Title : 『Grand Slam』
Artist : 森智大
ここ数年間で、ドラマーが求められる能力の幅がぐんっと拡がった印象がある。それはヒップホップ的なビートであったり、変拍子であったり、あるいはラテンをはじめとする世界各地の音楽の要素であったりと、ジャズは様々なグルーヴを纏うようになってきた。そんな中にあっても(あるいはそんな状態だからこそ?)、日本のジャズ界では、優れた若手ドラマーがどんどん頭角を現している。石若駿、山田玲、木村紘、、、などなど都内のライブハウスでもしょっちゅう目にする20代のドラマー達は、日本の将来を担うどころか、すでにシーンを支える存在だ。
今回紹介するドラマーは森智大。彼もまた1992年生まれの20代。2011年に渡米しバークリー音楽大学で学んだ後、現在はニューヨークを中心に活動しているドラマーだ。昨年末にはクラウドファンディングで資金を集め、ニューヨークのミュージシャンを引き連れて来日ツアーも成功させている。
そんな彼のデビュー作となるアルバムが『Grand Slam』。メンバーにはNew Century Jazz QuintetやJose Jamesのバンドで活躍する大林武司(pf)、Christian ScottのバンドやButcher Brownとも共演するBraxton Cook(ts)、Tamir Shmerling(b)、Wayne Tucker(tp)などニューヨークの注目若手ミュージシャンが集まっている。いかにもにもサックスとトランペットの2管編成らしい楽曲の"Kick Ass"、"Grand Slam"。ピアノトリオで聞かせるミディアムテンポのスタンダード"When Sunny Gets Blue"、と"Blue Daniel"。バラードの"Be Back"。そして最後を飾る全力疾走の"A Piece Of Cake"まで、アルバムに通底するのはストレートなスウィングの追求だ。最近の若手の中では驚くほど真っ向勝負なストレートアヘッドの方向性だが、それ故にタイムレスな魅力がほとばしっている。9曲中6曲が彼のコンポジションだが、その中にも歴史へのリスペクトが感じられる。落ち着いたどっしりとしたドラミングは若手とは思えないほど自信満々で、そこに絡んでくるバンドのサウンドをより一層引き立てバンド全体がとてもフレッシュに聴こえる。テクニックや流行とは関係なく、こんなに素直にジャズの楽しさをぶつけてくるアルバムはなかなか無いと思う。ライブ映像を観たらアルバムよりもずっとアグレッシブだったので、是非動画を観て欲しい。そしてまた来日して欲しい。
このアルバムを一周したら、久しぶりにジャズの名盤をひっぱりだして一日スウィングに浸りたくなるような作品。
文:花木洸 HANAKI hikaru
●Tomohiro Mori HP
auのCMで注目!NY在住のジャズドラマー。日本と世界をつなぎたい! - READYFOR
https://readyfor.jp/projects/tmoriondrums
【Grand Slam by Tomohiro Mori】
【Grand Slam - Live at Rockwood】
この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。
■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック
今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!
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Reviewer information |
花木 洸 HANAKI hikaru 東京都出身。音楽愛好家。 |