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こんにちは、トランペッター、ピアニストの曽根麻央です。
今回は今月来日公演を敢行した現在最高のピアニスト、ブラッド・メルドーの新譜『Your Mother Should Know: Brad Mehlau Plays The Beatles』を一緒に聴いていこうと思います。


YOUR MOTHER SHOULD KNOW500.jpg


Title : 『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles』
Artist : Brad Mehldau



私は2/3の東京オペラシティのピアノソロ公演を幸運なことに聴きに行くことができ、音楽家として大きな感銘を受けました。ライブでメルドーを見るのは2014年のトロント・ジャズ・フェスでの「Mehliana」名義での公演以来2回目でした。しかもアコースティック・ピアノはこれが初でしたのでとても楽しみにしていました。
プログラムも前情報も無しのコンサートでしたので 予習ができないですから、何が起こるか全く知らずに会場へ赴きました。会場へ入り様子を伺うと天井の高い神々しいステージの真ん中にピアノが一台だけ置かれていました。ピアノマイクどころか、トークマイクも見当たりません。椅子は違和感を覚えるほどとても低く驚きました。実際本番でのメルドーの膝はピアニストの角度とは思えないほど屈折していました。


メルドーが登場すると深く一礼してピアノに座りました。するとすぐに何かのイントロが始まりました。しばらくすると聴き覚えのあるメロディーが...それが「I Am The Walrus」でした。その後もビートルズの曲を多数演奏して、スタンダードやステーヴィー・ワンダーの曲、そしておそらく自身の曲など、休憩なしトークなしの90分間演奏をして、アンコールを3回受けてこの日の演奏は幕を閉じました。
終わってみると、なんてものを聴いてしまったのかという気分になりました。過去にこれだけの集中力を持って一つのコンサートを達成したジャズ・ピアニストがいたのでしょうか? ジャズでもクラシックでもない、オリジナリティーのあるグルーヴするコンサート・ピアニストのステージを見たという表現が正しいかもしれません。もちろん私はキース・ジャレットやビル・エヴァンスといった名手の絶頂期をライブで見ることは叶いませんでしたので比べようがありませんが、メルドーはおそらくそのレベルかそれ以上のコンサート・ピアニストとなったと感じました。
コンサートが終わり外に出ると偶然仲間の井上銘くんや山本連くん、そして他の同世代の活躍しているミュージシャン達もいて、彼らと同じものを共有できたことにとても嬉しく思いました。


あまり熱狂的なビートルズ信者でない私には、コンサート中は「I Am The Walrus」以外のピートルズはどこかで聴いたことがあるけどタイトルが思い出せない、といった感じでした。私は帰り道になんでこんなにビートルズの曲をプログラムに多数加えたのかが気になり、最近のメルドーの活動を追いかけ、ようやくこのアルバム『Your Mother Should Know: Brad Mehlau Plays The Beatles』をリリース予定だったことがここでわかりました。なるほど、今回の来日公演はこのアルバムのリリースも兼ねていたのかと。その時すでに「I Am The Walrus」と「Your Mother Should Know」に関しては先行配信がされていたので、帰りの車で聴きながらコンサートの余韻に浸りました。


メルドーのソロ・ピアノは大事な音とそうでない音のバランスが最適です。旋律と伴奏とうシンプルな状態だけでなく、対位法がいたるところに使われていて同時に複数のメロディーや副旋律が進行していて、それらが美しく絡み合っています。なので音の情報量は相当なものですが、とても整頓されていて聴いていてシンプルな美しさすら感じてしまいます。


【現在最高のピアニスト、ブラッド・メルドー、完成度の高いソロ演奏】





さてこのアルバムはフランスのパリで2020年にライブ録音されたもののようです。現代最高峰のピアニストによるライブとは思えない完成度の高いソロ演奏に圧倒されるでしょう。また次の段落でも明記していますがビートルズの楽曲の持つ奇妙さと、メルドーの持つ奇妙さ、そして両者の美しさとが絶妙にマッチしていて、とても完成度の高い作品になっています。



01. I Am The Walrus

YouTubeにもある動画インタビューでメルドーは「Rubber Soul」以降のアルバム、「Revolver」「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」「The Beatles ("The White Album")」などには一種の奇妙さがあると語っています。ハーモニーや形式、フレーズの長さや歌詞の議題などに奇妙さがあり、このような奇妙な曲をピアニスト&アレンジャーとしてどう表現するかがとても挑戦的だと語っています。「I Am The Walrus」は『Magical Mystery Tour』に収録されているジョン・レノンの曲で、もちろんこれも奇妙な曲の一つです。コードが全音ずつ下がって行くこの独特の進行はあまりポップスでは見られない進行で、どちらかというとドビュッシーや印象派の作品を彷彿とさせます。メルドーはこの曲を最高のピアノ曲に仕立て上げています。





02. Your Mother Should Know

1曲目からメドレーで繋がっています。メルドーの言葉を借りればビートルズの「スウィング曲」。このアルバムの中でも珍しくメロディーと伴奏に役割がはっきりしているアレンジですが、そうであるからこそメルドーの完璧なピアノコントロールを聴くことができます。


03. I Saw Her Standing There

ビートルズの初期の曲です。左手が正確に8分音符を刻みグルーヴを激しく出していきます。ブルースピアノのようなスタイルですが、土臭さはなく、ブギウギ/モータウン的なグルーヴまでもがメルドーの繊細な世界観へと昇華させられています。


04. For No One

インタールード的に短く演奏されるマッカートニーの曲。こういうシンプルな曲で時たま顔を出すメルドー独特のジャズフレーズが心にしみます。


05. Baby's In Black

レノン&マッカートニーの作品。原曲は3連のグルーヴですが、ゆったりとしたSwingワルツに編曲されています。ゆっくりと徐々に展開して行くアレンジです。


06. She Said, She Said

もともとは8ビートのロック調の曲を美しいバラードに仕立てています。こちらもインタールード的な短い演奏です。


07. Here, There And Everywhere

こちらももともとは8ビートのロック調の曲ですが、まるでジャズスタンダードの古いバラードのようなメロディーラインが特徴的な一曲です。その後途中からまるで何人かものピアニストがバラバラのハーモニーを弾いているかのような錯覚に襲われる不思議なアレンジになっています。


08. If I Needed Someone

こちらは割と原曲の雰囲気とハーモニーがそのまま聴こえてくるところが多くあります。メロディーを一回通して終わる短いアレンジになっています。


09. Maxwell's Silver Hammer

もともとは軽快な跳ねているグルーヴの曲を、少し遅めのスウィング調で演奏しています。ストライド・スタイルも少し取り入れることでジャズの伝統的な味わいも出しつつ、メロディーはビートルズで、ハーモニーはメルドーという奇妙な世界観を作り出しています。


10. Golden Slumbers

原曲はかなり短いですがマッカートニーの美しい曲の一つです。フレーズのアガサが独特でポップスではなかなか見ないスタイルの曲です。メルドーもかなり原曲に近いイントロから入りますが演奏はアルバム一の長尺になっています。コンサートでもかなりインパクトの強いメインの楽曲でした。


11. Life On Mars?

この曲のみDavid Bowieの曲です。転調の仕方やメロディーの発展の仕方やハーモニーが美しくもどこか奇妙で、ビートルズの影響をうけたイギリスのアーティストということでこのラインアップにあってもおかしくない一曲ですね。メルドーの日本公演でも異彩を放った一曲でした。


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

YOUR MOTHER SHOULD KNOW200.jpg

Title : 『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles』
Artist : Brad Mehldau
LABEL : Nonesuch
発売日 : 2023年02月10日

アマゾン詳細ページへ

【SONG LIST】

01.I Am The Walrus
02.Your Mother Should Know
03.I Saw Her Standing There
04.For No One
05.Baby's In Black
06.She Said, She Said
07.Here, There And Everywhere
08.If I Needed Someone
09.Maxwell's Silver Hammer
10.Golden Slumbers
11.Life On Mars?




【曽根麻央LIVE INFO】

曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2023.1_Don Cherry : Complete Communion:Monthly Disc Review

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こんにちはトランペットとピアノの曽根麻央です。2023年もよろしくお願いいたします。
今年最初のDisc ReviewはトランペッターDon Cherryによる1966年のアルバムです。
高い作曲能力と演奏技術、そしてコレクティヴなフリー・インプロヴィゼーションが絶妙なバランスで収録された名盤です。


Complete Communion500.jpg


Title : 『Complete Communion』
Artist : Don Cherry

【高い作曲能力と演奏技術、そしてコレクティヴなフリー・インプロヴィゼーション】

僕とこのアルバムの出会いはまだバークリーの学生の頃でした。デイヴィッド・リーブマンとケニー・ワーナーを宿泊先のボストンのホテルまで送って行った時、ホテルのバーで二人の音楽談義を聞く機会がありました。僕はひたすら黙って二人の会話を聞いていたのですが、その中で最も印象に残ったのがリーブマンの「Complete CommunionのLeandro "Gato" Barbieriはサックスの未来だ!」といった言葉でした。

その会話で初めて僕はこのアルバムの存在を知ったのですが、気になってその場でメモを取り、CDを図書館へ借りに行ったのをよく覚えています。みなさんも是非その言葉の真意を考えながら聴いてみてください!




Don Cherry - cornet
Leandro "Gato" Barbieri - tenor saxophone
Henry Grimes - bass
Edward Blackwell - drums




01. Complete Communion

この楽曲は複数の、7つのテーマ(曲)の組曲だと思います。あくまで私が聴いて「ここからここまでが1主題だろう」と行った具合に予想して区切ったものですので、もしかすると作曲者からは間違いだと指摘されてしまうかもしれませんが、下記にまとめてみました。
見ながら聴いていただくと曲がわかりやすいかもしれません。それぞれの主題はとてもユニークで雰囲気が違います。Complete Comunionという曲は初めて聞くと長いですし、常に流れていて取り止めがない感じがしますので難しく聞こえてしまうかもしれませんが、是非短い曲の集合だと考えて聴いてみてください。





0:00 Theme 1
こちらはルバートの主題になっていて、イントロとして考えても良いパートになっています。このトラック全体の雰囲気をよく表している曲で、Don CherryのトランペットとLeandro "Gato" Barbieriのサックスが完璧なチームワークを果たしていてお互いがリードしフォローし合い、音楽を推進させていきます。


0:52 Theme 2
序盤のメインの曲です。Gマイナーとメジャーを交互に行き来するリズミックな曲です。テーマを2ホーンで吹き2ホーンでソロを回し、ドラムソロも挟みつつ、再びテーマに戻ります。


4:32~ Theme 3
短いテーマが演奏され徐々に曲がTheme 4へと移行していきます。間奏としての役割を果たすパートです。


5:20~ Theme 4
こちらもテーマが演奏されトランペットとサックスのソロがフィーチャーされます。


6:57~ Theme 5A
Theme 5Aのラインがルバートで提示されると、すぐに軽快なスウィングのテンポに移行してメロディーを演奏します。


7:43~ Theme 5B
その後すぐに5Bに移行します。5Aと5Bの雰囲気は全く違う別のテーマなのですが交互に演奏されるので番号は揃えました。5Aはブルース的な、アフリカ音楽的な旋律に対して、5Bはどこか日本的な旋律、中東の旋律を思い浮かばせます。
5B移行後もこの旋律でDon Cherryがソロを取っているあいだ、ベーシストは5Aのテーマをベースラインとして使用していたりするので、この2曲は密接な関係にあると言えます。
中盤のメインの曲です。


12:55~ Interlude
どこまでが即興か、書いてあるのか、一概に判断できないのがこのアルバムの特徴でもあるのですが、おそらくinterlude前半は即興、徐々に作曲してある旋律に移行し次の曲に入ります。


13:38~ Theme 6
Ed Blackwellが名称不明の音程のあるパーカッションを使って演奏している、16小節のミディアムスウィングの曲です。後半のメインの楽曲になっています。


17:46~ Interlude


17:55 Theme 7 (Medium Swing ~ Fast Swing)
少し今までとは雰囲気の違うコミカルな旋律の楽曲です。


19:06 Theme 2 (再現)
楽曲が最後に近づき再現部に移行します。

20:09 Theme 1(再現)
エンディングとしてイントロでもあったTheme1を再び演奏して曲を締めています。


02. Elephantasy

こちらの曲はComplete Communionより前後のテーマ同士が複雑に絡み合いなかなかセクションを分けて考えるのは難しいですが大まかに下記に分けて見ました。後半以降は何度も以前使われたテーマが再現されているのがわかるでしょう。Theme1は特にDon Cherryの作曲能力の高さ、旋律の対する美意識がよく現れた曲だと思うのでぜひ注目して聴いてみてください。
またTheme2のDon Cherryのソロは絶品です。





0:00 Theme 1
3:36 Interlude
4:21 Interlude 2 (転調が始まります)
5:31 Theme 2 (fast swing)
10:55 Theme 3
11:58 Theme 4
12:11 Theme 5
12:30 Theme 6
13:04 Theme 5
15:28 Theme 6 (bass)
16:44 Theme 5
16:48 Theme 4
17:21 Theme 6
17:58 Theme 1 (再現)


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

Complete Communion200.jpg

Title : 『Complete Communion』
Artist : Don Cherry
LABEL : Blue Note
発売年 : 1966年

アマゾン詳細ページへ

【SONG LIST】

01.Complete Communion
02.Elephantasy




【曽根麻央LIVE INFO】

1/20 (金) @ Body & Soul (渋谷)
w/ 伊藤勇司、木村紘

2/17 (金) Nardis (柏)
w/ 伊藤勇司、木村紘

2/18 (土) -19 (日) TBA

2/28 (火) @ Mr. Kenny's (名古屋・金山)
Mao Sone Plays Standards (solo)

3/3 (金) @ Body and Soul (渋谷)
w/ シンサカイノ、苗代尚寛、小田桐和寛

3/10 (金) @ The Moment (成城学園前)
w/ 高橋佳輝、山崎隼

曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』

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maosona_A.png
曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2022.12_Cory Henry : The Revival:Monthly Disc Review

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こんにちは、トランペッター、ピアニストの曽根麻央です。
今日はマルチ・インストゥルメンタリストでもあるコーリー・ヘンリーの本業とも言える超絶オルガン・プレイを聴けるライブアルバムを紹介します。


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Title : 『The Revival』
Artist : Cory Henry

【クリスマスシーズンにもおすすめ、オルガン作品】

ゴスペル、ポップス、ジャズのクロスオーヴァーな作品でたくさんの人に楽しんでもらえる作品と思いますし、オルガンの音色はやはりクリスマスにとても映えますね!

『The Revival』というアルバムはブルックリンにあるGreater Temple of Praiseでライブレコーディングされたもので、ほぼほぼオルガン・ソロのアルバムといってよいでしょう。

トラックによってはジェームス・ウィリアムスというドラマーが参加しています。僕は彼の演奏をタイガー大越さんのバンドで一度だけ見ましたが、ドラムにカホンなどのパーカッションを組み合わせ、様々なジャンルの音楽を見事に表現する本当に素晴らしいドラマーです。またBishop Jeffrey Whiteというゴスペル・シンガーが一曲ゲスト参加しています。




Executive-Producer - Cory A. Henry
Drums, Percussion - James Williams




ヘンリーは終始オルガンの音色を柔軟に操り、曲に彩りを与えます。またダイナミックスもpp(ピアニッシモ)~fff(フォルテッシシモ)まで迫力のある表現を魅せてくれます。そして一度曲がリズムに入れば強力なグルーヴで聴いている我々が踊り出したい気分にさせてくれます。そんなとっても素晴らしい一枚です。

またヘンリーのお客さんを楽しませるエンターテイナーとしての魅力も感じられる一枚で、まるでライヴ会場で一緒に盛り上がっているような気持ちにさせてくれます。

ちなみに彼は終始B3というオルガンの名機を使用しています。この楽器の魅力も体感してみてください。





01. Lord's Prayer

一曲目は静かにハーモニーが移り変わりとても神秘的な表現を聴かせてくれるトラックになっています。オルガンの魅力は音量ペダルがあり、とてもダイナミックな演奏ができるところにあります。聴こえるか聴こえないかのレベルで始まり、そこから膨らみを増していきます。そして場面が変わると音色スイッチを素早く切り替えてさらにゴージャズな音色を即興的に作って行きます。キーボードのようにボタンのスイッチではなくレバーなので、音色を切り替えても音が途切れることなく次の音色に移行できるのがオルガンの魅力ですね。レバーはたくさんあり、 それぞれ役割が違いますので、楽器のことを本当に理解し、とてもたくさんの時間をかけて音色の研究をしていることがわかります。

僕はこの曲をApple Musicのランダム再生で発見して、ちょうど首都高を走っていて朝日が昇ってくるところでこの曲のクライマックスが出てきまして、あまりの感動に思わず声を上げてしまいました。


02. He Has Made Me Glad

ゴスペル音楽で有名な曲だと思います。僕もニューヨークに住んでいた時、日曜日の朝の教会でオルガンを弾くアルバイトをしていて、何度もこの曲を演奏した記憶があります。
ヘンリーはこの曲をとてもグルーヴィーに、ブルースのテイストを合わせながら、独自のハーモニーセンスを組み合わせて見事にプレイしています。おそらく聴いている限り即興的にリハモニゼーションしたり、転調したりしていると思うのですが、ベースの動きがとにかく綺麗です。またソロなのでテンポも自由自在に操っていて、かなり自由度の高い内容になっています。またヘンリーはクライマックスへ一曲かけて持っていく、この構成力も素晴らしいと思います。このアルバムで最も好きなトラックの一つですので是非聴いてください。


03. Precious Lord

アレサ・フランクリンやニーナ・シモンが歌ったゴスペルの名曲です。それを3連のゴスペル特有のグルーヴで演奏しています。ドラムにジェームス・ウィリアムスが入りグルーヴの芯がとても見えやすい演奏です。ウィリアムスは終始シンプルな4分音符を演奏していて、アフリカン・アメリカン音楽の4分音符の大事さを思い知らされます。


04. Old Rugged Cross

調べると1912年に書かれた古い賛美歌なようです。Bishop Jeffrey Whiteというゴスペル・シンガーがゲストに入っています。3拍子の3連音符の曲でとてもソウルフルな内容になっています。


05. Naanaanaa

アルバム一楽しい楽曲で、まるで会場に一緒にいるような感覚に陥ります。皆さんも是非一緒に歌ってみてください。



06. That Is Why I'm Happy

軽快なテンポのゴスペル調の曲。タンバリンとベースの響きがとても心地よくなっています。ドラムのスネアの音も歯切れがよくゴスペル特有の気持ち良いバックビートです。


07. If You're Happy

「幸せなら手をたたこう」を本気で演奏するとこんなにかっこよくなるのですね!  面白いので是非聴いてみてください。こういうシンプルでポピュラーな曲を表現する楽器としてオルガンはある意味最適かもしれないですね。自分でベースとハーモニーを組み替えてバンドサウンドのように出来てしまうのはピアニストからすると本当に羨ましいです。


08. Giant Steps

ジョン・コルトレーンのカヴァー曲です。中庸な速さのスウィングで演奏していて、ヘンリーのジャズ奏者としての一面を見ることが出来ます。オルガンでこういったウォークベースを弾く際、左手で4分音符を弾いて、各音を切る裏拍で足鍵盤でゴーストノート(弾いているけど実際には音程が認識できないほどの音)を弾くのですが、その独特なバウンス感がとても心地よいです。


09. All In Love Is Fair

スティーヴィー・ワンダーのカヴァー曲。原曲よりもゆったりとしたテンポで少しミステリアスな雰囲気を帯びているトラックです。


10. Yesterday

ビートルズのカヴァー曲。実はこの曲をヘンリーのインスタライヴで見て彼のファンになったのでこうしてライヴ音源も出してくれていて個人的に嬉しかったです。原曲よりもブルージーなYesterdayなのでとても面白い演奏になっていると思います。


11. I Want To Be Ready

古い賛美歌の曲です。カホンとシェイカーとリズミックに演奏しています。とてもライヴ感のあるこのアルバムを象徴するかのようなトラックになっています。即興的にメロディーやハーモニー、リズムを少しずつ変化させて巧みに音楽をクライマックスに導いています。


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title : 『The Revival』
Artist : Cory Henry
LABEL : GroundUP Music
発売年 : 2016年

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【SONG LIST】

01.Lord's Prayer
02.He Has Made Me Glad (I Will Enter His Gates)
03.Precious Lord
04.Old Rugged Cross
05.Naanaanaa
06.That Is Why I'm Happy
07.If You're Happy (And You Know It)
08.Giant Steps
09.All in Love Is Fair
10.Yesterday
11.I Want to Be Ready




【曽根麻央LIVE INFO】

曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2022.11_Wayne Shorter : Speak No Evil:Monthly Disc Review

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みなさんこんにちは、トランペッター&ピアニストの曽根麻央です。

11月15日は僕の最新シングルのリリース日だったので沢山聴いていただけると嬉しいです。
これは7月から毎月2曲ずつシングルをリリースするシリーズ『Mao Sone Plays Standards』の一環で、デューク・エリントンの「The Star-crossed Lovers」を配信しました。この曲は2014年のセロニアス・モンク国際コンペティションのセミファイナルでも演奏した私の思い出の曲です。人生で一番緊張した時です(笑)。そんな曲を落ち着いて改めてスタジオ・レコーディングして皆さんにお聞かせ出来て嬉しく思っています!

「The Star-crossed Lovers」

その他の配信情報
https://maosone.com/discography.jp


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Title : 『Speak No Evil』
Artist : Wayne Shorter

【オリジナル曲、演奏、録音、全てにジャズの魅力が詰まったアルバム】

さて今日はウェイン・ショーターの名盤『Speak No Evil』をご紹介します。このアルバムは1966年にブルーノートからリリース(1964年のレコーディング)された名盤中の名盤ですが、改めてみなさんと一緒に聴いていこうと思います。オリジナル曲、演奏、録音、全てにジャズの魅力が詰まったアルバムです。



Bass - Ron Carter
Drums - Elvin Jones
Lacquer Cut By - VAN GELDER
Liner Notes - Don Heckman
Piano - Herbie Hancock
Tenor Saxophone, Written-By - Wayne Shorter
Trumpet - Freddie Hubbard




1964年といえばショーターがアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズから脱退し、マイルス・デイヴィスのクインテットに参加し始めた年でもあり、このアルバムにもハービー・ハンコックとロン・カーターの2人がレコーディングしています。トランペットにはメッセンジャーズからフレディー・ハバードが参加し、息のあった呼吸で迫力のある2ホーンサウンドを残してくれています。ドラムにはデトロイト出身のエルヴィン・ジョーンズが参加していて、彼の繰り出すアフリカの影響が強く現れるリズムが、ハービーやロンの演奏を普段とは少し違ったものにしています。ハービーのフレーズはより3連音符中心のリズミカルなプレイに、ロンはエルヴィンのレガートに寄り添うように演奏していると思います。マイルス・バンドのスタジオレコーディングでのトニーウィリアムズとの関わり方と、このアルバムのリズムセクションを聴き比べるのもとても面白い聴き方だと思います。
レコーディングはルディ・ヴァンゲルダー・スタジオのもので、当時のブルーノート・サウンドを代表するものです。

01. Witch Hunt

「魔女狩り」という斬新なタイトルの曲です。最初に魔法のような超高速のフレーズで2ホーンが展開するイントロがあり、エルヴィンが心地よくスウィングさせて本編へ突入します。

 本編のメロディーは最初から最後まで完全4度の積み重ねだけでメロディーが書かれていて統一感があります。このように一つのアイディアやフレーズ、決め事を展開させて曲を完成させるのはクラシックでは必ず用いられる手法ですね。代表的なのはベートーベンの「運命」。あの有名な4音のリズムがずっと展開されていますね。ジャズでは特に「セマティック・ディベロップメント(Thematic Development)」と言って、コンテンポラリー・ジャズの作曲では必ず用いられます。ショーターはクラシック的な発想をジャズに分かりやすく取り入れた最初の人物の一人でもあると言えるでしょう。

この今日はショーターのソロももちろん冴え渡っていますが、フレディーの音色がたまりません!アイディアももちろんですが音色が曇りなく透き通っていて聴き手お心をとらえるでしょう。そしてハービーのソロはエルヴィンのリズムに影響を受け、3連音符を駆使した少しロジカルなソロになっていて面白いです。
ちなみに私は1:40~42にかけてのエルヴィンのドラムフィルがこの世の中で一番好きなドラムフィルです。是非聴いてみてください。





02. Fee-Fi-Fo-Fun

ジャックと豆の木で巨人がジャックを探すときに(人間の匂いを嗅ぐおきに)言ったセリフがタイトルになっています。今ではジャズスタンダードとしてジャムセッションで演奏されることもある曲です。ABAフォームの短めの曲ですがブルースの土くささも感じるし、都会的な洗練されたハーモニーセンスも感じられる不思議な曲です。

前曲に引き続きエルヴィンとロンの相性もよく、とってもスウィングしてグルーヴィーな演奏になっています。フレディーのソロは素晴らしいサウンドとフレーズのセンスでとても聴きやすいです。ショーターのソロは独特の浮遊感をともなっていますが、セマティック・ディベロップメントのテクニックをアドリブでも応用していて、このプレイはウェザー・リポートや現代のショーター・カルテットでも聴くことのできるウェイン節になっています。


03. Dace of Cadaverous

「死人の踊り」というまたインパクトの強いタイトルがついています。ジャズワルツの美しいメロディーの曲になっています。8小節のイントロのついたAABCAABDという独特なフォームで展開される楽曲です。minor-major7というかなり特徴あるコードサウンドが主軸になっているため独特な浮遊感をまとっています。またminor-major7から派生したmaj7(#5)というコンテンポラリーなサウンドを使用した、当時ではかなり異端な作品ではなかったのではと予想できます。


04. Speak No Evil

「see no evil, hear no evil, speak no evil」で「見ざる、言わざる、聞かざる」ということわざがありますが、恐らくその最後の一文からのタイトルでしょうか。
ロングトーンとそこから生まれた短いフレーズが対比をなして構成されている曲です。アルバムのタイトルソングでもあります。少し軽快なスウィング調の曲です。


05. Infant Eyes

9小節のABAフォームのバラードです。これもごく稀にジャムセッションでも演奏されるジャズスタンダードとなっている名曲です。他の楽曲と違いワンホーンで録音されています。この曲も一つのフレーズのパターンを何度も展開させて発展させるセマティック・ディベロップメントを使って曲を構成させています。


06. Wild Flower

ショーターの代表曲の一つで美しい3拍子の曲です。この曲もジャズスタンダードの一つになっています。このアルバムは本当に名曲を多く生み出していて、後世のミュージシャンにいかに影響を与えたか、楽曲だけを聴いてもわかります。2ホーンのアレンジも素晴らしく、フレディーとの2管編成の相性の良さも納得していただけるでしょう。


それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title : 『Speak No Evil』
Artist : Wayne Shorter
LABEL : Blue Note
発売年 : 1966年

アマゾン詳細ページへ

【SONG LIST】

01.Witch Hunt
02.Fee-Fi-Fo-Fum
03.Dance Cadaverous
04.Speak No Evil
05.Infant Eyes
06.Wild Flower




【曽根麻央LIVE INFO】

11/17 (Thu) @ 104.5 (御茶ノ水)
Good Jam Session with Candy Dulfer and Her Band​
Yoshiki Takahashi & Kazuhiro Odagiri

11/20 (Sun) @ Body & Soul (渋谷)
Mao Sone, Taka Nawashiro, Shin Sakaino, Kazu Odagiri​

11/27 (Sun) @ No Room For Squares (下北沢)
Mao Sone, Yuji Ito, Hironori Suzuki​

​​​​12/4 (Sun) @ Nardis (柏)
Mao Sone, Yoshiki Takahashi & Hiro Kimura

12/9 (Fri) @ The Moment (成城学園前)
Mao Sone, Yoshiki Takahashi, Hayato Yamazaki

​​​​12/12 (Mon) @ TBA​


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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2022.10_Roy Hargrove Big Band : Emergence:Monthly Disc Review

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皆さんこんにちは。トランペッター、ピアニストの曽根麻央です。
10月も中旬に差しかかり肌寒い日が多くなってきました。皆様におかれましては体調のほどいかがでしょうか?僕は元気にツアーの多い秋を駆け抜けています。
今回は熊本からディスク・レビューを書いています。

今日はレジェンド・トランペッター、ロイ・ハーグローヴが2009年に残したビッグバンド・アルバム、『Emergence』を聴いていきたいと思います。死後にリリースされたものを除けば、ラスト・リーダー作となっています。


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Title : 『Emergence』
Artist : Roy Hargrove Big Band

【現代を代表するトランペッター、Roy Hargroveのラスト・リーダー作】

 ロイ・ハーグローヴは間違いなく現代を代表するトランペッターでしたが、2018年に惜しまれながらこの世をさりました。残念ながら彼の絶頂期の演奏をライヴで聴くことは僕はありませんでしたが、それでも彼のソウルフルで温かい音色と歯切れ良いリズム、そして美しいメロディー・ラインは亡くなる直前まで彼と共にありました。NYCのSmallsというライヴ・ハウスに僕が学生時代に遊びにいき、ジャム・セッションに参加していると、ロイが急に現れて完璧な2コーラスを吹いてまたどこかへまた去っていく、これがたまらなくカッコよく憧れでした。

 ジャム・セッションといえば...ブルーノート東京と僕が毎月開催しているジャム・セッション・イベントがあるので是非チェックしてみてください。我こそはという参加者、ミュージシャンが切磋琢磨する様子を楽しみに来るリスナーさん歓迎です!ブルーノート東京の系列店で御茶ノ水にあるCafe104.5で主に開催しています。次回は11/17です。

Cafe104.5


 『Emergence』は2009年リリースの近年のアルバムだけあってとても良い音で収録されています。ロイのトランペットの音色も明るく収録されています。場面によっては録音ブースの隅まで音が響き渡っていたことが分かる部屋の残響音も集音されていて、ロイのパワフルな一面も存分に味わうことができるライヴ感もあるアルバムになっています。左からサックス・セクション、真ん中にトロンボーン・セクション、右側にトランペット・セクションが聴こえてきますので、恐らくトラディショナルなビッグ・バンドのレコーディングの配置で収録されたのかと思います。ロイはのトランペットはおおよそセンターから聴こえてきます。これを現代的なステレオ・イメージで聴くことが出来るのもこのアルバムの魅力かと思います。

01. Velera

ロイ・ハーグローヴ・ビッグバンドのオープニング曲としてよく演奏されていた美しいバラード曲です。10小節、8小節、10小節のA-B-Aフォームの曲で、独特のハーモニーと変則的な小節数が浮遊感を演出します。トランペット・セクションがピックアップのメロディーを演奏するとすぐにフル・オーケストレーションで1コーラス曲が奏でられます。ロイはフリューゲルホルンで2コーラス目のAセクションでソロをとります。バラードでのフリューゲルホルンの演奏はロイの魅力を最も味わえる場面です。




02. Ms. Garvey, Ms. Garvey

ファンキーなシャッフル・スウィングの曲です。1コーラス目にトロンボーンとバリトン・サックスのユニゾンでメロディーが演奏され、2コーラス目にはこれにロイが加わりつつ、オーケストラがハーモニーやカウンターポイント(対位法:主旋律と対になるような副旋律)を演奏します。その後もう1コーラス分アレンジャーズ・コーラスがあり、その後各セクションから一人ずつフィーチャーしてのソロとなります。アレンジャーズ・コーラスはシャウト・コーラスとも呼ばれ、ビッグバンドをアレンジした編曲家が元のコード進行の上に独自のメロディーを新たに書き、オーケストレーションした場面のことを指します。ソロはバリトン・サックス、ロイのトランペット、トロンボーンと受け継がれます。このロイのソロも力強く、ファンキーで、カッコいいです。




03. My Funny Valentine

ロイのフリューゲルがフィーチャーされた誰もが知るスタンダード曲のカバー。出だしは少しだけスタン・ケントンの『コンテンポラリー・コンセプト』に収録されている「Stella By Starlight」に影響をうけたのを個人的に感じました。


04. Mambo For Roy

Dマイナーのブルース形式の快速なテンポで展開されるラテンの曲。ここでロイのトランペットも最高潮のソロを展開し、ハイノートを見事にヒットさせ続けます。ロイ、フルート、そしてピアノ・ソロと曲が展開しメロディーに戻ると、曲が一旦終わったかのように見せかけ、本編より遅いチャチャのリズムでエンディングが演奏されます。この時のロイもソウルフルな演奏で聴く人を虜にします。全体を通してロイのフリューゲルホルンがフィーチャーされており、丁寧にメロディーを吹いておりとても美しいです。


05. Requiem

アメリカの古きよきポップスのような出だしからイントロが始まりますが、いざ曲が始まるとアフリカン・ビートが満載で、モーダルな曲調となります。2分前後にロイと同時にソロを取っているトランペッターはおそらくダレン・バレットだと思います。


06. September In The Rain

ロイの名アレンジのひとつだと思います。誰が聞いても楽しいミディアムテンポのスウィングでアレンジされた、有名な「September in the Rain」のカヴァーです。インパクトのあるイントロの後、ロイが1コーラス、ハーマン・ミュート越しにメロディーを演奏します。その後フル・オーケストラのシャウトコーラスを半コーラス挟み、ベースソロとなります。その次のコーラスでは前半でアルト・サックス、トランペット、トロンボーンの3管編成のシャウト・コーラスがあり、途中からトロンボーン・セクションに主旋律が移りバックグラウンドとしてサックス・セクションがハーモニーを奏で、その後ブラス(トランペット+トロンボーン)とサックス・セクションの対比となり、最終的にピアノ・ソロに着地する見事なオーケストレーションを展開します。ピアノ・ソロはシンプルに、そしてリズミカルに心地よく演奏されます。その後ビッグバンド全体でユニゾン、そしてそれを追随するドラム・ソロというトレイド・セクションに入ります。

日本ではこのようなセクションを「フォーバース」と呼んだりしますが、アメリカではこの様な場面を「Trade」と言います。そしてロイが歌で「September in the Rain」のメロディーを歌い上げ、ロイの歌にメンバーが呼応する「Call & Response」の場面があり曲が幕を閉じます。実にバラエティに富んだアレンジで、このアルバムのクライマックスといえる名演奏です。




07. Everytime We Say Goodbye

Roberta Gambariniというイタリアのジャズ・シンガーをフィーチャーしたアレンジ。前半はバラードでじっくりと、後半はロイのソロがスウィング・ワルツで軽快に演奏されます。


08. La Puerta

同じくRoberta Gambariniをフィーチャーしたボレロ調の楽しい曲。ロイのフリューゲルホルンは短いソロながらも再び冴える一曲です。ビッグバンド自体のサウンドもとても太く一体感のある演奏でとても素晴らしいです。


09. Roy Allan

ロイ・ハーグローヴの代表曲のビッグバンド・アレンジ・ヴァージョン。Even 16 feelが心地よく、メロディーとハーモニーがとても洗練されていてロイらしい一曲です。ここまでの曲は割とオーソドックスなハーモニーで構成された曲が多いので、ここでこのようなコンテンポラリー・サウンドの登場はとても新鮮に感じられます。そしてロイのトランペットソロもMambo for Royで聴けたような熱量があり素晴らしいです。


10. Tschpiso

この曲は全体的にロイのトランペットがフィーチャーされた曲で、パッと聴くと「ルパン三世」や「グレート・プリテンダー」や「スパイファミリー」なんかの日本のアニメのサウンドトラックで使われそうなグルーヴとハーモニーの一曲になっています。


11. Trust

サックスのユニゾンが徐々に膨れ上がり繊細なハーモニーを織り出すバラード曲。ロイのトランペットの柔らかい音色がよく収録されていて素晴らしいです。一瞬フリューゲルホルンを演奏しているかのような柔らかい音色から徐々にハリのあるトランペットの音に変化してくソロは必聴です。

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さて私自身は7月よりジャズ・スタンダードの数々をソロで収録し、毎月2曲ずつサブスクで配信するプロジェクト『Mao Sone Plays Standards』を継続しております。

詳しくはこちら

今月10/24(月)には名古屋のMr. Kenny'sで『Mao Sone Plays Standards』のソロ公演を開催しますので名古屋の皆様、お待ちしております!
予約フォーム(Mr. Kenny's)



それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title : 『Emergence』
Artist : Roy Hargrove Big Band
LABEL : EmArcy
発売年 : 2009年

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【SONG LIST】

01.Velera
02.Ms. Garvey, Ms. Garvey
03.My Funny Valentine
04.Mambo For Roy
05.Requiem
06.September In The Rain
07.Every Time We Say Goodbye
08.La Puerta
09.Roy Allan
10.Tschpiso
11.Trust




【曽根麻央LIVE INFO】

10/16 (Sun) @ 菊陽町図書館ホール (熊本)
Travel Brass

10/17 (Mon) @ 宮崎市立大淀小学校 (宮崎)
Travel Brass
​​
10/18 (Tue) @TBA
Travel Brass
​​
10/19 (Wed) @ Velera (赤坂)
Mao Soné Trio with Yuji Ito & Hiro Kimura

10/21 (Fri) @ 葛城 北の丸(ハママツ・ジャズ・ウィーク関連イベント)
Brightness of the Lives with 井上銘、山本連、木村紘、二階堂貴文
​​​
10/23 (Sun) @ アクトシティー大ホール(浜松ヤマハ・ジャズ・フェスティバル)
Brightness of the Lives with 井上銘、山本連、木村紘、二階堂貴文 & 馬場智章

10/24 (Mon) @ Mr Kenny's (名古屋)
Mao Soné Solo "Plays Standards"

10/25 (Tue) @ 大和市立柳橋小学校 (神奈川)
Travel Brass
​​
10/26 (Wed) @ 名古屋市立植田小学校
Travel Brass
​​
10/27 (Thu) @ 浜松市立葵西小学校
Travel Brass
​​
10/30 (Sun) @ 御船町カルチャーセンター(熊本)
Travel Brass

10/31 (Mon) @ 福岡県 粕屋西小学校
Travel Brass

曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2022.9_Ramsey Lewis : Sun Goddess:Monthly Disc Review

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みなさんこんにちは、トランペッター&ピアニストの曽根麻央です。
今週は日本のジャズシンガーの中でもレジェンド級の存在、
中本マリさんのツアーで関西〜名古屋方面にきています。お近くの方は是非お越しください。

9/15 高槻J K.RUSH
9/16 大津Bochi Bochi
9/17 桑名ado on top
9/18 桑名 ado on top (昼公演)
9/19 名古屋Star Eyes

そして今月来月は、今年発売したアルバム『Brightness of the Lives』のコンサートがあります。

9/23 @ 流山生涯学習センター
https://teket.jp/3138/14458

10/21 @ ヤマハリゾート葛城北の丸(掛川)
hhttps://www.yamaharesort.co.jp/katsuragi-kitanomaru/info/040.php

10/23 @ 浜松アクトシティー大ホール
https://hamamatsujazzweek.com/2022/01/


また現在配信中のソロ演奏シリーズ『曽根麻央プレイズ・スタンダード』の一環で、名古屋に10/24(月)ソロ公演で伺います!場所は金山のMr. Kenny'sです。
https://teket.jp/3138/14458


この様に徐々にライブシーンが通常に回り始めた喜びを感じつつ充実した日々を送っていたところ、とんでもない訃報が届いてしまいました。

ラムゼイ・ルイス。偉大なR&B~ジャズピアニストで数多くのヒットソングに携わった人です。僕はこの人のライブ映像を小学生の時に何回も見て、その凄まじいライブパフォーマンスに憧れていました。YouTubeにその映像を見つけたので是非聞いてみて下さい。




【クールでファンキーなピアノスタイル】

ラムゼイ・ルイスのピアノは輝く明るめのタッチとゴスペルやR&Bに根ざしたリズミカルでグルーヴィーな演奏が特徴です。ライブ映像をみてもわかるのですが、ファンキーな曲を演奏していてもとても落ち着いていて、軸がブレないというか、じっくりとストーリーが展開されている印象をえます。この様なクールでファンキーなピアノの演奏スタイルは、ラムゼイ・ルイスなしには完成しなかったといってよいでしょう。

さてこのSun Goddessは調べるとルイスとドラマー、モーリス・ホワイトのリユニオン作品だそうです。モーリス・ホワイトというとあの有名なEarth, Wind & Fireのリーダーとして有名でリードトラックの「Sun Goddess」をはじめ、Earth, Wind & Fireのメンバーが演奏に参加しています。
僕が書くまでもない名盤ですが、新ためてこのアルバムの魅力に気付けたらと思います。


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Title : 『Sun Goddess』
Artist : Ramsey Lewis



01. Sun Goddess




この8分間は録音の歴史上最高にグルーヴィーな瞬間であると言えるでしょう。ルイスの代表的名演奏です。ギターのカッティングが聴こえてきて、ドラムのbass drumが胸に響きます。ラムゼイ・ルイスは最初フェンダー・ローズでシンプルなパターンを繰り返し弾きながらグルーヴを高めます。その後かの有名な美しいメロディーが流れてきます。メロディーの間のルイスの合いの手も非常に歌心あり、感情をくすぐられます。その後一瞬イントロのギターカッティングの上で、ルイスが暴れます(笑)。これがまたちょうどよい長さでカッコ良いです。このトラックは構成のバランスも最高なのです。その後すぐにテナーソロに入り、イントロのコード進行の上で音楽が進んでいきます。同じ進行の上でソロがルイスに渡されます。リズムがとても歯切れよく心地よいソロが展開されます。フレーズはいたってシンプルでコードに沿ったものですが、それが自然と聴き手を徐々に音楽の中に引っ張り込んでしまいます。ソロが最高潮に達したところですぐさまメロディーに戻るのもシンプルな作りでとても良いですね。エンディングに近づくにつれディレイのかかったローズの音になっていき、フレーズが徐々に複雑になりかけたところでフェイドアウトして終わります。


02. Living for the City

スティーヴィー・ワンダーの楽曲。フェンダー・ローズでメロディーを弾きながら左手でブルージーなコンピングを繰り広げるのは本当に見事ですね。ブラスセクションがとてもインパクトある曲になっています。後ろのストリングスも特徴的ですね。ピアノソロ中は音程をグニャっとさせて独特の緊張感を音楽に与えています。


03. Love Song

これはルイスのオリジナル曲。ルイスのアコースティックピアノをフィーチャーした曲。イントロのストリングスがこれも非常に特徴的ですね。 ルイスのピアノの音はこの上なく明るく、すべての音をかき分けて頂点に立つ様な音です。しかし、耳に突き刺さることはなく、優しさがある素敵なピアノのタッチです。ソロではフェンダー・ローズに戻り、グルーヴィーなソロを1コードの上で展開しつつ、徐々にホーンセクションなどが絡んできているのもかっこいいです。


04. Jungle Strut

この曲ではアップライトベースがとても特徴的なラインを弾いて、それが基本となり展開していきます。言葉とそれに呼応するシンセの音が特徴的な音楽です。


05. Hot Dawgit

映画音楽の様なブルージーなギター・イントロに続いて、リリカルなメロディーが展開されます。短いシンプルな曲です。


06. Tambura

ノイズの様なパーカッションとシンセが特徴的な出だしを作り出しています。ここまで聴いて改めて気づいたのですが、このアルバムは各楽曲のイントロの掴みが素晴らしいですね。聴き手に何だこれ、かっこいい、と思わせる工夫が特にイントロや出だしになされていて、そこから派生するグルーヴが安定して永続的に続くため体が自然と踊り出す、そんなアルバムなのかもしれません。


07. Gemini Rising

これまでの楽曲に比べるとかなり暗い混沌としたコンテンポラリーなサウンドでイントロが始まります。本編自体は少し軽快なグルーヴです。シンンセサイザーがメロディーを担当していて他の楽曲とかなり印象が変わります。アップライトベースも特徴的です。ルイスのソロではスウィングにグルーヴが変わります。恐らくCleveland Eatonがベースだと思いますが、非常に理想的なウォークベースを展開していて、スウィングのリズムをリードしています。それにルイスのソロも徐々に高まり彼のジャズ奏者としての優れた一面を聴くことができます。ベースソロではドラムが徐々にカオスになり、シンセも加わって混沌としたイントロのサウンドに戻り曲が終わります。



それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title : 『Sun Goddess』
Artist : Ramsey Lewis
LABEL : Columbia
発売年 : 1974年

アマゾン詳細ページへ

【SONG LIST】

01.Sun Goddess
02.Living For The City
03.Love Song
04.Jungle Strut
05.Hot Dawgit
06.Tambura
07.Gemini Rising




【曽根麻央LIVE INFO】

9/15 (Thu) @ JK Rush, Takatsuki
Mari Nakamoto Tour
​​
9/17 (Sat) night @ Ado On Space, Kuwana
Mari Nakamoto Tour
​​
9/16 (Fri) @ Bochi Bochi, Otsu
Mari Nakamoto Tour
​​
9/18 (Sat) @ Ado On Space, Kuwana
Mari Nakamoto Tour
​​
9/19 (Mon) @ Star Eyes, Nagoya
Mari Nakamoto Tour
​​
9/23 (Fri) @ 流山生涯学習センター
Brightness of the Lives (feat. May Inoue, Ren Yamamoto, Hiro Kimura & Takafumi Nikaido)

9/24 (Sat) @ Cabin, Honatsugi
Mao Sone, Takafumi Nikaido, Yuji Ito

9/25 (Sun) @ Body & Soul
Mao Sone, Yuji Ito, Hiro Kimura, Takafumi Nikaido

9/26 (Mon) @ Apple, Yokohama
​Tetsuo Koizumi, Takafumi Nikaido, Mao Sone

9/28 (Wed) @ Nardis, Kashiwa
Mao Sone Trio (feat. Yuji Ito & Hiro Kimura)

9/29 (Thu) @ 築地 Blue Mood
中村梅雀(eb)、井上銘(gt)、曽根麻央(keys&tp)、高橋直希(ds)

10/1 (Sat) @ 取手市民会館大ホール
宮本貴奈ダブル・トライアングル featuring 曽根麻央、中林俊哉&KOTETSU

10/2 (Sun) @ 蒲郡ジャズフェスティバル
Yucco Miller Quartet

10/3 (Mon) @ Nardis (柏)
Mao Soné Trio with Yuji Ito & Hiro Kimura

10/5 (Wed) @ Apple (横浜)
TBA

10/7 (Fri) @ Cabin (本厚木)
丈青 and more

10/8 (Sat) @ 関内ホール【横浜ジャズプロムナード】
Reborn Wood Sessions

10/9 (Sun) @ Cabin (本厚木)
Mao Soné SOLO

曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2022.8_Art Blakey & The Jazz Messengers : Ugetsu:Monthly Disc Review

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みなさんこんにちは、トランペッター&ピアニストの曽根麻央です。
今回はアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズの代表作『Ugetsu』をご紹介しようと思います。

ポスト・ビバップの最高峰として各プレイヤーの熱演を聞く事は出来るだけでなく、ビバップ誕生から20年という月日が経過した事でアレンジやアンサンブルのあり方もバンドとして一つの頂点を極めたと言ってよい作品でしょう。


本編の前に一つ紹介させてください。僕のソロプロジェクト『Mao Sone Plays Standards』の第3作目「Luminous (Piano Solo Ver.)」が公開されました。ぜひたくさん聴いてください。


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【Luminous (Piano Solo Ver.) / 曽根麻央】(各配信サイト)
https://ultravybe.lnk.to/Luminous_p


また東京のコットンクラブではこのシリーズを記念したライブが9/2(金)にあります。



【MAO SONÉ "Plays Standards" with DAVID BRYANT & TAKANA MIYAMOTO】





"ジャズ二刀流"と称される若き才能と2人のピアニスト
スタンダード曲の数々を贅沢な内容で届ける一夜


【SCHEDULE】
2022 9.2 fri.
[1st.show] open 5:00pm / start 6:00pm
[2nd.show] open 7:45pm / start 8:30pm


【MEMBER】
曽根麻央 (p,tp)
【Guest】
デヴィッド・ブライアント (p,key)、 宮本貴奈 (p,key)


【詳細】
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/mao-sone/




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Title : 『Ugetsu』
Artist : Art Blakey & The Jazz Messengers


【バンドとして一つの頂点を極めたアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズの作品】

さてこの『Ugetsu』は1963年のNYバードランドで収録されたライブアルバムです。
日本を意識したタイトルと選曲になっており、当時から日本での人気を感じさせます。

ブレイキーがアルバムの途中で「次の曲はUGETSUといい、日本語でファンタジーという意味です」と紹介しています。おそらく「雨月物語」という1953年には映画化もされている日本の古典から言葉がきていると思います。海外のこの映画の紹介文を読むと「romantic fantasy drama」と紹介されていますので、雨月物語からの意訳かと思われます。「Ugetsu」というシダー・ウォルトンのタイトル曲は後に「Fantasy in D」とタイトルを改められます。

下記メンバーと曲です。



Art Blakey - drums
Freddie Hubbard - trumpet
Curtis Fuller - trombone
Wayne Shorter - tenor sax
Cedar Walton - piano
Reggie Workman - bass

オリジナルLP
One By One (Wayne Shorter)
Ugetsu (Cedar Walton)
Time Off (Curtis Fuller)
Ping-Pong (Wayne Shorter)
I Didn't Know What Time It Was (Richard Rodgers, Lorenz Hart)
On the Ginza (Wayne Shorter)

ボーナストラック
Eva (Wayne Shorter)
The High Priest (Curtis Fuller)
The Theme (Miles Davis)



50年代後期のメッセンジャーズはリー・モーガン&ベニー・ゴルソンの2菅編成サウンドに、ボビー・ティモンズのブルージーでファンキーなピアノに支えられ、ベニー・ゴルソンの類まれな作曲能力によってヒット曲にも恵まれていました。その後フロントがフレディー・ハバードとウェイン・ショーター、そしてカーティス・フラーの3菅編成に拡張されアンサンブルの可能性が増しました。

リズムセクションもシダー・ウォルトンとレジー・ワークマンに代わり、より複雑で繊細なハーモニーを取り入れることが出来るように。メンバーのキャラクターと演奏に合わせるようにウェイン・ショーターというジャズ史上最高の作曲家が名曲を生み出していきました。

レーベルもブルー・ノートからリヴァー・サイドに移った新生メッセンジャーズの初期のアルバムと言ってよいでしょう。





01. One By One

「Art Blakey and the Jazz Messengers」というアナウンスとともに有名なイントロが聴こえてきます。ジャズファンはこれだけでテンションが上がるに違いありません。「One By One」はウェイン・ショーターのファンキーなAABA構成のジャズ曲で、その構成はベニー・ゴルソンやボビー・ティモンズが作り上げたメッセンジャーズ伝統のものに近いと思います。

「Whisper Not」や「Dat Dare」という過去の作品を聴いてもその雰囲気と共通点がわかるでしょう。ブルージーなメロディー、さりげない転調、ピアニッシモからフォルテッシモの大胆なダイナミックス、そしてリーダー・ブレイキーのドラム・フィル、これらはメッセンジャーズの色です。しかし今回は3菅ですからさらに音に広がりがあります。

メロディーが入って最初の1-2小節は通常の音量で完璧な3本ユニゾンなのですが、3-4小節目は狭い音域での3声のハーモニー、そして5-7小節目にはトランペットがオクターブ上のユニゾンというように、徐々に音域も広がりを効かせて音量じゃなく楽器の組み合わせでダイナミックスを表現します。ところがBセクションに入るとフォルテッシモでオクターブユニゾンのメロディーが聴こえてきて、それがドラムのクラッシュとともに急にピアニッシモになり、同じ音域のユニゾンに戻ります。楽器の組み合わせと音量効果を合わせ技で使ったとても効果的なアレンジです。

3菅編成となると誰かがソロをしている後ろでも2本の管楽器でバックグラウンドが演奏できるのでまるでビッグバンドをきているような感覚になります。


02. Ugetsu

シダー・ウォルトンの名曲で「Fantasy in D」としても有名な曲です。12小節のメインテーマが2回トランペットで演奏され、16小節のA7susのVampセクションが毎回挟まれるAAB構成の曲です。

Vampセクションについては以前も詳しく書いたのですが、同じようなコードやリズムパターン、ベースパターンが複数回繰り返されるセクションをいい、ラテン音楽によく見られる形態のことです。50年代からは特にジャズもラテンの影響を受け始め曲にvampセクションがつくことが増えました。コード進行が目まぐるしく変化するビバップの曲に対し、コードの変化が少ないためソリストの自由度と熱量が増していくのがわかると思います。このフレディーのソロは歴史的名演と言えるでしょう。





03. Time Off

軽快なテンポの32小節の曲。ブレイキーらしいヒットがテーマ中に散りばめられ、その間を埋めるようにタムの音が埋められています。これはカーティス・フラーの曲ですがメッセンジャーズのメンバーは本当にブレイキーのスタイルに合わせて曲を作ることが非常にうまいです。各ソロもよくまとまっていてとても聴きやすい一曲になっています。


04. Ping-Pong

非常に特徴のあるドラムパターンから成る楽曲。形式も複雑化していてショーターの曲作りの素晴らしさを体感できる一曲。ドラムパターンの上にハーモニーが聴こえてきて、そのパターンの上で演奏される8小節のメロディーがAセクション。Aセクションに続いて展開される激しく転調を繰り返す12小節のセクションがBセクションとなっていて、これが2回繰り返されます。その後音楽のクライマックスを締め受くるCセクションが8小節繰り返されAに戻るという、ABABCAという奇妙な構成の楽曲です。

一見つかみどころのない、流れるようなメロディーのように聴こえますが、モティーフがはっきりしてそれを展開させているためストーリーが統一された楽曲と言えるでしょう。卓球玉が目まぐるしく転がっていくようなメロディーから始まり、その後に続くモティーフがずっと展開されていきます。ジャズ作曲史上その構成の枠を打破した見事な楽曲と言えるでしょう。


05. I Didn't Know What Time It Was

ジャズ・スタンダード曲。ショーターをフィーチャーしたバラードで演奏されています。こちらもただ単にバラードを演奏しているだけでなく、メッセンジャーらしいダイナミックスのある演奏になっています。


06. On the Ginza

「日本のショッピングタウン」銀座の街をテーマに展開される軽快なショーターの曲。3菅の持つバラエティー豊かなサウンドをとてもよく表現している曲です。各8小節ずつのABCセクションで構成される曲です。各セクションとも共通したモティーフを共有していて曲に統一性があるのはショーターの特徴です。


BONUS. Eva

ボーナストラックですがこの楽曲だけは特に取り上げたいのです。ジャズで作曲を志す人はぜひ研究してほしい名曲です。おそらくこれがこの曲の唯一のバージョンなのが非常に残念に感じています。

ジャズのスタンダードと成るポテンシャルのある曲なのですが、多作であるウェイン・ショーターらしい話です。まずメロディーが非常に美しく、メッセンジャーズのもつダイナミックスも活かせるバラードです。6小節のイントロのついたABABの構成の曲です。バラードですが全てのセクションが3菅編成で統一されていて、そのハーモニーも見事に書かれています。ぜひ聴いてみてください。





それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné






Recommend Disc

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Title : 『Ugetsu』
Artist : Art Blakey & The Jazz Messengers
LABEL : Riverside Records
発売年 : 1963年

アマゾン詳細ページへ

【SONG LIST】

01.One By One
02.Ugetsu
03.Time Off
04.Ping-Pong
05.I Didn't Know What Time It Was
06.On The Ginza
07.Eva
08.The High Priest
09.IThe Theme




【曽根麻央LIVE INFO】

8/20 (Sat) @ Nagareyama-city Shogai Gakushu Center
Mizuki Shikimachi & Mao Sone

8/21 (Sun) @ Cabin, Hon-atsugi
Mao Sone, Yoshiki Takahashi, Hayato Yamazaki

​​8/22 (Mon) @ TBA
​TBA
​​
8/24 (Wed) @ Apple, Yokohama
Kurena Ishikawa & Mao Sone
​​
8/27 (Sat) @ No Room For Squares, Shimokitazawa
Mao Sone & Yuji Ito
​​
8/28 (Sun) @ Yatsugatake Jazz Festival
​Yucco Miller
​​
8/29 (Mon) @ Mr, Kelly's, Osaka
​Yucco Miller
​​
8/30 (Tue) @ Star Eyes, Nagoya
​Yucco Miller
​​
8/31 (Tue) @ Star Eyes, Nagoya
​Yucco Miller

9/2 (Fri) @ Cotton Club, Tokyo
Mao Sone "Plays Standars"
with David Bryant & Takana Miyamoto

​​9/24 (Sat) @ Cabin, Honatsugi
Mao Sone, Takafumi Nikaido, Yuji Ito

9/25 (Sun) @ Body & Soul
Mao Sone
​​
9/26 (Mon) @ Apple, Yokohama
​Tetsuo Koizumi, Takafumi Nikaido, Mao Sone
​​
9/28 (Wed) @ Nardis, Kashiwa
Mao Sone Trio (feat. Yuji Ito & Hiro Kimura)
​​
9/8 (Thu) @ Cotton Clun, Tokyo
Eri Chichibu
​​
9/10 (Sat) @ giee, Kokubunji
Mari Nakamoto
​​
9/12 (Mon) @ TBA
TBA
​​
9/14 (Wed) @ Jazz Live Bar GLOVER, Osaka
Mari Nakamoto Tour
​​
9/15 (Thu) @ JK Rush, Takatsuki
Mari Nakamoto Tour


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

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みなさんこんにちは。トランペットとピアノの曽根麻央です。
まず最初にお知らせがあります。

先日7/13(水)より シングル「Days of Wine and Roses(酒とバラの日々)」が配信されました。
是非聴いてください!

これは私、曽根麻央が数々の名曲をピアノソロ中心に録音した"Plays Standards"シリーズの一環で、このシリーズは今月から12月までの間、毎月2曲ずつ配信していきます。注目しておいてください。


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【Days of Wine and Roses / 曽根麻央】(各配信サイト)
https://ultravybe.lnk.to/thedaysofwineandroses


まだ一曲のみですが計12曲にも及ぶのでこちらのSpotifyプレイリストに随時まとめていく予定です。




そして東京の丸の内コットンクラブではこれに先駆けて配信を記念したライヴを開催します。
会場でお会いしましょう!



【MAO SONÉ "Plays Standards" with DAVID BRYANT & TAKANA MIYAMOTO】





"ジャズ二刀流"と称される若き才能と2人のピアニスト
スタンダード曲の数々を贅沢な内容で届ける一夜


【SCHEDULE】
2022 9.2 fri.
[1st.show] open 5:00pm / start 6:00pm
[2nd.show] open 7:45pm / start 8:30pm


【MEMBER】
曽根麻央 (p,tp)
【Guest】
デヴィッド・ブライアント (p,key)、 宮本貴奈 (p,key)


【詳細】
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/mao-sone/

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Title : 『Oscar Peterson Trio + One』
Artist : Oscar Peterson Trio Clark Terry


【オスカー・ピーターソン&クラーク・テリーによる巨匠の名演】

さて今回はピアノの名手オスカー・ピーターソンと、ジャズ・トランペットの神様、クラーク・テリーの共演した名盤『Oscar Peterson Trio + One』を聴いていきましょう。

このアルバムは1964年のもので、ピーターソンが39歳、クラーク・テリーが44歳と、丁度中堅に差し掛かり心地よいジャズを演奏するのにちょうど良い年齢に達した二人の巨匠の名演集ともいえる作品です。

クラーク・テリーという名前に馴染みがない方はすぐにでも覚えてほしい。この人ほどトランペットという楽器をここまで高度に操れた人は過去にはいないのです。
技術だけなのかというとそうではなく、この人ほどトランペットを自身の声として扱うことに長けていた人はいないでしょう。プレイヤーとしてでなく94歳で亡くなる2015年まで教育者としても尊敬されていた人です。

1920年に生まれ、カウント・ベイシーとデューク・エリントン・オーケストラというジャズ界の歴代2大ビッグバンドのソリストとして活躍し、ソロ活動も精力的に行なっていました。またマイルス・デイヴィスのメンター(ただの楽器の先生としての意味合いではなく生き様を見せることで後進の指導をするような人の意)として有名です。ウィントン・マルサリスやクインシー・ジョーンズといった一流のアーティストも彼のことをメンターとして挙げています。ジャズのシーンだけでなくNBCなどのTVミュージシャンとしても活躍したマルチ・タレントです。

そんな彼のトランペットの音は、立ち上がりがよく、艶やかでリズミカル。まるで彼自身の声を聴いているかのようです。このアルバムでも収録されている「Mumbles」でクラーク・テリー自身のスキャットも聴けます。ぜひ彼のトランペットと歌の共通点を見つけてみてください。






Clark Terry - trumpet, flugelhorn, vocal
Oscar Peterson - piano
Ray Brown - double bass
Ed Thigpen - drums



オスカー・ピーターソンの最も有名なトリオにクラーク・テリーが乗っかったアルバムです。このコラボはツアーなどで以後も続いていきます


01. Brotherhood of Man

早速、心地よい快速なスウィングの曲で始まります。クラーク・テリーはプランジャー・ミュートという、いわゆるトイレのスッポンのゴム部分を使用しており、これをトランペットのベルのところで開けたり閉めたりすることで、まるで喋るような、歌詞を歌っているかのような演奏を聴かせてくれます。エリントン・ビッグバンドのアレンジによく登場する奏法です。このプランジャーを使った演奏は彼の得意技で、他の追随を許しません。ぜひ楽しんで聴いてください。


02. Jim

少しゆったりとしたスウィングの曲。ピーターソントリオで1コーラステーマを演奏し、テリーに引き継がれます。テリーに引き継がれると、トランペットの音を変化させ彼がまるで二人に分身したかのように掛け合いで演奏を始めます。実は右手にフリューゲルホルン、左手にハーマン・ミュートをつけたトランペットを持っていて、それをパートによって吹き分けています。これもテリーの芸の一つで、トランペットを左手でも持てるように取り外し式のピンキーフックを楽器に装着し使っています。2人のジャズの巨匠が掛け合いをしてるようでとても楽しいトラックです。ちなみにクラーク・テリーのハーマン・ミュートの音が後にマイルス・デイヴィスに影響を与えたと言われています。


03. Blues For Smedley

Abのシンプルなブルース。一曲目と同じくプランジャー・ミュートを駆使しています。テリーの音は全てのレンジで立ち上がりが素晴らしく、ハリのある音色でジューシーです。そして何よりスウィングしますね!特にこのトラックではピーターソンだけでなくレイ・ブラウンのソロも聴くことができます。


04. Roundalay

ようやくテリーのオープンなトランペットサウンドが聴けます。今までと少し毛色の違う寂しげな曲。オープンなトランペットサウンドでとても真のある音にも関わらず、柔らかく人々の耳を決して痛めることのない優しさのある音だと思います。彼の速いフレーズを吹くときに注目すれば、彼のトランペットが恐ろしくクリーンでクリアであることに気づかされます。なぜ他のジャズ・トランペッターが憧れたかがわかるでしょう。


05. Mumbles

テリーの「芸」はプランジャーやフリューゲルとの持ち替えだけではありません。ここでは巧みなスキャットを披露します。" Mumbles"と人々が呼ぶそれはまるで南部訛りの男性が話しているかのように展開されます。しかし言葉に意味はありません。そこにはただソウルとリズムがあり、その全てがテリーのトランペット演奏に反映されています。


06. Mack The Knife

有名なジャズスタンダード。ここでテリーはバケットミュートという棉の詰まったミュートを使用しています。このアルバムには様々なミュートが登場します。この時代はエフェクターがないのでミュートを変えたりフリューゲルに持ち変えることで曲調に合う音色を探していたことがわかりますね。正直この曲のテリーのソロは神業です。歯切れ良い丁寧な3連音符。それと対となるようなスピード感ある16分音符。世界最高のトランペッターの軽い本気が聴けます。


07. They Didn't Believe Me

ピーターソンのソロから始まるバラードの曲。この曲ではテリーはフリューゲルを使用しています。実はテリーは稀に見るフリューゲルの名手としても有名で、ハイノートや激しい演奏など、通常フリューゲルでは難しいとされていることも何気なくこなしてしまいます。そのテイクではテクニカルな一面は封印して、歌心あるメロディープレイに集中しています。


08. Squeaky's Blues

速いテンポのブルースの曲。こちらもバケットミュートを使用しています。テリーのアーティキュレーションの綺麗さが際立つ一曲です。このタイプの演奏スタイルは現在ではウィントン・マルサリスが継承していて、彼の演奏を聴きに行けば今でも体感することができます。このテンポはピーターソンも得意とするところで輝くようなタッチで軽やかに演奏しています。


09. I Want A Little Girl

プランジャーを使ったバラード曲。通常プランジャーを使う場合左手はプランジャー操作で忙しくなるので楽器自体は右手のみで持つことになります。このためとても楽器の演奏自体が困難になるのですが、テリーはダイナミックスまでも見事につけてトランペットを完璧に操っています。4:37以降のエンディングは圧巻です!


10. Incoherent Blues

再びテリーの"mumbles"をスローブルースで聴くことができます。よりしゃべっている感覚が伝わってくると思います。これが実にジャズという音楽でアートなのです。

それではまた次回。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title : 『Oscar Peterson Trio + One』
Artist : Oscar Peterson Trio Clark Terry
LABEL : Mercury
発売年 : 1964年

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【SONG LIST】

01.Brotherhood Of Man
02.Jim 
03.Blues For Smedley
04.Roundalay
05.Mumbles
06.Mack The Knife
07.They Didn't Believe Me
08.Squeaky's Blues
09.I Want A Little Girl
10.Incoherent Blues 




【曽根麻央LIVE INFO】

7/20 (Wed) @ Body & Soul, Shibuya
Takana Miyamoto & Mao Sone
​​
7/22 (Fri) @ Cotton Club, Tokyo
Saku Yanagawa "Time To Standup at COTTON CLUB Tokyo"
​​
7/23 (Sat) @ Kanze Nohgakudo, Ginza
Edo Jazz
​​
7/24 (Sun) @ Cabin, Honatsugi
Mao Sone SOLO

7/25 (Mon) @ Apple, Yokohama
Yuya Wakai & Mao Sone
​​
7/26 (Tue) @ 104.5, Ochanomizu
Good Jam Session
​​
7/27 (Wed) @ TBA
Secret Event
​​
7/28 (Thu) @ Alfie, Roppongi
SkyFloor (feat. Hiro Suzuki, Shota Watanabe, Shunya Wakai & Mao Sone)

8/6(Sat) @ Naru, Yoyogi
Ayana, Mao Sone, Nori Shiota
​​
8/11(Thu) @ Nardis, Kashiwa
Mao Sone Trio (feat. Yuji Ito & Hiro Kimura)
​​
8/12 (Fri) @ Body & Soul, Shibuya
Mao Sone, Taka Nawashiro, Shin Sakaino, Kazu Odagiri

​​8/14 (Sun) @ No Room For Squares, Shimokitazawa
Ryo Miyachi
​​
8/20 (Sat) @ Nagareyama-city Shogai Gakushu Center
Mizuki Shikimachi & Mao Sone

​​8/21 (Sun) @ Cabin, Hon-atsugi
Mao Sone, Yoshiki Takahashi, Hayato Yamazaki


曽根麻央のその他情報はウェブサイトへ

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』

Reviewer information

maosona_A.png
曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2022.6_Nu Deco Ensemble + Aaron Parks: Live from Miami:Monthly Disc Review

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Nu Deco Ensemble + Aaron Parks500.jpg

Title : 『Nu Deco Ensemble+Aaron Parks: Live from Miami』
Artist : Nu Deco Ensemble & Aaron Parks

【21世紀の室内楽団と注目のピアニストAaron Parksの2021年コラボレーション作品】

みなさんこんにちは、トランペットとピアノの曽根麻央です。今日は2021年にリリースされたNu Deco Ensembleというマイアミで活動するオーケストラがピアニストAaron Parksをゲストに迎えたアルバムを紹介したいと思います。

実は先月までこのアルバムの存在を知らなかったのですが、私のバンド"Brightness of the Lives"のアルバムリリースツアーで 、車で移動中に、ギターの井上銘くんがかけてくれて、あまりの凄さにメンバー全員耳が釘付けになり、3回通しで聴きました。

Nu Daco EnsembleはアレンジャーのSam Hykenと、指揮者のJacomo Bairosによって創設されたオーケストラです。2015年頃からマイアミのエレクトロニック・シーンで注目を集め、ジャンルにとらわれず様々なアーティストとのコラボを行なっています。ニューヨークタイムスには「21世紀の室内楽団」と称されています。

Aaron Parksは2008年に『Invisible Cinema』をブルーノートからデビューして以来、現在もジャズ・シーンの最先端を切り抜けているピアニストで、美しいピアノのタッチ、絶対的なリズム感、独特のハーモニーセンスの持ち主です。

今回紹介する『Nu Deco Ensemble + Aaron Parks: Live from Miami』には『Invisible Cinema』の曲も収録されているので、Aaron Parksの出現とともに学生時代を過ごした私の世代には胸熱の作品になっています。

またこの作品は全編YouTubeでも収録の様子(ライブ)が公開されており、見ることができます。おすすめは耳だけでオーディオを聴いてから、どんな状況で録音されたのか確認すると楽しいかなと思います。

『Nu Deco Ensemble + Aaron Parks: Live from Miami¬』のリリースは2021年ですが、収録は2019年マイアミThe Light Boxのようです。


Aaron Parks (ピアノ、シンセサイザー、作曲)
Sam Hyken (編曲)
Jacomo Bairos (指揮)
Nu Deco Ensemble(演奏)



01. Siren

Aaron Parksの『Little Big』というアルバムから「Siren」という美くしい曲で幕を開けます。Bマイナーのサウンドが静かに響きメロディーが出現するとコードが徐々に形を変えて次から次にハーモニーを展開します。

パークスのスタイルでもありますが、 共通の音をもたせながら前の和音から次の和音に移動することで、まるで水が流れるかのように自然に曲を展開して行きます。Aセクションの最後2小節の副旋律がストリングスで奏でられBセクションよりオーボエが主旋律をとります。
オリジナルの『Little Big』ではエレクトリック・ギターでしたが、オーボエという、ジャズでは滅多に耳にしないサウンドで演奏されることで、曲本来が持つドラマがより大きく展開されている気がします。そしてまたAセクションに戻るときにはフル・ストリングスがメロディーをとり、展開が一旦クライマックスを迎えます。パークスのスタイルで同じ音を何度も連打してサウンドを作ることがありますが(のちの曲でも出て来ます)、この曲の終わりでもBの音を連打していますが、ここでは木琴がその役割を担っていてとてもインパクトがありました。

メロディーの後のパークスのソロもとても美しく、テンポにとらわれることなく自由に展開しています。このレコーディングでは、耳だけで聞いた時は電子キーボードなのかなと勘違いするぐらいブライトなタッチでピアノを奏でていて印象深いです。
その後またBの連打するセクションが登場し、曲が一旦落ち着きながらゆっくりと展開します。Bを連打しつつベースの音を移動することで世界がガラッと変わる瞬間がとても素晴らしいです。

その後もインタルード的なセクションが曲をクレッシェンドし、新たなセクションでエレキ・ギターとベースがユニゾンを始めます。それによって世界が一気にロックな世界へと様変わりし、最終的なクライマックスを迎えます。このパートのオーケストレーションは非常に素晴らしいです。そして登場するパークスのシンセが一瞬フレンチホルンのような雄叫びをあげつつ旋律を展開し、曲が徐々にディミュニエンドし終わります。

02. Chronos ~ 03. Interlude

ここからM4までは続けて演奏されます。「Chronos」はオリジナルはJoshua Redman, Aaron Parks, Matt Penman, Eric Harlandの頭文字をとって命名されたバンド"James Farm"のアルバム『James Farm』の楽曲。

イントロで出てくる6音の連打の上にメロディーが書かれていて、それらがゆっくりと展開していく曲。Aのメロディーが2回繰り返された後にC#の連打の上で新たなメロディー(Bセクション)が出て来てイントロの部分に戻るというシンプルな構成。その後新たな伴奏パターン(Ostinato)がピアノで提示され、それが持続している上でオーケストラが曲を展開し行きます。

徐々に最高潮に達したところでベースが動き出し、元々のAセクションとBセクションの上でシンセソロが聴けます。このシンセは映像で見る限りパークスではなくNu Decoのメンバーによるものです。その後同じパートの上でパークス自身もシンセソロをとります。左手はピアノで伴奏パターンを常にキープしていますね。

その後、曲は一旦ディミュニエンドし、新しいハーモニーが聴こえて来ます。ただこの間、C#は常に連打されています。C#をキープしつつハーモニーを展開しているのです。その上でドラムソロが奏でられ、徐々にグルーヴへ戻り、シンセソロになってクライマックスへと向かいます。そこから自然とピアノソロになりInterludeへと繋がります。このInterludeは次の曲、「Nemesis」へと導かれます。「Nemesis」はデビュー作『Invisible Cinema』からパークスが演奏し続けて来た代表作です。

04. Nemesis
Nemesisは「報復の女神」のことです。Bの連打とともに激しいロックフィールが奏でられ、ギターで主旋律が演奏されます。一部G#に移りますが、ほぼほぼ終始このB連打をキープしている曲で、パークスの演奏・作曲スタイルを代表する曲でもあると改めて思います。ソロはパークスのシンセサイザーで演奏されたのち、ギタリストに渡されます。グルーヴも曲調もテンションも一曲通して変わらないのもこの曲の特徴です。メロディーも非常にかっこよく何度も演奏されるので是非覚えてください。

このアルバムは映画音楽的でもあり、コンテンポラリー・ジャズでもあり、ピアノ音楽でもあり、ロックでもあります。多くの人に聞いてほしい2021年の傑作だと思います。

それではまた次回。

文:曽根麻央 Mao Soné

Recommend Disc

Title : 『Nu Deco Ensemble + Aaron Parks: Live from Miami』
Artist : Nu Deco Ensemble & Aaron Parks
LABEL : Nu Deco Ensemble
発売年 : 2021年

Amazonで聴く

【SONG LIST】

01.Siren (Live)
02.Chronos (Live) 
03.Interlude (Live)
04.Nemesis (Live)

【曽根麻央LIVE INFO】

6/18 (SAT)
Open 19:00 | Start 20:00
MAO SONÉ SOLO @ Nardis 柏
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 04-7164-9469 email : knardis@mac.com

6/21 (Tue)
Open 19:00 | Start 19:30
MAO SONÉ TRIO @ Velera 赤坂
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司- bass
木村紘 - drums

6/22 (Wed)
Open 19:00 | Start 19:30
MAO SONÉ & YUJI ITO @ Apple, YOKOHAMA
<出演>
​曽根麻央 - trumpet & piano
伊藤勇司- bass ​

6/26 (Sun)
Open 18:00 | Start 19:00
MAO SONÉ Solo @ Cabin 本厚木
<出演>
​​曽根麻央 - piano & trumpet
<ご予約・お問い合わせ>
TEL: 046-221-0785

6/27 (Mon)
Start TBA
Good "Jam Session" Parlor @ TBA
<出演>
TBA​

7/20 (Wed)
Open 18:30 | Start 19:30
TAKANA MIYAMOTO & MAO SONÉ @ 渋谷Body & Soul
<出演>
宮本貴奈(pf,vo)
曽根麻央(tp,pf,vo)

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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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Ella and Louis500.jpg


Title : 『Ella And Louis』
Artist : Ella Fitzgerald And Louis Armstrong



【ジャズ界のキングとクイーンによるコラボ作品】


エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングという偉大な2人が自然体でミディアム〜バラードのテンポで演奏しています。さらにその伴奏をオスカー・ピーターソンを中心としたリズムセクションが務めるという豪華なアルバム。私自身もこのアルバムを小学生の頃から聴いていて、このアームストロングのソロに合わせて楽器を練習した記憶があります。歌心が最高で、抑揚のつけ方、ビブラート、音と音の間のとりかた、どれも最高です。





ジャズはある種の自然発生した音楽なので創始者を特定するのは難しいですが、ルイ・アームストロングは間違いなく最初にジャズを芸術の域まで到達させた人物であると言われています。
1901年に生まれたアームストロングは1971年に亡くなるまで、アメリカを代表するアーティストとして様々な名演奏を残しました。トランペッターでもありシンガーでもあるアームストロングはその両方において大変大きな影響を後世に与えました。


アームストロング以前のジャズトランペットは主にメロディーを吹くのが精一杯でしたが、そこにアームストロングはクラリネットのテクニックを持ってきました。当時のクラリネットはトランペットの主旋律に寄り添うように、和音をアルペジオで演奏して合いの手を入れる役割が主でした。管楽器は単音楽器なのでピアノのように和音を一度に鳴らすことができません。そこで和音を分散させて演奏するアルペジオを使った即興的な伴奏パートをクラリネットは担当していました。アルペジオは音が跳躍するためトランペットで演奏することは非常に困難ですが、アームストロングはこれをトランペットに取り入れ、主旋律としても使用することで、ジャズの即興演奏のレベルを大きく飛躍させました。


またアームストロングの持つ独特の声が、アメリカのポピュラー音楽の歌唱を変えました。語りかけるような独特な間の取り方、フレーズの終わりに向けてかかるビブラート、シャウトする表現などあります。特にジャズのボーカルとしてはスキャットを初めてレコーディングで取り上げ、ボーカルでの即興演奏の可能性を最初に見出しました。


エラ・フィッツジェラルドもスキャットを得意とするボーカリストで、メロディーも自由自在に楽器のように操り、ボーカルの新しい表現を見出した人です。1917年生まれということでアームストロングよりもディジー・ガレスピーやセロニアス・モンクなどのモダンジャズを生み出した新しい世代のミュージシャンになります。当然フィッツジェラルドの若い頃には、アームストロングは多くのレコーディングをこなしヒットも出していますので、音楽的な影響はかなりあったでしょう。ただフィッツジェラルドはbebop世代で、チャーリー・パーカーやガレスピーより早く、正確な演奏を聴く機会も多かったので、それを歌でも表現可能なことを見事に証明した人の一人です。


Ella Fitzgerald (Vocals)
Louis Armstrong (Trumpet, Vocals)
Oscar Peterson (Piano)
Herb Ellis (Guitar)
Buddy Rich (Drums)
Ray Brown (Bass)




さてこのアルバムは有名なジャズのプロデューサー、ノーマン・グランツが11曲を選曲し、1956年に録音した作品です。アームストロングは持ち味の歌心と独特の間で聴く人を捉えますし、フィッツジェラルドも最高の声と圧倒的な歌唱で感動させます。圧倒的な歌唱と書いてしまうとまるで熱唱しているように捉えられてしまいますが、圧倒的すぎて力が抜けているので、こちらもリラックスして聴ける最高の歌が聴けます。リズムセクションにはオスカー・ピーターソン、ハーブ・エリス、レイ・ブラウン、バディー・リッチというジャズを代表するミュージシャンが参加しており、とても一体感のある豪華なトラックになっています。





どの曲も最高の出来になっていてゆっくりと聴いていただきたいのですが、特に「Cheek To Cheek」は二人のキャラクターが聴こえてきて、この最強のリズムセクションも一体感が特にあります。「Tenderly」はアームストロングのトランペットが心から歌っていて、エンディングでトランペットに絡んでくるフィッツジェラルドも最高です。ぜひ聴いてみてください!

それではまた次回。

文:曽根麻央 Mao Soné





【曽根麻央LIVE INFO】

5/29 (Sun)
Open 15:00 | Start 16:00
MAO SONÉ Solo @ Cabin 本厚木
<出演>
​​曽根麻央 - piano & trumpet


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Recommend Disc

Ella and Louis200.jpg


Title : 『Ella And Louis』
Artist : Ella Fitzgerald And Louis Armstrong
LABEL : Verve Records
発売年 : 1956年


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【SONG LIST】

01.Can't We Be Friends
02.Isn't This A Lovely Day 
03.Moonlight In Vermont
04.They Can't Take That Away From Me
05.Under A Blanket Of Blue
06.Tenderly
07.A Foggy Day 
08.Stars Fell On Alabama
09.Cheek To Cheek
10.The Nearness Of You
11April In Paris




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』




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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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