Title : 『Booker Little』
Artist : Booker Little
みなさんこんにちは、曽根麻央です。皆様いかがお過ごしでしょうか?
季節もなんだか暖かく一段と過ごしやすくなり半袖のみで外出する事も増えました。
今回は僕の最も好きなトランペッターの一人、ブッカー・リトルを紹介できることを嬉しく思っています。その前に、以下のコンサートが決まりましたのでお知らせいたします。
MAO SONÉ - Brightness of the Lives supported by BLUE NOTE TOKYO
高崎芸術劇場スタジオシアター
出演・曽根麻央(トランペット、ピアノ、キーボード)井上銘(ギター)山本連(ベース)木村紘(ドラムス)
主催・ 高崎芸術劇場(公益財団法人 高崎財団) 協力・BLUE NOTE JAPAN
▶︎詳細
【馬力と歌心を兼ね備えた天才トランペッター唯一のワンホーンアルバム】
さて今回はブッカー・リトルの「Booker Little」というアルバムについてお話しします。直球すぎるトランペットの演奏と、現代的なテクニックの見事な融合を聴くことができます。豊かな音色と現代的な表現が絶妙なバランスで成り立っています。トランペッター目線ですが本当に見事です。というのもブッカー・リトルはクリフォード・ブラウンの影響をもろに受けた世代で、アルバム中もクリフォードのアーティキュレーションやフレーズが多々みられます。しかしそれは模倣ではなくブッカー・リトルの中で咀嚼され次の時代へ向かって音が放たれている印象を受けます。
ちなみにブッカー・リトルの同い年のトランペッターにフレディー・ハバードがいますが、フレディーの初期の演奏と聴き比べてみても面白いかもしれません。
ブッカー・リトルはメンフィス・テネシーに1938年に生まれたトランペッターですが1961年には尿毒症で亡くなっている、23年のとても短い人生を歩んだトランペッターです。なので活動時期も非常に短く、彼の録音の多くは1958年から1961年の3年間の間に残されたものが多いです。
メンフィス・テネシーではフィニアス・ニューボーンJrやジョージ・コールマンといった同郷のミュージシャンたちと腕を磨き、その後シカゴに大学入学のために拠点をシカゴへ移しました。同時期にソニー・ロリンズやマックス・ローチと出会い、クリフォード・ブラウンの後継者としてレコーディングに参加しますが、学生であったために継続的なバンド活動を当時は断念しました。大学卒業後の1958年からは拠点をニューヨークに移し、マックス・ローチのバンドで本格的に活動し始めます。その後3年間凄まじい勢いで活動し、多数のアルバムを残しています。
この『Booker Little』というアルバムは1960年に録音され、彼の短いキャリアの中では中期のものといってよいでしょう。おそらく僕が確認した限り唯一のワンホーン(サックスなど他のホーン奏者が入っていない)アルバムとなっています。
メンバーを見てみましょう。
Booker Little - trumpet
Tommy Flanagan (tracks 1, 2, 5, 6), Wynton Kelly (tracks 3 & 4)
Scott LaFaro - bass
Roy Haynes (tracks 1-6)
トミー・フラナガンが4曲、ウィントン・ケリーが2曲参加しています。そしてブッカー・リトルと同じく61年に25歳で亡くなったベーシスト、スコット・ラファロとの共演も聴くことができます。そしてアルバム全体を通して鉄壁のドラマー、ロイ・ヘインズが見事にサポート。ヘインズのライドシンバルは安定してリズムを繰り出し、スネアは他の演奏の音と音の間を紡いでいきます。
録音に関しては、今では考えられないのですが、トランペットとピアノを完全に右、ベースとドラムを完全に左に寄せるというステレオでミックスされていて、イヤフォンで聞くと非常に違和感のある作品になっています。これはステレオがまだ新しい技術であったという問題もありますが、そもそもイヤフォンやヘッドフォンなど当時ないわけで、スピーカーから聴くことを想定しているからですね。イヤフォンで聴いて違和感があるからといって聴かないのは勿体無いので「そういうもの」だと思って聴いてみてください。多くのこの時代の素晴らしいジャズのレコーディングがこのようにミックスされています。
01. Opening Statement
凄まじい勢いと音圧でトランペットのメロディーが聞こえてきたと思ったら、ラファロとヘインズの圧倒的なグルーブが曲を推進させます。どこまでがメロディーかインプロかわからないぐらい美しいラインを作り出すブッカー・リトルのソロ。それだけでなく見事な楽器コントロール。これだけのエネルギーをトランペットで一曲通して演奏するのは至難の技です。
02. Minor Sweet
最初にヘインズとリトルによるルバート・イントロがあり、それが終わるとすかさず早いスウィングのテーマをリトルが吹き出し、アンサンブルが始まります。まっすぐなトランペットの音が見事に響いています。インプロ部分は特にこの曲はクリフォード・ブラウンの影響が濃くみられますね。とくに早い8分音符を全てタンギングしてフレーズを作っている部分などそっくりです(1:50など)。
03. Bee Tee's Minor Plea
シンプルなマイナー・ブルースの曲。しかしこちらもテーマが異常に難しいリトル仕様になっています。ピアニストがウィントン・ケリーに変わっています。コンピング(伴奏)の仕方の違いも聴くと面白いと思います。とてもリズミックで明るめの音色になっていませんか?
04. Life's a Little Blue
ミディアム・スウィングの曲。これまでの4曲ともそうですが、リトルの楽曲は彼のトランペットの音色を聴かせるのに最適な音域、そして楽曲になっています。実際には通常の奏者には演奏するのに難しいメロディーラインではあるのですが、それをいとも簡単に、しかも凄まじい音圧で吹き切り、そのままそれに準ずるような美しいソロを展開するリトル。本当に素晴らしい奏者です。
それにプラスして、過去のトランペット奏者ができなかったインプロでのインタバリックな展開が特徴的です。つまり音程間の動きが激しい演奏になっています。トランペットは音程間の移動がとても大変な楽器なので、通常ビバップのように早い曲だと「ド」から「レ」の音のように隣り合った音同士を繋げてフレーズを作ることが多いです。しかし、リトルはこの常識を覆し、まるでサックスのようなソロを展開できることを証明した人ではないかなと思います。この音圧と異常なテクニックはソニー・ロリンズ的だなと聴いていて思いました。リトルは学生時代にロリンズからアドヴァイスを受けていたという話も聞いたことがあります。
05. The Grand Valse
アルバム唯一のワルツ。ピアノがフラナガンに戻り、豊かな音色と安定したハーモニーで音楽全体を支えてくれます。こちらの曲も美しいメロディー、そして圧倒的なインプロはもちろんありますが、リズムセクションのクールな感じと、それに対するリトルの熱量が面白いバランスで存在していて、うまく成り立っています。
06. Who Can I Turn To
アルバム唯一のスタンダード曲、そしてバラード。リトルの歌心を存分に味わえるテイクです。最後にリマインドしますが、このとき彼は22歳です。音楽史に「もし」は禁物ですが、もしリトルがさらに多くのアルバムに参加できたなら確実に歴史上もっとも重要なジャズトランペッターとしてあげられていたと確信しています。
それではまた次回。
文:曽根麻央 Mao Soné
【曽根麻央が主演、音楽を担当した映画「トランペット」上映決定!】
6月18日(金)についに僕・曽根麻央が主演、音楽を担当した映画「トランペット」が日本初上映決定!
別所哲也さんが代表を務めるShort Shorts Film Festival & Asia 2021というアカデミー賞公認のフィルムフェスティバルでの上映が決定しました。チケットはなんと無料です!
■上映スケジュール: 6/18 FRI 15:40 - 17:30
■上映会場: iTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズンライン会場
■インターナショナルプログラム6
第一弾予約期間:5/12(水)14時~5/24(月)第二弾予約期間:5/27(木)14時~
▼URL
https://shortshorts.org/2021/ja/int-6/?fbclid=IwAR1FayTutJ1QUMovwY9Jx-Z-gICsVYwfqIww06DvLb8Mlvt_ljnEBWhQZ3g
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil / タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The Miles Davis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』
Reviewer information |
曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |