カウントダウン特集 | ジャズとソーシャル・ミュージック - Mikiki
http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/5973


文:花木洸 HANAKI hikaru




【Donny McCaslin's 'Fast Future' live at the 55 Bar】







Recommend Disc

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Title : 『Fast Future』
Artist : Donny McCaslin
LABEL : Green Leaf
NO : 1041
RELEASE : 2015.3.31

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Donny McCaslin (ts)
Jason Lindner (key)
Tim Lefebvre (b)
Mark Guiliana (ds)

【SONG LIST】
01. Fast Future
02. No Eyes
03. Love and Living
04. Midnight Light
05. 54 Cymru Beats
06. Love What is Mortal
07. Underground City
08. This Side of Sunrise
09. Blur
10. Squeeze Through


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

2015.04 




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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

花木 洸 Twitter
maigo-music

Monthly Disc Review2015.0501:Monthly Disc Review

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Title : 「In maggiore」
Artist : Paolo Fresu/Daniele di Bonaventura



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トランペットの音色を耳にすると、どうしてもマイルスのそれと比較して聴いてしまうというのは、帝王が残した功罪のひとつだ。トランペットという楽器を選び、ジャズを志すというのは相当な覚悟が必要なのではないだろうかと想像出来る。Paolo Fresuも当然、マイルスからの影響を読み解かれ語られてきたプレイヤーの一人なのであろうが、僕の中ではもう、帝王のことはどうでもいい。イタリア・サルデーニャ島に生まれたという時点で、Paoloが見てきた世界はマイルスとは随分と違うはずだ。それは、今作が見せてくれる景色が雄弁に語っている。マイルスが常に纏っていた重苦しい空気はなく、イタリア男が纏う色気と哀愁のようなものが全面に匂い立っているのだ。(これは日本人が抱くイタリアへの勝手なイメージであることを承知の上で。)

今作は、Paolo Fresuのトランペット、フリューゲルに同じくイタリアのバンドネオン奏者、Daniele di Bonaventuraが絡むデュオ作品。バンドネオンの音色こそ、日本人にとっては異国感を極めて強く感じる楽器で、今作は、僕らを容易く異国へ誘ってくれる。それも、イタリアの海辺の田舎町で、時間は夕暮れあたりか。少し好ましく思っている仲の良い綺麗な女性との食事の約束を控えているのだけれども、不思議と今日は気分が高揚しない。それは、沈んだ曇り空のせいか、あるいは何か別に理由が・・・というシチュエーションだ。これはあくまでも個人的な妄想だけれど、かなり視覚的刺激を与えてくれる一枚であることは間違いない。どうやら"Wenn aus den Himmel"とうタイトルでドキュメンタリーフィルムが制作されているようなので、機会があったら是非、見てみたいものだ。そのフィルムに海辺の田舎町の綺麗な女性が写っているのかどうかは知らないけれども。


文:平井康二




【Wenn aus dem Himmel... (quando dal cielo...) - Trailer HD】







Recommend Disc

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Title : 「In maggiore」
Artist : Paolo Fresu/Daniele di Bonaventura
LABEL : ECM(2412)
RELEASE : 2015.3.31

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Paolo Fresu (tp,flh)
Daniele di Bonaventura (bandoneon)

【SONG LIST】
1. Da Capo Cadenza
2. Ton Kozh
3. O Que Sera / El Pueblo Unido Jamas Sera Vencido
4. Non Ti Scordar Di Me
5. Sketches
6. Apnea
7. Te Recuerdo Amanda
8. La Mia Terra
9. Kyrie Eleison
10. Quando Me'n Vo
11. Se Va La Murga
12. Calmo
13. In Maggiore


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「Monthly Disc Review 平井康二」アーカイブ平井康二

2015.04 




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平井康二(cafeイカニカ オーナー)

1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、
音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、
音楽業界にて仕事をする。
2009年、cafeイカニカをオープン
おいしいごはんと良い音楽を提供するべく日々精進。


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cafeイカニカ

●住所/東京都世田谷区等々力6-40-7
●TEL/03-6411-6998
●営業時間/12:00~18:00(毎週水、木曜日定休)
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Monthly Disc Review2015.0415:Monthly Disc Review

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Title : 『Reminiscent』
Artist : Dayna Stephens



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唸るようにサックスが吹きまくり、4ビートに思わず体が動き出すようなおおよそ僕達が期待するジャズ。Robert GlasperやEric Harland、Avishai Cohen(tp)らと同じく1978年生まれのサックス奏者、Dayna Stephensの新譜はまさにそんな一枚。

まだまだ知名度が低いと思われるDayna Stephensだが、過去5作のリーダー作で共演したアーティストにはGrehchen Parlato、Becca Stevens、Gerald Clayton、Ambrose Akinmusire、Taylor Eigstiなどまさに現代を代表するジャズマンが名を連ねている。Brad Mehldau、Julian Lage、Larry Grenadierらを集めて昨年リリースしたスタンダード中心のバラード集『Peace』から一転、この盤では盟友Walter Smith IIIと絡まるようにテーマを歌い上げ、熱いサックス・バトルを繰り広げている。バックのメンバーはHarish Raghavan、Rodney Green、Aaron Parksの3人を中心に中盤ではギタリストMike Morenoが参加。リズム隊を前作よりもよりストレート・アヘッドなプレイを得意とするメンバーに差し替えつつも、現代的な響きを持つコード楽器陣をあててくるというリーダーのバランス感覚は見事だ。

アルバムはサックス奏者2人のオリジナル曲を中心にスタンダード等全10曲。

1曲目、ミディアムテンポの4ビート曲からDaynaの独特の浮遊感をもったスタイルとWalter Smith IIIのバリバリと吹きまくるスタイルという同じサックス奏者ながらコントラストのあるソロバトルが楽しめる。「なるほどこの2人はこういう違いがあるのだな」と思って聴いていると、2曲目。ハイテンポのいかにもハードバピッシュな曲では二人とも息つく暇が無いほど吹きまくりどちらがどちらの音だか分らなくなるようなまた違ったバトルが繰り広げられそのギャップにやられてしまった。Aaron Parksのしっとりとしたピアノをフィーチャーしたスタンダード"Blue In Green"や、サックス2人とピアノが絡みあうようなイントロから始まるいわゆる歌もの曲、ワルツなどを挟んでラストは大団円のブルースと合計一時間ほどのアルバムだが、まるでライブを見ているような感覚であっという間に終わってしまう。

スタイルだけでなく曲によってテナーサックスを中心に楽器を持ち替えまさに自由自在にソロを歌い上げるDaynaと、テナーサックス一本で真っ向勝負を挑むWalter Smithのバトルにばかりつい目がいってしまうが、バック陣も見逃せない。

Aaron Parksが絶妙な間に投げ込むコンピングや、自身のソロ以外でもあえて単音でバッキングをし、あたかももう一本のサックスのように振る舞うMike Morenoの感覚はまさに現代的。中でも昨年初リーダー作をSmallsから出した気鋭のドラマーRodney Greenは4ビートの曲の中でも実に多彩なアプローチをみせ、同年代のKendrick Scottらと並んで新しいストレート・アヘッド・スタイルのドラムを提案しているように思える。

総じて決して派手な新しさではないが、伝統と歴史を飲み込んだ確かに更新された2010年代のストレート・アヘッドの痛快な傑作です。

そしてDaynaは早くも次のリーダーアルバム『Gratitude』が夏頃に発売予定だそう。


文:花木洸 HANAKI hikaru


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■Help Dayna Stephens■
現在ダイナ・ステファンスの巣状糸球体硬化症 (FSGS)という腎臓病の治療の高額医療費を集めるため"Help Dayna Stephens"という名で募金活動が行われています。

ホームページにはTom Harrell、Gretchen Parlatoらがコメントを寄せ、ピアニストTaylor Eigstiが援助を求める動画をYou Tubeにアップしています。

Help Dayna Stephens
http://helpdaynastephens.org/

Help Dayna Stephens Find a Kidney!
https://www.youtube.com/watch?v=7Lg6IEAOvFY#t=55




【Dayna Stephens: Blues Up and Down】







Recommend Disc

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Title : 『Reminiscent』
Artist : Dayna Stephens
LABEL : Criss Cross
NO : 1377
RELEASE : 2015.2.17

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Dayna Stephens(ts,ss,bs)
Walter Smith III(ts)
Aaron Parks(p)
Mike Moreno(g)
Harish Raghavan(b)
Rodney Green(ds)

Recorded on October 29, 2013
at Systems Two Recording Studios, Brooklyn, N.Y.

【SONG LIST】
01.Seems Like Yesterday
02.Isn't That So?
03.Blue In Green
04.Uncle Jr.
05.A New Beginning
06.New Day
07.Contrafact
08.Our World
09.Walt's Waltz
10.Blues Up And Down


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

2015.04 




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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
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花木 洸 Twitter
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Monthly Disc Review2015.0401:Monthly Disc Review

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Title : 「A Clear Midnight - Kurt Weill and America」
Artist : Julia Hülsmann Quartet w/Theo Bleckmann



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ようやく春めいて来た夜に、銀座へ車を走らせる。わざわざ銀座まで車で行かなくてならない理由があってのことなのだけれど、どうせなら東京のど真ん中の夜景を見ながらこれを聴いてみたいと思ってカーステレオに差し込む。ECMでは珍しいジャズヴォーカルの作品。Julia Hülsmannのピアノとソングライティングはなんとなく肌に合って、リリースの度に聴くようにしているのだけれど、今回は、Theo Bleckmannというややアヴァンギャルドなヴォーカリストを迎えてのKurt Weillの作品集という企画。最初に自宅の狭いリスニング用の書斎で聴いた時は、正直自分の中にこの作品の落とし所が見つからず、何度聞いてもすぐにはその魅力の本質には辿りつけない感覚が残ってしまって、やや途方に暮れていた。しかし、Theoのクールなヴォーカルと、Julia Hülsmann率いるQuartetの演奏は、不思議と繰り返し聴き直したくなる空気感と魅力を漂わせてもいた。

そして、いざ銀座へ。新橋あたりからネオンが見えて来た車内で響くJulia HülsmannのピアノとTheoのヴォーカルは、想定していた通り都会の欲望渦巻く夜の景色を、やや冷やかに見つめているようで、なんとも言えない心地よい時間が車内に流れ始め、銀座四丁目を通過する頃には、もうすっかり銀座をクールに徘徊する為のBGMになっていた。ECMならではのクールなジャズヴォーカルの作品と東京の都会の夜は相性がいいのだと実感し、このアルバムが夜の都会へのドライブには必携の一枚という位置づけになった銀座の一夜だった。ちなみに、自宅のある横浜へ向かう首都高速湾岸線の夜景にもベストマッチしたことを付け加えておこうか。


文:平井康二




【Julia Hülsmann Quartet w/ Theo Bleckmann: A Clear Midnight】







Recommend Disc

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Title : 「A Clear Midnight - Kurt Weill and America」
Artist : Julia Hülsmann Quartet w/Theo Bleckmann
LABEL : ECM(4709276)
RELEASE : 2015.3.3

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Theo Bleckmann (vo)
Julia Hulsmann (p)
Tom Arthurs (tp,flh)
Marc Muellbauer (double bass)
Heinrich Kobberling (ds)

【SONG LIST】
01.Mack The Knife
02.Alabama Song
03.Your Technique
04.September Song
05.This Is New
06.River Chanty
07.A Clear Midnight
08.A Noisless Patient Spider
09.Beat! Beat! Drums!
10.Little Tin God
11.Speak Low
12.Great Big Sky


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「Monthly Disc Review 平井康二」アーカイブ平井康二

2015.04 




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平井康二(cafeイカニカ オーナー)

1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、
音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、
音楽業界にて仕事をする。
2009年、cafeイカニカをオープン
おいしいごはんと良い音楽を提供するべく日々精進。


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cafeイカニカ

●住所/東京都世田谷区等々力6-40-7
●TEL/03-6411-6998
●営業時間/12:00~18:00(毎週水、木曜日定休)
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