

Title : 『North Sea Jazz Legendary Concerts』
Artist : Wayne Shorter
みなさんこんにちは、曽根麻央です。
今日はウェイン・ショーターの隠れた名盤『North Sea Jazz Legendary Concerts』をご紹介します。ショーター後期といえば、いまや伝説的な存在となったウェイン・ショーター・カルテットの一連のライヴ作品を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
時系列で並べると、
・2002年(2001年録音)『Footprints Live!』
・2005年(2002-2004年録音)『Beyond the Sound Barrier』
・2013年(2010-2011年録音)『Without a Net』
・2018年(2016年録音)『Emanon』
となります。『Emanon』は3枚組で、1枚目がオーケストラとカルテットのスタジオ録音、2~3枚目がカルテットのライヴ録音という構成です。
この流れの中で、よく話題に上がるのが、2003年のスタジオ作『Alegría』です。実はこのアルバム、カルテット結成以前のレコーディングで、ショーターが新カルテットのメンバーを決めるために行った"試し"のセッションであったという話を、ピアニストのダニーロ・ペレスとジョン・パティトゥッチ本人から直接聞きました。
ブラッド・メルドーかペレスか、テリ・リン・キャリントンかブライアン・ブレイドか――。
ショーターはさまざまな可能性を探っていましたが、アルバム1曲目「Sacajawea」のラストで聞こえるショーターの笑い声の瞬間、カルテットの方向性が決まったというのです。
こうして誕生したショーター・カルテットは、その後およそ20年にわたり現代ジャズの指針を示し続けました。
改めて今回の『North Sea Jazz Legendary Concerts』を見てみると、ベースがジョン・パティトゥッチではなくクリスチャン・マクブライドになっている点が目を引きます。本作は 2002年のノース・シー・ジャズ・フェスティバルで行われた複数の公演から編まれたもので
・ハービー・ハンコックとのデュオ(7月12日)
・ショーター・カルテット(7月13日)
・Prima La Música Orchestra との共演(7月14日)
という3日間の演奏を収録しています。
カルテット期の真っただ中ですが、この時はパティトゥッチが参加できず、マクブライドが代役として出演しています。
このアルバムには『Footprints Live!』に残る"初期カルテットの荒々しさ"に加え、ペレスのハーモニーがさらに広がりつつある"中期以降のサウンドの萌芽"が聴き取れます。また、Prima La Música Orchestra との共演2曲は、『Without a Net』や『Emanon』で本格的に提示された〈オーケストラとジャズ〉の融合が、すでにこの段階で形になりつつあったことを示す貴重な記録です。
最後の「Meridianne (A Wood Sylph)」は、巨匠ハービー・ハンコックとのデュオ(ボーナストラック的収録)で、ファンにはたまらない演奏です。
01. Orbits
オリジナルは1967年のマイルス・デイヴィス『Miles Smiles』に収録。
当時の"コードレス"なスリリングな雰囲気とは異なり、本作では美しいオーケストレーションのもとテーマが提示され、その後Fを中心にカルテット全員が緊密な即興を展開。オーケストラとジャズが自然に共存する、見事な構成になっています。
02. Midnight in Carlotta's Hair
こちらもオーケストラとの共演。2017年のエスペランザ・スポルディング&テリ・リン・キャリントンとのライヴ盤にも収録されている佳曲です。
印象的なベースラインの上でカルテットが自由に即興を繰り広げ、オーケストラが加わるとリリカルかつエキゾチックな主題が姿を変えながら現れ、時間をかけて大きなクライマックスへ向かいます。
なお、この曲のオーケストラスコアはSchottからデジタルで入手可能です。
続く3曲はカルテット編成による演奏です。
03. Smilin' Through
1919年の古いバラード。『Beyond the Sound Barrier』でも取り上げられており、ショーターが愛したレパートリーであることがわかります。メロディーが何度も姿を変える背後で、リズムセクションが自在に色合いを変えてゆく演奏。
04. Footprints
1967年『Miles Smiles』収録、ショーターを代表する名曲。『Footprints Live!』での演奏が広く知られていますが、本作でもカルテットが深い呼吸で再解釈を行っています。
05. Aung San Suu Kyi
1997年、ハービー・ハンコックとのデュオ作『1+1』で初演されたオリジナル。『Footprints Live!』にも収録。親しみやすいブルース形式と、アジア的ニュアンスを含むメロディーが魅力です。
06. Meridianne (A Wood Sylph)
ハンコックとのデュオ演奏。『1+1』にも収録されており、本作では貴重なボーナストラックとして楽しめます。
文:曽根麻央 Mao Soné
曽根麻央『8つの小品』

ジャズピアニスト兼作曲家・曽根麻央が贈る最新スタジオアルバム『8つの小品』。第一子誕生という人生最大の節目に生まれたこの作品は、家族の愛、日常の輝き、そして音楽への深い探求が織り込まれた45分間の組曲。緻密なオーケストレーション、ジャズとクラシックの垣根を超えた響き、そして親子の時間から生まれた優しくもダイナミックな旋律。新たな旅立ちの予感と共に、音楽の喜びを届ける一枚。
【Songs】
1. Ⅰ. Overture (feat. Ryo Miyachi, Hironori Suzuki)
2. Ⅱ. The Light You'll See
3. Ⅲ. Maria's Eye
4. Ⅳ. When the Angel Cries (feat. May Inoue, Ryo Miyachi, Hironori Suzuki)
5. Ⅴ. Lullaby
6. Ⅵ. Rumba (feat. Kojiro Tokunaga, Ryo Miyachi, Kan)
7. Ⅶ. Love Letter (feat. Edmar Colón)
8. Ⅷ. Finale Part 1 (feat. Kan)
9. Ⅷ. Finale Part 2 (feat. Ryo Miyachi, Hironori Suzuki)
【CD Bonus Track】
10. Waltz for Debby
11. A Song for Jobim
12. Lullaby (Piano Solo ver.)
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・2020.04『Motherland / Danilo Perez』・2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』・2020.06『Passages / Tom Harrell 』・2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』・2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』・2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』・2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』・2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』・2020.12『Three Suites / Duke Ellington』・2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』・2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』・2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』・2021.04『Something More / Buster Williams』・2021.05『Booker Little / Booker Little』・2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』・2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』・2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』・2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』・2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』・2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』・2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』・2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』・2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』・2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』・2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』・2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』・2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』・2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』・2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』・2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』・2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』 ・2022.12『The Revival / Cory Henry』・2023.1『Complete Communion / Don Cherry』・2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』・2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』・2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』・2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』・2023.6『Covers / James Blake』・2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』・2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』・2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』・2023.10『MAINS / J3PO』・2023.11『Knower Forever / Knower』・2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』・2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』・2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』・2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』・2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』・2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』2024.09『Potro De Rabia Y Miel / Camarón De La Isla』2024.10『Calle 54 / Various』・2024.11『Trumpets Of Michel-ange / Ibrahim Maalouf』・2024.12『Sings for Only the Lonely / Frank Sinatra』・2025.01『Hero Worship / Hal Crook』・2025.02『Undercurrent / Kenny Drew』・2025.03『Live In Toronto 1952 / Lennie Tristano Quintet』・2025.04『Antidote / Chick Corea & The Spanish Heart Band』・2025.05『Hot Five & Hot Seven / Louis Armstrong』・2025.06『Panamonk / Danilo Pérez』・2025.07『Nat King Cole Sings/George Shearing Plays / Nat King Cole、George Shearing』・2025.08『Clifford Brown and Max Roach / Clifford Brown and Max Roach』・2025.09『Montreux '77 / Ray Bryant』・2025.10『Crystal Silence / Gary Burton & Chick Corea』
| Reviewer information |
![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |


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