皆さんこんにちは、トランペッター/ピアニストの曽根麻央です。
今日は、ジャズ史においてもっともジャズらしく、しかも完璧に美しく整ったアルバムを改めてご紹介します。トランペッターのクリフォード・ブラウンとドラマーのマックス・ローチによるクインテットの名を冠したアルバム――『Clifford Brown and Max Roach』(1954年録音、1955年発表)です。
その前に少しだけ告知をさせてください。
私、曽根麻央の4thアルバム『8つの小品』が2025年9月10日に発売決定となりました!
第一子誕生という人生最大の節目に作曲したオリジナル組曲で、ピアノトリオを中心にストリングスやブラスも加えた約45分の音楽世界です。ぜひお聴きください。
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さらに、三味線奏者・浅野祥さんとのデュオユニット MAOSHO のデビュー・シングルが、2025年8月20日にエイベックスより配信開始となりました。
こちらもどうぞお楽しみに!
https://maosho.lnk.to/komebushihibiki
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Title : 『Clifford Brown And Max Roach』
Artist : Clifford Brown And Max Roach
クリフォード・ブラウン(1930-1956)は、ディジー・ガレスピーやファッツ・ナヴァロの後を継ぎ、ハードバップを確立した重要人物です。
10歳でトランペットを始め、18歳の頃からプロ活動を開始。1950年の自動車事故で大怪我を負い、一時演奏から遠ざかりますが、その間はピアノを弾きながらリハビリを続け、翌年には完全復帰。1953年にはアート・ブレイキーやライオネル・ハンプトンと共演し、瞬く間にシーンの中心人物となりました。
彼のトランペットの特徴は、圧倒的に明確で美しいアタック。速いテンポでもすべての8分音符を丁寧にタンギングして吹くため、アーティキュレーションが極めて粒立ち良く響きます。音域全体が安定しており、自在に楽器を操る事ができました。
また、ドラッグ・酒・タバコを一切摂らず、真摯に音楽と向き合う姿勢は、依存症から立ち直ろうとする多くの仲間にとって精神的な支えにもなっていたと伝えられています。
1924年生まれのマックス・ローチは、18歳ごろから瞬く間にニューヨーク・ジャズシーンの中心へ。ケニー・クラークと並んでビ・バップ黎明期から活躍し、近代ジャズドラムの基礎を築いた人物です。
ソニー・ロリンズの「セント・トーマス」のカリプソのリズムに代表されるようなアフロ・カリビアンのリズムをジャズに取り入れることで新しい可能性を開拓し、60年代以降は公民権運動に深く関わり、音楽を通じて社会的メッセージを発信し続けました。
そんな二人が率いたクインテットは、1954年の結成からわずか2年の間に、ジャズ史に残る名盤を残しました。『Clifford Brown and Max Roach』(1955)、『Study in Brown』(1955)、『At Basin Street』(1956)。そしてライブ盤『Live at the Bee Hive』なども後に発表され、彼らの熱気を今に伝えています。
しかし1956年6月26日、クリフォードは交通事故でわずか25歳の生涯を閉じます。その短い活動期間で残した録音は、今もなお多くのミュージシャンの教科書となり続けています。
Delilah
ヴィクター・ヤング作、映画『Samson and Delilah』(1949)の主題歌。ローチのマレットによるエスニックな響きが印象的です。テナーのハロルド・ランドの落ち着いたソロと、リッチー・パウエルの若さが同居し、ハードバップの新時代を告げる一曲。ブラウンのソロにはディジーやファッツの影響が色濃く表れ、彼がその正統な後継者であることを示しています。
Parisian Thoroughfare
バド・パウエル作。ガーシュウィン「パリのアメリカ人」を思わせるイントロから始まり、ローチの小刻みなハイハットに乗って軽快なメロディが展開。ブラウン=ローチ・クインテットはイントロやアウトロの工夫に長けており、後の「A列車で行こう」の汽笛アレンジにも通じます。
The Blues Walk
クリフォード・ブラウン作のブルース。全員の高い演奏技術と、ローチの安定したライドシンバルのグルーヴが際立ちます。ローチのスネアの応答性やソロの展開は、以降のドラマーにとって教科書的存在となりました。
Daahoud
転調の多い難曲ながら、ブラウンは圧倒的なテクニックと歌心を両立させた代表的トランペット・ソロを披露。
Joy Spring
ブラウンの妻ロレインの愛称から取られた曲。軽快なテンポと転調を自然に織り込んだメロディは、ブラウンの作曲家としての才能を物語ります。
Jordu
デューク・ジョーダン作。今日スタンダードとして知られるのは、この録音によるところが大きいでしょう。
What Am I Here For?
デューク・エリントン作。快活なファスト・スウィングでアルバムを締めくくります。シンプルながらもエネルギッシュな演奏です。
『Clifford Brown and Max Roach』は、わずか2年間の活動の中で生まれた輝ける記録です。ブラウンの透徹した音色とローチの揺るぎないリズム、そして若き仲間たちの演奏が、ハードバップの黄金時代の幕開けを告げています。
まさに「完璧に美しく整ったジャズ」を体現した一枚として、何度でも聴き返す価値があります。
文:曽根麻央 Mao Soné
曽根麻央『8つの小品』
ジャズピアニスト兼作曲家・曽根麻央が贈る最新スタジオアルバム『8つの小品』。第一子誕生という人生最大の節目に生まれたこの作品は、家族の愛、日常の輝き、そして音楽への深い探求が織り込まれた45分間の組曲。緻密なオーケストレーション、ジャズとクラシックの垣根を超えた響き、そして親子の時間から生まれた優しくもダイナミックな旋律。新たな旅立ちの予感と共に、音楽の喜びを届ける一枚。
【Songs】
1. Ⅰ. Overture (feat. Ryo Miyachi, Hironori Suzuki)
2. Ⅱ. The Light You'll See
3. Ⅲ. Maria's Eye
4. Ⅳ. When the Angel Cries (feat. May Inoue, Ryo Miyachi, Hironori Suzuki)
5. Ⅴ. Lullaby
6. Ⅵ. Rumba (feat. Kojiro Tokunaga, Ryo Miyachi, Kan)
7. Ⅶ. Love Letter (feat. Edmar Colón)
8. Ⅷ. Finale Part 1 (feat. Kan)
9. Ⅷ. Finale Part 2 (feat. Ryo Miyachi, Hironori Suzuki)
【CD Bonus Track】
10. Waltz for Debby
11. A Song for Jobim
12. Lullaby (Piano Solo ver.)
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』 ・2022.12『The Revival / Cory Henry』・2023.1『Complete Communion / Don Cherry』・2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』・2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』・2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』・2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』・2023.6『Covers / James Blake』・2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』・2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』・2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』・2023.10『MAINS / J3PO』・2023.11『Knower Forever / Knower』・2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』・2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』・2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』・2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』・2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』・2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』2024.09『Potro De Rabia Y Miel / Camarón De La Isla』2024.10『Calle 54 / Various』・2024.11『Trumpets Of Michel-ange / Ibrahim Maalouf』・2024.12『Sings for Only the Lonely / Frank Sinatra』・2025.01『Hero Worship / Hal Crook』・2025.02『Undercurrent / Kenny Drew』・2025.03『Live In Toronto 1952 / Lennie Tristano Quintet』・2025.04『Antidote / Chick Corea & The Spanish Heart Band』・2025.05『Hot Five & Hot Seven / Louis Armstrong』・2025.06『Panamonk / Danilo Pérez』・2025.07『Nat King Cole Sings/George Shearing Plays / Nat King Cole、George Shearing』
Reviewer information |
![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |