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2015年4月アーカイブ

Monthly Disc Review2015.0415:Monthly Disc Review

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Title : 『Reminiscent』
Artist : Dayna Stephens



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唸るようにサックスが吹きまくり、4ビートに思わず体が動き出すようなおおよそ僕達が期待するジャズ。Robert GlasperやEric Harland、Avishai Cohen(tp)らと同じく1978年生まれのサックス奏者、Dayna Stephensの新譜はまさにそんな一枚。

まだまだ知名度が低いと思われるDayna Stephensだが、過去5作のリーダー作で共演したアーティストにはGrehchen Parlato、Becca Stevens、Gerald Clayton、Ambrose Akinmusire、Taylor Eigstiなどまさに現代を代表するジャズマンが名を連ねている。Brad Mehldau、Julian Lage、Larry Grenadierらを集めて昨年リリースしたスタンダード中心のバラード集『Peace』から一転、この盤では盟友Walter Smith IIIと絡まるようにテーマを歌い上げ、熱いサックス・バトルを繰り広げている。バックのメンバーはHarish Raghavan、Rodney Green、Aaron Parksの3人を中心に中盤ではギタリストMike Morenoが参加。リズム隊を前作よりもよりストレート・アヘッドなプレイを得意とするメンバーに差し替えつつも、現代的な響きを持つコード楽器陣をあててくるというリーダーのバランス感覚は見事だ。

アルバムはサックス奏者2人のオリジナル曲を中心にスタンダード等全10曲。

1曲目、ミディアムテンポの4ビート曲からDaynaの独特の浮遊感をもったスタイルとWalter Smith IIIのバリバリと吹きまくるスタイルという同じサックス奏者ながらコントラストのあるソロバトルが楽しめる。「なるほどこの2人はこういう違いがあるのだな」と思って聴いていると、2曲目。ハイテンポのいかにもハードバピッシュな曲では二人とも息つく暇が無いほど吹きまくりどちらがどちらの音だか分らなくなるようなまた違ったバトルが繰り広げられそのギャップにやられてしまった。Aaron Parksのしっとりとしたピアノをフィーチャーしたスタンダード"Blue In Green"や、サックス2人とピアノが絡みあうようなイントロから始まるいわゆる歌もの曲、ワルツなどを挟んでラストは大団円のブルースと合計一時間ほどのアルバムだが、まるでライブを見ているような感覚であっという間に終わってしまう。

スタイルだけでなく曲によってテナーサックスを中心に楽器を持ち替えまさに自由自在にソロを歌い上げるDaynaと、テナーサックス一本で真っ向勝負を挑むWalter Smithのバトルにばかりつい目がいってしまうが、バック陣も見逃せない。

Aaron Parksが絶妙な間に投げ込むコンピングや、自身のソロ以外でもあえて単音でバッキングをし、あたかももう一本のサックスのように振る舞うMike Morenoの感覚はまさに現代的。中でも昨年初リーダー作をSmallsから出した気鋭のドラマーRodney Greenは4ビートの曲の中でも実に多彩なアプローチをみせ、同年代のKendrick Scottらと並んで新しいストレート・アヘッド・スタイルのドラムを提案しているように思える。

総じて決して派手な新しさではないが、伝統と歴史を飲み込んだ確かに更新された2010年代のストレート・アヘッドの痛快な傑作です。

そしてDaynaは早くも次のリーダーアルバム『Gratitude』が夏頃に発売予定だそう。


文:花木洸 HANAKI hikaru


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■Help Dayna Stephens■
現在ダイナ・ステファンスの巣状糸球体硬化症 (FSGS)という腎臓病の治療の高額医療費を集めるため"Help Dayna Stephens"という名で募金活動が行われています。

ホームページにはTom Harrell、Gretchen Parlatoらがコメントを寄せ、ピアニストTaylor Eigstiが援助を求める動画をYou Tubeにアップしています。

Help Dayna Stephens
http://helpdaynastephens.org/

Help Dayna Stephens Find a Kidney!
https://www.youtube.com/watch?v=7Lg6IEAOvFY#t=55




【Dayna Stephens: Blues Up and Down】







Recommend Disc

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Title : 『Reminiscent』
Artist : Dayna Stephens
LABEL : Criss Cross
NO : 1377
RELEASE : 2015.2.17

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Dayna Stephens(ts,ss,bs)
Walter Smith III(ts)
Aaron Parks(p)
Mike Moreno(g)
Harish Raghavan(b)
Rodney Green(ds)

Recorded on October 29, 2013
at Systems Two Recording Studios, Brooklyn, N.Y.

【SONG LIST】
01.Seems Like Yesterday
02.Isn't That So?
03.Blue In Green
04.Uncle Jr.
05.A New Beginning
06.New Day
07.Contrafact
08.Our World
09.Walt's Waltz
10.Blues Up And Down


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

2015.04 




Reviewer information

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

花木 洸 Twitter
maigo-music

Monthly Disc Review2015.0401:Monthly Disc Review

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Title : 「A Clear Midnight - Kurt Weill and America」
Artist : Julia Hülsmann Quartet w/Theo Bleckmann



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ようやく春めいて来た夜に、銀座へ車を走らせる。わざわざ銀座まで車で行かなくてならない理由があってのことなのだけれど、どうせなら東京のど真ん中の夜景を見ながらこれを聴いてみたいと思ってカーステレオに差し込む。ECMでは珍しいジャズヴォーカルの作品。Julia Hülsmannのピアノとソングライティングはなんとなく肌に合って、リリースの度に聴くようにしているのだけれど、今回は、Theo Bleckmannというややアヴァンギャルドなヴォーカリストを迎えてのKurt Weillの作品集という企画。最初に自宅の狭いリスニング用の書斎で聴いた時は、正直自分の中にこの作品の落とし所が見つからず、何度聞いてもすぐにはその魅力の本質には辿りつけない感覚が残ってしまって、やや途方に暮れていた。しかし、Theoのクールなヴォーカルと、Julia Hülsmann率いるQuartetの演奏は、不思議と繰り返し聴き直したくなる空気感と魅力を漂わせてもいた。

そして、いざ銀座へ。新橋あたりからネオンが見えて来た車内で響くJulia HülsmannのピアノとTheoのヴォーカルは、想定していた通り都会の欲望渦巻く夜の景色を、やや冷やかに見つめているようで、なんとも言えない心地よい時間が車内に流れ始め、銀座四丁目を通過する頃には、もうすっかり銀座をクールに徘徊する為のBGMになっていた。ECMならではのクールなジャズヴォーカルの作品と東京の都会の夜は相性がいいのだと実感し、このアルバムが夜の都会へのドライブには必携の一枚という位置づけになった銀座の一夜だった。ちなみに、自宅のある横浜へ向かう首都高速湾岸線の夜景にもベストマッチしたことを付け加えておこうか。


文:平井康二




【Julia Hülsmann Quartet w/ Theo Bleckmann: A Clear Midnight】







Recommend Disc

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Title : 「A Clear Midnight - Kurt Weill and America」
Artist : Julia Hülsmann Quartet w/Theo Bleckmann
LABEL : ECM(4709276)
RELEASE : 2015.3.3

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Theo Bleckmann (vo)
Julia Hulsmann (p)
Tom Arthurs (tp,flh)
Marc Muellbauer (double bass)
Heinrich Kobberling (ds)

【SONG LIST】
01.Mack The Knife
02.Alabama Song
03.Your Technique
04.September Song
05.This Is New
06.River Chanty
07.A Clear Midnight
08.A Noisless Patient Spider
09.Beat! Beat! Drums!
10.Little Tin God
11.Speak Low
12.Great Big Sky


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「Monthly Disc Review 平井康二」アーカイブ平井康二

2015.04 




Reviewer information

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平井康二(cafeイカニカ オーナー)

1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、
音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、
音楽業界にて仕事をする。
2009年、cafeイカニカをオープン
おいしいごはんと良い音楽を提供するべく日々精進。


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cafeイカニカ

●住所/東京都世田谷区等々力6-40-7
●TEL/03-6411-6998
●営業時間/12:00~18:00(毎週水、木曜日定休)
お店の情報はこちら

bar bossa vol.44:bar bossa

bar bossa


vol.44 - お客様:新川忠さん(ミュージシャン)


【お気に入りの80'sポップス】



いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

今回は1月にアルバム『Paintings of Lights』をリリースした新川忠さんをゲストにお迎えしました。


林(以下H);いらっしゃいませ。お飲物はどうされますか?

新川(以下S);じゃあ、ビールください。

H;でしたら、COEDOという川越のビールが美味しいですので、そちらをお出ししますね。さて、お生まれと小さい頃の音楽体験のようなものを教えていただけますか?

S;1977年10月17日生まれです。生まれは東京なんですけど、その後すぐ引っ越したので、育ったのは千葉県の柏市になります。郊外に暮らす会社員の一家なので、ごくありふれた家庭に育ちました。音楽に関する幼少期の思い出と言えば・・・まぁ、音楽を聴くのは家族全員好きでしたね。両親は専らクラシック。7歳年上の姉はMTV世代で(笑)、流行りの洋楽80'sポップスを追っかけてました。5歳上の兄も洋楽好きでしたけど、マイケル・ジャクソンとかクール&ザ・ギャングといったブラックミュージック系を好んでました。末っ子のチビだった僕は、日常のBGMとしてそういった音楽に無意識に親しんでいたように思います。

H;なるほど。かなり年上の洋楽好きのお姉さんとお兄さんがいらっしゃるんですね。最初に買ったレコードは?

S;生まれて初めて好きになってドーナツ盤のレコードを買ってもらった音楽は、ドラえもんの映画の主題歌(笑)。いや、でもこれがいい歌だったんです。大杉久美子さんの歌う「わたしが不思議」という曲なんですけど。子供ながらにジーンとして(笑)。でも小学校時代は音楽にのめり込むということはなかったです。それよりも僕は絵を描くことに夢中だった少年で、絵画教室に通ったりマンガ描いたりして、将来は美術方面に進もうと真剣に考えてました。

H;ドラえもんの映画の主題歌に、絵画教室ですか。イメージと違いますねえ...、その後のお話を聞かせていただけますか?

S;中学生の頃、兄の影響で僕もブラックミュージックを好んで聴くようになりました。90年代を迎えたその当時、アメリカでは新しいR&Bやヒップホップが活気づいていて、そういったシーンにどんどん夢中になっていったんです。結果的にその音楽体験は、美術方面に進もうとしていた僕の進路を大きく変えることになりました。聴いているだけではもはや我慢できず、自分でもこういう音楽を作ってみたいという欲求が芽生えたんです。

H;お、中学でブラックミュージックですか。

S;今なら普通なんでしょうけど、当時はマセた趣味をしたガキだったかもしれません(笑)。高校生になると独学で作曲や編曲の勉強を始めました。楽器も色々やり出しましたが、バンドを組むことはしませんでした。R&Bやヒップホップが日本で一般的になるのはまだ数年先のことで、当時音楽の趣味の合う人というのは周囲には皆無でしたから(笑)。それに演奏して誰かに聴かせたいというよりも、とにかく録音作品を作りたかったんです。それで安いキーボードと4トラックのマルチトラックレコーダーを購入して、いわゆる「宅録」をやり始めたんです。これが面白くてたまらず、もう美術なんかどうでもよくなった(笑)。美術どころかハイスクールライフをエンジョイすることも放棄しちゃって(笑)。完全なるネクラなオタク高校生でした(笑)。それでまぁ、よくある話ですが「高校卒業したら進学も就職もしない。バイトしながらプロのミュージシャンを目指す」と宣言して親や担任を大いに困惑させました(笑)。

H;(笑)周りにはあまりいなかったんですか。さて、大変な道を選んでしまいましたが、その後は?

S;結局、進学も就職もせずフリーターになりました。一応、親からは条件を出されました。1年間だけ好きにやってみろと。それで何もつかまなければ進学か就職をしろと。それでバイトしながらせっせとデモテープを作って。当時はソロのアーティストではなく、ソングライターやトラックメーカーになりたかったので、そういうのを募集しているレコード会社とかオーディションに応募しまくっては無視されるという日々(笑)。悶々としてることもありましたけど、でも個人的な音楽人生においては重要な時期でした。音楽と好きなだけ向き合い、掘り下げた時間だったので。その頃にはブラックミュージックだけでなく、ありとあらゆる音楽に興味を持つようになりましたし、バンドをやったりもしました。作曲やアレンジやミックスのコツを自分なりに発見し身につけていったのもこの時期です。そして約束の1年が経って、僕は悟りを開くんです(笑)。プロになんかならなくっていいやって。好きな音楽を聴いたり作ったりできれば、何をしてたってそれで満足だってわかったんです。

H;僕、25才の娘がいるので、ご両親のご理解が素敵だなあと、違うところに感動してますが...

S;いや、僕の強情に根負けしただけだと思いますけど(笑)。その後は約束通り進学をしました。グラフィックデザインの専門学校に入って、まぁ、就職活動で挫折して2年後にはまたフリーターに逆戻りしてしまうんですが(笑)。とにかくそれ以来、音楽はかけがえのない「趣味」として、今に至るまで作り続けています。

H;かけがえのない「趣味」。才能と金銭的な成功は必ずしも結びつくものではないですからねえ。その後、アルバムを発表しますが、その経緯は?

S;もともと僕はソロのシンガーソングライターになるつもりはなかったんです。ソングライターにはなりたかったけど、シンガーは別の人にやってほしかった(笑)。それで21歳くらいの頃、募集広告で知り合った女の子ヴォーカル二人組とレコーディングバンドを作って、僕の作った曲を歌ってもらったりしてたんです。で、「仮歌」というのを入れるでしょう?まず僕が歌ったものを録音して聴かせるんですけど「新川君の歌のほうがいい」とよく言われて。結局そのバンドはさっさと解散するんですけど、最後に言われたんですよね。「ひとりでやったほうがいいよ」って(笑)。そう言われて、ソロのシンガーソングライターとしての可能性を探り出したんです。どんな歌、どんな曲を作ったら自分に合うんだろうかと。ちょうどその頃よく聴いていたのが50~60年代のイージーリスニング。甘いムーディーなヴォーカルの聴けるボサノヴァや古いジャズのスタンダードです。よくCDをかけながら口ずさんでいたんですけど、こういうのがしっくり来るかもと思って。しかも録音もあの時代そのままの古めかしい感じを再現して。そうやって制作を開始したのがファーストアルバムの『sweet hereafter』です。デモ音源を音楽評論家の高橋健太郎さんの主宰するインディーレーベルMemory Labに送ったところ気に入って頂けて、2003年にめでたくリリースとなりました。

H;なるほど。そんな経緯だったんですね。でも、最初のアルバムが高橋健太郎さんのMemory Labからというのがすごいですね。『sweet hereafter』、僕も聞きましたが素晴らしいですね。

S;ありがとうございます。2年後に発表したセカンドアルバム『Christy』は、ファーストとは全然違うことをやってやろうと思って作りました。実はその2年の間、色々あって僕はけっこう荒れてて(笑)。急にパンクに目覚めたりなんかして(笑)。ダークサイドにアプローチせざるを得ない精神状態だったんです。それでパンクのルーツを辿ってヴェルヴェット・アンダーグラウンドに行き着いて、ああいう暗い影のあるロックアルバムを作ろうと思ったんです。でもこれは本当にしんどい作業でした。負のエネルギーを使って作品を作るというのは、精神的にも肉体的にもボロボロになるってことがわかって。それで僕は疲れきって「もうCDは出さない」と言って、しばらく引きこもることにしました(笑)。

H;セカンドはパンク~ヴェルヴェット後だったんですか。でも、かなりポップな印象がありますよ。そしてその後は?

S;その後何してたかというと・・・80'sポップスを聴いてました(笑)。パンクを聴き出したときに、その流れで80年代のポストパンク、ニューウェーブのバンドにもハマってたんです。その余韻が残ってて、普通の80'sポップスもまた聴きたくなった。「また」というのは、専門学校時代に一度個人的80'sポップスブームがあって(笑)。子供の頃によく耳にしていた姉の好きだったレコードを引っ張り出してきて、懐かしさで聴き出したら夢中になっちゃったんです。実はその時点で今回出したアルバムのアイデアは芽吹いてたんですね。いつかこういうのやりたいと。それで30代に突入してようやく、その「いつか」がついに来たかという感じで、80年代テイストの曲を次々に書き出しました。でも創作意欲は燃えてたんですけど、CDアルバムを出すというのはもう懲り懲りだったんで、ちょうどその頃ミュージシャンの間で流行っていたSNSサイトのMySpaceに登録して、そこで作品を発表していったんです。マイペースに作った作品を「こんなのできました」と言ってアップしてはみんなの反応を見るという感じで。

H;なるほど。そういう流れの80'sだったんですね。Lampとのことを教えていただけますか?

S;LampとはMySpaceを通じて知り合いました。僕はもともと彼らの大ファンだったんです。同世代のミュージシャンの中では突出した才能だと思ってました。それでコンタクトをとってみたところ、リーダーの染谷さんから返事が来て。驚いたことに、彼らも僕のことを知っていて気になる存在だったというんです。そこから交流が始まって、実家が近所だったなんてことも判明して(笑)、音楽家としてのスタンスも似た者同士、関係が深まっていったんです。そんな最中、僕がMySpaceで発表した「ヴィーナスの腕」という曲を染谷さんが非常に気に入ってくれて、会って食事なんかをする度に、あの曲の入ったCDを出してほしいというリクエストをされてたんです。「もうアルバム作らないんですか?」と。それでまぁ、敬愛するミュージシャンにそこまで言われてはと(笑)。これはもう、やらざるを得ないかなと。でも、どうやってリリースするかということについては、しばらく二人とも考えあぐねてたんですが、とうとう染谷さんがLampで自主レーベルを始めるという決意をしまして。彼らも色々あってバンドとして新しい可能性を模索していた時期だったんで、これがいい機会だと判断したんだと思います。そこでその第一弾として僕の作品を出そうという計画が具体的になって、今回のアルバムが発売されることに至りました。だいぶ時間はかかりましたけど(笑)。まぁ、実現できて本当に良かったと思ってます。

H;うわ、良いお話ですね。インターネットって色々とありますが、そういうお話を聞くとやっぱり良いものですね。さて、みなさんに同じ質問をしているのですが、これから音楽業界はどうなると思いますか? 

S;うーん、どうなんでしょう。なるようにしかならないんじゃないでしょうか。まぁ、どうでもいい、というのが正直な感想で(笑)。だって音楽が全てってわけじゃないですから。「何でもアリ」ってことでオーケーだと思います(笑)。

H;すいません。愚問でしたね。すごく新川さんらしいお言葉ありがとうございます。これからはどうされるご予定でしょうか?

S;一人でアルバムを一枚作ると本当にくたびれて、当分今後のことなんて考えられなくなるんですけど、珍しく早くも次のアルバムを作ることを考えています(笑)。年のせいでしょうか。「もうあんまり時間はないぞ」という意識が働いてるのかもしれません(笑)。でも次に自分が一体どんなものを作り出すのか、今非常に楽しみです。

H;次のアルバム、本当に楽しみにしています。さて、このブログ、みんなが「選曲」を楽しみにしていまして。お願いできますか?

S;今回出したアルバムが80年代のポップスへのオマージュなので、月並みですが「お気に入りの80'sポップス」というテーマでセレクト致しました。・・・ちょっと店のムードに合わないかもしれないんですけど(笑)。


a-ha - Take On Me

S;いきなり直球ですけど(笑)。ミュージックビデオも含めて、やっぱり大好きな1曲です。小学生の頃、MTVで見たときは本当に興奮しました。「うわ、カッコイイ!」と思って。その感想は今も変わりません。

H;これが一曲目ですか。確かに「うわ、カッコイイ!」ですねえ。


Level 42 - Children Say

S;バリバリの演奏テクニックを誇る「フュージョン」のバンド、というイメージが強い彼らですが、曲そのものの良さとマーク・キングとマイク・リンダップのヴォーカルが僕は好きで。80'sポップスを真剣に聴き出したとき、一番夢中だったバンドの1曲です。

H;ええと、僕、69年生まれで、新川さんのお姉さんと一つ違いなので、このアルバム、リアルタイムで買いました。「曲そのものの良さ」、納得です。


Basia - Promises

S;ポーランド出身の歌姫、バーシア。日本でもバブル崩壊の前後くらいに(笑)、オシャレな音楽として人気がありましたね。ドラムマシーンとシンセベースで作られたサンバのビートがツボです(笑)。こういう、ちょっと「フェイク」な感じが僕は好きなんです。

H;僕、お店の名前の通り、ブラジル音楽が専門の人間なのですが(笑)、僕もバーシアの「フェイク」のサンバ、すごく好きです。


Scritti Politti - The Word Girl

S;スクリッティ・ポリッティと言えば、きらびやかで緻密に構築されたダンス・トラックが有名ですが、僕の一番のお気に入りは、やや控えめなこの曲。ゆったりしたレゲエのリズムに乗るグリーンのハイトーンヴォイス、そして洗練されたアレンジがたまりません。「おや?」と思わせる奇妙なアウトロも印象的です。

H;スクリッティ・ポリッティはこれですか。PC画面の向こう側でオジサン達が「おおお!」って吠えているのが伝わってきます(笑)。


色彩都市 - 大貫妙子

S;シンガーソングライターとして最も影響を受けたのが、大貫妙子さん。数多い名曲の中で、ご自身もフェイバリットに挙げるこの曲は本当に素晴らしいです。坂本龍一さんとの共同作業で生まれた、まさに魔法のような1曲だと思います。

H;魔法です。本当に。


Prefab Sprout - Moving The River

S;気づくのが遅かったんですが、30歳前後でプリファブの音楽に出合って、もう夢中になってしまいました。とくにこの曲を聴いたときは「これこそ求めていたものだ!」と(笑)。異常な刺激を受けました。いよいよもって「80'sポップス、やりたい!」という欲求に火をつけた1曲です。

H;新川さんの世代って本当に面白いですね。CD再発の波があったので、色んな情報はあふれていましたし、プリファブとの出会いが30歳前後というのが本当に面白いです。


Echo And The Bunnymen - The Game

S;80年代の「ロックバンド」で一番好きなのが彼ら。当時流行りのキラキラした派手なサウンドが「陽」だとすると、彼らは「陰」のバンド。そこに惹かれます。パーティーの隅っこで独りぽつんとしてる、ちょっと影のあるハンサムな青年・・・みたいな魅力(笑)。

H;え、エコバニお好きなんですか? 10曲に入るんですか? そういう印象はあまりないですね。ホント、こういうのって聞いてみないとわからないものですね。


Bangles - Manic Monday

S;好きな80年代の「ロックバンド」女子編(笑)。これは「陽」ですね。ガールズバンドは華やかなほうがいい(笑)。ミュージックビデオも含めて、あの時代特有の「青春」のムードに、元気が出ると同時に切なくなるやっかいな1曲です(笑)。

H;なるほど。バングルズが「陽」ですか。なんとなく新川さん世代がどういう風に80年代を見ているのかがわかってきました。


New Edition - Mr. Telephone Man

S;残り2曲はR&Bでいきます。ニュー・エディションは、80~90年代のR&Bファンにはおなじみの5人組。まぁ、アイドルグループですね。80年代丸出しのシンセ・リフと「アー」というつたないコーラスに胸がキュンキュン言ってしまいます(笑)。これこそ極上のスウィート・アイドル・ポップスではないかと。

H;この流れでニュー・エディションが出てくるんですね。新川さんセレクトのブラック・ミュージックCDを聞いてみたい気がしてきました。


Anita Baker - Sweet Love

S;最後は「ブラコン」・・・って死語ですけど(笑)、ブラコンの女王、アニタ・ベイカーの代表曲で。子供のころにどっかで耳にして、なんかこう、大人の世界への憧れを掻き立てられた(笑)。大人になった今も、この曲を聴くと、そのころの夢見るようなロマンティックなムードに浸れます。

H;ええと、何度も言いますが、僕は69年生まれで、お姉さんと一つ違いなので、この曲は「青春の一曲」だったりします。こういう話題にしたくないですが、世代について色々と感じてしまった選曲でした。さて、最後に『Paintings Of Lights』についてお話いただけますでしょうか?

S;とにかく、大変でした(笑)。長かった。3年もやってましたからね。これ、いつ終わるんだろうと(笑)。ですからアルバムについては、こう、様々な思い出が混沌とした大きな塊になっててですね、それを小さな穴から引っぱり出すようなもので、上手く語ることができないんです。

ただひとつだけ、制作を終えた今つくづく実感しているのは、本当にこれは「趣味」の音楽だなと(笑)。こういうのは趣味じゃなきゃ作れないと思うんです。幼少期を過ごした80年代へのノスタルジーとヨーロッパ的な情景への憧れ、というまったく個人的な感覚から得たインスピレーションだけで作り上げたものなので、これ、Botanical Houseが何千枚も売ろうとしてるレーベルだったら企画が通らなかったですよね(笑)。ですから、こんなシロモノを世に出そうと奔走してくれた染谷さんはじめLampや協力してくれた人たちには本当に感謝しています。そうそう、先程「これからの音楽業界」についての質問がありましたが、こういう無茶をしでかす人たちが必要なんじゃないかという気がします(笑)。

H;最後にすごく素敵な言葉が出てきましたね。新川さん、お忙しいところどうもありがとうございました。では、最後に新川忠さんのニュー・アルバムから「アイリス」をお聞きください。

【新川忠 / アイリス】






●新川忠 BLOG→ http://tadashishinkawa.blogspot.jp/

●新川忠 twitter→ https://twitter.com/shinkawatadashi


もうすっかり春ですね。お花見は行きましたか?
それではまたこちらのお店でお待ちしております。

bar bossa 林伸次


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【新川忠New Album『Paintings of Lights』】

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■タイトル:『Paintings of Lights』
■アーティスト:新川忠
■発売日:2015年1月11日
■レーベル: Botanical House
■製品番号:BHRD-1

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[収録曲]

1.アイリス
2.渚
3.霧の中の城
4.カミーユ・クローデル
5.彼女たちの舞台
6.ハワースの荒野
7.シルエット
8.メアリー・ローズ
9.眺めのいい部屋
10.ヴィーナスの腕


クラシカルな西洋的イメージを80年代シンセサウンドでロマンティックに描くポップスアルバム。全ての作詞・作曲・編曲・歌・演奏・録音・ミックスを一人で行う自宅録音のスタイルをとり、独自のセンスに貫かれた作品世界の構築を目指した。

【制作意図】
80年代ポップスファンとして、ここ数年の音楽シーンで聞こえてきたポストパンク〜ニューウェーヴ期を思わせるロックサウンド、テクノポップ風ダンスミュージックといった「リバイバル」には、常々関心を寄せてきましたが、しかし、ぼくが最も惹かれる、あの時代独特のロマンティシズムとセンチメンタリズムに溢れた繊細な歌やサウンドは、まだあまり顧みられていないように感じています。例えば、プリファブ・スプラウト、世界的な成功を収めたa-haの(「テイク・オン・ミー」以外の)隠れた名曲たち、大貫妙子さんの「色彩都市」「ベジタブル」・・・etc。コンセプトに掲げた「クラシカルな西洋的イメージ」、別な言い方をすれば、ある種ヨーロッパ的な情景は、こういった80年代のポップスに散見されたものであります。そんな、今なお根強いファンを持ち、その音楽性を高く評価されながらも、メインストリームからは忘れられてしまった良質の80年代ポップスに、このアルバムを通じて、今、ささやかな光を当ててみたいと思っています。

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【バーのマスターはなぜネクタイをしているのか? 僕が渋谷でワインバーを続けられた理由】
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bar bossa information
林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

bar bossa
bar bossa
●東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル1F
●TEL/03-5458-4185
●営業時間/月~土
12:00~15:00 lunch time
18:00~24:00 bar time
●定休日/日、祝
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