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JJazz.Net Blog Title

2015年7月アーカイブ

Monthly Disc Review2015.0715:Monthly Disc Review

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Title : 『Covered』
Artist : Robert Glasper



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ロバート・グラスパーの新譜。ピアノ・トリオ作品としては『Double Booked』(2009)以来の実に6年ぶりの作品で、この6年の間に何があったかというとそれはもちろんエクスペリメント名義での『Black Radio(以下BR)』諸作だ。この新作ではエクスペリメントでのメンバーではなく初期のトリオ作品のヴィセンテ・アーチャー(b)、ダミオン・リード(ds)というメンバーに戻している。


スタジオライブ録音という事でMCや観客の拍手や歓声が入る場面もあるが作品の音作りとしては一般的なピアノトリオ作品とは異なっていて、バスドラムを中心とした低音のドスが効いたサウンド。『BR』シリーズと同じエンジニアを起用したようだ。


『Covered』というタイトルの通りアルバムの大半を占めるのは過去から現在までのジャズ以外の楽曲。RadioheadからJoni Mitchel、自らもレコーディングに参加したKendrick LamarやBilalの楽曲までロバート・グラスパーのiPodの中からセレクトされた楽曲+自身の楽曲と1曲のジャズ・スタンダードという構成になっている。


「『BR』を聴いてジャズに興味をもった人にも聴いてもらえるように」と各所でアナウンスした通り、このアルバムにはグラスパーの『BR』から一貫したポップ感覚が各所に詰め込まれている。曲の進行とともに3者が煽り合いアドリブが加熱していくような、いわゆるビルドアップしていくような音楽、バトル音楽としてのジャズではなく、ポップな枠組みを崩さないように即興の中でもメロディを非常に大事に慈しむように奏でる場面が多い。そしてそのポップさを可能にしているのが彼らのジャズマンとしての技術であることは記さねばならない。


"I Don't Even Care"では噛み付くような前のめりの右手のアドリブに対して、左手のバッキングは驚くほど冷静に、明らかに右手とは違ったタイム感と落ち着きを持って同じフレーズをループする背景と同化している。"So Beautiful"等の比較的はっきりとしたソロをとる楽曲に置いても決して聴き苦しくならないのはこの左手との温度差とバックの演奏のループ感に要因があるように思う。アドリブが始まると同時にフェードアウトする"Reckoner"も、再びテーマにフェードインした時にはドラムのビートはそのままにピアノとベースは3/4拍子という面白いアンサンブルが試みられている。正確無比にビートを刻み加減速のほとんど無いドラムと少ない音数かつ決して軸をぶらさないベースは、明らかにエクスペリメントの持つグルーヴ感とは異なっていて、このトリオ作では違うメンバーを起用した事も頷ける。この2人が作るビートの上にグラスパー独特のタイム感をもって散りばめるピアノは決して無理をすること無く余裕すら感じられるが、今や一聴してそれと分かるほどの個性を放っている。


そうやって聴いていくと、アルバムの中で唯一ピアノ以外のソロがフィーチャーされ、ポップとは異なった指標の曲のタイトルが"In Case You Forgot"(あなたが忘れるといけないから)というのもグラスパーなりのジョークのように思えてくる。


エクスペリメントでのアンサンブルのタクトを振るようなピアノとも「黒いメルドー」と呼ばれた初期の作品とも異なった、成熟したピアニストとしてそしてバンドリーダーとしての魅力が感じられる作品。ピアノ・トリオという伝統的かつある種ジャズの代名詞的なフォーマットで挑んだこの作品は、誤解を恐れずに言うならばこの作品は数あるピアノトリオ作品の中でもちょっとした奇作だ。


文:花木洸 HANAKI hikaru




【Robert Glasper - I Don't Even Care (Live At Capitol Studios)】







Recommend Disc

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Title : 『Covered』
Artist : Robert Glasper
LABEL : ユニバーサル ミュージック
NO : UCCQ-1042
RELEASE : 2015.6.10

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
ロバート・グラスパー(p)  
ヴィセンテ・アーチャー(b)  
ダミアン・リード(ds)

【SONG LIST】
01. Introduction
02. I Don't Even Care
03. Reckoner
04. Barangrill
05. In Case You Forgot
06. So Beautiful  
07. The Worst
08. Good Morning
09. Stella By Starlight
10. Levels
11. Got Over feat. Harry Belafonte
12. I'm Dying of Thirst


この連載の筆者、花木洸が編集協力として参加した、金子厚武 監修『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)が発売になりました。シカゴ音響派などジャズとも互いに影響しあって拡がった音楽ジャンルについて、広い視点から俯瞰するような内容になっています。


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■タイトル:『ポストロック・ディスク・ガイド』
■監修:金子 厚武
■発売日:2015年5月30日
■出版社: シンコーミュージック
■金額:¥2,160 単行本(ソフトカバー)

アマゾン詳細ページへ


20年に及ぶポストロック史を、600枚を超えるディスクレビューで総括!貴重な最新インタヴューや、概観を捉えるためのテキストも充実した画期的な一冊。90年代に産声をあげた真にクリエイティヴな音楽が、今ここに第二章を迎える。


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

2015.04 ・2015.05 ・2015.06 




Reviewer information

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

花木 洸 Twitter
maigo-music

McCOY TYNER & JOE LOVANO @ Blue Note TOKYO公演:ライブ情報 / LIVE INFO

ジャズ・ピアノの巨匠、マッコイ・タイナーと
現代のジャズシーンを代表するサックスプレイヤー、ジョー・ロヴァーノがこの夏日本で共演!

実績も人気も実力もある2人が間もなくやってきます。
それぞれのトリオパートと、2人が共演するカルテットという構成でのステージは見応えありそうです。

会場はブルーノート東京。
特別な一夜を演出してくれること間違いなしです。


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【McCOY TYNER & JOE LOVANO @BLUE NOTE TOKYO 2015】

ジャズ・ピアノ界のリヴィング・レジェンドと、ジャズ・テナー・サックス界の最高峰が遂に日本で出会う。マッコイ・タイナーとジョー・ロヴァーノの共演だ。マッコイは伝説のジョン・コルトレーン・カルテットに参加後、'66年に自身のグループを結成。『ザ・リアル・マッコイ』、『サハラ』、『フライ・ウィズ・ザ・ウィンド』等、数々の名盤で世界的な評価を確立した。ロヴァーノはジョン・スコフィールドやポール・モチアンのバンドで頭角を現し、'90年にブルーノート・レコードと契約。2001年にはアメリカのジャズ誌「ダウンビート」の人気投票でテナー・サックス、バンド・リーダー、アルバムの各部門でグランプリに輝いた。グラミー・ウィナーふたりのステージは、アコースティック・ジャズの真髄を改めて私たちに伝えてくれることだろう。


【日時】
7.23 thu. - 7.24 fri.
[1st]Open5:30pm Start7:00pm [2nd]Open8:45pm Start9:30pm
7.25 sat. - 7.26 sun.
[1st]Open4:00pm Start5:00pm [2nd]Open7:00pm Start8:00pm

【出演】
McCoy Tyner(p)/マッコイ・タイナー(ピアノ)
Joe Lovano(sax)/ジョー・ロヴァーノ(サックス)
Gerald Cannon(b)/ジェラルド・キャノン(ベース)
Francisco Mela(ds)/フランシスコ・メラ(ドラムス)

※ライブは下記の構成で行なわれる予定です
◯トリオ(約25分): ジョー・ロヴァーノ(サックス) 、ジェラルド・キャノン(ベース)、
 フランシスコ・メラ(ドラムス)
◯トリオ(約25分):マッコイ・タイナー(ピアノ)、ジェラルド・キャノン(ベース)、
 フランシスコ・メラ(ドラムス)
◯カルテット(約20分):マッコイ・タイナー(ピアノ)、ジョー・ロヴァーノ(サックス) 、
 ジェラルド・キャノン(ベース)、フランシスコ・メラ(ドラムス)

【場所】
BLUE NOTE TOKYO(ブルーノート東京)
〒107-0062 東京都港区南青山6-3-16 ライカビル
東京メトロ表参道駅下車 徒歩約8分
※駐車場はございません。

TEL 03-5485-0088
mon.-sat. 11:00am-11:00pm,
sun.&holiday 11:00am-9:00pm

【料金】
¥9,000(税込)
→座席のレイアウトはFLOOR LAYOUTをご確認ください
→18歳以上の学生の方は、学生割引がございます。詳しくはこちら

【予約】
Blue Note TOKYO予約ページ(web)

お電話でのご予約:03-5485-0088
11:00am-11:00pm(mon.-sat.)
11:00am-9:00pm(sun&hol.)

【公演詳細】
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mccoy-tyner/




【McCOY TYNER & JOE LOVANO : BLUE NOTE TOKYO 2015 trailer】




McCOY TYNER Official http://www.mccoytynertrio.com/
JOE LOVANO Official http://www.joelovano.com/

今年メジャーデビュー10周年を迎えたジャズ・ピアニスト、山中千尋さん。
アニバーサリー・イヤーに相応しく新作のリリースとホールツアーが決定しています。

7/15リリースの新作テーマは"ラグタイム"。
チャップリンやガーシュインでお馴染みのサウンドが
山中さんらしいモダンなアレンジで再構築されています。

そして秋からはニューヨーク・トリオを率いての全国ツアーがスタート。
この他、ソロピアノ公演や東京ジャズにも出演と、今年はいつにも増してアグレッシブ。
常に第一線で活躍する彼女に是非触れて下さい。


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山中千尋ニューヨーク・トリオ全国ホールツアー2015

日本を代表する世界的ジャズ・ピアニストが切り拓く、新たなる境地。卓越したアレンジ・センスと強烈な個性が炸裂するラグタイムの斬新な解釈に、ジャズ・スタンダードからオリジナル曲まで網羅したスケール感溢れるホール・コンサート!


【日程】
10/30(金) 福井 ハーモニーホールふくい
10/31(土) 滋賀 びわ湖ホール
11/1(日) 富山 富山県民小劇場 オルビス
11/3(火・祝) 福岡 宗像ユリックス
11/5(木) 愛知 三井住友海上しらかわホール
11/6(金) 群馬 太田市新田文化会館 エアリスホール
11/7(土) 神奈川 鎌倉芸術館
11/8(日) 東京 めぐろパーシモンホール

【メンバー】
山中千尋 Chihiro Yamanaka (pf)
脇義典 Yoshi Waki (b)
ジョン・デイヴィス John Davis (ds)

ツアー詳細(プランクトン特設ページ)


<総合問合せ>
プランクトン 
03-3498-2881


【山中千尋 全国ホールツアー2015 告知 】






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■タイトル:『シンコペーション・ハザード』[初回限定盤]
■アーティスト:山中千尋
■発売日:2015年7月15日
■レーベル : ユニバーサル ミュージック
■製品番号:UCCQ-9024

アマゾン詳細ページへ




[収録曲]

01. シンコペーション・ハザード (オリジナル)
02. エンターテイナー~リチュアル (スコット・ジョップリン)
03. メイプル・リーフ・ラグ(スコット・ジョップリン)
04. イージー・ウィナー(スコット・ジョップリン)
05. ダヴ (オリジナル)
06. リフレクション・ラグ (スコット・ジョップリン)
07. サンフラワー・スロー・ドラッグ (スコット・ジョップリン&スコット・ヘイデン)
08. ニュー・ラグ (キース・ジャレット)
09. ヘリオトロープ・ブーケ (スコット・ジョップリン&ルイ・ショーヴァン)
10. ユニフォーミティ・ラグ (オリジナル)
11. グレイスフル・ゴースト(ウィリアム・ボルコム)


山中千尋メジャー・デビュー10周年の記念作!ザ・ビートルズやクラシックのなどの楽曲に取り組み、また前作では管楽器も含めたアンサンブルに挑戦しましたが、メジャー・デビュー10周年を記念する本作では王道のスタンダード・ソングに取り組むピアノ・トリオ作。最新スタジオ・アルバムとなる本作の テーマはラグタイム。19世紀初頭にアメリカで大流行した有名なスコット・ジョップリンの歌曲など有名曲を中心に、ウィリアム・ボルコム、キース・ジャ レットの楽曲他、山中のオリジナル曲など幅広く収録!ラグタイムを題材に、改めてジャズの要ともいうべき"シンコペーション"を追求した新たなスタイルの山中のピアノにフォーカスした作品。昨年より日経新聞のコラムも執筆するなど、ますます執筆活動も好調の山中ですが、女性メンバーによる新ユニット"スフィア"での日本ツアーや、全米/ヨーロッパ・ツアーなどを行い、また本作のリリースを記念した国内のホール・ツアーも予定するなど、改めて演奏活動に重点を置いているタイミングでのリリースです。

限定盤の特典として、タイトル曲ほかのスタジオライヴを収録したDVDが付属。音と映像の両面で山中のピアニズムを堪能できる。


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【山中千尋】(ピアニスト/作曲家/アレンジャー/プロデューサー)

群馬県桐生市出身、ニューヨーク在住。アメリカ/ヨーロッパを中心に世界中でツアーを行なっている、日本を代表するジャズ・ピアニスト。クラシックの名門・桐朋学園大学音楽学部を経て、米バークリー音楽大学に留学しジャズに転向、首席で卒業。2001年に澤野工房より日本CDデビュー。さらに2003年TVドキュメンタリー「情熱大陸」(MBS系)に出演、その国際的活動が日本でも広く知られるところとなった。2005年にユニバーサルミュージックよりメジャー・デビュー。これまでリリースしたアルバムはすべて国内のあらゆるJAZZチャートで1位を獲得し、第23回日本ゴールドディスク大賞、スイングジャーナル誌ジャズディスク大賞、NISSAN presents JAZZ JAPAN AWARDなど権威ある賞を多数受賞。2012年に初の全国ホールツアーを敢行。2013年、誰もが知るクラシックの名曲を超絶アレンジした『モルト・カンタービレ』をリリース、2度目の全国ホールツアーを成功させ、大きな話題を呼んだ。メジャーデビュー10周年となる今年の夏に最新作『シンコペーション・ハザード』をリリースし、秋には3度目となる全国ホールツアーを敢行する。

山中千尋オフィシャルサイト

山中千尋レーベルサイト(ユニバーサル・ミュージック)

若手ジャズミュージシャンによる新たなムーブメントを起こすべく発足したコミュニティー『JAZZ SUMMIT TOKYO』。中山拓海、石若駿、江﨑文武、ぬかたまさしという実行メンバーが中心となって現在シーンに新たな新風を吹き込むべく定期的にイベントを開催中。そんな彼らが、8月29日(土)に六本木SuperDeluxeで90年代生まれのアーティストによる、最新鋭の演出を取り入れた今までとは一味違うジャズフェスティバルを開催します。







現在発表されている出演者は、寺久保 エレナ、井上 銘、金澤 英明、石若 駿、ものんくる。
今後随時出演アーティストは発表されるとのこと。

JAZZ SUMMIT TOKYOでは、現在このジャズフェスティバル開催に向けてクラウドファンディングで支援を募っています。
※クラウドファンディングとは?インターネットを通じてクリエイターが不特定多数の人達から作品制作の資金を募ることです。


■締切日時
2015/8/11(火)23:00まで。


■開催概要
日程:2015年8月29日(土) 夜
会場:六本木 SuperDeluxe
出演者:寺久保 エレナ、井上 銘、金澤 英明、石若 駿、ものんくる(順次公開中)


■プロジェクト詳細ページ
https://readyfor.jp/projects/jazzsummit(readyfor.jp)




【JAZZ SUMMIT TOKYOより】


JAZZ SUMMIT TOKYOは、若手ジャズ・ミュージシャンが中心となってこれからのジャズや音楽業界について考え、日本のジャズ・シーン、ひいては日本の音楽業界に大きなムーブメントを作りだす事を目的としたコミュニティです。

いまの日本にとって、ジャズという音楽は何なのか。

かつて、日本のジャズカルチャーの発信地であったジャズ喫茶・ジャズクラブは、ジャズを聴く場所であるほかに、学生の議論の場でもあり、文化人の交流地でもあり、様々な音楽以外のカルチャーの発信地でもありました。
また、今日でも多くの大学にジャズを演奏するサークルが存在していたり、さらにはジャズの本場であるニューヨークよりも東京の方がジャズクラブの数が多かったりすることなどから、

『ジャズは日本における一文化として深く根付いている音楽だ』

と、ひとまずのところは言えるのではないでしょうか。

しかしながら、今日の日本における『ジャズ』はかつて担っていた多くの役割を失いつつあります。
多くのジャズ喫茶・ジャズクラブでは、プロのジャズミュージシャンによるライブにも関わらず、ほとんどお客様がいないということが日常茶飯事という状況に陥ってしまいました。

もちろん、これには昨今の音楽産業全体の不況が与えた影響も大きいでしょう。

日本の音楽産業の市場規模は、最盛期の1998年に比べ半分以下になってしまいました。
ジャズの市場規模も同じように低迷し、今日の市場規模は音楽産業全体の2%にとどまっています。
(参考:日経ビジネス)

しかし、多くの場所で(たとえBGMとしてとはいえ)ジャズという音楽が利用され、認知されている国で、市場規模が産業全体の2%、クラシック音楽市場の10分の1、歌舞伎市場の半分以下にとどまってしまっているのは、今日のジャズの受容形態(BGMとしての認知)の問題のほかに、プロモーション方法、見せ方、ジャズ喫茶・ジャズクラブの在り方など、音楽産業全体の低迷以外にも様々な原因があると考えることはできないでしょうか。特に、技術の進歩によってセルフ・プロモーションが容易になった今日、ジャズ界がこの"プロモーション"の部分を改善する余地は大いにあると感じています。

また『ジャズ、興味はあるけど難しそう』という音楽リスナー層が一定数存在していることに対して、"入門編"と銘打った、過去の名作を用いたオムニバスCDが作り続けられているのではジャズに未来はありませんし、ジャズが演奏される"場所"も時代に合った経営を心がけなければ、次の世代にジャズの醍醐味を伝えることは出来ません。

一方、日本では数多くの飲食店でジャズが店内BGMとして採用されています。特に近年はどのラーメン店に入ってもジャズが流れているという不思議な現象が起きています。ライブや新作音源制作など、本来の『ジャズ』の魅力を伝える機会が減ってゆく中で、BGMとしての採用率は上がり続けている。

いまの日本にとって、ジャズという音楽は『都合の良いBGM』としての認知が深まる一方になってしまっているのではないでしょうか。

単なるBGMとしての音楽ではなく、即興演奏によってその場で作られる『その場限りの音楽』であり、即興演奏によって生まれる『瞬間の刺激』があるということを知ってほしい。日本に深く根付いているジャズという音楽の真髄を、もっと多くの人に、ジャズという音楽に生で触れることによって感じて欲しい。

JAZZ SUMMIT TOKYOは、そんな思いから『若手アーティストの協力』でムーブメントを起こそうと結成されました。

日本には世界レベルで通用するジャズ・ミュージシャンが数多く存在し、ジャズも日々進化し続けています。
日本における『ジャズ』がこれから、さらに"アツい"ものになるように。

そんな時代が訪れるキッカケになることを目指して。


JAZZ SUMMIT TOKYO 実行委員会
http://www.jazzsummit.net/

"TOUCH OF JAZZ"アルバム - 矢野沙織 セレクト:TOUCH OF JAZZ

青木カレンがナビゲートする番組「TOUCH OF JAZZ」では、毎回ゲストの方に
自身の「TOUCH OF JAZZした作品=ジャズに触れた作品」をご紹介いただいています。


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今回のゲストはアルト・サックス奏者の矢野沙織さん。

お父さんの影響で聴いたジャコ・パストリアス。
ここからチャーリー・パーカー~BE BOPとジャズの源流をたどる旅へ。
そういう意味ではまさに"TOUCH OF JAZZ"といえます。

ジャズ(音楽)の面白さはこういうところでもありますね。


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『ジャコ・パストリアスの肖像 / Jaco Pastorius』


「当時、家に娯楽がなくて暇だったので(笑)、父がコレクションするCDをよく聴いていたんです。父のコレクションは大半がファンクやロックで、フュージョンやジャズは少しだけだったのですが、このアルバムは、"何の音なんだろ?"っていう感じでベースの音にすごく興味を持ったんです。それまではブーツィー・コリンズみたいなベース・ラインがすごいと思っていたんですが。


特に好きだったのは1曲目に収録されている「Donna Lee」。調べてみたら元曲を演奏しているのはチャーリー・パーカーという人で、私と同じアルト・サックスを吹いている人だということが分かったんです。彼のサックスは、私が当時よく聴いていたメイシオ・パーカーやキャンディー・ダルファーの音色とは(どっちが良いとか悪いとかではなく)全然違うものだなと思って。


またチャーリー・パーカーが活躍していた1940年代の時代背景も含めて興味を持ったんです、こんな時代にアメリカってこんなことやってたんだって。ジャズもそうですが、快楽ってここまでいくとストイックというか、"喜び"っていうのと"真剣"だということが紙一重どころか一緒なんだなということを知ることになりました。」

矢野沙織


■タイトル:『Jaco Pastorius(ジャコ・パストリアスの肖像)』
■アーティスト:Jaco Pastorius
■オリジナル発売年:1976年

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【Jaco Pastorius- Donna Lee】




【Charlie Parker-Donna Lee】




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■タイトル:『Bubble Bubble Bebop』
■アーティスト:矢野沙織
■発売日:2015年4月22日
■レーベル : 日本コロムビア
■製品番号:COCB-54166

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[収録曲]

01. Blowin' The Blues Away
02. Bluebird
03. Puerto Rico~砂とスカート
04. Betty Et Zorg(Betty Blue)
05. Mercy, Mercy, Mercy
06. Bayou
07. Avalon
08. Bye Bye Babylon
09. Confirmation


[メンバー]
矢野沙織 (as)
中島徹 (p)
中村健吾 (b)
小松伸之 (ds)
元晴 (tp)
タブゾンビ(tp)
大儀見元 (perc)
中路英明 (tb)
ほかサルサスインゴサのメンバーが参加

2年半の沈黙を破って登場する、矢野沙織の新たなるステージ!ビ・バップからファンキー・ジャズ、そしてキューバンラテンまで、矢野沙織の真剣な歌心と遊び心が交錯する。基軸は"Bebop"に据えながらも、今の矢野沙織の音を最大限に活かしたファンキー・ジャズのいいところ、キューバンラテン要素の美味しいところを盛り込んだ、バブルの如く湧き出るサックス、スパークリングなパッション・ジャズを聴かせます。レコーディング・メンバーは、突出したテクニックを持ち合わせジャズ~ラテンまで幅広いジャンルで活躍し、これまでの矢野沙織を支えてきたピアニスト、中島徹、同じくこれまでの矢野沙織のリズムをサポートしてきたドラマー、小松伸之、ニューヨークに拠点を持ちながらも日本のジャズ・シーンの中核を担うベーシスト、中村健吾に加え、ジャズの枠を超え人気を博している"Soil & Pimp Sessions"のメンバー、元晴(ts)、タブゾンビ(tp)、さらに日本のキューバンラテンの重鎮バンド、サルサスインゴサのリーダーでありパーカッショニストの第一人者の大儀見元、そしてサルサスインゴサのメンバーも参加! 新たなパッションとグルーヴが矢野沙織を強力にバックアップします。




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【矢野沙織】(アルト・サックス奏者)
1986年生まれ 東京出身。9歳のときブラスバンドでアルト・サックスを始める。チャーリー・パーカーに衝撃を受けジャズに傾倒、14歳でビリー・ホリデイの自叙伝に感銘し、自らジャズクラブに出演交渉を行ってライブ活動をスタート。ジャズの名門SAVOYレーベル日本人アーティスト第2弾として2003年9月、16歳でセンセーショナルなデビューを飾る。モダン・ジャズの起源である"ビ・バップ"に真摯に取り組み、日本にとどまらずニューヨークでもライブを重ねる一方、テレビ朝日系「報道ステーション」テーマ曲に起用され、世に新世代ジャズの到来を知らしめた。マイルス・デイビスとの活動で知られるジミー・コブが、3rdアルバム『SAKURA STAMP』発売記念ブルーノート・ツアーで共演した際には、「日本のキャノンボール・アダレイ」と絶賛。ニューヨーク2日間公演でも本場オーディエンスを圧倒し、初のライブ盤として発売。5thアルバム『Groovin' High』では、2度のグラミー・ウイナーに輝いたアレンジの神様スライド・ハンプトンや、ジェームズ・ムーディなど巨匠ディジー・ガレスピーのオールスターズと共演を果たす。以降、ムーディ氏との親交は厚く、カリフォルニアの自宅に招かれての2週間にわたる個人レッスンを受けている。2007年春、花王"ASIENCE"の新たなアジアンビューティとしてCMに登場。同CMで使用されたオリジナル曲「I & I」を収録した、20歳にして初のベストアルバムは、第22回日本ゴールドディスク大賞 ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞。ジャズの枠を超えて広く注目を集めた。同年11月、現代最高のオルガニスト、ドクター・ロニ--・スミス・トリオを率いて、通算7枚目となるアルバム『Little Tiny』をリリース。2008年12月には、アレンジに斎藤ネコ氏を迎え、敬愛するビリー・ホリデイの得意としたレパートリーに取り組んだ『GLOOMY SUNDAY』を発売。そして、矢野沙織の原点とも言える、50年代のジャズ黄金期の楽曲を、ニューヨークで活躍する気鋭のミュージシャンたちを従え、ストレートアヘッドに聴かせる『BEBOP AT THE SAVOY』を2010年に発売。2012年、10周年イヤーに贈る、原点に帰るファン・リクエストアルバム『Answer』。ゲストに世界的トランペッター日野皓正氏を迎えリリース。2015年、SOIL&"PIMP"SESSIONSのメンバーである元晴(ts)とタブゾンビ(tp)、パーカッショニストの第一人者である大儀見元氏 率いる日本のキューバンラテンの重鎮バンド"サルサスインゴサ"をゲストに迎え、機軸は"Bebop"にすえながらも、ファンキー・ジャズ、キューバンラテンを盛り込んだアルバム、『Bubble Bubble Bebop』をリリース。



矢野沙織 オフィシャルサイト
http://www.yanosaori.com/

Monthly Disc Review2015.0701:Monthly Disc Review

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Title : 『Tokyo Adagio』
Artist : CHARLIE HADEN,GONZALO RUBALCABA



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東京の夜は、いつも刺激的で魅惑に溢れていて、
夕闇と共に立ち現れる高層ビル群の夜景に心を躍らせていたのは
いつの頃だったろうか。喧騒の中を漂い、美食と快楽らしきものを
求めては、それが多くの場合幻想でしかないということを知らずに、
まだ見ぬ光り輝いているはずの未来へと駆り立てられ、
無為に時間を浪費していた時代。


そういう時代がいつの間にか終わってしまったのか、
あるいは、僕自身がそういう場所から降りることを選択しただけなのか、
正直、本当のところはなんとも言えないのだけれど、
少しだけ、あのギラギラと輝いていた東京の夜が、
懐かしくも愛おしくもある。


今から10年前、2005年の東京の夜を想像してみる。
浮足立ったバブルはとうの昔に終焉を迎えているはずなのだけれど、
まだ、成長する未来を妄想することが許された時代。
そして、あの大きな災害が数年後に訪れるなんていうことは
誰一人、想像もしていなかった時代。
何も確信のようなものや、安心材料があった訳ではなく、
かといって大きな不安を抱くマイナス要因もない、
ただなんとなく、平穏な日々が続いていくんだろうな、
というくらいにしか考えていなかった時代。


2005年3月、表参道のBLUE NOTE TOKYOに、
CHARLIE HADENとGONZALO RUBALCABAが残したこの音源を聴きながら、
バブルと震災の狭間の幸福な時代を思い出す。

TOKYO ADAGIOに収められた、ゆるやかで平穏な時間は、
今の東京には、おそらく感じることのできない
貴重な瞬間であったのだと強く感じる。
当然、もうCHARLIE HADENのBassが東京の夜に響くことはないのだけれど。


文:平井康二




【Charlie Haden - Gonzalo Rubalcaba / Tokyo Adagio】







Recommend Disc

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Title : 『Tokyo Adagio』
Artist : CHARLIE HADEN,GONZALO RUBALCABA
LABEL : ユニバーサルミュージック(UCCI-1021)
RELEASE : 2015.7.1

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Gonzalo Rubalcaba (p)
Charlie Haden (b)
Recorded Live at Blue Note Tokyo, Japan on March 16th to March 19th, 2005.

【SONG LIST】
01. En La Orilla Del Mundo
02. My Love And I
03. When Will The Blues Leave
04. Sandino
05. Solamente Una Vez
06. Transparence


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「Monthly Disc Review 平井康二」アーカイブ平井康二

2015.4.1 ・2015.5.1 ・2015.6.1




Reviewer information

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平井康二(cafeイカニカ オーナー)

1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、
音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、
音楽業界にて仕事をする。
2009年、cafeイカニカをオープン
おいしいごはんと良い音楽を提供するべく日々精進。


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cafeイカニカ

●住所/東京都世田谷区等々力6-40-7
●TEL/03-6411-6998
●営業時間/12:00~18:00(毎週水、木曜日定休)
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bar bossa vol.47:bar bossa

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vol.47 - お客様:山崎雄康さん(チッポグラフィア)


【片思い音楽】





いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

今回は大阪でチッポグラフィアというカフェを経営されている山崎雄康さんをゲストにお迎えいたしました。


林;こんばんは。お飲み物はどうしましょうか?


山崎;ほぼ下戸なので、何かアルコール度数の低い果汁たっぷりのものをお願いします。


林;最近、季節のフルーツのカクテルというのをやってまして、今、大阪のデラウェアがあるのですが、そのカクテルでどうでしょうか?


山崎;お願いします。


林;早速ですが、お生まれと小さい頃のお話を教えていただけますでしょうか。


山崎;1966年大阪府茨木市生まれです。小学校に入るとき枚方市に引っ越しましたが、どちらも土着的なにおいの薄い郊外です。両親を含め、身の回りに音楽の好きな人は希薄でした。いちおうビートルズ来日の年なんですが、勿論まだ0歳ですから。沢田研二もキャンディーズもリアルタイムでラジオやテレビから流れていたはずですが、それほど夢中になった記憶はありません。


林;なんかどんどん意外な告白が始まっていますが...


山崎;そういえば、これまで両親が歌を歌う姿って一度も体験したことがないかもしれません。身の回りに音楽はなかったですね。そして小学校の音楽の授業は苦痛以外の何物でもありませんでした。教室内には足踏みオルガンがあり、縦笛とピアニカの世代のはずですが、既にこの頃から楽器が弾けないことへのコンプレックス、致命的な音痴に拍手が人とずれるというリズム感の欠如といった絶対「非」音階ともいうべき音感のなささが芽生え始めています。いまだにトラウマ的に覚えているのが、楽譜のテストの前日。記号化された音符が全く理解できず悶絶していました。これは今も変わりませんね。決して自分には振り向いてくれない音楽という存在。思えば音楽への一方的な片思いはここから始まったのです。


林;あの、僕も楽器は出来ませんが、そんなに片思いなんですね。中学に入って変わりましたか?


山崎;幼少期にこっぴどく振られて、それ以来避けていた音楽への片思いの始まりです。最初は音楽よりも映画へ興味が早かったですね。郊外でしたので、映画館へ通うというより、もっぱらテレビの洋画劇場。今も通じる「洋モノ」嗜好はこの頃からです。家にあった数少ないレコードはもっぱら映画の主題歌を集めたムード音楽のような編集盤でした。オリジナルではなく、****楽団とかが、編曲、演奏したものですね。何故か父親のレコードにいつもは入っていたのが、「慕情」と「男と女」です。その刷り込みなのか、どちらも今も大好きな曲です。最初に自分で買ったレコードははっきりしないのですが、多分ポール・モーリアあたりですかね。


林;ポール・モーリア! 僕は親が聞いてましたが。最初が映画だとそうなるんですね。


山崎;中学生から高校生になって映画から音楽への興味が広がり、洋楽ポップスを聴くようになりました。不思議と歌謡曲時代はありません。いきなり洋楽でした。ABBAやオリビア・ニュートンジョンなんかを覚えています。同時に好きな音楽がジャンルをまたぎ、変化し続ける遍歴の始まりです。この頃、赤盤、青盤でビートルズにも出会ったはず、流行りの洋楽やロックの古典を遡って聴いていました。映画絡みで記憶されているのが、ブロンディの「コール・ミー(『アメリカンジゴロ』の主題歌)」をウォークマンで心斎橋の名画座への途中、繰り返し聴いていました。高校生の時に突然爆発したのがハードロック、へヴィメタルです。今も続く雑誌「BURRN!」を創刊からしばらく購読していました。ちょうどアイアンメイデンなどイギリスではNWOBHMという動きがあり、どっぷりはまってしまいました。並行してディープパープルやレッドツェッペリンなど王道のハードロック。大学になって一気にパンク、ニューウェーブ化するまでこれは続きました。


林;高校の時は「BURRN!」ですか。これまた意外です。さて、大学に入るとどうでしょうか?


山崎;自分の音楽遍歴は焼畑農業なんですね。いったんのめり込むとルーツを辿って深く掘り下げるけど、段々土地がやせてくると、飽きてくるということなんですけどね、次の土地を探して、いつの間にか移り変わっているのです。


林;焼畑農業(爆笑)


山崎;"ヘビメタ"はある日憑き物が落ちたように去り、今度はイギリスのパンク、ニューウェーブと60年代のサイケデリックロックという双頭政権でした。ザ・ドアーズのジム・モリソンを崇め、その流れを汲む英国音楽に夢中でした。そして何といっても"スタカン"です。自分の音楽遍歴でスタイルカウンシル以前と、以後では大きく嗜好が異なります。これはビッグバン級の衝撃でした。このバンドと出逢ったから、現在へと四半世紀以上続く流れがあります。ジャズやボサノヴァ、ソウルミュージックなどポール・ウェラーのルーツを遡っていき、その先々の土地でどっぷりとその音楽へのめり込みむという、焼き畑農業の拡大化が一気に開花しました。またシングルB面収録されていたミック・タルボットのオルガンのインストからハモンドオルガンへの偏愛がスタートしました。


林;山崎さんの世代ってみなさん必ずスタカンにやられてますね。さて、その後は?


山崎;ここで再び絡んでくるのが映画なんですね。19歳頃から、8ミリフィルムで自主製作の映画を撮り始めました。自分作品の好きな曲の無許可サウンドトラック化が課題となりました。映画に使えそうな音楽を探すという、まるでラッパーのサンプルネタ探しみたいなものでしょうか?ちょうどその頃、アナログ盤からCDへの転換期でしたのでアナログとCDが入り混じったコレクションが肥大しながら興味対象のジャンルが拡散していきました。


林;映画も撮ってたんですね。なるほど、それであんなに映画ツイートが多いんですね。そして大学を卒業しますが。


山崎;大学を卒業してからも音楽遍歴は止まりません。多少余裕もあったのか、さらに音楽へ費やす手間と資本が増大しました。ある時ふと気が付きました。自分がこれほど音楽を愛して、貢いでいるのにどうして一向に自分の方へ振り向いてくれないのか?常に片思いだったんですね。どんなに音楽が好きでも、自分で歌ったり、楽器を弾いたり、さらには言葉でその素晴らしさを語ることすらできないのですから。永遠に一方通行な思いです。そして自分がこれまでやってきたことと言えば、決して振り向いてくれない相手にひたすら貢ぎ続けることだったんですね。これはお布施です。現世のご利益といえば、次の瞬間には消えゆく音と共に過ごすだけという過酷な信仰です。これは現在に至る悲しい物語です。音楽はいつも片思いでした。


林;あの、そういうスタイルで音楽に接している方、すごくたくさんいらっしゃいますよ。たぶん、PC画面の向こう側でみんなうなずいています。お店を始めるきっかけのようなものを教えて下さい。


山崎;音楽は映画と同様、どんな時にも日々の傍にありました。転職することなく、サラリーマンを10年以上(結局15年で退職)続けてきましたが、何となく先が見えなくなってきて、将来への閉塞感が積もり積もり、いつしか自分で店を持つことを考え始めました。ちょうどその頃、いわゆるカフェブームと出逢います。先ほどの音楽遍歴の果てがちょうどジャズやソウル、ブラジル音楽といったカフェミュージック・ブームと重なっています。


林;なるほどなるほど。


山崎;音楽と珈琲が楽しめる場所を提供できないかと思い始め、開店準備をスタートしました。結局2年位開業スクールに通い、いろいろと勉強しましたね。常に頭にあったのは音楽と珈琲でした。なんちゃってオシャレカフェではなく、ちゃんと珈琲が美味しい、アク抜きされた現代的なジャズ喫茶というのが当初のコンセプトでした。勿論ジャズ喫茶全盛の世代ではなく、カフェブームの影響下の後発組で、サードウェーブとの間の世代となります。珈琲が美味しいとうのがこだわっていたポイントでした。


林;珈琲はどうやって勉強されたんですか?


山崎;師匠(珈琲サイフォン 河野雅信氏)の珈琲に出逢い、結局豆を煎ることに興味を抱き、自家焙煎となりました。焙煎修行の為に1年間東京で不法就労(?)しました。そこでズブズブとのめり込んだのがブラジル音楽です。珈琲豆の輸入商社主催の農園見学でブラジルへと渡りました。一度あの国を訪れると病みつきになるというのは本当です。内陸ミナスの農園の梯子ばかりでしたがブラジルの持つ魅力にとりつかれ、関西と比べ圧倒的に情報が溢れる東京での生活が一気にブラジル化しましたね。何でもそうでしょうが、生産者の生の顔を一度でも体験すれば、加工者としては心意気に感化され、その生産物を最良の形で提供できたらと思うはずです。だから店のコンセプトはブラジルを音楽と珈琲で楽しむ店となりました。渡伯時は殆ど植物(コーヒーの樹)ばかりでしたので、円盤探しに再訪問を夢見ました。未だに達成できていませんが。予定通り1年の修業を終え、大阪へ戻り、そして開業。あっという間に10年が経過しています。日々の珈琲と音楽の積み重ねが今日に至ります。


林;そうなんですか。ブラジルはまず最初に珈琲農園なんですね。ほんと、あの国の人たちに触れると世界観が変わりますよね。さて、みんなに聞いているのですが、これから音楽はどうなるとお考えでしょうか?


山崎;難しい質問です。「最近の若者は.........」という枕詞で対象の否定語が続きます。映画だって、音楽だって、活字だってなんでもそうです。自分より下の世代は、かつて自分が狂おしいほど夢中になったものに、それほど執着がないのは事実かも知れません。これからどうなるかなんて全く分からないのですが、自分はデータ配信には興味が薄く、アナログであれ、CDであれ、実物を探し続けて、やはり手に入れたときの快感はかえがたいものです。片思いは変わらないのですが、時間と手間、資本の許す限り、音楽へのお布施は続けていきたいと思います。しかし時々自分の増大する蓄積音盤が果たしてどうなるのか不安になります。興味の薄い家族にとっては単なる燃えないゴミでしょう。年々記憶が怪しくなり、把握できる許容を越えた情報量が脅威となるかもしれません。「何枚持っているか?」とは絶対聞かないでください(笑)。


林;お布施っていうのがやっぱり(笑)。奥様は理解がないんですね。僕の場合は妻も元レコード屋なんですごく楽ですが。それではみんなが待っている「選曲」に移りましょうか。まずテーマは何でしょうか?


山崎;テーマは「片思い音楽」。所謂失恋ソングというより、私的な音楽への片思いの遍歴です。決して実らない一方的な思いですが、同時にそれは今の自分を形作っています。恥ずかしい過去の遍歴を紐解いていきます。


林;(笑)


01. Carmen Cavallaro 愛情物語(The Eddy Duchin Story)より「BRAZIL」

山崎;実際に映画を観たのはずっと後ですが、数少ない父の持っていたLP。自伝映画のサウンドトラックですが、劇中のピアノ演奏はCarmen Cavallaro。ムーディーなカクテテルピアノ的な演奏は何か訴えるものがあったのでしょう。今でもCDを持っています。後付け理論ですが、今に至るアリ・バホーゾ「BRAZIL(Aquarela do Brasil ブラジルの水彩画)」への偏愛、そして同名のテリー・ギリアムの映画のタイトル曲への最初の刷り込みも全てここから始まったのです。余談ですが店のメニューにも「水彩画のミルクコーヒー」ってのがあります。


林;僕もあの映画も含めこの世界、大好きなのですが、あの映画、こういう演奏ってブラジル人はどういう風に感じているんでしょうかね。


02. Francis Lai「男と女(Un Homme Et Une Femme)」

山崎;ダバダバと映画絡みをもう1曲。自分が生まれた年に制作、公開された作品。当時大ヒットしたのでしょうね。ゆりかごの中でダバっていたのかもしれません。複数のバージョンでの演奏が父のレコードにあり、いまだに自分でもこの曲のカバーはついつい手に取ってしまいます。アヌク・エーメのアンニュイな色香、全てのショットが奇跡的にフォトジェニックな映画は時折無性に観たくなり、サントラもまた店内で繰り返して聴いています。

林;僕も何回観たかわかりません。映画って「世界観」をフィルムの中に閉じ込めることなんだなあとこの映画で知りました。


03. The Style Council「Blue café 」

山崎;そろそろビッグバンの登場です。アルバム通して諳んじているくらい繰り返して聴いた盤です。全て捨て曲なしの名盤ですが、短いインストのこの曲は自分の映画に不許可使用したひときわ思い出の曲です。けだるいギターとストリングスが劇中の回想シーンで夏の終わりの海辺(琵琶湖ですけど)をけだるく歩く白いドレスの女性の姿を脳裏に蘇えらせます。今聴いても何とも切ない曲です。


林;どの曲を選ぶのかすごく悩まれたのではないでしょうか。これを選ぶというのが山崎さんらしいですね。


04. Sly & The Family Stone「Que Sera Sera」

山崎;スライ一番の偏愛盤『Fresh』からの1曲で「In Time」と並んで好きな曲です。
新京極の映画館でのオールナイトで「ウッドストック」を観て以来、衝撃的にはまったバンドですが、今も変わらぬ偏愛を続けています。ヨレヨレでダウナーなスライの声とスカスカのリズムが聴くたびに、人生なるようになるさという勇気を与えてくれます。


林;スライは山崎さんは『Fresh』を選ばれるの、すごくわかります。人の内側に向かっていく感じがたまんないアルバムですよね。


05. David T Walker「What's going on」

山崎;Marvin GayeやDonny Hathawayなどニューソウルへの憧憬は現在も進行中です。90年初頭のアシッドジャズから始まったレアグルーヴやジャズファンクのブームはどんぴしゃりの渦中でした。これもスタカン、ポール・ウェラーから繋がる余波なのですけど。特にこの曲が好きで、Bernard Purdieなど豪華メンバーでのライブはこの渋谷ではなく、心斎橋で体験しました。演奏されたこの曲で、何故か涙がボロボロと流れて、ギターという楽器の持つ感情を揺さぶる魔力に参ってしまいました。


林;メロウですねえ。山崎さん、こういうので涙がボロボロな方なんですね。良いですねえ。


06. Joe Henderson「Blue Bossa」

山崎;そろそろジャズを1枚。ブルーノートに始まったジャズ遍歴です。演奏うんぬん以前にジャケットの格好良さが先行しました。フランシス・ウルフとリード・マイルスによるあのレイアウトと写真のトリミングはいつまでも眺めていたくなり、文字デザインに目覚め、開業時の店名が「タイポグラフィ」となるに至ります。この曲だけは何故か実際に失恋時に繰り返して聴いていた記憶があり、本物の片思いソングです。


林;あ、店名はそういう流れがあったんですね。失恋曲、誰にでもありますね。その曲を聴くとあの女の子のことを思い出す曲。


07: Caetano Veloso「Cucurrucucu Paloma」

山崎;カエターノ・ヴェローゾにはまるきっかけの1曲は2本の映画です。ペドロ・アルドモバル「トーク・トゥ・ハー」、そしてもう1本ウォン・カーワイ「ブエノスアイレス」で使用されていました。前者は劇中の演奏シーンがあり、その怪しさはまさに「なんじゃこれはっ!」的に衝撃でした。既に「ドミンゴ」とかは聴いていたはずですけど、強烈だったのは映画のシーンの方でした。後者もいろいろと思い出深く、妻が偶然店に飛び込み営業に来て、初対面なのに何故か好きな映画の話で盛り上がり、店内でこのサントラ盤を聴いたものです。本人は覚えていないそうですが。余談ですがこの二人の監督は自作での音楽チョイスには唸ります。偏愛ポイントがはっきりしており、実は結構ベタでミーハーな王道なのですが、似た趣味なら、絶対たまりませんよ。


林;奥さまとそんな出会いが。さらに本人が覚えていないってまた素敵です(笑)。


08: Glenn Gould「Bach The Goldberg Variations」

山崎;クラシックは門外漢ですが、唯一の例外がグレン・グールド。冒頭の「Aria」を聴くたびに胸を掻き毟られる衝動が止まりません。どちらかといえば81年再演版の方が好みです。今は曲買いで、色々な演奏を見つけるたびに買ってしまいます。


林;意外なグールドが登場ですね。一度グールドにはまると全部聴きたくなりますよね。


09: Gretchen Parlato「Flor De Lis」

山崎;元々のジャヴァンも好きなのですが、これは完全に原曲越えの偏愛曲。ブラジル音楽をまぶした女性ジャズボーカルというツボがあります。愛情をこめて非ブラジルによるブラジル音楽をインチキブラジルと呼んでいました。一時期この盤は本当にしばしば店内で流れていました。間奏前の男声コーラス(多分ギターのLionel Loueke)が、さりげなく寄り添う瞬間、まるで神が舞い下りたかのような鳥肌が伴います。どうしようもなく好きすぎる曲です。


林;非ブラジルによるブラジル音楽にはまるあたり、山崎さんのチョイスのテイストがすごくわかってきました。確かに男性コーラスが寄り添う瞬間、鳥肌ですね。


10: 探偵物語オープニング「Bad City」

山崎;片思いの時期は前後するのですが、最後に珈琲屋の原点の1曲。珈琲を辿っていくとその源流となるのが松田優作演ずる工藤俊作の1杯です。劇中で依頼者へ珈琲をブラックで提供していました。サイフォンに憧れ、自分でも一時期ずっとサイフォンで珈琲を点てていて、挙句の果てはサイフォンメーカーに修行の為に就職したのですから。ちなみに工藤ちゃんのブレンドはキリマンジャロ2、モカ1、ブルーマウンテン3らしい。いまだに自分で試したことはありませんけどね。


林;工藤ちゃんの飲食シーン、後の日本人に大きく影響を与えましたよね。僕としてはティオペペをボトルで飲みながら食事をするというのがカッコいいなあ、いつか真似してみたいなあと思いました。


さて、山崎さん、最後に何か宣伝みたいなものはありますか?


山崎;この年末で開店10年を迎えます。早いものです。これまでのご贔屓本当にありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いいたします。


林;ありがとうございます。みなさんも是非、チッポグラフィアさんへ行ってみて下さいね。山崎さん、お忙しいところどうもありがとうございました。


●TIPOGRAFIA HP→ http://www.tipografia.sakura.ne.jp/about.html

●山崎雄康さん twitter→ https://twitter.com/tipografia_




そろそろ夏が近づいてきましたね。また新しい恋が始まるのでしょうか。
それではまた来月もこちらのお店でお待ちしております。


bar bossa 林伸次


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bar bossa information
林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

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