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2026年5月アーカイブ

My First Jazz Vol.98-渡邉瑠菜:My First Jazz

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Title:『My Song』
Artist:Keith Jarrett European Quartet


シンガーソングライター/サックスプレイヤーの渡邉瑠菜です。

私がご紹介したい"初めてのジャズアルバム"は、Keith Jarrett European Quartet の『My Song』です。

この作品を知ったのは高校生の頃でした。所属していたビッグバンド部に、毎週金曜日教えに来てくださっていたドラムの先生が教えてくれたのがきっかけです。

このアルバム全体を通して流れる、心が締め付けられるようなメロディーと、息を含んだ透明なサウンド。初めて聴いた時の感覚は、今でも忘れられません。この作品で初めて Jan Garbarek の演奏に出会ったのですが、あの音色と歌い方に心を完全に奪われました。

それまで私が知っていたサックスの音とはまったく違っていて大きな衝撃を受けたのを覚えています。私は中学・高校とアルトサックスを吹いていたので、ソプラノサックスやテナーサックスには強い憧れがありました。

他の楽器を吹いちゃいけないなんてルールは無いんですが、彼の音を聴いてからは、アルトサックスでも近いニュアンスが出せないか、ずっと模索する学生時代でした。
中でもタイトル曲の「My Song」と「The Journey Home」は特にお気に入りの楽曲です。

私は音楽一家で育ったわけではなく、中学のビッグバンド部をきっかけにジャズに触れ始めました。それまでは、インストゥルメンタルの音楽をあまり聴いてこなくて、歌詞のあるポップスに心を動かされることが多かったです。歌詞に共感して涙が出たり、前向きになれたり。

でも、歌詞のない音楽にここまで心がきゅーっと揺さぶられて、涙が出る。そんな体験をしたのは、このアルバムが初めてでした。

収録曲の「Mandala」は、実は最初に聴いた時はよくわからなくて、一曲だけ飛ばしていました(笑)。でも、聴き重ねるうちに少しずつこの曲の聴こえ方が変わっていって、その変化も含めてとても印象に残っています。今ではアルバムを通して、すべての曲が大好きです。

中学生の頃からビッグバンドを通してジャズの世界にのめり込んでいった私にとって、"美しくて、儚い音楽に涙が出る"という感覚は、この作品が初めて教えてくれたものでした。

今でもこのアルバムを聴くと、あたたかい気持ちで朝を迎えられます。
自分にとって、おまもりのような大切な作品です。


渡邉瑠菜









My First Jazz

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Title : 『My Song』
Artist : Keith Jarrett European Quartet
LABEL : ECM Records
RELEASE : 1978年

アマゾン詳細ページへ

【SONG LIST】
01. Questar
02. My Song
03. Tabarka
04. Country
05. Mandala
06. The Journey Home




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 ■2026年3月27日に自身初となる1st Album「RETURN TO INNOCENCE」をリリース
 ジャズをルーツにもつ渡邉瑠菜が、インストゥルメンタルから歌ものまで、ジャンルの垣根を越えて描いたアルバム。
全10曲のオリジナルを収録。
クスッと笑ってしまうような愛おしい日常から、つらい気持ちにそっと寄り添う瞬間まで、さまざまな感情を音に閉じ込めた一枚。

RETURN TO INNOCENCE

私にとって、この作品は出発点となるアルバム。
「無垢に帰る」というテーマのもと、勇気を出して踏み出した先にある、何にも変えられない純粋なはじまりの場所を描いた。

それは、いつでも帰ることのできる、決して消えることのないあたたかい居場所。
ファーストアルバムとして、そんな想いを込めて名付けた一枚。




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【渡邉瑠菜(Luna Watanabe)】
2002年11月28日生まれ。 
アーティスト/作詞・作曲・サックス・ボーカル 

サックスプレイヤーとして10代より音楽大学在学中からプロ活動を開始。 
Blue Note Tokyo All Star Jazz Orchestraのメンバーとして、シンガポール公演およびTaipei Jazz Festivalにリードアルトとして出演。 
これまでにINCOGNITO、Chris Potter、Steve Gadd、Larry Carlton、Blue Lab Beats、Manhattan Transferなどのアーティストと共演。 テレビ朝日「題名のない音楽会」に出演。 角松敏生のツアーおよびレコーディングに参加。 「PERSONA5 Special Big Band Tour」への参加、Montreux Jazz Festival 2025に出演。 

第54回 ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテストにて、昭和音楽大学 Lilly Jazz Orchestraとして最優秀賞を受賞。 あわせて、歴代女性初となる個人賞・最優秀ソリスト賞を受賞。 
2024年、かわさきジャズ BRIDGEアーティストに就任。 同年、川崎市文化賞 アゼリア輝賞を受賞。 
富士五湖アンバサダー、山梨アンバサダーを務める。 
 
作詞・作曲・ボーカルを軸としたソロアーティストとしても活動し、 自身初のワンマンライブをBLUE NOTE PLACEにて開催。2026年3月27日に1st Album「RETURN TO INNOCENCE」をリリース。
ジャズをルーツにしながらも、ジャンルにとらわれない楽曲制作と、唯一無二の存在感で活動の幅を広げている。
https://www.lunawatanabe.com/



Latest Album

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Title : RETURN TO INNOCENCE
Artist :渡邉瑠菜
Label :INDEPENDENT
Release : 2026年3月27日

【SONG LIST】
01. 手垢
02. I Keep On
03. 今様色
04. 雪溶け
05. まぁへーきずら
06. 星のまにまに
07. わすれがき
08. おばかっちょ
09. ひつじ雲
10. 帰り路





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【KKBOX Podcast「My First Jazz」】
JJazz.Netとの連動によるオリジナルコンテンツ。
ジャズ・ミュージシャン本人の音声コメントをお届けしています。
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曽根麻央 Monthly Disc Review2026.5_ Karim Ziad : Ifrikya:Monthly Disc Review



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Title : 『Ifrikya』
Artist : Karim Ziad


アルジェリアが誇る名ドラマー、カリム・ジアド(Karim Ziad)のアルバムをご紹介します。


彼は、アルジェリアやモロッコといった北アフリカの伝統的なリズムを、現代の楽器やジャズ・ポップスのメロディーと見事に融合させるアーティストです。その卓越したビートは、民族音楽を深く探求するミュージシャンからも絶大な支持を得ています。


特に「Chaabi(シャアビ)」と呼ばれるアルジェリアのリズムが炸裂する「The Joker」「Gwarir」「Amaliya」の3曲は圧巻です。今回は、その不思議なリズムの仕組みについても少し触れてみましょう。


北アフリカの音楽はアラブ文化と密接に関わっています。聴き込むうちに、フラメンコや中東音楽との繋がりがうっすらと見えてくるはずです。アフリカ、中東、南ヨーロッパ----当時から人々が活発に行き交い、文化を交差させてきた歴史が音の粒から立ち上がってくるかのようです。


シャアビというスタイル自体は1930年代に成立した大衆音楽で、意外にも歴史は新しいのですが、その源流はさらに古く、アンダルシア音楽(Andalusi)やアラブ音楽の詩の形式「ムワシャー(Muwashshah)」にあると言われています。長い年月をかけてフラメンコなどと起源を同じくしながら進化してきた、まさに「歴史の結晶」のような音楽なのです。
シャアビが「難しく」聞こえる理由
我々のように西洋的な音楽教育を受けた耳にとって、シャアビのリズムが複雑に聞こえる最大の理由は、「一番低い音がくる場所が1拍目ではない」ことにあります。
シャアビの最小単位は6拍子(あるいは12拍子)で構成されています。


基本の6拍子:
1 2 3 4 5 6


アクセントの位置(h=高音 / L=低音):
1 2 h 4 L 6 (1小節目)
1 h 3 4 L 6 (2小節目)


手拍子の柱(●):
● 2 h ● L 6 | ● h 3 ● L 6


このように「●」の位置で聴くと均等な4拍子のようにも錯覚しますが、低音(L)が「5」にくるため、重心が後ろに引っ張られるような独特の浮遊感が生まれます。さらに高音(h)や低音が奇数拍を強調するため、高度なポリリズムが自然に形成されるのです。


この「頭拍に重心が来ない」感覚は、ベネズエラのホローポ(Joropo)など、ラテン諸国の3拍子系グルーヴにも共通する魅力です。しかし、それぞれの地域で辿ってきた歴史は異なります。リハーサル現場で我々が「ラテンで!」という指定に「どのラテン?」と困惑してしまうのは、それだけ細分化された豊かな名前と歴史がリズムに宿っているからなのです。


ピックアップ・トラック
M9「The Joker」
まずはこの曲から。ピアノのミュート奏法による小気味よいベースラインに導かれ、アルジェリアの弦楽器マンドールやバンジョーが入ってきた瞬間、シャアビの世界が始まります。ベースラインの最も低い音とバスドラムが鳴る場所が、先ほどの解説でいう「5拍目」です。最初はここを「1」だと勘違いしてしまいそうになりますが、聴き込むうちにリズムの構造が立体的に立ち上がってきます。


M8「Gwarir」
シャアビ入門として最適です。「The Joker」よりテンポが上がり、さらに「1」が見えにくくなります。メロディーがトリッキーな位置にアクセントを置いているため、最初は耳が追いつかないかもしれませんが、一度ハマるとこの上なく心地よいグルーヴに支配されます。


M7「Amaliya」
アルバム最速のシャアビです。高速になると不思議とフラメンコに近い質感が増してきます。大きな拍の波を捉えるのがコツです。終盤のリードボーカルとコーラスによるコール・アンド・レスポンスが圧巻のエンディングまで一気に駆け抜けます。
普段の生活圏ではまず体験できない「3拍子の浮遊感」。アラブ音楽由来の独特な民族情緒を、ぜひこのアルバムで体感してみてください。


文:曽根麻央 Mao Soné



Recommend Disc

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Title :『Ifrikya』
Artist : Karim Ziad
LABEL : Act
発売年 : 2008年



アマゾン 


【SONG LIST】

1. Ait Oumrar
2. Ya Rijal
3. Awra
4. Lebnia
5. Alouhid
6. Sandiya
7. Amaliya
8. Gwarir
9. Joker
10. Nesrafet



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「Monthly Disc Review」アーカイブ曽根麻央
2020.04『Motherland / Danilo Perez』2020.05『Color Of Soil /タイガー大越』2020.06『Passages / Tom Harrell 』2020.07『Inventions And Dimensions / Herbie Hancock』2020.08『Birth Of The Cool / Miles Davis』2020.09『Chet Baker Sings / Chet Baker』2020.10『SFJAZZ Collective2 / SFJAZZ Collective』2020.11『Money Jungle: Provocative In Blue / Terri Lyne Carrington』2020.12『Three Suites / Duke Ellington』2021.01『Into The Blue / Nicholas Payton』2021.02『Ben And "Sweets" / Ben Webster & "Sweets" Edison』2021.03『Relaxin' With The MilesDavis Quintet / The Miles Davis Quintet 』2021.04『Something More / Buster Williams』2021.05『Booker Little / Booker Little』2021.06『Charms Of The Night Sky / Dave Douglas』2021.07『Play The Blues / Ray Bryant Trio』2021.08『The Sidewinder / Lee Morgan』2021.09『Esta Plena / Miguel Zenón』2021.10『Hub-Tones / Freddie Hubbard』2021.11『Concert By The Sea / Erroll Garner』2021.12『D・N・A Live In Tokyo / 日野皓正』2022.1『The Tony Bennett Bill Evans Album / Tony Bennett / Bill Evans』2022.2『Quiet Kenny / Kenny Dorham』2022.3『Take Five / Dave Brubeck』・2022.4『Old And New Dreams / Old And New Dreams』2022.5『Ella Fitzgerald And Louis Armstrong / Ella And Louis』2022.6『Live from Miami / Nu Deco Ensemble & Aaron Parks』2022.7『Oscar Peterson Trio + One / Oscar Peterson Trio Clark Terry』2022.8『Ugetsu/ Art Blakey & The Jazz Messengers』2022.9『Sun Goddess / Ramsey Lewis』2022.10『Emergence / Roy Hargrove Big Band』2022.11『Speak No Evil / Wayne Shorter』2022.12『The Revival / Cory Henry』2023.1『Complete Communion / Don Cherry』2023.2『Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles / Brad Mehldau』2023.3『Without a Net / Wayne Shorter』2023.4『LADY IN LOVE / 中本マリ』2023.5『Songs Of New York / Mel Torme』2023.6『Covers / James Blake』2023.7『Siembra / Willie Colón & Rubén Blades』2023.8『Undercover Live at the Village Vanguard / Kurt Rosenwinkel』2023.09『Toshiko Mariano Quartet / Toshiko Mariano Quartet』2023.10『MAINS / J3PO』2023.11『Knower Forever / Knower』2023.12『Ella Wishes You A Swinging Christmas / Ella Fitzgerald』2024.01『Silence / Charlie Haden with Chet Baker, Enrico Pieranunzi, Billy Higgins』2024.02『Rhapsody in Blue Reimagined / Lara Downes』2024.03『Djesse Vol. 4 / Jacob Collier』2024.04『Voyager / Moonchild』2024.05『Evidence with Don Cherry / Steve Lacy』2024.06『Quietude / Eliane Elias』2024.07『Alone Together / Lee Konitz, Brad Mehldau, Charlie Haden』2024.08『The Rough Dancer And The Cyclical Night (Tango Apasionado) / Astor Piazzolla』2024.09『Potro De Rabia Y Miel / Camarón De La Isla』2024.10『Calle 54 / Various』2024.11『Trumpets Of Michel-ange / Ibrahim Maalouf』2024.12『Sings for Only the Lonely / Frank Sinatra』2025.01『Hero Worship / Hal Crook』2025.02『Undercurrent / Kenny Drew』2025.03『Live In Toronto 1952 / Lennie Tristano Quintet』2025.04『Antidote / Chick Corea & The Spanish Heart Band』2025.05『Hot Five & Hot Seven / Louis Armstrong』2025.06『Panamonk / Danilo Pérez』2025.07『Nat King Cole Sings/George Shearing Plays / Nat King Cole、George Shearing』2025.08『Clifford Brown and Max Roach / Clifford Brown and Max Roach』2025.09『Montreux '77 / Ray Bryant』2025.10『Crystal Silence / Gary Burton & Chick Corea』2025.11『North Sea Jazz Legendary Concerts / Wayne Shorter』2025.12『Merry Christmas / Bing Crosby』2026.01『銀界/山本邦山』2026.02『Flugel / Andris Mattson』2026.03『Live at the Piano / Cory Henry』2026.04『The Melody At Night, With You / Keith Jarrett』

Reviewer information

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曽根麻央 Mao Soné

曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。

 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。
 これまでにニューポート、モントレー、モントリオール、トロント、ドミニカ等の国際的なジャズ・フェスティバルに出演。
2017年には自己のバンドでニューヨークのブルーノートやワシントンDCのブルース・アレイ等に出演。2018年メジャー・デビュー。2019年には故・児山紀芳の代役でNHK-FM「ジャズ・トゥナイト」の司会を担当。また2020年公開のKevin Hæfelin監督のショート・フィルム「トランペット」の主演・音楽を務めるなど、演奏を超えて様々な活動の場を得ている。

 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。
2014年度フィラデルフィア『国際トランペット協会(ITG)ジャズ・コンペティション』で優勝。
同年『国際セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』にて13人のファイナリストに世界中の応募者の中から選出。
2015年に地元・流山市より『ふるさとづくり功労賞』受賞。
2016年アムステルダム『"Keep An Eye" 国際ジャズアワード』にて優勝。

曽根麻央Official Site

Shai Maestro インタビュー [インタビュアーNenashi]:インタビュー / INTERVIEW

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世界中で高く評価されたシャイ・マエストロ初のソロピアノ・アルバム『solo:Miniatures&Tales』に続き、ニュー・アルバム『The Guesthouse』が、2026年3月に発売されました。
シャイの創造世界の中心にある「内省と拡張」という二面性を際立たせ、境界が溶け合う豊かでシネマティックな空間を創り上げています。
ゲストにはグラミー賞2部門にノミネートを果たした最先端ジャズヴォーカリスト、マイケル・マヨ。ジェイコブ・コリアーのツアーバンドに参加する最注目シンガー・ソングライター MAROなど、現代の音楽シーンを牽引する超注目アーティストが参加しています。


jjazz.netではこの作品についてシャイ・マエストロにZOOMインタビューを行いました。 
今月の新譜紹介番組「PICK UP」ではそのインタビューの模様をお送りしています。

【JJazz.Net「PICK UP」】(毎月第1水曜日更新)
https://www.jjazz.net/programs/pick-up/

放送期間:2026年5月6日〜2026年6月3日(17:00まで)




インタビュアーは、歌、ラップ、ビートボックスまでを自由に使いこなすマルチ・シンガー Nenashiさん。Nenashiさんの視点から、今作のシャイの想いを深掘ってもらいました。
音声とテキスト、合わせてお楽しみください!


[Interview:Nenashi]
[通訳:Miho Haraguchi]



Shai Maestro インタビュー


[Nenashi] 今回アルバム『The Guesthouse』をリリース。この作品について色々お伺いします。
昨年リリースしたアルバム『solo:Miniatures&Tales』からレーベルが"Naïve"へ移りました。制作環境やアプローチはどんな風に変わりましたか?


[Shai Maestro] まず、それ以前にECMから2作リリースできたことはとても良い経験だったと思います。創設者のマンフレートと仕事をする中で、彼の美学に浸り、ともにECMのサウンドを探究している感覚でした。豊かで広がりがあって素晴らしい経験でした。
Naïveに移った今は、完全に別の側面へと足を踏み入れたような感覚です。前作『solo:Miniatures&Tales』は、以前より親密な作品になったと思いますが、ECMの世界にまだ少し近いサウンドだったとも思います。
今回の『The Guesthouse』に関しては、ゲストを招き様々なカラーを取り入れ、エレクトロニクスの要素が含まれる実験的な点でも、ECM時代とは正反対の作品に仕上がったと思います。
ECMとNaïveは全く異なるカラーやメンタリティを持っています。Naïveに移ってからリリースした2枚はそれらが共存し、より豊かな全体像を生み出しているかもしれません。 


[Nenashi] 今回のコンセプトについて。
ルーミー(13世紀に活躍したペルシア文学史上最大の神秘主義詩人)の詩『The Guesthouse』にインスピレーションを受けたとのこと。どういうイメージだったのかを教えて下さい。 


[Shai Maestro] 現在私はスペインに住んでいるのですが、その理由はこの場所でパートナーのGloriaとの出会いがあったからです。それが「Gloria」という曲のインスピレーションにも繋がっています。
彼女はバルセロナのすぐ側にあるブディズム・センター(仏教施設)の創設者のひとりで、私はそれをきっかけに仏教に由来する世界観や哲学に親しみを感じるようになりました。
そこに住んでいる先生が『Guesthouse』というタイトルを薦めてくれたのですが、とても良い考えだと思ったんです。長年自分が親しんできたルーミーの詩と強く結びついていると思ったからです。その詩のテーマは「受容」。どんな感情が訪れたとしても、遠ざけたり憎んだりするのではなくゲストとして受け入れる、ゲストが自分に何かを見せてくれたり教えてくれる存在である、という内容です。

今の世の中、暴力や拒絶、分断が蔓延していますよね。歓迎し共存する「受容」の心というものが、今の世の中には必要だと強く感じました。
それは音楽的にも素晴らしいコンセプトだと。様々なミュージシャンを自分の音楽へと招き入れ、彼らを受け入れることで自分自身をも変化し、広がっていく。そんなメッセージを伝えることができたらと、このコンセプトでアルバムを完成させました。


[Nenashi] なるほど。ルーミーはスーフィー(イスラムの神秘派)。宗教は違えどどこか共通するテーマがあるのでしょうね。

それではサウンドについても伺います。
今作はエレクトロや、ポストプロダクションもあり、キーボーディストをフィーチャーしたりと今までとは全く違うアプローチですね。
また歌ものを取り入れ、作詞はシャイ自身だそうですね。どのような過程で進んでいったのでしょう?


[Shai Maestro] プロジェクト全体を通して、その流れの中にずっといました。スタジオでアコースティック楽器を録音している間も、パソコンでは電子音を流してクリエイティブな流れを生み出そうとしました。
単にアコースティックな録音上にエレクトロニクスを重ねたわけではなく、生演奏と合わなければ新しく構築したり、また逆もあります。アコースティックとエレクトロニクスが互いにインスピレーションを受け合って進行していました。
常に色々なことが起こって、動く生きもののように有機的でダイナミックな作業でしたね。

今までのやり方を全て捨ててエレクトロの要素をたくさん取り入れたことで、自然な流れで「song」として形となっていたんです。そうなると必然的に歌詞が必要になっていき、そしてシンガーが必要になっていった。この作品はシンガーが中心のプロジェクトになるかもしれないと感じました。
そして歌う人をイメージし始めた。MARO や Michael Mayo が参加することが決まった瞬間に徐々に歌詞が湧き出てきました。
例えば「Gloria」の歌詞は完全に仏教的なもので、ハート・スートラからインスピレーションを受けています。仏教のお経の中でも最も美しいもののひとつと思っています。これは自分のパートナーGloriaに捧げる内容になっていますが、それはMAROが歌うことを想像することで降りてきた歌詞でもあります。


[Nenashi] ハート・スートラとは般若心経のことですね。興味深いテーマです。


[Shai Maestro] ハート・スートラは仏教における「空」の概念について語った美しい経典です。仏教の理論に深く立ち入るつもりはないけれど、そこには物事の虚構性、物事には始まりも終わりもなく変化し続ける、ということが書かれています。
「Gloria」の歌詞にはその考えが色濃く反映されている。自分にとって大切なテーマなんだ。



[Nenashi] では、作品に参加したシンガーについてお聞きします。
MARO や Michael Mayo を迎えた理由を聞かせてください。


[Shai Maestro] まず私は二人の大ファンです。二人の歌を長年聴いてきています。
MAROは素晴らしい作品がたくさんありますが「HORTELÃ」という作品が特に大好きです。自分の人生のサウンドトラックになっています。オーガニックで誠実で、心をそのまま映し出したような音楽です。
彼女に歌ってもらった曲は飛行機の中で思いついて、そして歌詞が必要だと感じたんですね。

Michael Mayoとは Ben Wendelの「High Heart」で共演して以来の友人です。宇宙一のヴォーカリストだと私は思っています。彼のように歌える人は他にいないでしょう。ボビー・マクファーリンかジェイコブ・コリアーか、、、
楽器のように声を操るし、ハーモニーの知識があります。無理難題を彼にリクエストしてもやってのけてしまうんだ。
MAROもだけど、彼らの声のトーンが素晴らしいですね。Michael Mayoは特にジャズのバックグラウンド、またゴスペルの要素もある。彼がそれらを駆使して提案する音楽が素晴らしいんです。
シンプルで適切な音を使って、テクニカルで複雑なサウンドを奏でる才能があります。


[Nenashi] 私も Michael Mayo が大好きでライブに行きました。オンラインでプライベートレッスンを受けたこともあります。
シャイがおっしゃる通り声が楽器ですよね。まるでMIDI鍵盤を鳴らしているように正確で素晴らしいです。



[Nenashi] Guesthouse Quartet としてのツアーがスタートしています。この作品の世界観をどう表現されるのでしょうか? 


[Shai Maestro] ギター、ヴォーカル、キーボード、サブベース、フルート、トランペットやサックスなど様々な楽器の要素が詰まった作品なので、それをステージで再現することはとても難しいところですね。
同時に、どんな状況でも演出が無くても通用・成立する曲を作るのが私のゴールでもあり、それこそが良い曲の基準と考えています。今回、ピアノトリオでツアーをする案も悪くはなかったのですが、制作にかなり力を入れたのでそのままステージに持っていきたいという気持ちは強かったです。
そうなると誰かの音と手を借りないとなりません。サンプラーやデジタル楽器を熟知しているだけでなく、ジャズプレイヤーでもある人間を探す必要があった。例えばクレイジーな変拍子や、即座の転調にも対応できるようなね。
そんな万能すぎる人いないと思っていたけれど、、、、以前 Michael Mayoと「Alone Together」をレコーディングしたときに現場にいた Gadi Lehavi。
彼はジャズミュージシャンでありながらサウンドエンジニア、映像制作までをこなすオールラウンダーだったんだ。彼しかいないと感じたよ。
それからは彼と一緒にたくさんの機材を駆使して、オタクみたいにひたすら作業する日々。作品のサウンドを良いかたちでステージに持って行けるようにね。
今回のツアーバンドのメンバーは柔軟性があるし、一緒に演奏していてハッピーだよ。



[Nenashi] では最後に、日本のファンにメッセージをお願いします! 


[Shai Maestro] 親愛なる日本の皆さん!大好きです!
日本でのコンサートはなぜかいつも最高なものになる。
皆さんの音楽をきく姿勢、そして愛情を注いでくれているから、私たちの音が花開き、より深いものになるんです。次回の来日が待ちきれない、早くお会いしたいですね。


ありがとうございました!


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ALBUM情報

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タイトル:『The Guesthouse』
アーティスト:Shai Maestro
発売日:2025年3月6日
レーベル:naïve records


アマゾン 

【SONG LIST】
1. The Time Bender
2. Nature Boy - ft. Immanuel Wilkins
3. Gloria - ft. MARO
4. Moon of Knives
5. Strange Magic ft. Michael Mayo
6. Refuge
7. GG's Metamorphosis
8. Sleepwalking Roses
9. A Little Thank You Note
10. The Lion And Me ft. Alon Lotringer
11. The Guesthouse's Old Piano 



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Shai Maestro
1987年、イスラエル生まれのジャズ・ピアニスト。5歳からクラシック・ピアノ、8歳か らジャズの演奏をスタートさせ、テルマ・イェリン国立芸術高等学校でジャズとクラシッ クを学び、その後ボストンのバークリー音楽大学へ入学。2006年からはイスラエル・ ジャズ・シーン確立の立役者の一人であるベーシストのアヴィシャイ・コーエン(b)のグルー プに参加し注目を浴びる。2017年には自身のバンドで東京JAZZのメイン・ステージで 演奏した他、これまでに度々来日公演を行なっている。2026年3月には最新アルバム 『ザ・ゲストハウス』をリリース。


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Nenashi(Singer)
歌、ラップ、ビートボックスまでを自由に使いこなすソウルシンガー、プロデューサー、Hiro-a-keyによるプロジェクト。
アジア人としてR&B 、ソウルミュージックを世界に向けて発信することに対するレッテルや先入観をなくし、純粋に音楽だけを聴いてほしいという思いから、共通言語である英語で歌い、国籍や顔などアイデンティティーを一切公表せずに活動を開始。
これまでアメリカ、カナダ、ブラジル、バハマ、アルゼンチン、韓国、香港、タイ、カザフスタン、フランス、イギリス、ドイツ、スイスなど20ヶ国以上の地域を転々と旅しては異文化に触れてきたHiro-a-keyは、自らを"根無し草"と重ね合わせ、アーティスト名をNenashiと名付ける。
2024年4月にリリースしたデビューアルバム『Found in Tokyo』では、Hocus Pocusの20syl (フランス)、J.LAMOTTA すずめ (イスラエル)、Daichi Yamamoto (日本)、FORD TRIO (タイ)、Mike Larry Draw (アメリカ) など世界各国の豪華アーティストをフィーチャー。
ストリーミングで総再生回数が1,100万回を越える。
そして2025年 1st EP『TIME SLIP』、2026年7月に2ndアルバム『MOMENT』をリリース。
1920年代から現在までのSoul / R&B、Jazz、Blues、HipHopを1つにまとめ上げるという壮大なテーマを掲げたEPが世界中の音楽ファンの間で話題となり、FUJI ROCK FESTIVAL、GREENROOM FESTIVALや、アジアのフェスなど国内外の大型フェスに多数出演、タワーレコードの広告シリーズ「NO MUSIC, NO LIFE.@」への登場、さらに中国、タイを巡るアジアツアーを果たすなど注目を集めた。
また、オーディオブランド「Beats」のスペシャルムービーのテーマ曲を担当。
ホセ・ジェイムズ、Chara、加藤ミリヤ、Aile The Shota、Ovall、Sincere、LHRHND、THE SUPER FLYERS、SMOKIN'theJAZZ、maeshima soshi、Snowk、Halia Beamer、Shigge、Mashoe、AVOCADO BOYSなど国内外のアーティストのプロデュース・客演・ソングライディング・コーラスを手がけるなど積極的に活動の場を広げている。
アイデンティティを明かした後もさまざまなジャンルや世界の文化からインスピレーションを得て、作品ごとに進化するNenashiの旅は続く。

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