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曽根麻央 Monthly Disc Review2021.03_ Relaxin' With The Miles Davis Quintet:Monthly Disc Review

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Title : 『Relaxin' With The Miles Davis Quintet』
Artist : The Miles Davis Quintet

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【Milesの「スペース」の魅力】

 マイルス・デイヴィスのソロには不思議な魅力があります。その魅力はもちろん彼の持つ音色、美しいフレーズ、そして完璧なタイム感があるのですが、今回特筆するのは彼のスペースについてです。

ジャズのアドリブにおいてスペースとは、実際に吹いている箇所ではなく、フレーズとフレーズの間のお休みのところをいいます。マイルス・デイヴィスのスペースは完璧に精査されていて、聴いていて心地よいどころか、びっくりさせられることがあります。今回はその理由(わけ)も徹底的に解説してみました。

 今回取り上げるのはマイルス・デイヴィスがPrestige Recordsに残したアルバム『Relaxin'』です。『Relaxin'』 は、マイルスがColumbiaへ移籍する際に、Prestige Recordsとの契約を消化するために4枚のアルバムを2日間で録音した「マラソン・セッション」と呼ばれる歴史的なレコーディング・セッションからの1枚です。1956年に録音され、58年にリリースされています。これは恐らく4枚のリリースのタイミングをずらすためでしょう。

メンバーを見ていきましょう。



Miles Davis - trumpet
John Coltrane - tenor saxophone
Red Garland - piano
Paul Chambers - bass
Philly Joe Jones - drums




 マイルス・デイヴィスの1955-59年まで続いた、"The First Great Quintet"と呼ばれることがあるクインテットです。元々はカフェ・ボヘミアという歴史的なジャズクラブで演奏するために結成されたクインテットで、結成された当時はソニー・ロリンズがサックスを担当していました。しかしロリンズがヘロイン中毒からの克服に時間がかかるため、ジョン・コルトレーンが抜擢され、有名なクインテットへとなりました。のちにキャノンボール・アダレイを迎えての3菅編成のセクステットへと変貌していきます。

 一連の「マラソン・セッション」はマイルス・デイヴィスが、強力なレギュラー・クインテットを手に入れ、メジャーレーベルに移籍するタイミングでもあり、50年代までのキャリアとしては絶頂にいた時のレコーディングであることは確かです。そんなマイルスのどこか落ち着いた、しかし堂々とした演奏の秘密にはスペースがあります。

 スペースとは、繰り返しになりますがフレーズとフレーズの間の演奏していない空間のことで、これを活かすには、どこでフレーズを始めどこで終わるかというのが肝になってきます。マイルスの(特にこの時代の)演奏にはフレーズのはじめ方、終わり方に一定の法則性があります。それはクラーベのリズムに沿ってフレーズをはじめ、そして終わるということです。

 クラーベというとラテン音楽のイメージがあります。クラーベとはラテン語で「鍵」という意味で、その名の通りリズムの鍵になっています。クラーベのリズムに沿って、ベースラインやメロディー、歌詞、ハーモニーが作られるのがラテン音楽の基本です。

 しかし、歴史を考えるとクラーベはジャズにも存在します。そもそもクラーベはアフリカの民俗音楽から派生しています。アフリカの音楽が奴隷船とともにアメリカ大陸周辺に運ばれ、キューバではキューバの宗教とキリスト教と融合しアフロ・キューバン音楽として、アメリカのニューオリンズではより白人のクラシカルな楽器や和声と結びつき、ニューオリンズ・ジャズ(2nd Line)として発展しました。要するにジャズの根本にもクラーベは存在するのです。

 マイルスがサルサを聴きにニューヨークのクラブへ通っていたのは有名な話ですし、マイルスの幼い頃はニューオリンズ・ジャズが流れていて、それを聴いていたことは容易に想像ができます。

 クラーベには何種類かあります。主にジャズで見かけるのは普通のソン・クラーベ、ルンバ・クラーベ、ニューオリンズ・クラーベです。


ソン・クラーベ
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ルンバ・クラーベ
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ニューオリンズ・クラーベ
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 『Relaxin'』の"If I Were A Bell"のマイルスのソロでは主に、ソン・クラーベとニューオリンズ・クラーベからフレーズが組み立てられています 。"If I Were A Bell"のソロのフレーズがクラーベを中心に組み立てられていることがわかるデモを用意してみましたので、以下のビデオを見てください。





 わかりやすくクラーベやカスカラと一致するところに線を引いてみましたが、ほとんどのフレーズがクラーベ、またはカスカラに合わせて始まり終わっていると思います。カスカラとはクラーベに対応して成り立っているリズムパターンのことで、ラテン音楽ではクラーベと同じぐらい重要なものです。このようにクラーベに沿ってフレーズを組み立てることで、スペースを効果的に、そしてより自然に流れるように活用することができると思います。

 またこの"If I Were A Bell"のレッド・ガーランドのソロがとても良いので注目してみてください。そして、ガーランドの後ろでベースを弾くポール・チェンバースもとってもスウィングしています。マイルスに「ポール・チェンバースはなんでも弾ける」と言わせたベーシストの技を聴くことができます。ちなみにこの逸話は以前のJJazz.Netの記事に書きましたのでぜひ読んでみてください (曽根麻央 Monthly Disc Review2020.7)。


 ちなみにこの一曲目の"If I Were A Bell"はマイルスが'I'll play then tell you what it is later'と「演奏した後になんの曲か教えるよ」といったエンジニアとのやりとりまで収録されています。こういう生のやりとりを少しだけ覗くことができるのも本アルバムの魅力の一つです。





さてここからは1曲ずつ聴いていきましょう。


02. Your're My Everything
 こちらも30秒ほどスタジオ内のやりとりが聞こえてきます。そしてレッド・ガーランド特有の左手で和音、右手でメロディーをオクターブで演奏する奏法でイントロが奏でられ曲が始まります。同じくトランペッターのフレディー・ハバードはこの曲を軽快なスウィングのリズムで、Cのキーで演奏していますが、こちらは落ち着いたバラードでBbのキーで演奏されています。

 この曲でも使用されていますが、マイルスのハーマン・ミュートの使い方はこれもフレディー・ハバードと真逆ですね。マイルスの柔らかい音色から推測して、かなりソフトにマイクの近くで吹いていると思います。マイルス・デイヴィスを象徴する音色です。こういうバラードではまるで女性ボーカリストが歌っているかのような表現だなといつも思っています。フレディー・ハバードは音量をMax状態でハーマンを吹くのがとても特徴的だと思います。その代わりよりチーっといったまた違った独自の音を持っていますね。


03. I Could Write A Book
早いスウィングのアレンジで演奏されています。レッド・ガーランドは一貫して自分のコンピング(伴奏)のスタイルを持っています。基本的に1小節に2つ和音が入ります。小節の4拍目の裏と、2拍目の裏に軽快にリズムと和音を刻んでいます。レッド・ガーランドはそもそもとても優秀なボクサーだったのですが、まるでジャブを打っているかのようなコンピングです。その上で右手は自由に転がってフレーズを操ります。

 ジョン・コルトレーンの演奏にも注目してみたいと思います。この録音はコルトレーンのキャリアの中でかなり初期のものです。コルトレーンのアーティキュレーションは年代によってかなり変わります。初期はかなり短く8分音符を激しめに区切ってタンギングしてアーティキュレートしています。中期になればその音価はギリギリまで伸ばされ、一つ一つのアーティキュレーション自体は穏やかになりますが、フレーズの持つエネルギーが増していますね。このように年代でプレイスタイルがここまで大きく異なるミュージシャンは少ないので、注目して聴いてみてください。


04. Oleo
 ソニー・ロリンズとレコーディングしたアルバム『Bag's Groove』のバージョンよりかなり早いテンポで収録しています。マイルスがメロディーを一人吹きはじめて曲が始まります。マイルスのリズムの良さがわかる瞬間です。
 コルトレーンのソロも、中期のいわゆる「コルトレーンサウンド」が少しだけ垣間見えますが、それがまだ若い頃のアーティキュレーションが同時に聴こえてくる面白いソロです。

 個人的にびっくりしたのは5:40からの後とテーマでのポール・チェンバースのカウンターポイントです。カウンターポイントについても別の記事でたくさん書きましたが、メロディーに対応し、時に逆行する第2のメロディーともいえるラインのことです。このカウンターラインが綺麗で改めて聞き直して感激しました。





05. It Could Happen To You
 有名なスタンダード曲。こちらのマイルス・デイヴィスのソロも見事に2-3クラーベに当てはまっているのがお分かりになると思います。リズムセクションのスウィングのグルーブもどちらかというとニューオリンズ・クラーベに影響を受けたin 2のスウィングで統一されています。In 2とはベースが2分音符で1小節に2つしか音を弾かない時のスウィングの呼び方です。通常はwalking bass と言って1小節に4つ音を鳴らし、グルーブを作ります。それはIn 4のスウィングとも言います。


06. Woody'n You
 トランペッター、ディジー・ガレスピーの曲です。このアルバムで唯一コルトレーンとマイルスが同時にメロディーを吹いていますね。2管編成のアルバムでここまで一緒にメロディーを吹かないアルバムは珍しいですが、マイルスっぽいと言えるでしょう。そして唯一マイルスのオープンサウンド(ミュートをしてない状態)が聴けます。素晴らしいオープンサウンドはまるでバンドの音を貫いて一つの筋で通しているかのようです。マイルスのハイノートも聴けて、少しディジーの影響が聴こえてきますが、それを自分のスタイルでやってのけるところもマイルスの魅力でしょう。
 このアルバムで唯一のフィリー・ジョー・ジョーンズのドラムソロも聴けます。ドラムソロ明けの第二メロディーのバンドの一体感も素晴らしいですね。


ぜひみなさんもこのアルバムを聴いてみてください。

それではまた次回。

文:曽根麻央 Mao Soné







【LIVE INFO】
曽根麻央3-4月演奏スケジュール


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【公演名】
MAO SONÉ - Brightness of the Lives - at Blue Note Tokyo

【日時】
2021 4.23 fri.
[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:30pm Start9:15pm
※2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:4.26 mon. 11:59pmまで
※アーカイブ配信の内容はライヴ配信と異なる場合がございます。
予めご了承ください。
※当初の開催日程(2021 1.21 thu.)から変更となっております。

【メンバー】
曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)
井上銘(ギター)
山本連(ベース)
木村紘(ドラムス)

★公演内容に関するお問い合わせ
ブルーノート東京 TEL:03-5485-0088

▼URL
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mao-sone



Recommend Disc

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Title : 『Relaxin' With The Miles Davis Quintet』
Artist : The Miles Davis Quintet
LABEL : Prestige
NO : PRLP 7129
発売年 : 1958年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01. If I Were A Bell
02. You're My Everything
03. I Could Write A Book
04. Oleo
05. It Could Happen To You
06. Woody'n You




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2021.02_ Ben Webster & "Sweets" Edison_Ben And "Sweets":Monthly Disc Review

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Title : 『Ben And "Sweets"』
Artist : Ben Webster & "Sweets" Edison

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【スウィングのコンピング】

みなさんこんにちは、曽根麻央です。
今日はBen WebsterとHarry "Sweets" Edison の2フロントのアルバム、Ben and "Sweets"について解説していきます。このアルバムではBen WebsterとHarry Edisonのいわゆるジャズのテナー&トランペットの王道サウンドを楽しむことができます。2人のイントネーション、強弱、アーティキュレーションの付け方など、細かい表現の一致が美しいアンサンブルを作り上げています。

さらにそれだけではなく、今回はHank Jonesのコンピングにも視点を当ててみましょう。コンピングとは、ジャズにおけるピアノやギターの伴奏の事で、リズムとハーモニーの掛け渡しを担う大切な要素です。特に5曲目のDid You Call Her TodayはHank Jonesのコンピングも光り、ジャズ史上最もスウィングしているテイクの一つではないかなと考えています。是非一緒に楽しんでいきましょう。

また、bebop以前に活躍したミュージシャン達が1962年に録音しているのも注目してください。僕らはジャズの歴史を語る時にどうしてもその時その時の新しい流派のことを多く語ってしまいす。その方が歴史の流れの説明が楽だからです。だからそれまでの昔ながらのスタイルが絶滅したかのように学びます。しかし実はそうではなくて、このアルバムのようにbebop以前のミュージシャンも活躍してアルバムを出し続けていました。


Ben Webster (ts)
Harry "Sweets" Edison (tp)
Hank Jones (p)
George Duvivier (b)
Clarence Johnson (d)

録音: 1962年6月6日&7日




ベースのGeorge Duvivierと、ドラムのClarence Johnsonについては、僕自身あまり知らなかったのでどの様な人物なのか調べてみました。


George Duvivier (1920-1985) はサイドメンとしてかなり活躍していたベーシストな様です。クラシカル・ヴァイオリンでキャリアをスタートして、the Central Manhattan Symphony Orchestraのアシスタント・コンサートマスターを16歳で務めた人物。NYU(ニューヨークユニバーシティ)でベースを始めて、Coleman HawkinsやLena Horne、Count Basie、Frank Sinatra、Bud Powell、Benny Goodmanなど幅広い音楽性を持つアーティスト達のサイドメンを務めた人物だそうです。


Clarence Johnson (1924-2018)もドラマーとしてJames Moodyの信頼を得て活動していた様です。Sonny Stittのアルバムにも多く参加しています。本アルバムでは、グルーヴに集中していて手数を多くを叩く事はないが、それによって生み出されるステディーなテンポが、このアルバムを強力なものとしています。

ここからはジャズファンならよく知る3人を、確認を兼ねて紹介します。


Hank Jones (1918-2010) は皆さんもよく知るジャズの歴史を代表するピアニスト。強力なタッチとリズムを奏でるピアノですが、そのサウンドは優しさに包まれていて、聴衆の心を癒してくれる存在だと思っています。Earl Hines, Fats Waller, Teddy Wilson, Art Tatumなどの最古のジャズピアノの影響を直に受けつつ、Hank Jones独自のサウンドを創りあげました。未だに彼のジャズピアノへ影響は絶大です。弟にはトランペッターのThad JonesとドラマーのElvin Jonesがいます。このアルバムでは彼の持つ強力なリズムとタッチから成る、これぞ至上のスウィング・コンピングを聴くことが出来ます。ピアニストの皆さんは必聴です。


Ben Webster (1909-1973) はColeman Hawkins, Lester Youngと同じく、ジャズサックスの歴史において最も重要な初期を代表する奏者で、その後の全てのサックス奏者に影響を与えています。Duke Ellington Big BandのAlto奏者Johnny Hodges に影響を受けました。そんなWebsterも40年台のエリントン楽団においてソリストとして活躍しました。とてもリリカルで特徴的なヴィブラート、Hodgesに影響を受けたであろう歌う様に滑らかなサックスプレイは、Websterのシグネチャーですし、いわゆるテナーサックスの在り方と言って良いでしょう。


Harry Sweets Edison (1915-1999) もマイルス以前にミュート・トランペットの音を確立しました。主にNelson RiddleのメンバーとしてFrank Sinatraの多くのアレンジでソロを吹いています。初期のキャリアの30年代にはCount Basieのビッグバンドへ入り活躍。余談ですが当時余りにもモテたために"Sweets"というあだ名がついたそう(笑)。

"Did You Call Her Today

さて、今回メインの話題のコンピンングについて5曲目の"Did You Call Her Today"を聴いていきましょう。




そもそもこのトラックは、先にも言いましたが、僕がジャズ史上最もスウィングしているテイクだと考えていて、それはもちろんリーダー2人のフロントの歌い回しによるものでもあるのですが、ステディーなベースとドラムが織りなす完璧な四分音符の上で、自由にリズムを操るHank Jonesのコンピングによる功績が大きいです。

以下のビデオ僕が楽譜ソフトに入力したプレイバック音源ですが、Hank Jonesのリズムが8分音符だったり、3連音符だったり、またまた16分音符だったり、縦横無尽に変化しているのがわかると思います。これでもメロディーや歌の邪魔にならないのは、うまいこと自分のスペースを見つけているからです。サックスやトランペットの譜面と見比べると、Hankのコンピングは必ずメロディーとメロディーの間の休みに強力なリズムを提示していることがわかるでしょう。特に途中の0:46からの16分音符はとても特徴的で、彼の弟のElvin Jonesのスネアのパターンにも出てくることがあります。





このように8分音符だったり、3連音符だったり、またまた16分音符だったり、リズムが複合的であることがジャズのリズムを実際に演奏して見た時に難しい理由でしょう。スクエアーに全てが揃っているとニセモノ感が出てしまいます。これは複合リズムの音楽でもあるアフリカ音楽にジャズの起源がある所以でしょう。

この演奏ではHarry Sweets Edisonは終始バケットミュートと呼ばれる弱音器を使用しています。ジャケットの写真で使用しているミュートですね。名前の通りバケツのような形をしていて、中にわたが詰められているため少しモコモコしたサウンドになります。

曲はBen Websterのものですが、コード進行は"In A Mellow Tone"と同じコード進行です。このように既存の曲のコード進行を使いその上に新たなメロディーを描く手法をContrafactといいます。おもにbebop期に流行った手法でチャーリーパーカーが"Donna Lee"を"Indiana"という曲の進行を使っていたり、Sonny Rollinsが"Oleo"を"I Got Rhythm"の進行を使っているのが代表的なContrafactですね。

EdisonもWebsterも実に彼ららしい見事な歌心溢れるソロを展開しています。ぜひソロ中の彼らフロントマンとHank Jonesのソロとコンピングの駆け引きもよく聴いていただきたいです。Hank Jonesのソロもコンピングで見せるリズム感をそのままに8分音符だったり、3連音符だったり、またまた16分音符だったり、ソロフレーズも自由自在にリズムを操ります。それにしても見事なタッチです。

そこに続くシャウトコーラスもメロディーラインとピアノの駆け引きが非常によくできています。シャウトコーラスとは、以前の記事でもなんども書きましたが、アレンジャーコーラスとも呼ばれていて、編曲家が自由に書き足して良い部分です。通常ビッグバンドのアレンジ向けに書かれることが多いです。


ここからは他の収録曲を簡単に解説します。1曲目の"Better Go"はEbのブルース曲でWebsterが作曲しました。ここではHarry Edisonのハーマンミュート(Miles Davisがよく使った)でのソロが聴けます。Websterのリラックスしたスタイルもサックスの王道といった感じです。もちろんこのトラックでもHank Jonesのコンピングに耳を傾けてみてください。



"How Long Has This Been Going"OnはGeorge Gershwinの曲。WebsterとHank Jonesのデュオから始まります。終始Websterをフューチャーしていてワンホーンのテイクです。落ち着いた雰囲気はジャズのバラードのあり方そのものですね。


"Kitty"はHarry Sweets Edisonのブルージーなオリジナル曲。EdisonとWesterの2ホーンが心地良いですね。こちらもソロはEdisonのプランジャーミュートを全閉じでサウンドが聴けます。Websterの喋りかけているようなソロは圧巻です。


"My Romance"はRichard RodgersとLorenz Hartが書いたバラード曲。これもWebsterをフィーチャーしています。


"Embraceable You"はガーシュウィンが書いた曲です。こちらはEdisonのハーマンミュートでのバージョンになっています。Hank Jonesとのデュオから始まり、まるで歌詞を読んでいるかのような雰囲気でトツトツと、しかし美しく演奏してくれています。Harry Sweets Edisonの音色はよどみがなく美しくて、トランペットの良さを前面に引き出してくれている奏者だと思います。


ぜひこの素晴らしいアルバムを皆さんも聴いてみて下さいね。
それではまた次回。

文:曽根麻央 Mao Soné







【LIVE INFO】

2/17 (水) @ Velera, 赤坂
MAO SONÉ [曽根麻央] Trio + Tomoaki Baba [馬場智章]
https://velera.tokyo/

2/24 (水) @ Alfie, 六本木
MAO SONÉ [曽根麻央] Brightness Of The Lives
http://alfie.tokyo/

2/27 (土) @ Studio WUU, 柏
MAO SONÉ [曽根麻央] Trio + Tomoaki Baba [馬場智章]
https://www.wuu.co.jp/

4/23 (金) @ Blue Note Tokyo, 表参道
MAO SONÉ [曽根麻央] Brightness Of The Lives
http://www.bluenote.co.jp/jp/


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【公演名】
MAO SONÉ - Brightness of the Lives - at Blue Note Tokyo

【日時】
2021 4.23 fri.
[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:30pm Start9:15pm
※2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:4.26 mon. 11:59pmまで
※アーカイブ配信の内容はライヴ配信と異なる場合がございます。
予めご了承ください。
※当初の開催日程(2021 1.21 thu.)から変更となっております。

【メンバー】
曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)
井上銘(ギター)
山本連(ベース)
木村紘(ドラムス)

★公演内容に関するお問い合わせ
ブルーノート東京 TEL:03-5485-0088

▼URL
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mao-sone



Recommend Disc

ben_sweets200.jpg
Title : 『Ben And "Sweets"』
Artist : Ben Webster & "Sweets" Edison
LABEL : Columbia
NO : CS 8691
発売年 : 1962年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01. Better Go
02. How Long Has This Been Going On
03. Kitty
04. My Romance
05. Did You Call Her Today
06. Embraceable You




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2021.01_Nicholas Payton_Into The Blue:Monthly Disc Review

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Title : 『Into The Blue』
Artist : Nicholas Payton

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【リラックスした無理のないトランペットプレイを楽しめる現代では珍しい1枚】


あけましておめでとうございます。トランペッター・ピアニストの曽根麻央です。新年から演奏やコンサートの延期の連絡が相次いでいますが、今年も頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。なんと僕のDISC REVIEWもこれで10回目!早いものです!

先月の記事でお伝えした1/21の僕のブルーノート東京での公演ですが、緊急事態宣言を受け、4/23(金)に延期することになりました。詳しくは以下よりお確かめください。


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【公演名】
MAO SONÉ - Brightness of the Lives - at Blue Note Tokyo

【日時】
2021 4.23 fri.
[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:30pm Start9:15pm
※2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:4.26 mon. 11:59pmまで
※アーカイブ配信の内容はライヴ配信と異なる場合がございます。
予めご了承ください。
※当初の開催日程(2021 1.21 thu.)から変更となっております。

【メンバー】
曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)
井上銘(ギター)
山本連(ベース)
木村紘(ドラムス)

★公演内容に関するお問い合わせ
ブルーノート東京 TEL:03-5485-0088

▼URL
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mao-sone






 今回は僕が高校生の時に聞いて影響を受けたアルバムをご紹介します。

現代のジャズトランペッターの作品、特にウィントン・マルサリス以降の創造的なトランペッターの作品は音楽的にも素晴らしいのだが、非常に技巧的でリラックスして聴くことの対象にあるものが多いと感じます。しかし技術的にも音楽的にも成熟したNicholas Paytonが、一切テクニックをひけらかさずに非常にリラックスした雰囲気で録音した『Into The Blue』ほど純粋に「音楽」を楽しめるトランペッターのアルバムはなかなかないと思います。

まるで漂流する様に自然に存在するトランペットソロは、Paytonの技術や経験、音楽力があってこそのなせる技。録音の音質も部屋の音が感じられ、ライブ感があり、リアルな音が聴けます。全体的にNicholas Paytonのソロが多めで、多少のKevin Haysのソロはあるものの、Paytonのカリスマ感もあるアルバムに仕上がっています。


Nicholas Payton - Trumpet, Vocals, Synthesizer
Kevin Hays - Piano, Fender Rhodes
Vicente Archer - bass
Marcus Gilmore - drums
Daniel Sadownick - percussion

Released in 2008







1. Drucilla (Walter Payton)
 このアルバムの冒頭は「Drucilla」というNicholas Paytonのお父さんでベーシスト/スーザホンニストであるWalter Paytonの作品から始まります。最初は3拍子のバラードで1コーラスメロディーが演奏されます。おそらく原曲に沿っているのかと思います。その後スィングになりKevin Hays→Nicholas Paytonのソロへと流れていきます。

 このアルバムを通して注目したいのが当時まだ22歳のドラマーMarcus Gilmoreです。3拍子のバラードでのマレットでの空気感の作り方はもちろんのこと、その後のスウィングに突入した時の演奏方法が実にユニークです。

通常ドラマーは一定の店舗でグルーブに突入すると一定のパターンを叩き音楽を推進させます。ジャズであったらライドシンバルのパターンが通常一定で保たれています。しかし、このMarcus Gilmoreの場合、シンバルパターンがまるで音楽の一部であるかのように自在に現れては消えて、強弱をつけていく、しかしそれでいてグルーブ感は失われない独特の奏法をしています。まるでソリストの間を縫うようにグルーブさせていくのがとても印象的。

ベースのVicente Archerもそんなドラマーとの駆け引きを楽しむかのようにいわゆるウォーキングベース(4拍きちんと演奏するジャズの基本的スタイル)を演奏せずに音楽に緊張感を持たせています。
4:10にようやくベースとドラムが安定的なグルーブを演奏し、今までの緊張からとき離れてリリースされるのがとてもカッコ良いですね。


2. Let It Ride
 Evenのストレートフィールの曲だが、その上でMarcus Gilmoreは早いスウィングの様なフィールを叩いている1曲。Kevin Haysはピアノからローズに変わり独特な雰囲気を与えています。


3. Triptych
 特徴的なVamp(繰り返し奏でられるベースパターンとそのコード進行)が繰り返される一曲です。今でもPaytonのライブでは重要なレパートリーの一曲になっています。D, G, B, Eのベース音とは全く別にDb, D, Eb, Dの3和音が行ったり来たりする独特のサウンドです。そのVampの上で見事なソロをPaytonは繰り広げています。トランペッターは必聴の演奏だと思います。グルーブもニューオリンズ・ジャズを基盤としているファンクグルーブでとても聞いていて楽しい曲の一つです。


4. Chinatown
 Jerry Goldsmith作曲の、ピアノの弦のサウンドから始まる特徴的なバラード曲。もともと映画音楽で原曲もトランペットで吹かれている曲の様ですが、ここではNicholas Paytonが彼なりのメロディーの吹き方でストーリーを語ってくれます。


5. The Crimson Touch
 Paytonのトランペットとピアノのユニゾンが特徴的な、いかにも現代のブラックミュージックテイストの曲です。このPaytonのトランペットソロも圧巻なので聴いていただきたいです。おそらくバンドでの録音後にPayton自らシンセサイザーで重ねている様子です。トランペットソロ後のトランペットとピアノのユニゾン(シャウトコーラス)も見事に作曲されていて、美しい作品です。


6. The Backward Step
 トランペットがメロディーを奏でて始まりますが、この曲は現在でもPaytonの重要なライブ・レパートリーで、ライブによっては歌詞がついて歌われているバージョンもあります。ちなみに今のライブではPayton自らがピアノ(ローズ)を弾き、同時にトランペットを吹いている場合が多いです。僕もこの曲をなんども生で聞きましたが、毎回驚愕のプレイを目の当たりにしました。


7. Nida
 またもやPaytonのお父さん、Walter Paytonの曲から。特徴的なMarcus Gilmoreのニューオリンズスタイルに影響を受けた独自のドラムパターンが印象的です。メロディーもシンプルでとっても覚えやすく、ユニークな作品です。


8. Blue
 Paytonのハーマンミュートでの演奏と、ボーカルを聞けるバラード曲です。


9. Fleur De Lis
 ニューオリンズ・テイストのグルーブから始まる曲。やはりPaytonは自身のルーツを非常に大事にしていますね。メロディーもトランペットとローズ・ピアノのハーモニーがとっても美しく響きます。Kevin Haysはローズのビブラートを非常に心地よく設定していて、魅力的なサウンドを引き立てています。


10. The Charleston Hop (The Blue Steps)
 このアルバム唯一のラテン調の曲。テーマが終わった後のKevin Haysのソロの入り方がしびれます。注目してみてください。そしてここにきてPaytonも熱量のあるトランペット・ソロをようやく聞かせてくれるという構成。このソロは相変わらず圧巻の技術とスタミナを惜しみなく店、それでなおかつ音楽としての魅力を損なわない素晴らしいソロを展開してくれています。


いかがでしたでしたか? 
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné










Recommend Disc

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Title : 『Into The Blue』
Artist : Nicholas Payton
LABEL : Nonesuch
NO : 7559-79942-4
発売年 : 2008年



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【SONG LIST】

01. Drucilla
02. Let It Ride
03. Triptych
04. Chinatown
05. The Crimson Touch
06. The Backward Step
07. Nida
08. Blue
09. Fleur De Lis
10. The Charleston Hop (The Blue Steps)




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2020.12_Duke Ellington_Three Suites:Monthly Disc Review

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Title : 『Three Suites』
Artist : Duke Ellington

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【クリスマスに聴きたいジャズアルバム】


今日はクリスマスに聴きたいジャズのアルバムとしてデューク・エリントンの『Three Suites』というアルバムを紹介します。このアルバムはエリントンが誰でも聞いたことのあるチャイコフスキーの名作「くるみ割り人形」などのクラシックの組曲をエリントンサウンドに編曲したアルバムです。よく知っているこのメロディーを楽しんでいただくと共にエリントンの特徴を探って生きましょう。


本題に入る前に一つ宣伝があります。来年2021年の1月21日に私・曽根麻央が憧れの舞台、Blue Note Tokyoへ初出演します。 メンバーは大信頼、大活躍の仲間たち。彼らと共にどこまででも行ける気がします。


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 メンバーの井上銘くん、山本連くん、木村紘くんとはバークリー音楽大学時代の仲間で、全米桜祭りとBlues Alley(ワシントンDC)への出演を機に2014年に結成しました。当時はまだみんな学生で1日7時間リハーサルを毎日行ったり、またプライベートではルームメイトだったりもして同じ時間を過ごしたりもしました。リスペクトし合えるこのメンバーでブルーノートの舞台に挑むことができて嬉しいです! メンバー一同お待ちしております。

【公演名】
MAO SONÉ - Brightness of the Lives - at Blue Note Tokyo

【日時】
2021 1.21 thu.
[1st]Open5:30pm Start6:30pm [2nd]Open8:30pm Start9:15pm
※2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:1.24 sun. 11:59pmまで
※アーカイブ配信の内容はライヴ配信と異なる場合がございます。 予めご了承ください。

【メンバー】
曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)
井上銘(ギター)
山本連(ベース)
木村紘(ドラムス)

★公演内容に関するお問い合わせ
ブルーノート東京 TEL:03-5485-0088

★配信プラットフォーム各社のチケット購入/視聴方法、お問合せフォームなどはこちら

"ぴあ" をご利用のお客様
https://t.pia.jp/pia/events/pialivestream
TEL:017-718-3572

"イープラス" をご利用のお客様
https://eplus.jp/sf/guide/streamingplus-userguide

"ZAIKO" をご利用のお客様
https://zaiko.io/support

▼URL
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mao-sone






 話が逸れてしまいましたがここからはいつも通りアルバムを聴いていきましょう!

 「Three Suites = 3組曲」というタイトルの通り、このアルバムには3つの組曲が収録されています。組曲とはいくつかの曲を組み合わせて大きな作品を構成する作曲法で、ビゼーの「カルメン組曲」やホルストの「惑星」を代表するように、ストーリや一貫した主題に沿って曲が配列(構成)されています。特にこのアルバムにも収録されているチャイコフスキーの「くるみ割り人形」はクリスマスのお話であるのでこれからの1週間、お家で楽しく聴いていただきたい名演奏、名アレンジとなっています。今回はこのくるみ割り人形のアレンジを聴きながら、エリントン・サウンドの特徴についてみていきましょう。

ちなみにこのアルバムのアレンジはエリントンとビリー・ストレイホーンの2人によってなされています。





Overture - 序曲
 ベースとドラムのスウィングのリズムに乗って、我々がよく知っているあのメロディーがトロンボーンの音で聴こえてきます。ここにはすでにエリントンのアレンジの手法が見えます。

 トロンボーン3本によって作られるハーモニー(今回はメロディーを奏でていますが、0:36の様にバック・グラウンドとしてヒットだけ演奏していることもある)はエリントン・サウンドの代表的な手法です。このサウンドが聴こえてきたらエリントンだと言って良いほどに。またそのカウンターライン(対位法)としてサックス・セクションがユニゾンで主旋律に応えています。これもエリントン・サウンドの特徴です。その後も見事にトランペットなどの管楽器が増え、メロディーも様々な楽器を行き交います。


Toot TooT Tootie Toot (Dance of the Reed-Pipes) - 葦笛の踊り
 この曲ではまずサックス・セクションがアルト、テナー、バリトンの3本に加え、クラリネットが2本という、これもエリントン・ビッグバンドの独特のサウンドを出すインストゥルメンテーション(楽器の指定)になっています。

 またトランペットやトロンボーン・セクションは「プランジャー」と呼ばれるミュートを使って、独特な、しゃべっているようなサウンドを出しています。プランジャーはもともとトイレのスッポンの持ち手の部分を取ったもので、そのゴムの部分で楽器のベルを閉じたり開けたりするため、こもった音色とオープンな音色、またはその2つを混ぜたり色々なカラーを出せます。もともとはソロで使われることが多かったこのミュートをセクションで使ったのもエリントン・サウンドです。

ちなみにこのトラックにも3本のトロンボーンのバックグラウンドがいたるところで出てきますので良く聴いてみてください。





Peanut Brittle Brigade (March) - 行進曲
 もともとチャイコフスキーは美しい3和音を基盤に書いたこの曲ですが、エリントンはトランペット&トロンボーン・セクションの4度のボイシングの重なりで独特なサウンドを最初から聴かせてくれます。

 先ほどメロディーが色々な楽器を推移している話をしました。エリントンはオリジナルのメロディーやカウンターポイントなどの要素を適切な楽器に与えることで、長い旋律を一つのセクションや特定の楽器だけに止めることはせずに、書く旋律をジャズのリズムに違和感なく乗せることができています。


Sugar Rum Cherry (Dance Of The Sugar Plum Fairy) - 金平糖の精の踊り
 アフロビートの上でサックスが少し怪しげにメロディーを奏でるこのアレンジ。テナーソロの後ろではやはりトランペットx2とトロンボーンx1の3本で和音を、しかもプランジャーを使用してバックグラウンドを奏でているのがとても効果的ですね。


Entr'acte
Overtureと同じフレーズやオーケストレーションが出てきます。Overtureのソロ部分だと思っていただいていいと思います。


The Volga Vouty (Russian Dance) -ロシアの踊り
トランペットとトロンボーンの印象的なハイノートのイントロに続き、サックスの高音でのクラスター和音(音と音が乖離しておらず、密なサウンドがする)が特徴的なアレンジ。サックスの高音クラスター和音もエリントン楽団独特のサウンドです。その後はトランペットx2とトロンボーンx1の3本で和音を、しかもプランジャーを使用してバックグラウンドを奏でているのも以前登場したテクニックですね。そしてそれに応えるサックスのユニゾンもあります。ここまでくると大分エリントンのビッグバンドの特徴が見えてきたのではないでしょうか?


Chinoserie (Chinese Dance) - 中国の踊り
他のアレンジに比べると小編成のアレンジです。基本的には少しボレロのようなドラムのリズムに、重音を使った独特のベースラインが繰り返し演奏されています。その上に、クラリネットの主旋律とそれに呼応するテナーの主旋律が またこれも長いこと繰り返します。トロンボーンがバックグラウンドを演奏している箇所もあります。1:35からのエリントンの四発のみの強力な和音も印象的です。


Danse of the Floreadores (Waltz of the Flowers) - 花のワルツ
原曲は華やかで軽やかなワルツを、スウィングのアレンジにしています。力強くフルオーケストラで奏でられるメロディーとその複雑なハーモニーはまさにエリントン・サウンドを象徴するものです。まるでブラス・シンセサイザーのように、ブラスの塊のサウンドはこのバンド唯一無二のトレンドではないでしょうか?


Arabesque Cookie (Arabian Dance) - アラビアの踊り
原曲はGのペダルの上で美しい旋律と、自然に移り変わる和音を聞くことができる。ペダルの技法はベースの音を同じ音でキープしているのに、上に乗っている和音が変化することを言います。
エリントンのアレンジもベースの一定のオスティナート(パターン)の上で徐々に変化するようになっています。バンブーフルートとベースクラリネットの組み合わせが独自の雰囲気を作り上げていてとても異色の面白いサウンドです。

このアルバムにはグリークの「ペールギュント」やエリントンとストレイホーンの「木曜日」といった組曲が収められています。

他にも『Far East Suite』や『The Ellington Suites』など自身で作曲した組曲を収録しているアルバムも大変オススメです。『Far East Suite』には名曲「Isfahan」も収録されています。『The Ellington Suites』はエリザベス女王に捧げられた組曲も入っていてその中の「Sunset And The Mocking Bird」という曲もいかにもエリントンらしい美しさのある曲で大好きです。是非聴いてみてください。





いかがでしたでしたか? 
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央ライブ情報】
12/25 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/



Recommend Disc

threesuite200.jpg
Title : 『Three Suites』
Artist : Duke Ellington
LABEL : Columbia
NO : CK46825
発売年 : 1961年



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【SONG LIST】

01. バレエ組曲「くるみ割り人形」 序曲
02. バレエ組曲「くるみ割り人形」 トゥート・トゥート・トゥーティ・トゥート(あし笛の踊り)
03. バレエ組曲「くるみ割り人形」 ピーナッツ・ブリットル・ブリゲイド(行進曲)
04. バレエ組曲「くるみ割り人形」 シュガー・ラム・チェリー(こんぺい糖の精の踊り)
05. バレエ組曲「くるみ割り人形」 間奏曲
06. バレエ組曲「くるみ割り人形」 ザ・ボルガ・ボウティ(ロシアの踊り)
07. バレエ組曲「くるみ割り人形」 中国の踊り
08. バレエ組曲「くるみ割り人形」 花のワルツ
09. バレエ組曲「くるみ割り人形」 アラベスク・クッキー(アラビアの踊り)
10. 組曲「ペール・ギュント」第1、第2 朝の気分
11. 組曲「ペール・ギュント」第1、第2 山の魔王の洞窟にて
12. 組曲「ペール・ギュント」第1、第2 ソルヴェイグの歌
13. 組曲「ペール・ギュント」第1、第2 オーゼの死
14. 組曲「ペール・ギュント」第1、第2 アニトラの踊り
15. 組曲「木曜日」 ミスフィット・ブルース
16. 組曲「木曜日」 スウィフティ
17. 組曲「木曜日」 ズイート・ザーズデイ
18. 組曲「木曜日」 レイ-バイ




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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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Title : 『Money Jungle: Provocative In Blue』
Artist : Terri Lyne Carrington

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【リファレンス音源】


みなさんこんにちは、曽根麻央です。いかがお過ごしでしょうか?


 ジャズのアルバムの中には、不思議なことに多くの人に愛されるにも関わらず、必ずしも良い音質やミックスである、というわけでは決してありません。これは、ジャズを聴く際、演奏者の魅力というのが音楽の良し悪しを判断する上でもっとも重要な要因となるからだと思うのです。

時代的にレコーディング技術が追いついていなかったり、そんな中でのライブ録音だったりと、皆さんが愛してやまない名盤の中にもどこか「もう少しレコーディングクオリティーがよかったらなあ...」と思われることもしばしあるかもしれません。それでもその音源に魅力があるのは、その一瞬一瞬に魂を込めた当時の名手たちの魅力を感じ取れるからではないでしょうか?また、様々なレコーディングの技術が、録音されたその時期にリアルタイムで発明されているわけですから、おそらくエンジニアも試行錯誤をしていた(もちろん現在でもしている)、そんな事情もあると予測ができます。

 しかし昔から「良い録音」をされたジャズの名盤もたくさんあります。ブルー・ノートやインパルスやその他の名盤と言われるシリーズには、現在においても尚「ジャズ・サウンド」のリファレンス(参考)となりうるものです。また、「何でこの時代の機材でこんなに良い音で録れているの?」だとか、「何でモノラル録音なのにこんなに空間が感じられるの?」だとか、色々と考えさせられるすごい音というのが歴史上沢山存在します。それらを聴いて体感して見るのもジャズの楽しみ方の一つです。

 このように「良い音」で録られた音源は、次の世代のアーティストが制作活動をする上でリファレンスとして、サウンドの基準として用いられる場合が多いです。例えば僕がスタジオに入ると、リスニング・ブースに自分が良いと思うリファレンスの音源を持っていって再生してもらいます。これによって、そのスタジオのモニターや部屋の鳴りかたなど「音の癖」を把握して、エンジニアに注文を出したりして理想の音に自分の作品を近づけていきます。リファレンス音源を持っていないで、特によく知らないスタジオでその日録音した音源のみを聴き良い音だと思っていても、家に持ち帰った時にがっかりする音質だった、なんて悲しい事件が起こったりもします。レコーディングの怖いところです。

 そこで今日は僕が思う現在のジャズのレコーディングのリファレンスとして最適な音源とアルバム、Terri Lyne Carringtonの『Money Jungle: Provocative in Blue』をご紹介しようと思います。


 僕は6曲目の「Grass Roots」をリファレンスにすることが多いです。ジャズの基本でもあるピアノトリオとしてのミックスが綺麗で、バンドとしてもバランスがとてもよくとれています。ドラムが全体を包み込むように空間を支配していてとても気持ちいです。ベースもリズムとピッチがよく聞こえるのに、ベース的な太さを残しています。ピアノも高音から低音までバランスよく綺麗に収録されているのでこれを聴きながら自分の録音の音を調整してもらうと理想に近くなります。もちろんそれはテリやクリスチャン・マクブライド、ジェラルド・クレイトンなどのモンスター級のプレイヤーが揃っているのも大前提としてあるのですが...




 ちなみにトランペットの音は理想の音が常に頭にあるので、あまりリファレンスは持っておらず、その時の直感に頼ることが多いです。


 テリ・リン・キャリントンは女性として初めてジャズ・インストゥルメント部門でグラミーを受賞したこともあり、女性ドラマーとして注目を浴びることが多いのですが、アメリカで様々な一流ドラマーを見てきた僕からすると、彼女こそダントツで現在のトップドラマーだと信じています。スウィングからファンク、フュージョン、ロック、ラテンまでありとあらゆるグルーブを自在に、そしてどんなダイナミックスでも表現できるマスターです。

 Money Jungleという言葉はそもそも、デューク・エリントン、チャールズ・ミンガス、マックス・ローチの1962年のアルバムですが、今回はテリがそこに独自の解釈を加えたアレンジと、オリジナルで構成されています。

メンバーを見てみましょう。


Terri Lyne Carrington - drums
Gerald Clayton - piano
Christian McBride - bass

[ゲスト]
Clark Terry - trumpet, vocals (track 2)
Robin Eubanks - trombone (tracks 2, 9)
Antonio Hart - flute (tracks 2, 9)
Tia Fuller - flute (track 2), alto saxophone (track 9)
Nir Felder - guitar (track 3)
Arturo Stabile - percussion (track 8)
Lizz Wright - vocals (track 3)
Shea Rose - vocals (track 11)
Herbie Hancock - vocals (track 11)




1. Money Jungle
 「現在の規範では命を救うことや地球のバランスをとること、正義や平和を語ることに何の利益もありません。利益を産むためには問題を起こさねばならない。

(There is no profit under the current paradigm in saving lives, putting balance on this planet, having justice and peace or anything else. You have to create problems to create profit.)」

という朗読に合わせてテリがドラムソロを演奏しています。

 ちなみにテリはこのような朗読と音楽をコラボさせるのが得意で、僕自身も彼女のTed Talkでのパフォーマンスで参加させてもらっています。是非見てください。3:41ぐらいからです。




2. Fleurette Africain
 クラーク・テリーがボーカルとトランペットで参加しています。クラークはトレードマークでもあるスキャットを聴かせてくれます。彼のスキャットは歌詞自体には全く意味がないのに、言葉や意味が聴こえてくる感じがして本当に圧巻ですね。


3. Backward Country Boy Blues
 古いブルース調の雰囲気から始まり、徐々にコンテンポラリーの要素が増しています。ギターの名手、ニア・フェルダーが参加。ゴスペルシンガーのリズ・ライトも参加しています。


4. Very Special
 元祖Money Jungleでも重要なレパートリーでもあるブルース曲。テリ、マクブライド、クレイトンのトリオでもスウィングの直球演奏を聴くことができます。テリの美しいライドシンバルのグルーブはドラマー必聴かと思います。マクブライドとのコンビネーションも最高のグルーブを出しています。かなりリズミックなソロのクレイトンに、完璧にベースをコントロールするマクブライドを聴くことができます。


5. Wig Wise
こちらも元祖Money Jungleより。原曲は4拍子のスウィングですが、6拍子のイーブン・フィールで演奏されているため、かなり原曲とはかけ離れています。単純にトリオだけの演奏になっていて、こちらもかなり聴き応えのあるテイクだと思います。


6.Grass Roots
 先に書いたように僕がアコースティックのジャズのレコーディングの際リファレンス音源として持っていくテイクです。テリのオリジナルなようです。先ほども言ったように、ドラムの全体を包み込むような空気感が好きなのですが、もちろんこれはレコーディング・エンジニアだけで成し遂げられることではなく、ドラムのチューニング、タッチなど色々なことが合わさってこの音が録れています。特にこのアルバムはジャズのアコースティックのアルバムにしてはベースドラムのチューニングが高すぎず、ドシッと中身の詰まった音色なのがとても気持ちいです。ドラマーにとって自分のチューニング、そのバンドに最適のチューニングを見つけることは全体のサウンドに関わってくるので、是非チューニングの勉強をしてみてください。これだけでドラムの演奏レベルと一緒に演奏しやすさがかなり上がります。


7. No Boxes (Nor Words)
 こちらもテリのオリジナル。ピアノの左手とベースでユニゾンラインが演奏される上で、右手が自由に動き回るイントロを経て、スウィングのテーマ部分に入って行きます。3:01ぐらいのテーマからソロに入ったタイミングのドライブ感(グルーブが前に躍進していく感じ)が凄まじいです。やはりこのレベルのプレイヤーはグルーブに対する瞬時の集中力(もはや集中を超えてナチュラルに演奏してるのでしょうが...)が他と一線を画していますね。




8. A Little Max
 5拍子のイーブンの曲。以前の記事でもお話しした5拍子のクラーベ(変拍子クラーベ)が随所で聴き取れます。こういったクラーベを用いた演奏では、クラーベを体に取り込んでそこに肉付けをしているので、ぱっと聴いた際にクラーベが無いように聴こえてしまいますが、よく聴くと中心にはどこかいるものです。3:50からはまさに5拍子クラーベのテリ流のパターンを叩いているのでドラマーの方は是非練習してみてください。




9. Switch Blade
 マクブライドのベースソロから入る、スローブルースの曲。ビヨンセのバンドのサックスも務めるティア・フラーがサックスを、前回取り上げたSFJazz Collectiveにも参加しているロビン・ユーバンクスがトロンボーンを演奏しています。


10. Cut Off
 エリントンのソリチュードのような導入のジェラルド・クレイトンのオリジナルバラード。


11. Rem Blues/Music
 何とハービー・ハンコックも朗読に参加しているこのトラック。クレイトンのフェンダー・ローズが静かに雰囲気を作り、徐々にグルーブが聴こえてきて、シーア・ローズという方がエリントンの詩を朗読しています。「人気を得ることはお金を得ること、だけどそれは音楽ではない」というハンコックの言葉で締めくくられます。




いかがでしたでしたか? 
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央ライブ情報】
11/17 (火) @ 六本木サテンドール
Brightness Of The Lives [曽根麻央 (tp&keys)、井上銘(gt)、山本連(eb)、木村紘(ds)]
https://www.satin-doll.jp/

11/20 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/

12/13 (日) @ 六本木サテンドール
曽根麻央 (tp) & David Bryant (p)
https://www.satin-doll.jp/

12/25 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/



Recommend Disc

moneyjungle200.jpg
Title : 『Money Jungle: Provocative In Blue』
Artist : Terri Lyne Carrington
LABEL : Concord Jazz ‎
NO : CJA-34026-02
発売年 : 2013年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01. Money Jungle
02. Fleurette Africain
03. Backward Country Boy Blues
04. Very Special
05. Wig Wise
06. Grass Roots
07. No Boxes (Nor Words)
08. A Little Max (Parfait)
09. Switch Blade
10. Cut Off
11. Rem Blues/Music




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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2020.10_現代・中規模編成ジャズの名盤:Monthly Disc Review

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Title : 『SFJAZZ Collective 2』
Artist : SFJAZZ Collective

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【現代・中規模編成ジャズの名盤】


みなさんこんにちは、トランペット&ピアノの曽根麻央です。気温もだいぶ低くなり、都内では秋物のコートが手放せなくなりました。COVID-19の影響で未だ活動は小規模ではありますが、温かいお客様に囲まれ、音楽的にも充実した日常が戻ってきつつあります。みなさんはいかがお過ごしでしょうか?


 さて今回は現代の中規模編成のジャズの名盤ということで、SFJAZZ Collectiveの『2』というアルバムを取り上げます。このアルバムのアレンジや演奏を聴いていきましょう。また中規模編成の歴史的なアルバム『Birth Of Cool』については以前書きましたので、そういった過去の類似作品と現代の作品の違いも感じ取っていただけると嬉しいです。


SFJAZZ Collectiveは2004年から現在も活動する続く8人編成のジャズアンサンブルで、非営利団体のSF Jazzや毎年開催されるサンフランシスコ・ジャズ・フェスティバルによって運営されています。毎年、ジャズの代表的なレジェンド・アーティストのレパートリーのカヴァーと、メンバーの新作とを50:50にして演目を構成しています。


例えば2004年はオーネット・コールマン、2005年はコルトレーン、2006年はハービー・ハンコックといった感じです。 メンバーは入れ替わったりしていますが、ブライアン・ブレイドやジョー・ロヴァーノといった今のジャズシーンを代表するメンバーが常に参加しています。2004年からの活動ということで、僕ら30歳手前の世代のミュージシャンにとっては、当時、ヒーローの集まりのような夢のアンサンブルでした。


2000年代のジャズの流れとして印象深いのは、2001年のウエイン・ショーター・カルテットの結成や、2008年のアンブロース・アキンムシーレのモンク・コンペティション優勝からのデビューなどですが、それと並んで、SFJAZZ Collectiveの活動も話題となりました。


 では早速この『2』のメンバーを見ていきましょう。トランペッターの皆さんは、ニコラス・ペイトンの圧倒的なトランペット・プレイを聴くことができるので、このアルバムは必聴です!


MIGUEL ZENON(as,fl)
JOSHUA REDMAN(ts,ss)
NICHOLAS PAYTON(tp)
ISAAC SMITH(tb)
BOBBY HUTCHERSON(vib,marimba)
RENEE ROSNES(p)
MATT PENMAN(b)
ERIC HARLAND(ds)

GIL GOLDSTEIN (arranger on Coltrane's Songs)




1. Moment's Notice




 ジョン・コルトレーンの代表曲をギル・ゴールドスタインのアレンジで聴くことができます。インパクトのあるホーンの呼びかけにエリック・ハーランドのドラムが応えるイントロ。やっぱりイントロやアルバムの出だしというのは人の心を掴む重要な部分なので、インパクトはどの時代でも大事ですね! 
その後、あの有名なメロディーが聴こえてきます。それに続きニコラス・ペイトンの圧倒的なソロを聴くことができます。このアルバムではペイトンは4曲ソロを取っていますが、どれも圧巻です。


2. Naima
 コルトレーンの美しいバラード曲。こちらもゴールドスタインのアレンジ。原曲は4拍子のバラードだが、こちらでは3拍子に編曲されています。ベースとピアノの低音オスティナート(ある種の音楽的なパターンを続けて何度も繰り返す部分)の上で、名手ボビー・ハッチャーソンがヴァイブラフォンでメロディーを奏でます。終始ハッチャーソンがフィーチャリングされていて、彼は自身の持つ美しい歌い方とテクニックで、クライマックスに向けてゆっくりと音楽を発展させていきます。ホーンは基本的にバックグラウンドでハーモニーを奏でるにとどまっていますが、各楽器のバランスの取り方がさすがですね。


3. Scrambled Eggs
 ニコラス・ペイトン作曲。その名前の通り卵をかき混ぜるように、徐々に早くなるように聴こえる不思議な曲。ですがリズムの柱が全音符2分音符3連、4分音符、2拍3連、8分音符、3連符とどんどん短くなっているだけで、実は全体は一定の4拍子でずっと進んでいます。そんな変わったリズムの柱の上で自由自在にソロを吹くペイトンのソロに続き、ピアニスト、リニー・ロスネスもアヴァンギャルドのようにピアノをグリッサンドさせるソロから徐々に美しいフレーズが聴こえてきてスウィングさせます。


4. Half Full

 ジョシュア・レッドマン作曲。このアルバム一番の大曲かもしれません。イントロとしてベースの伴奏の上にヴァイブラフォンのメロディーが聴こえてきます。その後フルートが入り、その後トロンボーンにトランペット、サックスと少しずつ盛り上げて、ルバート(テンポのない)セクションに一瞬入ります。ルバート部分には少しだけコルトレーンの要素がある気がしますね。メインのメロディーがルバートでトランペット、アルト、テナー、トロンボーンと受け継がれながら聴こえてきて、ようやく心地よい早めのスウィングでメインテーマに入ります。メインテーマは最初ピアノだけで演奏されていますが、その後ホーンセクションが入ってきて徐々に盛り上げていきます。

メロディーは色々な楽器を受け継がれていきます。例えばトランペットがメロディーを一瞬吹いたかと思えば、次のフレーズではハーモニーパートに転じ、テナーがメロディーを取っています。リード(メインのライン)の受け継ぎがうまいのはアンサンブル能力の高さです。メロディーを殺すことなくちょうど良いバランスで自分のパートを吹き分けるのは流石の技術です。

そして、今まで触れてこなかったのですが、これはライブ盤ですので、完全一発録りという意味でも、技量の高さを感じることができます。その後、リニー・ロスネスのソロになり、一旦彼女のソロで曲はクライマックスを迎えます。一旦曲が終わったかと思えば違う雰囲気で、よりリズミックなモチーフで曲が再構築されていきます。その後、作曲者のジョシュア・レッドマンがソロを吹きます。このソロも本当に素晴らしいので是非聴いてほしいです。その後コーダにむけてホーンが入り、本当のクライマックスを迎えます。ニコラス・ペイトンの全体のリード力も、音色が輝いていて聞き応えがあります。


5. 2 And 2
 ミゲル・セノン作曲。不思議な感じのするヴァイブラフォンとピアノのイントロから、エリック・ハーランドによってグルーブが提示されます。オリジナルの譜面がどう書いてあるのかわからないのですが、おそらく6/4+9/8拍子の繰り返しです。ミゲル・セノンのソロもこの拍子の上で成り立っています。ミゲル・セノンは僕が最も好きなアーティストの1人なのです。この人は楽器のテクニックやサックスの音色はもちろんですが、リズムに関するアイディアは他の追随を許さない才能の持ち主です。

 話が逸れますが、ミゲル・セノン・ビッグバンドの2014年の作品『Identities Are Changeable』では、リズムのアイディアをさらに発展させて、ポリリズムを使って、非常に複雑な関係性のある違う拍子やテンポを行ったり来たりすることで、独自の世界を突き進んでいます。
 続くジョシュアのソロは(変拍子は何通りも書き方や捉え方があるため、実際の記譜はわかりませんが)4/4+3/4+4/4 ×3回 4/4+6/4 の拍子で進行していきます。その後のエリックのドラムソロは元の6/4+9/8。


6. Crescent
 ジョン・コルトレーン作曲、ギル・ゴールドスタイン編曲。ニコラス・ペイトンがフィーチャーされていて、これでも恐ろしいほどに完璧なソロを取っています。トランペッター、トランペットファンは必聴です。


7. Africa
 ジョン・コルトレーン作曲、ギル・ゴールドスタイン編曲。こちらはジョシュア・レッドマンのフィーチャー曲。ボビー・ハッチャーソンのいかにもアフリカらしいマリンバの演奏から入ります。マリンバの演奏が最高潮に達して「Africa」のグルーブが聴こえてきます。ジョシュアのソロも聴いていてワクワクします 。いわゆるモード曲ですが、その中でジョシュアがフレーズを発展させている様がとても素晴らしいです。
それに続くエリック・ハーランドのドラムソロも、エリックの独特の歯切れ良い心地の良い音色が体に入ってきてとても気持ち良いです。エンディングはまたボビー・ハッチャーソンがイントロと似た雰囲気を作って終わります。ボビーのアフリカのようなマリンバから始まって終わるこのスタイルは、実は「SFJAZZ Collective」の1枚目の「Lingala」という曲でも聴けます。全然違う雰囲気になっているので、面白いので聴き比べてみてください。


8. Development
 エリック・ハーランド作曲。このアルバムで僕が個人的に一番好きなのはこの曲かもしれないです。リリカルなメロディーで歌いやすく、とてもポップです。Aセクションは4拍子なのですが、Bセクションは7拍子となっています。Bセクションはあくまで個人的な感想ですが、Geri Allenの「Drummer's Song」に似た雰囲気がありますね。



最初のミゲル・セノンのソロはフォーム通りになっています。ミゲル・セノンらしい美しいアルトのサウンドとリズム感のあるラインが聞けるソロになっています。
 次のニコラスのソロは全く違うフォームで11小節のコード進行になっています。一小節ごとにBb7sus, A7sus, Ab7sus...半音ずつ降りる...Db7sus, C7susというコード進行の上でニコラス・ペイトンが縦横無尽に駆け回ります。まさに縦横無尽という言葉通りだと思うので、どういうことだと思った方は是非聴いてみてください!

 通常のアルバムだったら1アルバム、1リーダーだと思うのですが、このバンドではみんなが曲を持ち寄っているため、ミュージシャンたちの普段とは違うとても楽しげで活き活きとした様子が伝わってきますね。全員がソロを回しているだけのセッションとは違い、あくまでバンドとしてまとまりのある中規模編成のバンドとしては超一流です。是非アルバムを聴いてみてください。


いかがでしたでしたか? 
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné






【曽根麻央ライブ情報】
10/21 (水) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/

10/30 (金) @ 柏Nardis
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
http://knardis.com/knardis.com/Welcome.html

11/17 (火) @ 六本木サテンドール
Brightness Of The Lives [曽根麻央 (tp&keys)、井上銘(gt)、山本連(eb)、木村紘(ds)]
https://www.satin-doll.jp/

11/20 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/

12/13 (日) @ 六本木サテンドール
曽根麻央 (tp) & David Bryant (p)
https://www.satin-doll.jp/

12/25 (金) @ 赤坂Velera
曽根麻央 (trumpet & piano)、伊藤勇司 (bass)、木村紘 (drums)
https://velera.tokyo/



Recommend Disc

SFJAZZ COLLECTIVE 2_200.jpg
Title : 『SFJAZZ Collective 2』
Artist : SFJAZZ Collective
LABEL : Nonesuch
NO : 7559-79930-2
発売年 : 2006年



アマゾン詳細ページへ


【SONG LIST】

01. Moment's Notice
02. Naima
03. Scrambled Eggs
04. Half Full
05. 2 And 2
06. Crescent
07. Africa
08. Development




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2020.9:Monthly Disc Review

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Title : 『Chet Baker Sings』
Artist : Chet Baker

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 みなさんこんにちは、曽根麻央です。僕が影響を受けたアルバムを、ミュージシャンの視点で紹介して解説していくこの連載も、早いもので第6回目となりました。半年が過ぎようとしているのですね。


 今回はChet Bakerの『Sings』というアルバムを解説・紹介していきます。RCAの44のマイクに向かって歌うChetの姿が特徴的なカッコいいジャケットですね。このアルバムは管楽器奏者ならば一度はトランスクライブ(耳コピ)して練習するべきだと考えています。僕は生徒によくこのアルバムのトランスクライブをするか、『The Last Great Concert』の「Look For The Silver Lining」という曲をトランスクライブするように宿題を出します。その理由として、これらの演奏からは完璧な美しいライン、揺るがない8分音符、安定したトランペットのサウンドを聴くことができ、そこからジャズ演奏に必要な技術をたくさん学べるからです。





 また、『Chet Baker Sings』はインストのミュージシャン(楽器を演奏する人)が歌詞を覚えるのに最適なアレンジと選曲となっています。歌い方もシンプルなのでとても聴きやすい。なので、これらのスタンダード曲の真意に迫ることができます。多くのインスト奏者は、曲をリード・シートや楽譜から学んでしまうため、曲の持つ本来の雰囲気や意味合いを理解していないことがあります。曲本来のストーリーから解離した演奏になりがちです。曲の本来の意味を知り、心から曲を好きになることで、より深い演奏ができるようになります。このアルバムは、そこに到達する手助けになるでしょう。


 また、全体を通して曲のアレンジも素晴らしいので注目していただきたいです。イントロ、アウトロが演奏曲本編に勝るほど美しく完璧です。コード進行もとても考えられていて、美しい。単にスタンダード演奏を聴かされるのではなく、Chet Bakerとこのアルバムメンバーの世界観を魅せてくれています。


 ピアニストの伴奏もチェットの歌やトランペットを決して邪魔することなく堅実なサポートに徹しています。その上でピアニストは自分のスペースを見つけ、美しいカウンターポイントやソロを展開しているで、そちらも注目です。

ではクレジットを見ていきましょう。


Chet Baker Sings
録音・1954&56年
Chet Baker - vocals, trumpet
Russ Freeman - piano, celesta
Carson Smith - double bass
Joe Mondragon - double bass
Bob Neel - drums
Jimmy Bond - double bass
Larance Marable - drums
Peter Littman - drums





 先ほど少し述べたようにRuss Freemanのピアノは、トランペットと歌を一切邪魔することなく完璧なサポートを聴かせてくれています。しかし存在感がない訳では一切なく、それどころか耳はピアノに持っていかれるという不思議な演奏です。


Russ Freemanのアレンジが多いこのアルアムは、ある意味彼の世界観の上にChet Bakerが乗っかっていると言っても過言ではないかもしれません。「チェット・ベイカー その生涯と音楽」の第4章「天才の響き チェットとラス・フリーマン」では、Russ Freemanが当時を振り返るインタビュー形式で書かれていて読む事ができます。それによるとRuss Freemanは当時のChetカルテットの音楽監修兼ツアーマネージャーだったそうで、移動の手配、ホテルの手配、経理も任されていたそうです。またこの本には、このアルバムの最初のレコーディングが、Chetが初めて歌った瞬間だった事や、歌うことになった理由が歯の問題によりトランペットの演奏が困難だったため、など興味深い事が書かれています。Chetは薬物関連のトラブルで歯を折られるという、トランペッターとして本来は再起不能の事件に巻き込まれています。









1. That Old Feeling

 このアルバムを代表する構成の曲。美しいイントロ、シンプルな歌い回し、完璧なピアノとトランペット・ソロ、そして、短いショート・エンディング。

 トランペット・カルテットで演奏される16小節の美しいイントロは完全にこのアルバムの為にアレンジされたもの。しかしあまり突飛ではなく、あくまで曲の一部として存在できるようにうまく書かれています。それに続くChet Bakerの歌によるテーマ部分。何度も言っていますが、このアルバムは一緒に歌えるようになるととてもとても楽しいので是非トライしてみてください。それに続くRuss FreemanとChet Bakerのソロは曲のストーリーを壊すことなく、まるで書かれたメロディーのように美しい。このアルバムをさらに楽しむならChetのソロを覚えてスキャットでユニゾンしてみるのも面白い。トランペットも歌のようにソロを吹いているので、実際一緒にスキャットをしやすい。なので、楽器を演奏する人は歌えることがどう演奏に影響を与えるのか体験でき、とても勉強になります。


2. It's Always You
 Chet の歌い方が本当に美しい一曲。Russ Freemanによる美しいイントロと、歌とトランペット・ソロの間の緊張感ある短い間奏が肝のアレンジ。ハーモニーの流れもよく編曲されています。注目しながら聴いてください。


3. Like Someone In Love
 テーマへの導入の仕方がお洒落ですね。Russ Freemanのイントロの特徴は、あまりにも自然に流れているので、気づいたらテーマに入っているという事が起こります。シンプルに、トランペット・ソロなしで歌だけのテイク。


4. My Ideal
 チェレスタとアルコ(弓)でのベースの伴奏で歌われるバース部分があります。バースとはテーマではないのですがイントロでもないセクションです。バースはきちんと歌詞があり、メイン・テーマの世界観を前もって説明して、聴き手により深い理解をさせてくれる大事なパートです。バースは楽器だけのジャズで演奏されることは稀ですが、こうして歌とともに聴けるのはとても嬉しいですね。


5. I've Never Been In Love Before
 Chetが最初1人で歌い出し、ベースとピアノのユニゾンのカウンターポイントが聴こえてきます。ピアノは徐々にハーモニーへと移行して曲にさらにカラーを足していきます。見事なアレンジです。カウンターポイントについては以前の「Birth Of Cool」の紹介記事でも書きましたが、主旋律に対して演奏される副旋律の事です。この曲はChetを描いた映画「Born To Be Blue」でも重要な場面で演奏されていましたね!あの映画はあくまでフィクションですが、個人的にはChetの人となりが見る事ができて良い映画だと思っています。


6. My Buddy
 Chetのハーマン・ミュートの演奏が聴けます。ハーマンといえば、マイルス・デイヴィスやクラーク・テリー、ディジー・ガレスピーといった人たちの音色が有名ですが、Chetの音色も独特で良いですね。1コーラス目のミュート演奏と歌の間に8小節の間奏がアレンジされていて、転調しているのも雰囲気がガラッと変わってよいですね。


7. But Not For Me
 24小節の見事なイントロがトランペットによって奏でられた後に、有名なメロディーが歌われます。マイルス・デイヴィスの演奏が有名でそちらのコード進行で演奏されることが多いですが、こちらの方がガーシュウィンのオリジナルに近い進行になっています。歌に続くChetのソロもまるで書いたかのような綺麗なソロです。このソロは名演なので覚えておくと良いでしょう!


8. Time After Time
こちらもシンプルに2コーラスだけの構成。1コーラス歌からの半分だけのトランペット・そして、その後の歌で終わります。

9. I Get Along Without You Very Well
 名曲ですね!是非覚えておいていただきたい曲です。Russ Freemanのチェレスタが再び登場して、Chetが歌います。こちらの曲も映画「Born To Be Blue」で重要な役を果たしましたね。この曲はChetの「The Last Great Concert」でも「Live In Tokyo」ではChetの晩年の歌も聴く事ができます。Chetにとって重要なレパートリーだった事がわかります。こちらもシンプルに歌1コーラスだけという構成です。


10. My Funny Valentine
 歌で1コーラスだけシンプルな構成。是非Chetの歌い回しでこの曲は覚えていただきたい。


11. There Will Never Be Another You
 いきなりトランペットだけのイントロから、バンドが入り1コーラスソロをとります。その後8小節の間奏で歌のキーに転調するこちらも見事なアレンジ!歌の後のソロはChetとRuss Freemanが同時にするというサプライズがあります。Chetのキャリアの初期はジェリー・マリガンとの、ピアノなしの2菅編成カルテットでした。トランペットとバリトン・サックスのソロを同時にとり、ピアノがいなくてもハーモニーを感じさせるサウンドを作り上げ、ウエスト・コースト・ジャズのブランディングに成功しました。この曲のソロはChetのバックグラウンドを思い出させてくれますね。


12. The Thrill Is Gone
 なんとも寂しい曲。Chetの歌とトランペットの多重録音が聴けます。Chetが自分の歌に伴奏をしている様子は、トランペットの歌の伴奏はこうするべきだ!というお手本のようでとても参考になります。


13. I Fall In Love To Easily
 イントロは無いが、エンディングはちゃんとアレンジされていますね。やはりこのアルバムを通してジャズ・ミュージシャンが学ぶべきが、シンプルでいいので、スタンダードを演奏するときはきちんと自分のアレンジを持つべきという事。聴き手へ与えるインパクトが違います。そして良いエンディングがあれば途中何があっても全体がまとまって聴こえます。僕は自分のアレンジを持つ事で、曲に対して、まるで自分の曲のような愛情をもって接する事ができています。


14. Look For A Silver Lining
 こちらもChetの十八番ですね。曲の最後に一瞬だけ多重録音しているのがお洒落ですね。この曲に関しては、関にも述べましたが是非「The Last Great Concert」のバージョンも合わせて聴いてみてください!Chetというアーティストがいかに音楽への、美しいものへの情熱にあふれていたか感じる事ができるでしょう。トランペッターは「The Last Great Concert」のLook For A Silver Liningのソロは要トランスクライブです!







いかがでしたでしたか? 
また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné




Recommend Disc

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Title : 『Chet Baker Sings』
Artist : Chet Baker
LABEL : Pacific Jazz
NO : PJ-1222
発売年 : 1956年



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【SONG LIST】

01.That Old Feeling
02.It's Always You
03.Like Someone In Love
04.My Ideal
05.I've Never Been In Love Before
06.My Buddy
07.But Not For Me
08.Time After Time
09.I Get Along Without You Very Well
10.My Funny Valentine
11.There Wil Never Be Another You
12.The Thrill Is Gone
13.I Fall In Love Too Easily
14.Look For The Silver Lining




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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2020.8:Monthly Disc Review

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Title : 『Birth Of The Cool』
Artist : Miles Davis

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みなさんこんにちは、曽根麻央です。暑い日が続きます。みなさん熱中症対策など大丈夫でしょうか? 僕は先日食あたりを起こして3日間寝込みました...笑。 皆様もくれぐれもお気をつけください。

そんな中、僕が主演と音楽を担当した映画『トランペット』がオスカー公認の映画祭、ロード・アイランド国際フィルム・フェスティバルで、「ベスト・コメディー・ショート・フィルム・アワード」と「アンバサダー・アワード(文化への理解を深め、コミュニケーションの力を与える映画に贈られる賞)」の2部門で受賞ししました! 
このニュースを受け、ベッドの上で腹痛に苦しみながら喜びました(笑)。


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さて今月はマイルス・デイヴィスの『Birth Of Cool = クールの誕生』についてお話ししたいと思います。おそらく6管編成(トランペット、アルト・サックス、バリトン・サックス、フレンチホルン、トロンボーン、チューバ)のジャズ・アルバムの最高峰で、ジャズの作曲・アレンジを勉強する人は絶対に聞かないといけないアルバムです。


Alto Saxophone - Lee Konitz
Baritone Saxophone - Gerry Mulligan
Bass - Al McKibbon (tracks: A3, A6, B3), Joe Schulman* (tracks: A1, A2, A5, B1), Nelson Boyd (tracks: A4, B2, B4, B5)
Drums - Kenny Clarke (tracks: A4, B2, B4, B5), Max Roach (tracks: A1 to A3, A5 to B3)
French Horn - Junior Collins* (tracks: A1, A2, A5, B1), Gunther Schuller (tracks: A3, A6, B3), Sandy Siegelstein (tracks: A4, B2, B4, B5)
Piano - Al Haig (tracks: A1, A2, A5, B1), John Lewis (2) (tracks: A4, B2, B4, B5)
Trombone - J.J. Johnson (tracks: A3, A4, A6, B2, B5), Kai Winding (tracks: A1, A2, A5, B1)
Trumpet - Miles Davis
Tuba - John Barber




アレンジは基本、バリトン・サックスのジェリー・マリガン、ピアニストのジョン・ルイス、そして、世界最高のアレンジャー、ギル・エヴァンスの3人によってなされています。楽器の構成も、中低音の楽器が多いことに注目したいですね。

このようなバランスにすることで温かみのあるサウンドを得ることができます。これ以前の音楽のスタイルでもあるBebop的な、マッチョでハイノートの世界観から抜け出したいマイルス・デイヴィスの強い意志をここに感じます。こういった優れたアレンジを聞く際、実際に聞こえる音の重なりやハーモニーも大事なのですが、主旋律の裏で聞こえてくる裏の旋律=「カウンターポイント」=対位法が存在することを覚えておくと情報が整理しやすくなります。





1. Move
 ピアニストジョン・ルイスのアレンジで、リズム・チェンジの曲です。リズム・チェンジとはジョージ・ガーシュウィンの「I Got Rhythm」のコード進行の上で書かれた 曲のことを言います。





リズム・チェンジの代表曲にはS. ロリンズの「Oleo」、T. モンクの「Rhythm A Ning」、C. パーカーの「Anthropology」などがあります。





 「Move」は印象的なイントロから始まります。トランペットやトロンボーンなどの金管楽器が音を伸ばしている上で、アルト&バリトン・サックスの木管楽器が激しく動きます。そしてメロディーに入ると最初、主旋律はトランペットとアルトで、ロングトーン的なカウンターポイントがホルンとトロンボーンの中音金管楽器で、短めのフレーズのカウンターポイントがバリトンとチューバの低音楽器で奏でられる3カウンターポイントで成り立っています。2つのカウンターポイントは5小節目から合流して同じリズムを奏でています。一つのメロディーだけでなく裏のメロディーが存在することで音楽は立体的な厚みを得ることができます。





カウンターポイントはクラシックではバッハをはじめ様々な作曲家が習得しなければならない技術です。ジャズではスタン・ケントン・ビッグバンドの「Contemporary Concepts」のBill Holmanのアレンジを聞くとより明確に理解できると思います。

ソロはマイルスと、残念ながら今年の4月に亡くなったリー・コニッツを聞くことができます。ちなみに1:30ぐらいからのセクションはアレンジャー・コーラス、またはシャウト・コーラスと呼ばれて、アレンジャーが独自のメロディーを曲の上で書き、自由にアレンジして良いジャズ・ビッグバンドなどで用いられる独自のセクションです。


2. Jeru
 ジェリー・マリガン作曲・アレンジの曲。こちらの曲はあまりカウンターポイントの技法は出てこないで、純粋にSoli(同じリズムパターンで違う音を演奏することでハーモニーを表現する手法)での管楽器のハーモナイズのセンスの良さが光るアレンジ。

ソロの後ろで聞こえてくるバックグラウンドのサウンドにも注目したい。2:12ごろからのシャウト・コーラス、そこからのコーダへの流れがとても美しいので注目です。


3. Moon Dream
  巨匠ギル・エヴァンスの名アレンジ。これを聞けばギル・アヴァンスがいかに他のアレンジャーの追随を許さなかったか分かるでしょう。常にカウンターポイントが予想外のところから出現し、Soliのセクションもメロディーが上行していたらハーモニーは下降するなど、非常に細やかなアレンジ・テクニックが使用されています。特にチューバの使い方が特徴的ですね。

ぜひ上の音(トランペット)と下の音(チューバ)の流れを同時に追ってみてください。1:32から1:40にかけてウニャウニャしているパートが徐々に下の音域に移動していくのなどとても面白いですね! 2:03でトランペットがリーチする最高音F#を吹き伸ばしている間に、バリトンとアルトが駆け上がっていくように追いついて、そこからの壮大なハーモニーの繰り広げ方はギル・エヴァンスにしか書けない発想だと思います。


4. Venus De Milo
 ジェリー・マリガン作曲・アレンジの曲。6小節のイントロの後に、メロディーがトランペット、またはトランペットとアルトのユニゾンによって吹かれます。このユニゾンと他の管楽器のカウンターポイントの関係にも注目していただきたい。とても綺麗なアレンジです。2:17からはイントロのモチーフを元にした、シャウト・コーラスがあります。


5.Budo
 ジョン・ルイスのアレンジで軽快なこちらもインパクトのあるイントロから始まり、イントロで終わるストーリーのある曲。ホーン隊のホルン奏者以外の全員のソロを聞くことができるトラック。1:43ほどからがシャウト・コーラスです。


6.Deception
 ジェリー・マリガンのアレンジ。基本的にはトランペットとアルトがメロディーをユニゾンして、残りの管楽器がヒットに合わせてハーモニーを奏でるアレンジのスタイル。


7.Godchild
 ジェリー・マリガンのアレンジ。特徴的なチューバとバリトンのユニゾンから徐々に他の楽器が混ざり合い、ハーモニーを作るテーマ部分があります。1:26からのホーンセクションからのバリトンソロへの繋ぎ方がとてもユニーク。2:11からがアレンジャー・コーラス。


8.Boplicity
 ギル・エヴァンスのアレンジ。曲自体が大変美しいのでぜひ覚えていただきたいのはもちろんですが、チューバとトランペットの流れを意識しながら聞いていただきたい。

エヴァンスのアレンジは管楽器のライン一つ一つが流れるように動き、それでいてよどみがないのが本当に素晴らしい。先ほども言いましたが、トランペットが上行すればチューバは下降したり、トランペットが同じ音を演奏していたらチューバは動き続けたり、変化に富んでいます。これは徹底したカウンターポイントの練習がなければできない技です。


9.Rocker
 ジェリー・マリガン作曲・アレンジの曲。ジェリー・マリガンのアレンジのスタイルをここまで4曲聴いてきたが、この頃はやはりメロディーがあって(基本的にはトランペットもしくはトランペット+アルトのメロディー)、それに呼応するヒットを残りの管楽器がハーモニーとともに演奏するスタイルが多いようですね。でもただ単純ではなく、一つ一つの楽器の組み合わせが美しいので単調に聞こえないのがすごいところです。1:44からはアレンジャー・コーラスになっています。


10.Israel
 Johnny Carisiの作曲・アレンジ。のちのちピアニスト、ビル・エヴァンスもカバーするブルースの曲。タイトル通り中東を意識した作品でしょう。この人について、僕は正直Israelの作曲家としてしか知らなかったのですが、グレン・ミラーの軍隊時代のビッグバンドでトランペットを吹いていた人らしいです。後々にギル・エヴァンスとマイルスのアルバム『Miles Ahead』でもトランペットを吹いて、曲も提供しているようです。


11.Rouge
 ジョン・ルイスの作曲・アレンジ。ジョン・ルイス自身のピアノソロも聞けます。行進曲のような雰囲気のイントロから始まります。このアルバムを通して言えることだが、トランペットとアルトはかなりユニゾンパートが多い。これはやはりビバップからの音楽の流れとしては妥当だと思う。チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーのコンビを代表するようにこの当時の音楽はトランペットとアルトの2管で吹かれることが多いのです。ビバップからの逸脱という意味で、今までにないより複雑に書かれたハーモニーやカウンターラインが他の管楽器を使ってプラスされているイメージでよいと思います。

 ただ、ビバップのトランペットと違い、マイルスはリードを担当しているにも関わらず終始脱力しています。これは今までのジャズがとてもマッチョで、ハイノート至上主義でホットなトランペット奏者が求められていたことへの反発でしょう。マイルスはここでは徹底してクールに、そして理性を一回も失うことなく、淡々と、ソフトに脱力して吹いています。これは、当時のソロトランペット、または、ラージアンサンブルのあり方として、革命的だったに違いありません。

トランペットの相棒にあると奏者、リー・コニッツを起用したのも、ソフトに歌心のある人物だからでしょう。どんなにトランペットがソフトに吹いていようが、それはリード(主旋律を担当する声部のこと)なので、トランペットを超える音量でサックスが吹くとアンサンブルは崩壊します。じつはサックスがトランペットを飛び越えて吹いちゃっている人、結構多いです。バランスに気をつけましょう。そういう意味でもリー・コニッツは適役だったと思います。







 いかがでしたでしたか? 
ぜひマイルスの『Birth Of Cool』今一度聞き直してみてはいかがでしょうか?

 また次のDisc Reviewでお会いするのを楽しみにしております。

文:曽根麻央 Mao Soné




Recommend Disc

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Title : 『Birth Of The Cool』
Artist : Miles Davis
LABEL : Capitol Records ‎
NO : T-762
発売年 : 1957年



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【SONG LIST】
01.Move
02.Jeru
03.Moon Dreams
04.Venus De Milo
05.Budo
06.Deception
07.Godchild
08.Boplicity
09.Rocker
10.Israel
11.Rouge



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Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

曽根麻央 Monthly Disc Review2020.7:Monthly Disc Review

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Title : 『Inventions And Dimensions』
Artist : Herbie Hancock

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みなさんこんにちは、曽根麻央です。毎月更新しているディスク・レビューも今月で4回目になり、みなさんの中で定着してきていると嬉しいです。僕がセレクトするアルバムを、音楽家として分析し、しかもそれを一般のリスナーの方々に伝えられるように書く作業は、筆者自身とても勉強になりますし、新たな発見へとつながっています。


 今回は少しセレクトするアルバムの方向性を変え、いわゆる"ジャズの名盤"に焦点を当てたいと思い、Herbie Hancockの1964年リリースのアルバム、「Inventions And Dimensions」をセレクトしました。このアルバムを通して、スウィングというジャズの基本的リズムとアフリカのビートの関わりについても、改めて考察していきたいと思います。


まずアルバムを手にすると、ハンコックがマンハッタンのビルの間に仁王立ちするカッコいいジャケットが印象に残ります。メンバーを見ていきましょう。


Tom Harrell - trumpet & flugelhorn
Herbie Hancock - piano
Paul Chambers - bass
Willie Bobo - drums, timbales
Osvaldo "Chihuahua" Martinez - percussion (not on track 5)




「Inventions And Dimensions」は1963年の録音です。伝え聞いた話によると、このアルバムの制作に至ったハンコックの初期の構想は、ラテン・ジャズのアルバムを作ることだったそうです。1960年代初期といえば、ニューヨークで、アフロ・キューバン音楽(son, guaracha, cha cha chá, mambo)やプエルトリコ音楽(plena, bomba)が元になり、サルサ音楽が誕生しました。恐らくその影響も大きいでしょう。


 ハンコックのアルバム制作過程で難航したのがベーシスト探しだったようです。複雑なハーモニーと、ラテン独特のリズムを弾きこなせるベーシストが思いあたりませんでした。そこでハンコックはマイルス・デイビスに誰か心当たりはいないかと相談しました。するとマイルスは即答で「ポール・チェンバース!」と答えたそうです。ポール・チェンバースといえば、前マイルス・クインテットのベーシストで、スウィングの演奏で有名なので、そのイメージを持つハンコックは「?」の顔を浮かべました。するとマイルスは、「ポール・チェンバース!奴はなんでも弾ける」と答えたそうです。




1. Succotash
スウィングはアフリカのリズムが基になっている、というのは誰しも聞いたことがあることだと思います。「Succotash」ではスウィングとアフロ・キューバンのリズムが具体的にどのような関係性なのか、そして、なぜラテン音楽とジャズがこんなにも相性が良いのか答えてくれています。


 「タタタッタタタッタタタッ」。スネアをブラシで叩いた特徴的なビートから始まり、ポール・チェンバースの音が聞こえてきます。6拍子なのか4拍子なのか、またまた3拍子なのか分からない、けどグルーブしている摩訶不思議な感覚を味わえます。しかしこれこそが、アフロビートとスウィングの見事なコラボ、兼、原点回帰なのです 。どういうことか見ていきましょう。


 最初は「タタタッタタタッタタタッ」というリズムをウィリー・ボボがスネアで演奏していますが、彼は徐々にパターンを変えて、最終的に以下の譜面のようなリズムパターンを演奏します。

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 このパターンは一般的に今では「Afro-Cuban12/8」とか呼ばれたりしますが、キューバの古来の音楽、「Abakua」や「Afra」といったリズムのベル・パターンだし、アフリカ音楽では「Bembe」とも呼ばれるベル・パターンです。このリズムパターンがアフリカから中米へ伝わりラテン音楽へ、北米に伝わりニューオリンズで独自の発展を遂げてジャズになったと言えるでしょう。要するにラテンとかジャズの元になったリズムなのです。

 このパターンの最大の特徴は、リズムの柱でもある「pulse」が2にも3にも4にも6にもなれるところです。「Pulse」とは直訳で「拍」という意味ですが、同時に鼓動や波動、動向など、よりリアルで生き生きとした意味合いも持つので、今回のレビューでは拍子という言葉の代わりにpulseを使いたいと思います。

 同じベル・パターンを演奏しているのに、Pulseが4から3に変化するとどうなるのか、様子を以下の映像で見て見ましょう。





上二段の「記譜上は4拍子」と「記譜上は6拍子」をつなげて聞けば、2つのパターンが同一であるとわかると思います。便宜上12/8と6/4で書いてあります。ところがpulseをわかりやすくするため、バスドラムとハイハットで加えて、4から3に変化させると、ベル・パターンが全く同じでも、リズムの性格がガラッと変わることがわかります。Pulseが4だとよりスウィングに近くなりますね。Pulseが3だといわゆるラテンのような、サンバっぽいような雰囲気の、少し落ち着いたフィールになります。この時の3拍子を"Big 3"と呼ぶ人たちもいます。じゃあpulseが4で演奏している時に3は存在しないのか、というとそうでもなくて、メインのpulseが4の場合でも、実際に演奏すると3はどこかに存在し続けます。

このようにジャズやラテンは常に複合リズム、3:4:6:8みたいなポリ・リズムが常に同時に演奏されています。ミュージシャンを目指す人は、どの楽器の人も上の動画にあるバスドラム部分のパートを足踏みで、ベル・パターンを手で叩けるように練習してください。大事なリズムの基礎練習です。


 話を戻してSuccotashではポール・チェンバースは最初、6拍子、またはBig 3に近いベース・ラインをで弾くため、全体のpulseが3に聞こえます。しかし、1:07に到着した瞬間に、いわゆるウォーキング・ベースに近い弾き方変えて、音楽を一気にスウィングとアフロのミクスチャーの世界へと導きます。ドラムとパーカッションのパターンは変わらないのに、一気にスウィングさせてしまいます。Pulseを4にした弾き方に変えたのです。これは「なんでも弾ける」ベーシスト、ポール・チェンバースだからなせた技でしょう。


2. Triangle
 こちらは心地よいスウィングから始まります。ポール・チェンバースとウィリー・ボボのグルーブ感がとても良い感じです。4:31ごろからパーカッションも加わり、今までスィングのパターンをライドシンバルで叩いていたウィリー・ボボも、1曲目でも使われたbembeのパターンをライドシンバルで叩きはじめます。これもスウィングとアフリカのビートが深く関わリアっていることを証明してくれる音源ですね。

 この曲は加えて、ハンコックのハーモニーの展開のさせ方が非常に自由で、道の和音へ挑戦している姿が見えます。そんな挑戦的な姿勢を見せつつも、タッチは軽やかで、リズムは正確なのは、彼のすでに成熟されたメンタルをも感じることができます。


3. Jack Rabbit
 Jack Rabbitは早い、いわゆるラテン調のビートの曲。正確にはルンバのリズムと言った方が良いでしょう。ウィリー・ボボはドラムセットらティンパレスへ移り、ソロも聞くことができます。ポール・チェンバースも終始一定のベース・ラインを弾いているので、この一定のビートの上で、Cのトーナルの上でいかにハンコックがソロを、メロディーを、ハーモニーを、展開しているかが聴きどころになっています。


4. Mimosa
 このアルバムのバラード的立ち位置。ボレロのリズムに乗せられて、ハンコックのメロディアスな演奏を聞くことができる。サルサを演奏する人々が、セットリスト中ボレロを演奏するというのは、ジャズミュージシャンがバラードを演奏するのに匹敵します。


5.A Jump Ahead
 C minorを16小節、インタルード4小節、F7susを16小節、インタルード4小節、E7(#9) を16小節、インタルード4小節というフォームを永遠に繰り返すファスト・スウィングの曲です。パーカッションはなしです。しかし結局のところ、マイナーかドミナント・コードかなどというコードの性格は、毎コーラスハンコックによって徐々に変えられていきます。これは、このアルバムに全曲に共通して言えることで、おそらくこれが元のコード進行だろうというのはわかるのだが、毎コーラス、ハンコックはコードを少しずつ変化させています。ハンコックのピアノは水が流れるようにコードが変わっていくので、それを楽しむというのもこのアルバムの聞き方かもしれません。










また来月をお楽しみに!!

文:曽根麻央 Mao Soné




Recommend Disc

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Title : 『Inventions & Dimensions』
Artist : Herbie Hancock
LABEL : Blue Note ‎
NO : BLP 4147
発売年 : 1964年



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【SONG LIST】
01.Succotash
02.Triangle
03.Jack Rabbit
04.Mimosa
05.A Jump Ahead



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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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曽根麻央 Monthly Disc Review2020.6:Monthly Disc Review

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Title : 『Passages』
Artist : Tom Harrell

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みなさんいかがお過ごしでしょうか? 曽根麻央です。
世の中の自粛ムードが少しずつ解除され、ジャズクラブも「通常」を取り戻せそうな雰囲気が少し見えてきましたが、それでも夏以降のホールやフェスはキャンセル続きで、音楽活動が本格的にできるようになるまではまだまだ時間がかかりそうですね。そんな中でも自分の好きな音楽や影響を受けたアーティストを聴くとパワーとモチベーションをもらえます。今日も僕にとってのそんなアルバム、トム・ハレルの『Passages』を紹介したいと思います。


『Passages』はトランペットの名手、トム・ハレルの全曲オリジナルのアルバムです。トム・ハレルの徹底した過去のプレイヤーたちの研究から得たであろう美しいメロディーラインはもちろん、作曲家としての実力も聞くことができる名盤です。ゲストフルートを加えた3菅編成の曲では、各声部が美しく響き、見事なアレンジを聞くことができます。1991年の録音アルバムということは、時代背景としても、アコースティック・ジャズが再び注目を集め始めていました。なおかつその中で新しいサウンドを求めようとするトム・ハレルのアプローチが、Bebopやそれ以前のアコースティック・ジャズとは全然違ったものとなっています。


また70年代後半からのNYジャズの流派である「ロフトシーン」の拠点の一つともなったポール・モチアンのNYにあったロフトもこの時代は健在であったと記憶しています。T.ハレルの前作『Form』ではレコーディングの前にモチアンのロフトに夜中集まりリハーサルをしたと、メンバーのダニーロ・ペレスとジョー・ロバーノから以前話を聞きました。このアルバムではジャズの最も自由な時代だった「ロフトシーン」のエネルギーをどこか感じることもできます。


 メンバーは以下の通りです。トム・ハレルとジョー・ロバーノの鉄壁の2菅編成。この2人のサウンドは本当にブレンドしていて、ほとんど一つの楽器のようにも聞こえます。そこにシェリル・パイルのフルートを入れた3菅編成の曲も2曲ほど聞けます。3菅になっても各声部のダイナミックスがよく表現されているので、非常にゴージャズです。テナーがメインのジョー・ロバーノが、素晴らしいアルトのサウンドでのプレイが聞けるトラックもあるので、サックス奏者も要チェックなアルバム!ブラジリアン・パーカッショニストのカフェとポール・モチアンのリズムセクションのやりとりも聞きどころです。


Tom Harrell - trumpet & flugelhorn
Joe Lovano - tenor, alto & soprano sax
Cheryl Pyle - flute
Danilo Perez - pinao
Peter Washington - bass
Paul Motian - drums
Café - percussions




この時代のジャズの特徴としては、ビバップの様にフォーム形式でソロを回しますが、フォームを構成するパーツとしてVampも登場します。


 どういうことかというと、ジャズの古くからあるソロ回し(インプロ部分)スタイルでは、ソロの尺は、そのテーマ部分によります。代表的な「A列車で行こう」や「コンファメーション」、「サテンドール」といった曲は最初の8小節がAだとしたら、A部分が二回繰り返されたあと、違うメロディーBが8小節つづき、そしてまたAに戻る、AABAフォームを採用しています。そしてこのAABAの一つのまとまった単位を1コーラスと呼び、ソロもコーラスのフォームを守りながら、何コーラスも続けて発展させます。



 一方、モードジャズやファンク/フュージョンなどではVamp呼ばれるものが出てきます。短い小節数(最低1〜4、長くて8小節ぐらい)のベースラインやコード進行を繰り返して、その上でソロを発展させることがあります。例えばHedhuntersの「Chameleon」では最初の2小節のベースラインを繰り返してその上でソロも曲も発展していきます。またVampのセクションは古くはサルサの曲や、ボサノバのエンディングなどでも使われます。



 
この時代トム・ハレルの作曲スタイルは、イントロにその曲のVampを提示して、曲はBebopやモードジャズの影響が感じ取れる美しいメロディーを軸にしながら、曲の終わりではVampを使い、従来のフォーム形式のジャズとVamp形式のフュージョン&ラテンからの流れを、形式的にも融合するものでした。このアルバムにはそんなトム・ハレルらしい手法で書かれた曲が多く収録されています。





1. Touch The Sky
いきなりVampらしきリズムパターンとともに始まります。ホーンの2菅は完全4度や5度を中心にサックスが綺麗な内声で動いています。曲自体はモードジャズやウッディー・ショーの様な4度の動きの影響がありますが、それを見事にトム・ハレル・サウンドで表現しています。


2. Suite Dreams
これもイントロ兼Vampのリズムパターンから発展している曲です。この曲は3菅ですがフルートはトランペットのオクターブ上を吹いているだけなので、実質2菅編成のアレンジだが、サウンドはとても良いです。トム・ハレルの柔らかい音色で展開するソロが素晴らしいトラックです。おそらくフリューゲルホルンかと思います。

ソロの後にシャウト・コーラス(コンポーザー・コーラスとも言う。テーマと同じ尺で違うメロディーが書かれている部分を指す。ビッグバンドなどで多くみられる)がきちんと書かれているのがいかにもトム・ハレルらしいです。


3. Papaya Holiday
ジョー・ロバーノのアルトが聞けるトラック。最高に良いアルトの音色です!
ビバップ風だがトム・ハレル・サウンド全開の曲。そしてこちらも毎コーラスの終わりにラテン風のVamp(この様な場合Tagともいう)が付いています。ポール・モチアンのドラムソロも聞けます。


4. Bell
 こちらもイントロ兼Vampから始まります。とてもリリカルで美しいメロディーがロバーノのソプラノサックスで聞くことができます。トム・ハレルのホーン・ライティングの特徴として、トランペット(フリューゲル)がサックスより下の声部を演奏することが多々ある。これもトム・ハレルの音楽を美しくするアレンジの特徴の一つです。


5. Passages
 アルバムのタイトルソング。ダニーロ・ペレスとトム・ハレルの即興デュオです。


6. Lakeside Drive
 これも4度のハーモニーを基盤としたホーン・アレンジがされている楽曲です。Peter Washingtonのソロを聞くことができます。このトム・ハレルのソロも実に見事です。そしてポール・モチアンとカフェのトレイド・ソロを聞くことができます。モチアンのソロ中よく聞くとドラムのフレーズを歌っているのがわかりますね。


7. A Good Bye Wave
 3菅でフルートをリードにフリューゲルとテナーサックスが美しいバランスでハーモニーを吹きます。トム・ハレルの見事なアレンジ力を聞くことができます。この時ダニーロのピアノがきちんと内声とメロディーをピアノでもユニゾンしているのがホーンのサウンドをさらに一層はっきりとクリアなものにしていますね。ピアニストが伴奏をする時、メロディーを弾いてくれない方が多いのですが、ホーン奏者的には弾いてユニゾンして欲しい場合が結構多いです(笑)。


8. Expresso Bongo
 このアルバムでトム・ハレルのベストソロを選ぶとしたらこの曲!素晴らしいソロで僕自身耳コピして練習もした曲です。全部聞く時間がない方にはこの曲をお勧めします。


9. Madrigal
 ここで注目したいのはポール・モチアンのオリジナルソングに対するユニークなアプローチとそのセンスの良さです。まずダウンビートは絶対はっきりと出しながらの、メロディーとメロディーの間を紡ぐ様なフレーズは本当に素晴らしい。決してヒットが書かれていない場所にクラッシュを入れたり、あえてヒットを他のパートと揃えていなかったり、でもそれがカウンターポイント(対位法)となって完成された音楽を形作っています。突拍子もないことを叩くのにグルーブとリズムは自然に流れ、ダウンビートもはっきりしているから重みのある安定したグルーブもあります。ワンアンドオンリーのドラマーであることを再確認できるトラック。


10. Madrigal
 少し今までの曲とは雰囲気が違うが、前作「Form」のタイトルソングな様な雰囲気も少しありますね。このアルバムは「passages」以外は全部、スウィングの曲にもボンゴが入っています。ドラムとパーカッションのスウィングの楽曲での共存は長い間、ジャズマンの課題なのですが、このアルバムでは非常によくブレンドしています。ぜひ参考にしていただきたいなと思います。










さて、話題がこのアルバム『Passages』から反れるのですが、最初のレビュー『Motherland』のダニーロ・ペレスと、2回目のレビュー『Color Of Soil』のTiger Okoshiと少し電話&Zoom越しで話す機会がありました。


『Motherland』の記事で、このアルバムではブライアン・ブレイド、ジョン・パティトゥッチ、ダニーロ・ペレスのウェイン・ショーター・カルテット結成当初の3人の演奏が聴けると書きましたが、実際は3人の共演はこの録音が最初だそうです。時系列が逆でした。「Motherland」のレコーディングから翌年のウェインの『Alegria』レコーディング、からのカルテット結成だそうです。
 そして、Tiger Okoshiの『Color Of Soil』は直接2Mixで録音したそうです。つまり、一発勝負の録り直しなしの録音!すごいとしか言いようがない...


以前の記事の追記も含めて今回は書かせていただきました。
また来月をお楽しみに!!

文:曽根麻央 Mao Soné

Recommend Disc

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Title : 『Passages』
Artist : Tom Harrell
LABEL : Chesky Records
NO : Chesky JD64
発売年 : 1992年



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【SONG LIST】
01.Touch The Sky
02.Suite Dreams
03.Papaya Holiday
04.Bell
05.Passages
06.Lakeside Drive
07.A Good Bye Wave
08.Expresso Bongo
09.Madrigal
10.It's Up To Us




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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央

2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』




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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

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