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JJazz.Net Blog Title

2016年4月アーカイブ

Monthly Disc Review2016.04.15:Monthly Disc Review

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Title : 『FLOW』
Artist : 藤本一馬



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今月紹介するのはギタリスト藤本一馬の新作『FLOW』。


藤本一馬がポップユニットorange pekoeのギタリスト・作曲者としてシーンに現れたのは2002年。その頃から彼のミルトン・ナシメントをはじめとするブラジル音楽やアルゼンチン音楽やボサノヴァからの影響は聴き取ることが出来る。2011年から始まるソロ名義での作品達は、次第にチェンバーミュージックへと近づいていった。この春から活動拠点を一時ニューヨークへと移す彼が日本へ残したこの作品は、間違いなく彼の最高傑作だ。


ギターのアルペジオが響き、そこにクラリネット、ピアノ、ベースが加わっていく一曲目からアルバムの最後までを貫く、オーガニックな手法とで凛とした空気は彼独特のもの。どの曲もルバートに近いゆったりとしたテンポで、楽曲が持つ世界観に全員が奉仕していく。藤本のギターはもちろんのこと、前作をこの連載で紹介したピアニスト林正樹の左手とベーシスト西島徹の奇跡とも言えるコンビネーションには何度もハッとさせられる場面があった。


このアルバムもストレートなジャズのサウンドには分類されないかもしれないが、互いの音が反応し合いながらゆるやかに重なり、形を変えながら流れていく様は、アンサンブルを基調とする近年のジャズの動向に確かに重なるものがある。目立った楽器のソロがあったとしても、関係性はソリストと伴奏者とはならず、むしろアンサンブルの為のソロといったサウンド。この関係性こそがこの作品を現代のチェンバー・ミュージックたらしめる要素だと思う。それくらい作曲されたパーツとインプロヴァイズされたパーツが複雑に絡み合っているのに、とてもシンプルな耳ざわりに仕上がっているのは彼の底知れない作曲能力によるものだ。


今回の作品をリリースしているが「日本のECM」という声もちらほら聴こえてくる"Spiral Records"。音楽に沿ってパッケージングまで一貫されたデザインと、弦の擦れる音やプレイヤーの息遣いまで余すこと無く閉じ込めた録音が素晴らしいです。


文:花木洸 HANAKI hikaru


【藤本一馬 «FLOW» 】







Recommend Disc

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Title : 『FLOW』
Artist : 藤本一馬
LABEL : SPIRAL RECORDS
NO : SPIRA1109
RELEASE : 2016.3.30

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
藤本一馬(g)
Silvia Iriondo (vo)
Joana Queiroz (cl)
林正樹 (p)
西嶋徹 (B)


【SONG LIST】
01. Polynya
02. Estrella del río
03. Flow
04. Resemblance
05. Still
06. Azure
07. Consequence
08. Dew
09. Snow Mountain
10. Surface
11. Prayer
*Music by Kazuma Fujimoto, except "Consequence" Music by Masaki Hayashi,"Estrella del río " Lyrics by Silvia Iriondo


この連載の筆者、花木洸が先日発売になりました『Jazz The New Chapter 3』で編集・選盤・レビュー記事などを担当。ブラック・ミュージックの最先端からUKジャズ、ネクスト・ジャズ・ファンク、ラージアンサンブル等ここにしかない記事・インタビューが盛り沢山となっています。


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■タイトル:『Jazz The New Chapter 3』
■監修:柳樂光隆
■発売日:2015年9月10日
■出版社: シンコーミュージック

アマゾン詳細ページへ


今日においてはジャズこそが時代を牽引し、ディアンジェロやフライング・ロータスなど海外の最先端アーティストから、ceroなど日本のポップ・シーンにも大きな影響を与えている。この状況を予言し、新時代の到来を告げた「Jazz The New Chapter(ジャズ・ザ・ニュー・チャプター)」の第3弾がいよいよ登場。2014年の刊行時より刷数を重ね、SNS上でも未だ話題沸騰中の第1弾・第2弾に続き、2015年9月末に〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉が開催されるなど、かつてない活況を迎えているジャズの次なる未来は、ニューチャプターが切り拓く!


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「Monthly Disc Review」アーカイブ花木 洸

2015.04 ・2015.05 ・2015.06 ・2015.07 ・2015.08 ・2015.09 ・2015.10 ・2015.11 ・2015.12 ・2016.01 ・2016.02 ・2016.03




Reviewer information

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花木 洸 HANAKI hikaru

東京都出身。音楽愛好家。
幼少期にフリージャズと即興音楽を聴いて育ち、暗中模索の思春期を経てジャズへ。
2014年より柳樂光隆監修『Jazz the New Chapter』シリーズ(シンコーミュージック)
及び関西ジャズ情報誌『WAY OUT WEST』に微力ながら協力。
音楽性迷子による迷子の為の音楽ブログ"maigo-music"管理人です。

花木 洸 Twitter
maigo-music

JAZZ@HALL Vol.1 :ライブ情報 / LIVE INFO

2017年、ジャズレコードは誕生100周年。
その間に生まれたジャズの名曲はスタンダードとなり世代を超え愛されています。

来たるジャズ100周年に向けそんなジャズの名曲をお届けするホリデイ・コンサートが5月1日(日)に開催。山本剛、大西順子、小林桂、そして栗林すみれや石若駿といった注目の若手も参加し、ジャズの名曲や新曲を披露します。

新緑の美しい良き季節、ジャズを堪能されてみてはいかがでしょう?


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【JAZZ@HALL Vol.1】

【出演者】
Part.1 栗林すみれトリオ&山本玲子 feat. 石若駿
Part.2 山本剛トリオ with 小林桂
Part.3 大西順子トリオ

【詳細】
2017年、ジャズ・レコードは誕生100年を迎えます。「ジャズ」という語も、ジャズ・レコードと時を同じくして生まれたといわれます。JAZZ@HALLは、来たるジャズ100年に向けて、そしてさらに次の世紀に向けて、ジャズの名曲をお届けするホールのホリデイ・コンサートです。過去100年のジャズの歴史は、数々の名演が生んだ数々の名曲に彩られています。そんな世に知られた名曲、そして今生まれつつある明日の名曲を、JAZZ@HALLは現代のトップ・ミュージシャンたちの名演でお届けします。

【日時】
2016年5月1日(日) 15:00開場/15:30開演予定 (19:00終演予定)

【会場】
渋谷区文化総合センター大和田伝承ホール
http://www.shibu-cul.jp/guide_densho.html

【料金】
中央指定席¥6,500/両サイド自由席*¥5,500
(*自由席は桟敷席となります。一部お履き物を脱いでいただく席がございます)

【チケット】
チケットぴあ  TEL:0570-02-9999 (Pコード289-319)
ローソンチケット  TEL:0570-084-003 (Lコード72112)
イープラス
Confetti TEL:0120-240-540 ※電話受付:平日10:00〜18:00

チケット購入方法

チケットに関するお問い合わせ
HOT STUFF PROMOTION  
TEL:03-5720-9999(※電話受付:平日12:00~18:00)


【主催】株式会社ディスクユニオン
【制作】SOMETHIN'COOL/株式会社NAMES/ホットスタッフ・プロモーション
【後援】JaZZ JAPAN/jazzlife/ジャズ批評
【協力】株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ VILLAGE MUSIC/株式会社ポニーキャニオン/ユニバーサルミュージック合同会社

特設サイト
http://jazz-at-hall.somethincool.net/

bar bossa vol.56:bar bossa

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vol.56 - お客様:渡部徹さん


【テーマ:東アジアの音楽】



いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

今回はpwmの名前で選曲家として有名な渡部徹さんをゲストに迎えました。


林;こんばんは。早速ですが、お飲物はどうされますか?


渡部;それでは、赤ワインの軽めのものをお願いします。


林;じゃあ、ブルゴーニュのピノ・ノワールにしますね。ところでお生まれは?


渡部;1969年に山陰地方・島根県で生まれました。実は林さんと同じ年なんですよね。


林;あ、そうでしたか。小さい頃の音楽環境を教えてもらえますか?


渡部;両親と姉との4人暮らしで、すごく古くて狭い家に住んでいました。両親はほとんど音楽に興味がなかったと思います。たまにテレビで音楽番組を観るくらい。自宅には小さなレコードプレイヤーがあったのですが、鳥の鳴き声のレコードとか、虫の鳴き声のレコードとか、そんなのばっかり(笑)。でも、両親は子供たちに音楽に親しんでもらいたかったのか、僕が幼稚園の頃にオルガン教室に通わせてくれました。


林;良いご両親ですね。


渡部;父親は物静かですが、ある意味職人的な人です。僕の名前は「徹」と書くのですが、「コレと決めたら徹底的に極めろ」という思いを込めて命名したようです。


林;なるほど。


渡部;小学生の頃は魚釣りと少年野球の毎日でしたね。音楽にはほとんど興味がなかったのですが、たまたま親戚のおばさんとデパートに行ったとき、「好きなシングル一枚買ってあげる」と言われて、悩みに悩んで買ったのが、当時流行っていた沢田研二さんの「勝手にしやがれ」。他に聴くレコードもなかったので、そればかり何百回も聴いていました。


林;やっぱり同世代ですね。僕も帽子、投げましたよ。


渡部;中学・高校になるとクラスメイトに音楽好きな人がいて、そういう趣味を持つことが何だかかっこよく感じたんですね。僕も少しだけ音楽を聴くようになります。佐野元春さん、RCサクセション、BOOWYとか、日本の音楽を聴くことが多かったですね。高校になると、加えてUK物、アズテック・カメラとかも聴くようになります。当時はレンタルレコード屋で毎週のように何かレンタルしてきて、家でカセットテープにダビングしてました。そして、高校一年の時にお年玉でエレキギターを買って、音楽がいちばんの趣味になりました。


林;なんか僕と全く同じです。自分の話みたいです(笑)。


渡部;将来は音楽に関係した仕事に就きたいと考えていたんですね。当時(1980年代後期)はデジタルサウンド全盛期。シンセサイザーやデジタルレコーディングのエンジニアに憧れて、大学は電子工学科に入学しました。大学時代は、レンタルCD/ビデオ屋でバイトをしながら、楽器をいろいろ買い込んで、友人と宅録をしたりしてました。当時はトッド・ラングレンが好きでしたね。楽器を何でも弾いて、全部自分でやっちゃう。泣きそうになるくらい美しいメロディの曲なのに、その裏では凄く前衛的なことをしている。そういう徹底した職人気質に惹かれたんだと思います。


林;おおお、宅録職人でしたか。なんかわかるような気がします。


渡部;僕にとって1990年は特別な年です。フリッパーズ・ギター『Camera Talk』、ピチカート・ファイヴ『月面軟着陸』を聴いたとき、すごく衝撃を受けました。さらにその後に出た橋本徹さんのレコードガイドブック『Suburbia Suite』に出会ったときも、そこで紹介されているレコードを全て集めたいと思いました。話せば長くなるのでこの辺りはざっくり割愛しますが、この時期(20代前半)に好きな音楽の幅が一気に広がりました。


林;1990年がその2枚だったんですね。サバービアも本当に当時は衝撃的でしたよね。


渡部;あと、映画・文学・デザイン・建築とか、音楽以外にも興味が広がっていきました。この頃に好きだった音楽家は、バート・バカラック、エンニオ・モリコーネ、ミシェル・ルグラン。いまとほとんど変わっていなくて、多分この辺りが自分のルーツなんだと思います。


林;わかります、わかります。今回はずっとうなずいていそうです(笑)。


渡部;大学を卒業して地元(島根県)に戻りました。このころからpwmという名義で活動を始めて、1995年頃にメーリングリスト「pwm-ml」やウェブサイト「pwmweb」、フリーペーパーやセレクトカセットテープを制作したり、あとクラブイヴェントを開催したりしました。当時のウェブサイトのキャッチコピーが「far from the madding crowd」で、映画タイトルからの引用なのですが、我ながらうまく付けたなぁと思います。


林;そこで地元で活動するのが渡部さんらしいですね。


渡部;京都でgroovisionsが主催するクラブイヴェントによく遊びにいきました。林さんの著書『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?』のブックデザインをしている宇賀田直人さんにもそこで出会ったと思います。2001年からDJ須永辰緒さんのお誘いで、オルガンバーのウェブサイトで毎月ディスクレビューを書きました。連載は10年以上続きましたが、ここで載せたレコードは、ディスクガイド本『DOUBLE STANDARD』にも掲載されています。


林;この須永さんとのお仕事が渡部さんをすごく有名にしたんですよね。さて、これみんなに聞いているのですが、これからの音楽はどうなると思いますか?


渡部;この質問は悩みますね・・・作り手と売り手に分けて答えてみます。

まず作り手側ですが、これからは良い音楽を作って発表する若者が増えるだろうと楽観しています。例えば、ぼくが凄い時間とお金をかけてやっと聴くことができたコアな音楽が、YouTubeとかで簡単に聴けるようになりましたよね。特に若くて多感な子にはメリットが大きいと思います。それから、音楽を作ったり発表するのハードルが圧倒的に下がったこと。パソコン一台あればそこそこの音楽ができて、SoundCloudやYouTubeでアップできますからね。もう、いまの若い人たちが羨ましいです(笑)。

次に売り手側ですが、いま音楽マーケティングは、大変革の真っ只中だと思っています。1967年のビートルズ『サージェント・ペパーズ』以降、アルバム単位でアートフォームを作り上げるのが至上とする風潮があったじゃないですか。それがiTunesやYouTubeの登場以降、曲単位でのリリースが主体になってきた。つまり今はある意味60年代以前のシングル盤の時代に戻っているというか、一曲でもいい曲ができれば全く無名の音楽家が脚光を浴びるようになったと。音楽ビジネスもCD販売ではない何かに変わっていくのでしょう。想像もできないフォーマットが今後生まれてくると思うと、ちょっとワクワクしますね。


林;音楽の現状や未来を楽観的に感じているのがすごく渡部さんらしくて良いですね。さて、渡部さんのこれからの活動の予定みたいなのを教えてもらえますか?


渡部;特にこれといった派手な活動もしていないので、そんなに話すこともないのですが、好きな音楽があって、それを突き詰めて、文章にしたり、選曲したり、DJをしたり・・・これからも音楽に関わっていたいという気持ちがあります。最初にお話した「コレと決めたことを徹底的に極めろ」という親の想いは、少しは実践できているのかもしれません。

オルガンバーWebのレビューでずっと一緒に活動していたデシネの丸山雅生さんとは「今度○○をしたいねえ」と話しているのでご注目ください。あと、地元では細々とクラブイヴェント的なことを企画したり、プエルトムジカ(Puerto de la Musica)というユニットでイヴェント企画やフリーペーパー発行したりしています。この活動はこれからも続けていきたいです。


林;東京じゃない場所で音楽を愛する人の理想的なスタイルですね。ではみんなが待っている選曲ですが、まずはテーマを決めていただきたいのですが。


渡部;テーマは「東アジアの音楽」です。林さんがかねてよりお話しされている「東アジアの音楽を体系的にまとめて、音楽フェスのようなことをやりたい」というのに共感しています。去年(2015年)は僕も韓国の音楽を中心にアジアの音楽をたくさん聴きましたので、今日はその辺りから僕のオススメをご紹介しますね。


林;おお、渡部さんセレクトの東アジア音楽、期待いたします!


01. Joohye / Biggest Fan

渡部;韓国の女性シンガーソングライターJoohyeは、いままでシングルを数枚出している女性歌手です。この曲はYoutubeでしか聴くことができない曲で、CDとしてリリースされていないはず。Big Earth Little Meというグループの曲のカヴァーで、ボサノヴァの爪弾きとネオアコの瑞々しさと湛えた名曲です。あと、Joohyeがかわいいですね(笑)。

林;おおお、ネオアコ直球ですね。Joohye、確かにかわいいです...(笑)


02. 旺福 / 夏夕夏景

渡部;台湾の旺福(ワンフー)というバンド。日本盤CDも発売されていて、日本でもそこそこ人気があるようです。この映像は「ワーワーちゃん!大好きだー!」という告白から始まるのですが、フリッパーズ・ギター『海へ行くつもりじゃなかった』みたいなヴィジュアルと甘酸っぱいギターポップ風味。フリッパーズ好きなら反応してしまいます。

林;まさにフリッパーズ・ギターのことがすぐに思い浮かびますね。でもどこか台湾で独特ですね。


03. La Ong Fong / It's all you

渡部;タイのラ・オン・フォンという男性2人+女性1人の3人組グループ。"タイの渋谷系"と言われてるらしく、過去に日本盤CDも発売されています。これは2011年の曲ですが、爽やかなアコースティック・ソウルで気持ちいいグルーヴ。アコースティックギターのカッティングが気持ちいいです。

林;タイはやっぱりタイ語の言葉の響きがメロディーに影響を与えて独特の雰囲気になりますね。良いですねえ。


04. Tulus / Kisah Sebentar

渡部;インドネシアの男性シンガーTulusは、いままで2枚アルバムを発表していると思うのですが、これは2011年のデビュー作に収められています。これは曲の展開がすごいです。ボサノヴァ~ジャズ~R&B~と曲調が次々と変化していくという。こういう色んなジャンルを横断する曲はすごく好みですね。

林;本当だ。すごい展開ですね。日本人にはちょっと思いつかないようなアイディアですね。


05. Joanna Wang / Vincent

渡部;台湾の女性歌手ジョアンナ・ワン(王若琳)が20歳のときに制作した2009年のアルバムより。男性シンガーソングライター、ドン・マクリーンの曲のカヴァーです。ノラ・ジョーンズやアン・サリーを連想させるジャジーで優しい音楽です。夏の終わりの切ない雰囲気がして、とても気に入っています。

林;うわあ、すごい本格的な良い声ですね。でも確かにアン・サリーや畠山美由紀のような「どこかアジア」が感じられますね。


06. Operation Bangkok

渡部;さて、ここで一息入れて、東南アジアの古いエキゾチック・ミュージックです。1967年公開のタイ映画『Operation Bangkok』の劇中シーンなのですが、このヴィブラフォンを中心にしたサウンドは、ジョージ・シアリングのクールジャズや、マーティン・デニー~アーサー・ライマンのエキゾチック・サウンドの影響直下。映像もよい雰囲気です。

林;渡部さん、ほんと、聴いている音楽の幅が広いのに、どれもがどこか「pwm色」が感じられてすごい稀有な才能ですね。東京でいたらと思うのですが、東京でいないからこういうセンスなのでしょうか。


07: What Women Want / Curious

渡部;終盤に向けてメロウ路線で行きます。これは韓国の現代メロウグルーヴ最高の一曲だと思っています。韓国では、キリンジ~冨田ラボやLampとかが人気のようで、この辺りの日本の音楽に影響を受けた音楽もたくさん存在します。このグループはこれだけしかCDリリースしていないようで、今後の活動が待たれる要注目グループです。

林;これすごく良いですね。韓国って男性ヴォーカルの本格具合が「日本にはない感じ」なんですよね。日本ロケっていうのがなんか不思議で嬉しいし。


08: Maliq & D'Essentials / Penasaran

渡部;インドネシアの7人組バンドの2010年のアルバムより。この曲もメロウグルーヴ的ですね。胸が切なくなるようなメロディと気持ちいいグルーヴ感。例えば、夜の深い時間帯にDJをしているとき、お酒もほど良く入って、「音楽って最高だよね!」と思ってるときには、大抵こういう音楽をかけてます(笑)。

林;インドネシアって「メロウ」ですね。MVがすごくハッピーで羨ましい風景です。


09: Nangman Band / Spring

渡部;韓国のナンマン・バンドというユニット。デビュー当時は男女デュオだったのですが、いつの間にか女性が脱退して男性ソロになりました。この曲はその後(2015年春)リリースされたボサノヴァ風の曲。春がやってくるワクワク感と別れの切なさみたいなものが混在していて、とにかく大好きな曲です。

林;韓国は本当に「切ない」がキーワードですね。必ず「青臭さ」みたいなものを音楽にいれてきますね。


10: Jung Jae Hyung / Pour Les Gens Qui S'Aiment

渡部;最後はピアノソロです。韓国の男性SSWチョン・ジェヒョンは才能豊かなアーティストで、ルシッド・フォールとも共演しています。パリで音楽を学んでいて、ピアノの旋律の端々にヨーロッパの香りも漂います。これは非常に美しい曲で、何度聴いても涙が溢れてきます。

林;この人はやっぱり「日本からは出てこないタイプの音楽だなあ」っていつも感じますね。でもやっぱりアジアを少し感じます。


渡部さん、今回はお忙しいところ、どうもありがとうございました。
東アジア音楽フェス、是非、一緒に実現させましょう!
pwmさんのツイッターはこちらです。
フォローすると毎日、面白い音楽があなたのTLに流れてきますよ。
pwm twitter


桜の花が満開ですね。今年の春には何かが始まりそうですか?
春にぴったりの音楽を手にどこかに出かけてみてはいかがでしょうか。
それではまた来月、こちらのお店でお待ちしております。


bar bossa 林伸次


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【林 伸次 近著】

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■タイトル:『ワイングラスのむこう側』
■著者:林 伸次
■発売日:2016年3月26日
■出版社: KADOKAWA
■金額:¥1,404 単行本

アマゾン詳細ページへ


東京・渋谷で20年、カウンターの向こうからバーに集う人たちの姿を見つめてきた、ワインバー「bar bossa(バールボッサ)」の店主・林伸次さん。バーを舞台に交差する人間模様。バーだから漏らしてしまう本音。ずっとカウンターに立ち続けている林さんだから知っているここだけの話。


「bar bossa」アーカイブ

vol.1 「モニカ・サウマーゾ」 ・vol.2 高木洋介 ・vol.3 「クリスマス・ソングのボサノヴァ」 ・vol.4 柳樂光隆 ・vol.5 「1960年代当時のブラジルのボサノヴァ女性シンガー特集」 ・vol.6 松原繁久 ・vol.7 「1970年代から1980年代までのブラジルのボサノヴァ女性シンガー特集」 ・vol.8 中村ムネユキ ・vol.9 「現代のブラジルのボサノヴァ女性シンガー特集」 ・vol.10 江利川侑介 ・vol.11 「エレンコ・レーベル」 ・vol.12 田仲昌之 ・vol.13 「ルミアール・ヂスコス」 ・vol.14 定成寛 ・vol.15 寺田俊彦 ・vol.16 白尾嘉規 ・vol.17 「畠山美由紀『rain falls』 プロデューサー中島ノブユキ インタビュー」 ・vol.18 山本勇樹 ・vol.19 「ジノンさん ルシッド・フォールについて」 ・vol.20 大場俊輔 ・vol.21 「ブラジル人と演奏しているアメリカのジャズ・ミュージシャン特集」 ・vol.22 武藤サツキ ・vol.23 「Lucid Fall (The Best of)」 ・vol.24 筒井奈々 ・vol.25 「THE PIANO ERA2013」 ・vol.26 山上周平 ・vol.27 ジノン ・vol.28 東野龍一郎 ・vol.29 林伸次 ・vol.30 中村智昭 ・vol.31 齊藤外志雄 ・vol.32 染谷大陽 ・vol.33 稲葉昌太 ・vol.34 小嶋佐和子 ・vol.35 石郷岡学 ・vol.36 原田雅之 ・vol.37 松本研二 ・vol.38 塚田耕司 ・vol.39 岩間洋介 ・vol.40 中村信彦&真理子 ・vol.41 白尾嘉規 ・vol.42 田仲昌之 ・vol.43 山本勇樹 ・vol.44 新川忠 ・vol.45 川嶋繁良 ・vol.46 田村示音 ・vol.47 山崎雄康 ・vol.48 上川大助 ・vol.49 町田和宏 ・vol.50 林下英治 ・vol.51 シュート・アロー ・vol.52 高橋悠 ・vol.53 沼田学 ・vol.54 庄野雄治 ・vol.55 山本のりこ


bar bossa information
林 伸次
1969年徳島生まれ。
レコファン(中古レコード店)、バッカーナ&サバス東京(ブラジリアン・レストラン)、
フェアグランド(ショット・バー)を経た後、1997年渋谷にBAR BOSSAをオープンする。
2001年ネット上でBOSSA RECRDSをオープン。
著書に『ボサノヴァ(アノニマスタジオ)』。
選曲CD、CDライナー執筆多数。
連載『カフェ&レストラン(旭屋出版)』。

bar bossa
bar bossa
●東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル1F
●TEL/03-5458-4185
●営業時間/月~土
18:00~24:00 bar time
●定休日/日、祝
お店の情報はこちら

Monthly Disc Review2016.04.01:Monthly Disc Review

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※平井さんのDisc Reviewは今月が最終回となります。


Title : 『CONTINUUM』
Artist : NIK BARTSCH'S MOBILE



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もう10年近く前に、"ここ数年で最もエキサイティングな発見"、というような表現で紹介されていたNIK BARTSCH'S RONINも随分と刺激的であったけれど、このNIK BARTSCH'S MOBILEもまた同様にかなりのもの。違いを言い表すとしたら、RONINが血を騒がす肉体的な刺激だとすると、MOBILEは精神の奥深くを揺るがす刺激と言ったら良いだろうか。とにかく一度耳にしたらリスナーを捉えて離さない麻薬的な作用を持った作品という点は、両者どちらにも共通するものだ。

現代音楽的な聞かれ方をする部分もあるけれども、クラシカルを背景に持つそれらとは、やはりその佇まいは明らかに異なり、現代という言葉がもつ同時代性よりも、もっと強く"今"を感じる。現代社会の息づかいが、複雑に絡み合うリズムと共鳴し、否応なしにリスナーは現実と幻想を往き来することになる。うすのろな現実と、甘美な幻想の間を。


音楽は、計らずも時代を反映する。MOBILEが奏でるものが、今という時代と呼応しているとしたら、僕らは危うさや脆さを孕んだ真っ只中に生まれ生きているという印象だ。それは、身の回りを見渡せば容易に感じ取れることではあるけれども、僕らはいつのまにか都合の良いように物事を湾曲する術を身につけてしまった。アンダーコントロールなことなど本当はどこにもないと知っている一方で、そういうことにしておかないと先へは進めないことも同じくらい知っている。先にあるものが常に進歩であるかは不透明だというのに。


音楽に何か役割のようなものがあるとしたら、愚かな時代を俯瞰する契機を与えてくれることもそのひとつだろう。MOBILEの音楽は、その役割を的確に果たしてくれる。
NIKが、そういうことを意図しているか否かに関わらず、音楽自らがその役をかって出ているように僕には聴こえる。


一年間、担当させていただいたこのコーナーは
今回で最終回となります。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
自由ヶ丘の店では、こちらで紹介させていただいたような音楽を日々選曲しています。

機会がありましたら是非、お立ち寄りください。
カフェでお待ちしております。

cafeイカニカ
平井康二


Nik Bärtsch's Mobile - Continuum




Recommend Disc

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Title : 『CONTINUUM』
Artist : NIK BARTSCH'S MOBILE
LABEL : ECM(ECM2464)
RELEASE : 2016.4.22

アマゾン詳細ページへ


【MEMBER】
Nik Bärtsch (p,comp)
Sha (b-cl, contrabass clarinet)
Kaspar Rast (ds,per)
Nicolas Stocker (ds,tuned percussion)

EXTENDED:
Etienne Abelin (vln)
Ola Sendecki (vln)
David Schnee (viola)
Solme Hong (cello)
Ambrosius Huber (cello)


【SONG LIST】
01 Modul 29-14
02 Modul 12
03 Modul 18
04 Modul 5
05 Modul 60
06 Modul 4
07 Modul 44
08 Modul 8-11


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「Monthly Disc Review 平井康二」アーカイブ平井康二

2015.4.1 ・2015.5.1 ・2015.6.1 ・2015.7.1 ・2015.8.1 ・2015.9.1 ・2015.10.1 ・2015.11.1 ・2015.12.1 ・2016.1.1 ・2016.2.1 ・2016.3.1




Reviewer information

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平井康二(cafeイカニカ)

1967年生まれ。レコード会社、音楽プロダクション、
音楽出版社、自主レーベル主宰など、約20年に渡り、
音楽業界にて仕事をする。
2009年、cafeイカニカをオープン
おいしいごはんと良い音楽を提供するべく日々精進。


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cafeイカニカ

●住所/東京都世田谷区等々力6-40-7
●TEL/03-6411-6998
●営業時間/12:00~18:00(毎週水、木曜日定休)
お店の情報はこちら

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