vol.53 - お客様:沼田学さん(写真家)
【テーマ:体に刻み込まれてるエモい10曲!】
いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。
今月は写真家の沼田学さんをお迎えしました。
林;こんばんは。早速ですが、お飲物はどうしましょうか?
沼田;いつもはビールばっかりつい頼んじゃうんですが、林さんなにか珍しいものとかお勧めありますか?
林;最近は季節の果物を低速ジューサーで絞ってカクテルにしてるんです。今は青森のリンゴがあるので、それなんてどうでしょうか?
沼田;お願いします。
林;お生まれは?
沼田;昭和47年札幌生まれです。札幌オリンピックの年。母親が最初の子供はクリスマスを狙うと友達と賭けをしていたらしいんです。惜しいことにちょっと早く23日に生まれました。ちなみに妹はひな祭りをねらって惜しくも3/5にうまれました。と、親がこんなかんじなもので日常的にいろんなタイミングで賭けをする家庭でした。
林;お母さん、良いですねえ。小さい頃はどんな音楽を聞いてましたか?
沼田;自分では全くおぼえてないんですが小さいころは五木ひろしがすきだったみたいで、自分の歌がテープに残ってます。ベストテン全盛時代かつテレビっ子だったので歌謡曲全般やCMソングが大好きでとにかく歌詞やメロディを暗記してテレビにあわせて歌ってました。休日家族でドライブに頻繁に行っていてラジオから流れる音楽をすごい集中して聴いてた記憶あります。
林;すごく幸せそうな原風景ですね。
沼田;家が転勤族で極端に荷物の少ない家庭だったのでプレーヤーがなくてレコード買ったことないんです・・。母親はビートルズの大ファンで今でも実家帰るとよく流れてます。父はギターを持ってたけど曲を演奏してた記憶がないですね。音楽があふれた家庭環境とは程遠いですねぇ。
6年生のとき道東の釧路に引っ越し&転校。そこで同じクラスだった友達W君が音楽一家で、彼は3人兄弟の末っ子なんですが兄姉のレコードが膨大にあってなんでも聞かせてくれました。家も近所だったのですごい遊びにいってました。YMOとかプリンスとかフランキーゴーズトウハリウッドとかニューオーダーとかほんと沢山きかせてもらいました(その後Wの姉はWAVEに就職しました)。
林;洋楽を知っている友人に小学生の時に出会うというこれまた幸せな王道パターンですね。
沼田;中学では先述のW君がエアチェックを教えてくれてFMステーションって雑誌をチェックしては好きな曲を録音するためにラジカセ前に張り付くという毎日でした。ご飯の最中も番組表片手に録音してました。中ページにビルボードのチャートがあるのですが、何曲録音したかマーカーつけるのが趣味で、ジャンルや好き嫌いにこだわらずとにかく集めるぞってかんじで雑多な音楽を並列に聴いていました。
林;エアチェック! 出てきました!
沼田;中2でまた札幌に戻り、ようやくミニコンポを入手。早々にW君から「スミスの新しいアルバムがでるからお前買わないとやばいよ」という手紙が届いて(QUEEN IS DEADでした)、ためしに買ってみたら全然良くないし分かんなくて。でも中2にとっての3000円ってかなりでかいですよね。あいつがわかって俺が理解できないのは釈然としない&元を取るぞ!ってつもりで聞きまくってたらあるときいつの間にか大好きになってました。
林;ええ... 僕は同じ時期に「スミスはわからない...」ってあきらめました。違う人生ですね。
沼田;その後は、レンタルレコードショップでレコード借りまくる日々でUKロックやニューウェーブ、ブルーアイドソウルが好きな中学生。ラジオはピーターバラカン、佐野元春、坂本隆一のサウンドストリーム、その後の時間帯はクロスオーバーイレブンを必ずチェック。スタイルカウンシルのジャケを床屋に持っていって、このとおりに切ってと頼んだらスポーツ刈りにされたりしてました。札幌の同級生とは完全に音楽の話は合わなかったです。
林;僕は沼田さんの3才上なのですが、同じことを同じ時期にしていますね。
沼田;同時期にAMラジオの深夜放送にはまりエアチェック(TBSラジオ)して本当に繰り返し繰り返し聞きました。大人気な大人たちがひとつもためにならないことをずーっとやってることに畏敬の念さえおぼえてました。
高校は公立高校へ入学。同級生にスミス好きな人を発見して少し音楽友達がふえました。(15年後、東京の学園祭のライブ会場トイレでその友人とばったり。そこから連絡とりあうようになり今でも続いてます。)
林;部活とかバンドとかは?
沼田;部活には入らず、暇をもてあましていました。マウンテンバイクにはまり、意味無く遠くまで走りにいったり川沿いのBMXコースをひたすらはしってました。
真冬でもスタッドレスタイヤを入手して自転車通学していてかなり好奇な目で見られてた気がします。25分の自転車通学をアルバム片面(主にビースティー)を脳内再生しながらかっ飛ばす生活。そのときウォークマンを持っていればなあと思います。
林;ウォークマンで自転車は危ないですよ... そして高校卒業ですが。
沼田;受験に失敗して浪人して予備校生活。そのころの北海道は札幌にしか予備校がなかったので、浪人した釧路の友人たちがみんな札幌に出てきて、またつるむようになりました。授業をサボってジャズ喫茶いったりレコード屋さんや書店をはしごしたりの毎日。バブルの最盛期だったので輸入版がほんとに安かったなあ。
林;札幌ってそういう位置なんですね。
沼田;浪人の甲斐有り東京の大学に入学、したもののサブカル的な文化がすきなひとがあまりいない学部(商学部です)やクラスだった気がする・・。学校に行くまでに池袋WAVE、早稲田の古書街に寄り道、と全然教室にたどりつかない日々。学校に行ったところで図書館で映画を見るかCD聴くかで授業にはほんと出なかった。ほんとすいませんってかんじでした。夜は歌舞伎町花園神社のすぐ隣でバイト。隣のビルがクラブの入っているビルでキャッシャーが友達だったこともあり仕事後よく遊びにいってました。ある時期のロンドンナイト、フリーソウルアンダーグラウンドほぼ皆勤だったような気がします。
林;大学の時の「バイト選び」がかなりその後の人生を決定してしまうという典型的な例ですね。
沼田;ジャンルレスな曲が並列して成立するDJ文化が新鮮で毎回楽しかった!東京にでてくるまで現場には行ったことが無かったんです。
その後、自分たちで好きな音楽をかける場が欲しい!しかし箱を借りる金も機材もない!ということで自前でスピーカーをつくり「俺ロックフェスティバル」と名乗り、代々木公園など外で音を出すことをはじめました。キャンプや外遊びも大好きだったので。
秋葉原でパーツを買い、まずアンプとスピーカーを自作。気軽に稼動できるよう機材をスクーターにギリギリつめる大きさに設定して、全ての動作を乾電池でまかなえるように工夫・改造していました。CDウォークマン2台をチャンネルセレクターでつないだ形式でスタート。パーティーに来る人は単一電池をもってきてねと告知して楽しんでました。最終的には結構な音量で30~40人くらいは踊れる音量になってた気がします。毎回いろいろ場所を変えながら、最終的には家のマンションの屋上なんかでもやってました。
林;そこで「自分でやってしまおう」って発想が、すでに沼田さんしか出来ない考え方ですね。その後、カメラマンになった経緯を教えていただけますか?
沼田;母方の祖父が山専門のアマチュアカメラマンでカメラが家に普通にあるかんじでした。小さいころはなんの興味も無かったんですが、東京でてきて大学入っての生活のなかで、3年生のときに編集者になりたいと思って編集・ライタースクールに通い始めました。そのときに写真集を企画するという授業があり、とても面白かったんです。同時期にバイト先の友達がそのまた先輩の写真展に連れて行ってくれました。森山大道さんの暗室の手伝いをしているという彼の写真を見て、コンパクトカメラで撮っていることを知り、置いてあった森山さんの『光と影』という写真集をみて、「これ俺にも出来そうな気がする」と勘違いしたのがスタートです。
林;(笑)
沼田;90年代ガーリー写真ブーム直前の時期です。下手でもセンスさえ良ければいいんじゃないか?と信じてバンバン撮ってました。その後圧倒的にセンスが無いことに気づいてしまうのですが・・
その後職を転々としてアシスタントも少しだけ経験してなんとか半年暮らせるだけのお金を貯め、そこでどうにもならなかったらやめようと思って30歳でフリーになりました。今でもそうなんですがとにかく来た話は今の時点では無理かなあと思っても全部受ける、出来ないものは撮影日までにどうにかするっていうスタイルで、とにかく生き延びるぞ!と思ってたら10年あっという間に経ってました。なぜやれているのか自分でも不思議です。不思議と大事故は無い(と信じたい)です。
林;ざっくりと「いきあたりばったり」的なお話でしたが、本当はつらいことや輝いた瞬間なんかもあったんでしょうね。みんなに聞いているのですが、これからの音楽についてどうお考えですか?
沼田;データで音楽を買える時代、本物を体感できる場所が大切になってくるかなと思います。自分の例でしかないですが、ほとんどレコードやCD買わなくなった代わりに気になったライブは頻繁に行くようになりました。
現場で体験しなければわからないことや二度と再現できないことがもっと敷居低い値段設定や時間設定だったり頻度だったりしたら素敵なのになあとおもいます。
林;今後の活動はどうされるご予定ですか?
沼田;大判の写真集を作ろうと思っています。出版社で出せないなら自費でもやりたいです。
林;期待しています。さて、それではみんなが待っている選曲ですが、テーマは何でしょうか?
沼田;「体に刻み込まれてるエモい10曲!」です。
林;人によって「エモい」って色々ですからね。期待します!
01. 小泉今日子--プロセス
沼田;この曲youtubeに無かったので自分でアップしました。カメラマンになった理由の半分くらいに「いつかキョンキョンに会いたい!」というのがあるくらい好きなんです!本人のレントゲン写真を使ったツアー「テロ86」のポスターで打ちのめされて以来の大ファンです。固定しているイメージに風穴開けようと逆にこうだよねと価値観を拡張する人たちが大好きです。この曲の作詞は本人、赤裸々な失恋の話で周りの大人たちがよくGOサイン出したなとおもいます。アルバムでの次の曲は名曲「あなたにあえてよかった」。この流れは本当に最高。いつも涙しながら聞いています。ハウスのトラックとしても頻繁にDJで使う曲です。
林;沼田さんといえば「あまちゃんファン」として有名ですが、キョンキョンファンだったんですね。良い曲ですねえ。
02. いとうせいこう X dj baku--darma
沼田;今まで体験した中で一番ぶっ飛ばされたライブ。HIP HOPの体で韻を踏まず演説するというスタイルのユニットです。せいこうさんが客をあおった瞬間突風が吹いてざわざわして、それまで静かだったお客ががんがん踊り始めました。この客席のど真ん中にいて、このときこのポエトリーリーディングで泣き崩れて立てなくなったんです。日本語ラップのオリジネイターが行き着いたのは説教とか演説っていうのが興味深い&たとえは適当じゃないかもしれないけど政治家の演説に熱狂する昔の映像そのままの雰囲気をまさか自分が体験するとはと思い怖くなりました。
林;うわー、こんなのあったんですね。これは現場でいたらすごい衝撃ですね。
03. STONE ROSES--elephant STONE
沼田;新宿リキッドで毎月行っていたイベントで夜中2:30にかかる曲!「Seems like there's a hole in my dreams~」ってところでミラーボールがバシッと点いて満員の客がおのおの歌っている光景は「THE 多幸感」って感じでたまらなくて、田舎で高校時代にはじめて聴いたこの曲大好きな人がこんなにいるんだなあ、ずーっと続けばいいのにと毎度なんだか泣いてました。17歳のきゅんとした感情にいつでも戻れる曲!と同時におっさんになったなあと再確認する曲です!
林;僕もストーン・ローゼズ、大好きでした。お互いおっさんですね...
04. THE SMITH--QUEEN IS DEAD
沼田;このPV中学時代に見てものすごい衝撃的でずーっと記憶に残っていてずいぶん後になってからデレク・ジャーマンだと知りました。映像がローファイで生々しい。スミスは曲も勿論なんですがジャケット、PV含めた世界観が大好き。自分の好きな要素が全部入っています。
イギリスのブリストルに滞在中にクラブでこの曲がかかって、バラの花売りのお姉さんがふわーっと目の前をとおりがかって「なにこのPVみたいに出来すぎた瞬間!」と興奮したのを今でもはっきり思い出します。
林;ブリストル! 良い体験ですね。沼田さんらしいです。
05. Inner Life -- Make It Last Forever
沼田;昔NYのハードハウスのDJがアゲハでやったパーティーの明るくなった10時くらいにかかったのをすごく覚えています。
林;僕としては「明るくなった10時くらい」という言葉にくらくらしています。僕、クラブで10時まで残ったことないので。沼田さん、そういうクラブカルチャーを愛しているんですね。
06. 玉置浩二--MR.LONELY
沼田;好きな歌手を挙げよといわれたら玉置浩二と即答します。マーヴィンゲイ級だと思ってるんですがどうでしょか?ライブでの説得力半端なかったです。
体のいろんな箇所を楽器みたいに響かせてうたう人が好きです。同じ理由で畠山美由紀さんも大ファン!
林;玉置浩二、好きなんですね。なんかそれまた沼田さんらしいです... 確かに50年後とか100年後に再評価されそうなソウルを感じますね。
07: JOE SMOOTH--PROMISED LAND
沼田;趣味でたまにDJやるのですが、一番影響された友人のDJがピークタイムでよくかけていた曲です。ハウスミュージックが大好きになったのはこの曲のせい。シカゴハウスのクラシックです。歌詞の内容、完全にゴスペルみたいでダンスミュージックになっても脈々と続くこの黒人音楽感、すごいと思います。
林;なるほど。こういうのが沼田さんのエモい10曲に入っちゃうんですね。沼田さんの「現場感」がすごく伝わってきますね。
08: JON SPENCER BLUES EXPLOSION のライブ
沼田;大好きすぎて思い立って2005年のUSツアーに押しかけ、出待ちして交渉しツアーに同行しつつ写真を撮ってました。同行というかバンドに先回りして、彼らのライブ会場に毎晩現れるので、なんだこの日本人!?と思われてたに違いないですね。ツアーの中盤こいつは無害と思われたのか結局ツアーバスに乗せてもらって、ローディーなどの手伝いしながら各地をまわりました。日本では有名なバンドですがアメリカでは完全にアンダーグラウンドな存在でスタッフメンバー含め8人!積み込みやセッティングも自分でやるしそういうのが当然とおもってて、しかもそれで前座のバンド含めみんな食べていける状況があるとは、アメリカってすごいなあと思います。ジョン(vo.)にはほんと良くしてもらったなあ。
林;ジョンスペってそんな感じなんですね。さらにそのツアーに同行! これまた沼田さんの「現場感」が...
09: groove armada --at the river
沼田;先述の公園パーティーの最後、日が暮れていくときにいつも終わりの曲としてかけてました。沈む太陽をながめながらのこの曲、なかなか破壊力ありますのでお勧めします。自分の葬式のときにこの曲がかかったら最高。
自分にとって印象的な曲はそのとき見てた風景が浮かんできますね。
林;お! 自分の葬式の時の曲宣言! これ、沼田さんの友達がたくさん見ると思いますから、確実にかかりますね(笑)。
10: RCサクセション --I LIKE YOU
沼田;そんなに考えることはないさ 初めに感じたままでいいさ
そのままでジューブン素敵さ 本当のことだけでいいさ
さあ笑ってごらん HA・HA・HA・HA・HA
My Baby I LIKE YOU I LIKE YOU I LOVE YOU
My My My My Baby I LIKE YOU
Yes,I DO LIKE YOU
清志郎のこの歌詞に何度救われたことか。&考え無しに行動する自分へのエクスキューズ曲。清志郎がそういってるんだからしょうがないじゃないですか。
林;「考え無しに行動する自分への」って... しょうがないですね。
林;そういえば、沼田さん、個展をされるんですよね。
沼田;そうなんです。2016年1月8から二週間新宿眼科画廊という現代アートのギャラリーで展覧会をやります。近年取り組んでいる白眼のポートレートのシリーズです。「目は口ほどにものを言うのか?とか外見は内面の一番外側なのか?とか
たとえばその人の部屋とか持ち物は脳みそとか内面の延長じゃないのか?とか思いながら、内面や気持ちなんて写真には絶対写らないので、ひたすら正確に外側を撮ってみました。
写真家にとって展示はライブみたいなものです。会場でしか体感できないざわざわ感や物質感。モニターの画像では絶対わからない精度の写真たちです。
会期中豪華ゲストを交えたトークショー他いろいろなイベントを考えておりますのでぜひお越しいただけたらと思います。9日のオープニングレセプションでは餅つき大会をやりますので新年おめでたい気分を味わいたい方もぜひ!
沼田学個展「界面をなぞる4」
2016/1/8~20 新宿眼科画廊にて無料
新宿眼科画廊 MAP
過去の展示や作品のリンクです
http://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/356086/
http://www.qetic.jp/art-culture/kaimen-150118/124350/
http://www.fractionmagazinejapan.com/jpne/cn52/pg460.html
沼田さん、お忙しいところどうもありがとうございました。
実は僕もこの沼田さんのシリーズのモデルに前回なりました。みなさんも是非、会場でしか体感できない展示、行ってみて下さい。
2016年が始まりましたね。今年はもっと良い世界になれば良いのですが。
それでは今年もよろしくお願いいたします。
bar bossa 林伸次
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【バーのマスターはなぜネクタイをしているのか? 僕が渋谷でワインバーを続けられた理由】
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林 伸次 1969年徳島生まれ。 レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、 フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。 2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。 著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。 選曲CD、CDライナー執筆多数。 連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。 bar bossa ![]() ●東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル1F ●TEL/03-5458-4185 ●営業時間/月~土 12:00~15:00 lunch time 18:00~24:00 bar time ●定休日/日、祝 ●お店の情報はこちら |